声が通らない原因。大声ではなく息で届く声をつくる

普通に話しているのに声が通らない人へ。声が通らない原因は、音量不足だけではありません。息のスピード、口の前への出方、語尾、喉の力みが関係します。 会議や日常の発言で聞かれる声を、第一声・息・区切り・語尾・録音チェックから整える方法を解説します。

奥津ユキ

倉庫の奥から手前の作業台に向かって声をかけても、フォークリフトの音に紛れて聞き返される。普通の音量で話しているつもりなのに届いていない気がする。声が通らないという悩みは音量不足だと思われがちですが、実際には息のスピードが遅い、母音が口の中でこもっている、語尾で喉が力むといった、音量以外の要因が絡んでいることが多いです。

「そちらの台車を、先に運んでください」を、まず録って比べます

長い言葉はいりません。この一言をスマホで録音してください。一度目はいつも通り、少し声を張って。二度目は、声を出す前に息を先に速く吐き切ってから、同じ一言を出します。

聞き返すときは三点だけ耳を向けます。出だしの「そちら」が埋もれていないか。「台車」の母音がつぶれていないか。「ください」まで息が残っているか。二度目のほうが、同じ音量でも輪郭がはっきり届くことが多いはずです。

声が届く量は、声の大きさだけで測れません

この一文を一息で流すように出すと、指示の内容まで軽く聞こえます。反対に、息のスピードを保ったまま最初の音を前へ出し、母音をつぶさずに語尾まで息を残すと、同じ音量でも遠くまで届きやすくなります。声が通る通らないは、声量計では測れない要因が大きく関わります。マイク越しでも、この関係は変わりません。マイクは音量を拾いますが、息のスピードが遅く母音がこもった声まで聞き取りやすくしてくれるわけではないからです。

奥津ユキ
奥津ユキのミニコメント

声を届けるのは音量ではなく、息の勢いです。押し出すのではなく、息の流れに言葉を乗せてください。

声が通らないのは生まれつき声帯が弱いからだと思われがちですが、実際はそうとは限りません。声帯まわりの筋肉や呼吸に使う筋肉が鍛えられていない、あるいは筋肉の使い方が分からないまま声帯を締めてしまっている、というケースがほとんどです。倉庫のような音の多い現場では、その締め方がいっそう強く出やすくなります。

大声を出す前に、息のスピードと母音を見ます

声が通らないと感じると、多くの人はまず声量を上げようとします。ですが声量を上げても、喉で押した声になれば、近くでは大きく聞こえても遠くには届きにくくなります。

先に見るべきは、息のスピードです。ゆっくり弱い息では、声は口の中で止まりやすくなります。声帯まわりの筋肉や呼吸に使う筋肉がまだ育っていない段階では、この遅さがそのまま届きにくさに直結します。私は息のスピードを自転車にたとえています。ゆっくり漕ぐとふらついて倒れそうになりますが、スピードを上げると自転車自体が安定して自走してくれます。声も同じで、勢いよく息を吐き切ろうとするだけで、力を入れなくても言葉は前へ運ばれていきます。

次に見るのは母音です。「あ・い・う・え・お」の形が口の中でつぶれていると、音は前に飛ばず、こもって聞こえます。急いで話すほどこの形は崩れやすくなります。最後は語尾です。語尾の前で息が終わっていると、文の終わりで急に音量が落ち、遠くの相手には尻すぼみに届きます。この三つのどこかが崩れると、声量があっても通りにくくなります。

通らない声を、力任せに直そうとしないでください

避けたいのは、声だけを外側から大きく作り込むことです。低めの声を意識する、声量を張る、ことさらゆっくり話す。どれもその場では効いた気になりますが、体の使い方そのものは変わっていないため、本番になれば元の状態へ戻ってしまいます。喉に力を込めて張った声、無理に押した声は、とりわけ語尾から先に消えていきます。

必要なのは作った声ではなく、息のスピードを保ったまま前へ飛ばす声です。最初の一文を短くする、母音を丁寧に形づくる、最後の音まで息を残す。倉庫でも会議室でも、この三つだけでも通り方はかなり変わります。

通らない瞬間は、たいてい三つが重なっています

声が届かなかった場面を振り返ると、原因が単独であることはあまりなく、多くは三つの要素が同時に起きています。ひとつは、声をかける直前に息を止めてしまうこと。これにより最初の音が遅れ、相手には呼びかけそのものに気づいてもらえません。もうひとつは、機械音に負けまいと焦って母音をつぶしてしまうこと。急げば急ぐほど、聞き取ってほしい言葉ほど輪郭が崩れます。もうひとつは、文の途中で息のスピードが落ちて後半だけ近くで止まったような響きになること。話し始めは届いていても、指示の肝心な部分が遠くの相手まで届いていないことがあります。

これらはどれも性格や声質の弱さではなく、体の使い方に由来する癖です。出だしの一音、母音、語尾。この順序で観察していけば、直すべき場所は自然と絞られていきます。同じ相手に何度も聞き返される日が続くなら、いつも同じ場所で崩れていないか、一度書き出してみると近道になります。

声をかける直前の30秒で、息を整えます

声をかける前に長く声出しをすると、かえって落ち着かない気持ちになることがあります。準備は手短で十分です。口を閉じたまま一度息を吐き切り、肩を動かさずに短く吸い戻し、声を出さないまま「そちらの台車を」と口の形だけをなぞってから、最後に小さな音量で一度だけ実際に発声します。ここでチェックするのは声量の有無ではなく、最初の音が欠けていないか、息のスピードが途中で落ちていないか、語尾まで息が保たれているかという、先ほどの三点です。

現場で毎回同じ指示を繰り返す人ほど、声をかける前にあらかじめ決まった短い言い回しを用意しておくと呼吸が乱れにくくなります。相手の名前や場所を先に呼ぶ呼びかけの一言、要件を伝える確認の一言、聞こえたかを確かめる締めの一言。この三段構えを持っておくだけで、話し出す前から流れが見えている状態を作れます。指示のたびに言葉を選び直していると、選んでいる間に息が止まり、結局は喉に頼った声になりやすくなります。

音の多い現場での体のチェックは、喉だけでは足りません

声に力が入らないと、つい喉そのものを直したくなります。ですが喉だけに力を込めても、声は安定した状態で届きません。確認するのはまず足元です。かかとが床から浮いていると、体が不安定になり息の流れもぶれます。次に胸まわりです。台車や資材に気を取られて前かがみになると胸郭が閉じ、声が前へ抜けにくくなります。最後に顎と首です。顎が前に突き出たり、首の前側の筋肉がこわばったりすると、最初の音を喉の力任せに押し出す癖が出て、息のスピードも一緒に落ちてしまいます。

息のスピードは、腹圧で無理に押し出すものではありません。お腹に力を入れて押し出せば届くと考える人がいますが、強く押し出す息は母音の形を崩し、かえって声をこもらせることがあります。必要なのは、押す力ではなく、息が途切れずに流れ続ける感覚です。一文を読み切るまで、お腹の力を一度に使い切らないようにします。話し始めに強く押して後半で失速するくらいなら、最初から少し余裕を残して声をかけ始めるほうが、指示の最後まで安定して届きます。

「そちらの台車を、先に運んでください」を、もう一度確かめます

最後にもう一度、同じ一言を録音してください。一度目は最初の音を少しだけはっきり立てる。二度目は語尾まで息を保つことだけに意識を向けます。

この二つを聞き比べれば、声全体をぼんやり良くしようとするより早く、失速しやすい場所が見つかります。すべてを完璧にそろえる必要はありません。出だしが入っただけでも、語尾が残っただけでも、聞こえ方は変わります。

通る声は、舞台俳優のような朗々とした大声ではありません。相手が聞き返す手間なく、そのまま言葉を受け取れる声です。話し始めの一言、息のスピードを維持する箇所、母音を丁寧に形づくる箇所、締めくくり方。この順序が整えば、現場の騒音の中でも張り上げなくて済みます。次に台車を運んでもらう時は、声を大きくする前に、息を先に出す一呼吸を思い出してください。

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よくある質問

Q. 声が通らない原因は声量不足ですか
声量不足だけとは限りません。言葉の頭や語尾が欠けていると、音量が足りていても相手は聞き返します。どの音が消えているかを先に特定してください。
Q. 通る声にするには何から始めればいいですか
まず今の声をスマホで録音し、出だしの音・息の止まり・語尾のどこが弱いかを確かめることから始めてください。原因が分かれば、練習は短くて済みます。
Q. 大きい声を出す練習は必要ですか
大声の練習は必須ではありません。喉で張り上げる癖がつくと逆効果です。息のスピードを上げて声を前に運ぶほうが、無理なく届く声になります。
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奥津ユキ
書いた人
奥津ユキ

ボイストレーナー。Snow Man、NiziUなど多くの楽曲を手がける作曲家・前迫潤哉氏が主宰するLEVETCH VOCAL SCHOOLにて、ボーカル指導の代表を務める。 何千レッスンもの現場で、歌手・社会人・表現者の声と向き合ってきました。

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