·滑舌・発音

聞き返される声の原因。もう一度お願いしますを減らす話し方

話すたびに聞き返される人へ。聞き返される声は、声量だけでなく、言葉の頭、母音、語尾、息の流れが崩れていることがあります。 会議、電話、オンライン会議、商談で聞かれる声を、第一声・息・区切り・語尾・録音チェックから整える方法を解説します。

奥津ユキ

「何度も聞き返されるのがつらい」という悩みに対して、私はまず声量を疑いません。聞き返される原因のほとんどは、一文のどこかで音が抜けていることにあります。オンライン会議が増えてから、これは対面のときより起こりやすくなっています。マイクや通信環境のせいだと思い込んでいる方も多いのですが、機材を変えても改善しないなら、体の使い方のほうを見直したほうが早いことがほとんどです。イヤホンマイクを新調しても状況が変わらなかった、という声も少なくありません。

聞き返されやすい言葉として、「資料は三階の会議室です」と言ってください。まず「しりょう」の子音を軽く置いてから母音へ移り、次は母音から始めるつもりで同じ文を言います。変えるのは文頭の子音の置き方だけで、声量は変えません。一度目と二度目で、「資料」の頭が輪郭を持って聞こえたか、「三階」が別の語に聞こえなかったかを比べてください。私は、差がなければ子音の練習を繰り返さず、相手との距離と周囲の騒がしさの判定へ進めます。

文頭の一音が届き方を決める理由

子音の置き方を変えたときに言葉の出だしが通った、あるいは相手の反応が変わったなら、起きていたのは気合いの変化ではありません。舌先、唇、歯の近くでつくった狭め方が、母音へ移る直前まで保たれ、息の流れと一緒にほどけたことで、最初の一拍に輪郭が生まれたのです。文頭は聞き手が語の候補を絞り始める場所です。「失礼します」「ご相談です」の一音目が曖昧だと、その後を十分な声量で続けても、聞き手は入り口で取り直すことになります。

反対に差が出なかったときは、文頭の子音ではなく、子音の直後の母音が短く潰れていないかを見ます。子音だけを強く置いても、「し」「そ」の口の形がすぐ次の音へ流れると、語頭全体は判別しにくいままです。私がこの場面でまず確認したいのは、聞き返されやすい語が人名、部署名、用件のどこに集中しているかです。固有名詞なら最初の一拍、依頼なら「お願いいたします」の「お」、謝意なら「ありがとうございます」の「あ」を、後ろの語尾より先に観察します。聞き返される瞬間に、相手の顔が動くのが文頭か用件の名詞かも手がかりになります。

自分の録音に違和感があるのは当然です

オンライン会議の録画で自分の声を見返すと、想像していたトーンと違って聞こえることがあります。これは声質や滑舌の問題ではなく、頭の中で骨を通って聞こえている声と、マイクを通って画面の向こうに届いている声とでは、聞こえ方の経路そのものが違うからです。相手に実際に届いているのは、この録音に近い音のほうです。声そのものを嫌う前に、口角の上げ方や語尾の残し方といった、直せる部分だけを聞き分けてください。何度か見返しているうちに耳が慣れてきて、無理に低い声を作ろうとする気持ちも自然と減っていきます。声を嫌ったまま録画を見返すのをやめてしまう人を何人も見てきましたが、原因の多くは声質ではなく、この聞こえ方のずれを知らなかっただけです。

聞き返される声は、たいてい三つが重なっています

聞き返される声には、複数の崩れが同時に起きていることがほとんどです。ひとつだけを直しても、また別の場所で聞き返されることが多いのはこのためです。息を止めたまま話し出し、最初の音がワンテンポ遅れて届くこと。重要な語の手前で間を取る勇気が持てず、いちばん残したい言葉が流れてしまうこと。話し終えた安堵で語尾の音量が落ち、言い切りの弱さとして伝わること。オンライン会議でいえば、発言を求められた瞬間の緊張で息を止めてしまい最初の音が遅れて届いたり、資料の該当箇所を探しながら話して間が乱れたり、話し終えた安心感で語尾のマイクへの乗りが弱くなったりします。この三つのどれかが起きると、相手は内容を疑う前に、音として聞き取れなかったと感じます。「もう一度お願いします」と言われるたびに内容の説明不足を疑いたくなりますが、まず疑うべきは、この三か所のどこかで音そのものが届いていなかった可能性です。性格の弱さではなく、体の使い方の順番の問題です。

オンライン会議でこもって聞こえる本当の理由

対面では通じるのに、オンラインになると聞き返される回数が増える。これはよく起こることです。同じ声量で話しているつもりでも、対面とオンラインでは相手に届くまでの経路が違うため、結果は変わってきます。口だけを動かして喋ると、声がモゴモゴとこもって届きます。マスク越しに話す感覚に近く、輪郭のはっきりしない音として画面の向こうへ届いてしまいます。私が勧めているのは、意図的に鼻にかけることではなく、口角を上げるだけで自然に鼻腔へ声が乗る状態を作ることです。無理に低い声を作ろうとするより、この一点を直すほうが、画面の向こうにいる相手にはっきり届きます。マイクの感度が高い環境ほど、口角の上げ下げによる違いがはっきり拾われます。試しに、口角を上げたときと下げたままのときで同じ一言を録り比べてみると、音量計の数字は変わらなくても、聞こえ方の印象がまるで違うことに気づくはずです。表情を作るというより、口の中の奥側を少し持ち上げる感覚に近く、慣れれば表情筋を大げさに動かさなくても再現できます。

声を張り直すだけでは直りません

聞き返された直後は、同じ言葉を大きな声で言い直したくなります。焦れば焦るほど声色をいじりたくなりますが、低く作る、明るく作る、大きく張る、ゆっくり読もうとする、といった調整だけでは、また同じ場所で聞き返されます。喉で低く作った声や、大きく押した声は、とくに語尾から先に消えやすくなります。オンライン会議で焦って声を張ると、マイクが音を拾いすぎて割れることもあり、かえって聞き取りにくくなる場合があります。誰かに聞き返された直後ほど、声色を変えるより先に、次の一言の出だしと語尾だけを整え直すと立て直しやすくなります。声を作り込むほど、次に話すときにその作った声を維持しようとして、かえって余計な力が入ってしまうこともあります。必要なのは飾った声ではなく、伝えるべき言葉を順序どおり届けられる声です。

会議の冒頭、音声チェックの一言で差がつく

オンライン会議の冒頭で「聞こえていますか」を確認する一言は、実は滑舌そのものより印象を左右します。先ほどの一文を、口角を軽く上げたまま、カメラのわずかに上を見て話してみてください。下を向いて手元の資料を見ながら話すと、声が胸のほうへこもり、開始早々に聞き返される原因になります。最初の一言がはっきり届けば、その後の本題も同じトーンのまま聞き取りやすく続きます。参加人数が多い会議ほど、この最初の一言が全体の空気を決めます。逆に、最初の一言でこもったまま始めてしまうと、その後どれだけ丁寧に話しても、相手の耳はすでに聞き取りにくい前提で身構えてしまいます。

発言直前30秒の整え方

発言する直前に長く準備する必要はありません。口を閉じて息を一度吐き切り、肩を上げずに短く息を入れ、声に出さず「皆さま、音声は届いていますでしょうか」と口の形だけをなぞってから、実際の声で話し始めます。それでも聞き返されたら、一文を短くする、語尾まで言い切る、次の文の前に一拍置く。この三手だけで十分に立て直せます。三手のうちどれか一つでもできれば、その場の空気は変わります。全部を完璧にやろうとして固まってしまうより、できることから一つずつ試すほうが現実的です。次に聞き返される場面が来ても、慌てる前にこの三つのどれを使うかを、あらかじめ決めておくだけで気持ちの余裕は変わります。ミュートを解除した直後は特に音が拾われにくいので、話し始める前に一拍置く習慣をつけておくと安心です。挙手をしてから指名されるまでの数秒を、声を出す準備の時間として使うと、いきなり話し始めるよりずっと落ち着けます。

画面の向こうの相手には、口角と語尾から届きます

聞き返される声を直すというのは、性格を変えることでも、声を張り上げることでもありません。今日の一言と、来週の会議の一言、内容は違っても直すべき場所は同じ二点です。毎回違う場面で聞き返されているように感じても、体が崩れる場所そのものはたいてい固定されています。足裏が床についているか。ここが浮くと息も浮ついてしまいます。手元の資料や画面のほうへ意識が寄ると胸のまわりがすぼまり、声が前へ抜けにくくなります。顎が前方へ突き出たり首の前側に力みが残ったりすると、最初の一音をどうしても喉で押し出す形になりがちです。体の点検も合わせて行うと、口角と語尾だけを直すより効果は長続きします。画面越しの相手は、こちらの表情までは細かく読み取れなくても、口角の角度がつくる声の明るさと、語尾の残り方の二つには敏感に反応します。次にオンライン会議を開く一言から、口角と語尾の二点だけを試してみてください。

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よくある質問

Q. 聞き返されるのは滑舌が悪いからですか
滑舌だけが原因とは限りません。最初の一音が弱い、途中で息が止まる、語尾が消える、のどれかで起きていることが多く、録音するとどこで欠けているかが分かります。
Q. 声量を上げれば聞き返されなくなりますか
音量だけでは解決しないことが多いです。とっさに声を張ると喉で押す形になり、かえって硬く聞き取りにくくなります。先に息の流れと語尾を整えるほうが確実です。
Q. 録音では何を確認すればいいですか
上手さではなく、出だしの音が入っているか、大事な語の手前で間が取れているか、文末まで息が残っているか。この三点だけを聞いてください。
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奥津ユキ
書いた人
奥津ユキ

ボイストレーナー。Snow Man、NiziUなど多くの楽曲を手がける作曲家・前迫潤哉氏が主宰するLEVETCH VOCAL SCHOOLにて、ボーカル指導の代表を務める。 何千レッスンもの現場で、歌手・社会人・表現者の声と向き合ってきました。

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