稼働音の中で怒鳴らず声を届ける。現場責任者のための声量の作り方
工場や倉庫で機械音に負けじと怒鳴り、喉が枯れてしまう現場責任者へ。張らずに声を届かせる息の使い方をまとめます。
奥津ユキ
機械の稼働音が絶えない工場や倉庫で、ラインの向こうの作業者に指示を届けようとするたび、喉に力を込めて怒鳴るような声を出していませんか。夕方には喉がかすれ、翌朝もまだ本調子に戻らない。原因の見立ての前に、まず休憩室でスマホの録音を一つ試してください。
まず、指示の一文を二通りに録って輪郭を比べます
スマホを机に置き、二、三歩離れた位置に立って、現場で実際に使っている指示を録音します。
「3番ライン、いったん止めてください」
一回目は、稼働音に負けまいとする、いつもの張り方で言います。二回目は、音量を一段落として、そのかわり吐く息を速く前へ飛ばすつもりで言います。
再生して比べるのは大きさではなく、離れた場所に置いたスマホに、言葉の輪郭がどれだけはっきり残っているかです。喉で押した一回目は、近くでは大きくても録音では音がにじみがちです。息を速くした二回目のほうが、小さいのに言葉の粒が立って聞こえた人が多いはずです。足りないのは声量ではなく届かせ方だった。ここがこの記事の出発点です。
大きさより息のスピード、張り上げより響きです
ラインの端から奥の作業者へ声をかける時、機械音に負けまいと喉から声を絞り出していないでしょうか。喉で押した声は、近くの人には届いても、稼働音を越えて奥までは伸びません。私が見ているのは声の大きさではなく、息がどれだけ速く前まで流れているかです。息のスピードを上げて吐くと、同じ声量でも音の輪郭が立ち、稼働音の向こうまで届きやすくなります。
マスクやフェイスガードを着けて話す現場なら、なおさらです。口の動きが相手から見えない分、声の輪郭だけが頼りになるので、喉で押してにじんだ声は普段以上に聞き取ってもらえません。
遠くの人に声を届けるには声を張り上げるしかないと考えられがちですが、私は張り上げるより響かせたほうがいいと考えています。喉を締めて音量を稼ぐのではなく、口の奥から前へ抜けるように響かせると、稼働音の隙間を縫って耳に届きやすくなります。
指示の頭にくるライン名や番号を、喉で叩くように強く出すのではなく、息の勢いに乗せて前へ置くつもりで発してみてください。同じ大きさでも、相手の耳に引っかかる音になります。先ほどの一文で確認するなら、出だしの呼びかけが喉で押されていないか、途中で息が止まっていないか、語尾まで息が残っているか。この三か所に分けて聞くと、直す場所が絞れます。
毎日大きな声を出す練習は、実は逆効果です
指示が通らないと悩む現場責任者ほど、休憩時間に大きな声を出す練習を重ねようとします。ですが私は、毎日大きな声を出す練習はあまりおすすめしていません。大声を出すこと自体が喉への負担になり、稼働音の中で一日中声を張っている状態に、さらに練習で負荷を重ねる形になるからです。
必要なのは声量を底上げする練習ではなく、同じ声量でも届き方を変える練習です。声を大きくすることと、声を届かせることは、似ているようで別の技術です。休憩時間を大声の反復練習に使うより、稼働音のない静かな場所で息のスピードだけを確認する時間に使ったほうが、現場に戻ってからの声の消耗は少なく済みます。
腹圧をかけたまま、横隔膜をつまみ出す感覚で話します
声を大きくしようとするとき、多くの人はお腹を膨らませたりへこませたりする腹式呼吸を意識します。ですが私は、お腹を動かすことよりも、常に圧をかけ続ける腹圧呼吸のほうが、稼働音の中で届く声には近いと考えています。お腹から声を出すというのは、この腹圧をしっかりかけるという意味であり、そこに息のスピードを上げることを合わせると、声はさらに前まで届きやすくなります。
吸う瞬間にお腹の圧を抜いてしまうと、次の一言が喉からの声に戻ってしまいます。指示を出す前も、圧を抜かずに息を吸い直すことを意識してください。一日に何度も同じラインへ指示を出す立場だからこそ、一回ごとに圧を抜いてしまうか保ち続けられるかの差が、夕方の声の残り方として大きく表れてきます。
長時間話して声が枯れるのは、声帯が弱いからだけではありません。私がよく伝えるのは、横隔膜のあたりを前に細くつまみ出すような感覚を、話している間ずっと保つことです。これができていると、息のスピードを上げて指示を出しても喉そのものへの負担が減り、始業から終業まで同じ声で指示を通せます。
耳栓をしている作業者にどう届けるか
現場によっては、作業者が耳栓や防音のイヤーマフをつけたまま作業していることもあります。この場合、単純に声を大きくしても、耳栓の向こうまで届く保証はありません。むしろ音量を上げるほど喉への負担だけが増えていきます。
こういう場面では、声だけで完結させようとせず、一度手を上げて相手の視線をこちらに向けてから話しかけるという手順を挟んでください。相手が音でなく口の動きにも意識を向けている状態を作ってから、ゆっくりめの語頭で伝えると、多少のこもりがあっても内容は伝わりやすくなります。声量に頼りきらない届け方を一つ持っておくと、喉への負担そのものが減ります。
指示は短く区切り、同じ一文で聞き比べを続けます
稼働音の中で指示が届かないと、つい説明を足して長い文で伝えようとしがちです。ですが文が長くなるほど息は途中で足りなくなり、その分を喉の力で補おうとしてしまいます。伝えたい要件を短く区切ったほうが、稼働音の中でも息が最後まで保ちやすくなります。長い説明が必要な場面では、まず短い一文で相手の注意をこちらに向けてから、詳しい内容を継ぎ足す順番に変えてみてください。一文の長さを調整するだけで、声を張らずに済む場面は意外と増えます。
もう一つ、届いたかどうかを声量で確かめようとしないことです。大事な指示ほど、相手にひと言復唱してもらう段取りにしておけば、二度三度と張り直す必要がなくなり、その分だけ喉が残ります。復唱は相手の理解の確認にもなるので、聞き返しの往復そのものも減ります。
朝礼のように機械が止まっている時間は、声を張る必要のない数少ない場面です。ここでも現場と同じ張った声になっていないか、一度録音で確かめてみてください。張る場面と張らなくていい場面を切り替えられるほど、一日の喉の消耗は減っていきます。
聞き比べる一文も、冒頭で録音したものに固定します。
「3番ライン、いったん止めてください」
この一文を、休憩のたびに稼働音のある場所で録音します。一回につきテーマを一つだけ決めて聞き比べてください。きのう出だしの硬さを聞いたなら、今日は語尾の残り方だけを聞く、という進め方で十分です。数日分をこうして残しておくと、自分がどの部分で喉に頼りやすいかの傾向が見えてきます。傾向が分かれば、闇雲に声量を上げようとせずに済みます。
喉がかすれた日にすること
声が重い程度なら、休憩室での確認と息のスピードを意識した指示出しだけで整うことがほとんどです。ですが、かすれが強く抜けない、痛みがある、休んでも戻らないという状態が続くなら、練習や気合いで乗り切ろうとせず、専門家に相談する場面です。
無理をして声を張り続けることは、現場を長く任される立場にとって長い目で見れば損になります。喉に違和感がある日は、大きな声を求めず、息のスピードで届かせる意識だけに絞ってください。
夕方の声は、朝いちばんの一言目で決まります
稼働音の中で指示が届かないのは、声量が足りないからではなく、喉で押した声が音の隙間を縫えていないだけのことがほとんどです。息のスピードを上げる、腹圧を抜かない、短い一文で区切る。この三つを、明日の始業直後の指示から試してみてください。
朝の一言目を喉で始めると、その日はずっと喉で押す声が基準になります。息で始められれば、同じ稼働音の中でも夕方の喉の残り方が変わってきます。怒鳴らずに現場を回す声は、大声の練習ではなく、一言目の届かせ方の切り替えから生まれます。
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よくある質問
- Q. 稼働音がうるさい現場では、大きな声を出す練習を毎日した方がいいですか
- 毎日大きな声を出す練習は、かえって喉を痛める方向に働くことがあります。声量そのものより息のスピードと響かせ方を整えるほうを優先してください。
- Q. 怒鳴らずに指示を届けるにはどうすればいいですか
- 喉で張り上げるのではなく、息のスピードを上げて響かせる意識に変えます。同じ声量でも届き方がまったく変わります。
- Q. 一日中指示を出し続けても声が枯れないようにするには
- 横隔膜のあたりを前につまみ出すような感覚で、吸うときも腹圧を抜かずに保つと、長時間でも声が持ちやすくなります。
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詳しいプロフィール →声が小さい・通らない人へ。大きい声を出さずに改善する方法
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声が届かないのは、声帯が弱いからとは限りません。声が大きすぎたり、息が流れすぎていたりする使い方そのものが、枯れの原因になっていることがあります。