声が通る出し方。大きな声ではなく、息で届く声をつくる

声が通らない、聞き返される、遠くまで届かない人へ。大声ではなく腹圧・息のスピード・喉で押さない使い方から、通る声の出し方を解説します。

奥津ユキ

対面の商談で見積もりの金額を伝える瞬間、資料を指しながら話しているのに「もう一度よろしいですか」と聞き返される。同じ説明をもう一度繰り返すあいだに、相手の表情から関心が薄れていくのが分かる。声を通したい場面でこそ崩れてしまう人は、原因を声質や性格に求める前に、話し出す直前と直後で何が起きているかを分けて見てください。息が止まり、喉に力が入り、体が固まり、語尾が消える。この並びで崩れていることがほとんどです。

「こちらの金額で、来月から導入いただけます」を録って比べます

長い練習はいりません。商談で実際に使うこの一文を、まずいつも通りに一度録音してください。次に、声を出す前にひとつだけ息を先に流してから、同じ一文をもう一度録ります。

聞き返すときは、上手に話せているかを基準にしないでください。見る場所は三つです。出だしの「こちら」が小さく埋もれていないか。金額を伝える核心の手前でわずかでも間を取れているか。最後の「いただけます」まで息が残っているか。二度目のほうが、同じ声量でも輪郭がはっきりして届きやすいはずです。

音量より先に、息が声を運んでいるかを見ます

通る声を求める人がまず手を伸ばしがちなのが、単純な音量アップです。ですが対面の商談でとっさに音量だけ足そうとすると、喉を締めて押し出す発声になりがちです。本人は力強く出したつもりでも、相手には硬い、急いでいる、余裕がないという印象で届いてしまいます。

私が最初に確認するのは、声の前に息がちゃんと動いているかどうかです。発話の直前に呼吸が止まっていないか。最初の一音を喉の力だけで押し出していないか。金額を伝える語の手前で余分に吸い直していないか。文末に届く前に息が尽きていないか。このうちどれか一つが乱れただけでも、届く声は弱まります。気の持ちようのせいにする前に、息・喉・体で実際に何が起きているのかを一つずつ切り分けてみてください。

よく「お腹から声を出すには腹式呼吸を」と言われますが、私が重視しているのは腹式呼吸というよりも腹圧呼吸です。お腹を膨らませたりへこませたりする動きそのものより、話している間ずっとお腹に圧をかけ続けられているかどうかのほうが、通る声にはよほど効いてきます。息を吐くときだけでなく、次の一言を吸うときにも腹圧を抜かないようにすると、金額を伝えた直後の一言まで支えが途切れません。

奥津ユキ
奥津ユキのミニコメント

声が通らないのは、生まれつきの性格の問題ではありません。息、喉、体、語尾の使い方を変えると、同じ言葉でも相手への届き方は変わります。

声を作り変えようとするのは回り道です

避けたいのは、声そのものを別物に作り変えようとすることです。低くする、明るくする、張り上げる、ゆっくり読もうと意識する。どれも直後は変化を感じますが、体の準備が変わっていなければ商談本番でまた元通りになります。特に、喉の力で低く作った声や無理に張った声は、語尾から先に崩れていきます。

必要なのは新しく作った声ではなく、相手が受け取るべき内容を正しい順番で運ぶ声です。そのために、まず一文を短く区切ります。核心の語の手前でひと呼吸だけ置きます。最後の一音まで息を残して言い切ります。対面の商談でこの三点を意識するだけで、印象は変わってきます。

オンライン商談で声がこもって届きにくいと感じる時は、意図して鼻にかけようとするより、口角を少し上げるだけで十分です。口角が上がると、声は自然に鼻腔のほうへ乗っていき、こもりがやわらぎます。

商談前の30秒でできる調整

本番前に長時間練習すると、かえって焦りが増すことがあります。直前にやることは最小限で十分です。口を閉じたまま一度息を吐く。肩を上げずに短く息を取り込む。声には出さずに、今日伝える一文の口の形だけをなぞってみる。最後に、小さな声で一度だけ実際に発してみる。ここで確かめるのは、先ほどの三点がそのまま整っているかどうかです。

資料を指しながら話す商談は、視線が手元に落ちるぶん、呼吸も浅くなりがちです。金額や条件を伝える一文の前だけは、資料から一瞬目を上げて相手を見てから声を出すようにすると、息が止まりにくくなります。

つまずきは、単独ではなく重なって起きます

通る声にまつわる失敗は、たいてい一つの原因だけでは説明がつきません。多くの場合、いくつかの崩れが同時に重なっています。ひとつは、発話前に呼吸が止まってしまうこと。息を止めたまま話し始めると、最初の音が遅れて届き、相手には途中から説明が始まったように感じられます。ふたつめは、核心となる金額や条件の手前で急いでしまうこと。ここで間を取るのが怖くなり、結果として一番伝えたい数字が流れてしまいます。みっつめは、文末に来る前に安心してしまうこと。言い終えた気分で最後の音が小さくなり、相手には弱々しい言い切りとして残ります。

これらは性格の問題ではありません。第一声、息、喉、体の向き、語尾という観点で見直せば、修正できる領域です。同じ相手との商談で毎回同じ場面で聞き返されるなら、資料のどのページを開いた瞬間かを一度書き出してみてください。崩れる引き金には、たいてい共通点があります。

体の観察は、喉だけを見ていては終わりません

声が弱いと感じると、つい喉に力を入れて直そうとします。しかし喉に力を込めるほど、声はかえって不安定になります。まず足裏が床にしっかりついているかを確認します。体が浮いた状態だと息も浮いてしまいます。次に胸の向きです。資料や相手の反応に気を取られると胸が閉じ、声が前に出にくくなります。最後に顎と首です。手元の見積書をのぞき込むように顎が前へ出たり、首の前側が硬くなったりすると、第一声を喉で押す形になりやすくなります。

商談の途中で声が浅くなっても、全体を立て直そうとする必要はありません。今言っている一文を短く区切り、語尾まで言い切り、それでも整わなければ次の文へ入る手前でひと呼吸分だけ間を作ります。この間は気まずい沈黙ではなく、相手に言葉が届くのを待つための時間です。埋めようとして次の言葉を重ねるほど、息も声も浅くなっていきます。区切る、語尾まで言い切る、ひと呼吸置く。立て直す手順はこの三段階で足ります。

商談で使う言い回しを、あらかじめ決めておきます

話しながら次の言葉をその場で探そうとすると、探している間だけ呼吸は止まり、力の置き場所が喉へ寄っていきます。だからこそ、話す前に言い回しそのものを固定しておきます。

説明の切り出しに使う「本日は、価格面から先にご説明します」。核心となる「こちらの金額で、来月から導入いただけます」。締めに使う「ご不明な点があれば、この場でご質問ください」。この三つの役割をあらかじめ割り振っておくイメージです。

台詞が決まっていれば、声を作り込む以前に話の筋道そのものが見えています。筋道が見えていれば、呼吸も自然と落ち着きを取り戻します。増やすべきは立派な言い回しの数ではなく、その場ですぐ言える短さと、語尾まで息が届く言いやすさです。長い言い回しは緊張の中で崩れやすい一方、短い言葉は本番でも立て直しがききます。

もう一度録って、輪郭の変化を確かめます

最後にもう一度、同じ一文を録音してください。一回目は出だしの音だけをわずかにはっきり入れます。二回目は語尾だけを意識して残します。この二回の録音だけで、声全体を良くしようとするより早く、通る声に近づけます。すべてを完璧にそろえる必要はありません。出だしが入っただけでも、語尾が残っただけでも、相手に届く声の印象は変わります。

通る・通らないを分けるのは、大きさではなく輪郭です。言葉の頭がきちんと聞こえているか。金額や条件を伝える語の手前に間があるか。語尾まで息が残っているか。喉で押さず、息の流れに声が乗っているか。この四点が整えば、声は必要以上に大きくなくても、次の商談で相手の手元まで届きます。

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よくある質問

Q. 声が通らないのは生まれつきの問題ですか
生まれつきだけで決まるものではありません。声帯周りの筋肉、呼吸筋、腹圧、息のスピードの使い方で変わります。
Q. 腹圧呼吸と腹式呼吸は何が違いますか
腹式呼吸はお腹を膨らませたりへこませたりする動きとして教わることが多いですが、腹圧呼吸はお腹に圧をかけたまま息を使う考え方です。
Q. 通る声を作るには何から練習すればいいですか
まず録音で今の声を確認し、喉で押さずに息を前へ出す練習から始めてください。ストロー発声や短い一文の録音チェックが有効です。
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奥津ユキ
書いた人
奥津ユキ

ボイストレーナー。Snow Man、NiziUなど多くの楽曲を手がける作曲家・前迫潤哉氏が主宰するLEVETCH VOCAL SCHOOLにて、ボーカル指導の代表を務める。 何千レッスンもの現場で、歌手・社会人・表現者の声と向き合ってきました。

詳しいプロフィール →
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