声量を上げる方法。大声ではなく届く声を作るボイトレ

声量を上げたい人へ。喉で叫ぶのではなく、息のスピード、体の支え、言葉の頭で届く声を作ります。

奥津ユキ

顔を正面へ向け、「おはようございます」と一度言ってみてください。二度目は、顔を右へ三十度向けたまま、同じ大きさで同じ言葉を言ってみてください。正面へ向けた一度目のほうが、声が口の前から進む感覚があれば、声量とは別に音の向きが働いています。差が出なければ、向きではなく、声の出始めで息が散ることや言葉の輪郭が不足していることが別の原因です。

届く声は音の大きさだけで決まらない

声量を上げたいという悩みには、「自分では出しているつもりなのに遠くで聞き返される」という状態が含まれます。このとき必要なのは、単に大きい声ではありません。声が口元で広がりすぎず、聞き手のいる方向へ進む割合を増やすことです。横や上へ散る成分が多いと、話し手は喉や胸の振動を強く感じても、相手には言葉の芯が届きにくくなります。反対に、出口と語の輪郭が整うと、同じくらいの労力でも前方へ届く感じが生まれます。

ここでいう前へ進むとは、声を細く尖らせることではありません。口の中で作られた音が、開いた口から聞き手の方向へ抜ける経路を持つことです。顔が横を向く、顎が上がる、唇がほとんど動かない、子音が曖昧になると、音は前方の情報を失いやすくなります。大声を出すと一時的に聞こえる場合があっても、喉の負担が増え、長い説明では維持できません。私がこの場面でまず確認したいのは、今の声がどれだけ大きいかより、口の出口から聞き手までの道筋がまっすぐになっているかです。声量は、出力と進み方を分けて考えると扱いやすくなります。

相手との距離が変わる場面では、声を足す前に顔の向きと文の長さを変えます。届きにくい条件をそのままにして出力だけを上げると、話すほど力が必要になるということが起こります。

顔と口の出口を聞き手へそろえる

声が前へ進まないとき、最初に整えたいのは顔の向きです。相手へ体を向けていても、資料や画面を見たまま顔だけ横へ残っていることがあります。その状態では、口の出口も音の主な方向も横へずれます。話す一文の間だけ、顔を聞き手の方向へ戻し、終わってから資料へ視線を戻します。これだけで、同じ声の大きさでも言葉の入口が届きやすくなります。会議では全員を見回そうとして、文の途中で顔を動かし続けるより、要点を一人の方向へ出してから次へ移るほうが声の道筋を保てます。

口の出口をそろえるときに、唇を強く前へ突き出す必要はありません。唇を固めると、母音が狭くなり、かえって響きがこもります。必要なのは、声を出す瞬間に口が閉じかけていないことです。「お」「う」のような丸い母音では唇の形が残り、「あ」「え」では縦の開きが残るようにします。口を大きく開けることが目的ではなく、音が出る途中で出口をつぶさないことが目的です。正面を向く、口の出口を保つという二つがそろうと、喉から押し上げなくても、声の通り道を前へ置けます。

複数人に話すときも、声を空間全体へばらまくのではなく、一文ごとに主な聞き手の方向を決めます。聞き手が変わるときは文の終わりで顔を移すと、次の入口を整えやすくなります。

息を増やす前に散る場所を減らす

届かない声を改善しようとして、たくさん息を吸い、勢いよく吐こうとする方法は勧められません。息の量を増やしても、語頭で空気が漏れ、口の形が遅れ、顔が横を向いていれば、増えた分は音の芯にならずに散ります。息を強く押すほど、喉を閉じて支えようとする動きが出ることもあります。声が前へ届くためには、まず散る場所を見つけ、そこを一つずつ減らすほうが合理的です。語頭に空気音が混ざるなら発声前の口の形、言葉がぼやけるなら子音、途中で細くなるなら文の長さが確認点になります。

「お願いします」「承知しました」のような短い文で、最後まで同じ進み方があるかを確かめます。最初だけ大きく、語尾が落ちるなら、出だしに力を使いすぎています。逆に、語尾だけ強くなるなら、前半で声が散っていた可能性があります。声量を上げる練習では、どこを大きくするかより、どこで音が失われるかを見ます。聞き手の方向へ顔を戻し、重要な語の子音を明瞭に置き、言葉の終わりまで出口を保つ。これらは全て、音を増幅する操作ではなく、出した音を途中で捨てない操作です。大声を出さずに届く声は、余分な散り方を減らした結果です。

散り方を確かめる場面では、音量を普段より上げないことが大切です。同じ出力で語頭、出口、文末を比べれば、どの操作が届き方を変えたかを判断できます。

母音の出口を途中で閉じない

日本語は母音の連なりで言葉がつながるため、音の進み方は子音だけで決まりません。「ありがとうございます」「変更になります」のように母音が続く語では、口の出口が途中で小さく閉じると、声が奥へ戻る感じになります。とくに、話しながら顎を固める癖があると、最初の音は出ても、後ろの母音が薄くなります。口の中で音を響かせようと頑張るより、母音が変わるたびに顎と唇が必要な形まで動いているかを見ます。外から分かる程度に動けば、音も出口を通りやすくなります。

練習では、長い文章より「おおきな」「あたらしい」「うえの」のように母音の変化が見える短い語を使います。鏡の前で、音が変わるたびに口の縦の開きと唇の丸さが変わることを確認します。動きを誇張するのは、普段の会話に持ち込むためではなく、途中で止まっている場所を知るためです。動かない母音があれば、そこが声の通り道を狭めている候補になります。口の動きが整った後は、同じ語を普通の大きさへ戻します。大きく開け続けなくても、必要な変化だけが残れば、音は前へ進みます。

母音が変わるたびに顔を大きく動かす必要はありません。必要な形へ止まらず移ることがポイントです。動きが途中で止まると、音の進み方もそこで停滞しやすくなります。

子音は前へ出る音の輪郭を作る

声が遠くへ届くためには、母音の響きだけでなく、言葉を区切る子音の輪郭も必要です。「か」「た」「さ」のような子音が弱いと、聞き手は音の高さを受け取れても、単語を判別するまでに時間がかかります。その結果、話し手はさらに音量を足したくなります。子音を明瞭にする目的は、硬い話し方を作ることではなく、少ない出力でも単語を識別できるようにすることです。必要な接触や摩擦が短く通れば、母音の芯と合わさって言葉が前へ進みます。

たとえば「三時から開始です」と伝えるなら、「さんじ」「かいし」の頭を準備し、数字と行動の入口が欠けないようにします。すべての音を強く当てるのではなく、相手が取り違えやすい語に輪郭を置きます。口の形を声より先に作ることは、第一音だけの技術ではありません。語の途中で重要な情報へ入るときにも、音の進行を整える方法になります。言葉の輪郭がはっきりすると、相手は小さな音量でも内容を補えます。届く声を作るときは、音圧を増やす前に、聞き手が何を聞き取ればよいかを音の形で渡すことが重要です。

輪郭を置く語は、文の最初だけに限りません。数字や期限の前でも、口の形が先に整えば、聞き手は重要な情報を取り込みやすくなります。子音は音を硬くするためではなく、意味の境目を示す働きをします。

文を一息で抱え込みすぎない

声が途中から届かなくなる原因として、文を長く抱え込みすぎることがあります。「資料を確認して、修正箇所を反映したうえで、午後に共有します」のような文を一続きに言おうとすると、後半で口の出口が狭くなり、言葉の輪郭も薄くなりやすくなります。息が続くかどうかだけを問題にすると、さらに多く吸って長く押し出す方向へ進みます。必要なのは、情報の単位で文を分け、それぞれの短い文に前へ進む出口を作ることです。「資料を確認します。修正後、午後に共有します」と分ければ、二つの入口と二つの終わりを保てます。

短く区切ることは、弱く話すことではありません。区切りの後に口の形を作り直せるので、声の向きと子音の輪郭を再設定できます。会議で説明をするときは、結論、理由、次の行動を別の文に置きます。一文の中で全てを届けようとすると、話し手の力は後半へ行くほど散り、聞き手の注意も同じように散ります。文を分けると、各文の最初に必要な情報を置けるため、同じ音量でも伝わる量が増えます。声量を上げる方法は、声の器官だけに探すものではなく、音を失わせない文の長さにもあります。

分けた二文の間で、聞き手へ向く顔と口の出口を整え直せます。そのため、後半を大声で救済する必要が減ります。情報の順序と音の進み方を同時に保てることが、短く区切る利点です。

届く状態を場面ごとに使い分ける

前へ進む声は、常に最大に保つ必要はありません。近い相手との会話では、顔を向け、口の出口をつぶさず、重要語の輪郭だけを保てば十分です。離れた相手や雑音のある場所では、文をより短くし、要点の語頭を明瞭にし、顔の向きを固定する時間を増やします。距離があるからといって、最初から喉で押して大きくするのではなく、音が散らない条件を先にそろえます。これは音量を我慢する方法ではなく、必要な出力を無駄に使わない方法です。

声を出すと痛い、かすれが続く、以前より少ない会話で疲れる場合は、声量の練習で補おうとせず耳鼻咽喉科を受診してください。届く声は、喉を酷使して作るものではありません。顔を聞き手へ向け、口の出口を保ち、子音の輪郭を置き、文を抱え込みすぎない。こうした操作によって、音の進み方は変えられます。大きさだけを追うと、出力を足し続けることになります。音が前へ進む割合を整えると、同じ声でも、相手に届く手がかりを増やせます。

声の向きを整えても改善が乏しいなら、距離だけでなく周囲の雑音や相手との位置関係を確認します。届き方を一つの能力と考えず、条件に応じて散る場所を減らす作業として扱うことが重要です。相手が聞く位置を変えられるなら、話し手だけが出力を増やす前に、その距離も調整対象になります。

よくある質問

Q. 声量を上げようとすると怒鳴ったような声になるのはなぜですか?
私は、大きく出そうとして喉を閉めるほど声は荒れやすいと考えます。代わりに息のスピードを少し上げ、声を前へ運びます。音量を力で増やすより、空気の流れを速くするのが先です。
Q. 遠くの人に届く声を作るには、腹式呼吸を意識すべきですか?
私は、呼吸法の形より吐く時も吸う時もお腹まわりの圧を急に抜かないことを意識します。腹圧が保てると息の流れが途切れにくく、無理に叫ばなくても声の芯を保ちやすくなります。
Q. 声を大きく練習すると喉に疲れを感じる場合は続けてもよいですか?
私は、疲れを押して音量練習を続けるより、出す量を下げて息の流れと閉鎖の加減を見直します。痛みやかすれが長引く場合は、自己判断で続けず耳鼻咽喉科などの専門家に相談します。
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奥津ユキ
書いた人
奥津ユキ

ボイストレーナー。Snow Man、NiziUなど多くの楽曲を手がける作曲家・前迫潤哉氏が主宰するLEVETCH VOCAL SCHOOLにて、ボーカル指導の代表を務める。 何千レッスンもの現場で、歌手・社会人・表現者の声と向き合ってきました。

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