仕事で声量をコントロールする方法。大きすぎず小さすぎない声

会議や接客で声が大きすぎる、小さすぎる、場に合わない人へ。声量ではなく距離、息、語尾で整える方法をまとめます。

奥津ユキ

立ったまま「おはようございます」を一度、いつもの大きさで言ってみてください。次に、ほかは変えず、両足の間隔を肩幅より指二本分だけ広げたまま同じ言葉を言ってみてください。一度目と二度目で、言い始めた直後に胸が上下する大きさを比べてみてください。二度目に胸の動きが急にならなければ、声量はその場で連続的に押し上げるより、出す大きさをあらかじめ決める方が扱いやすくなります。差が出なければ、声量の乱れには別の原因があります。

声量はその場で探さない

仕事で声量を調整しようとすると、相手の人数、部屋の広さ、緊張の度合いに合わせて、その瞬間ごとに少しずつ音を足したり引いたりしがちです。しかし、連続的に微調整し続けると、発話の途中で声が揺れやすくなります。声量は細かな目盛りを無数に探すより、使う場面を三つに分け、それぞれの出し方を決めておく方が安定します。ここでいう三段階は、弱い・普通・強いという感覚的な分類だけではありません。自分の身体が再現できる、明確に異なる三つの設定です。たとえば一対一の会話、少人数への共有、少し離れた相手を含む説明というように、目的と距離で分けます。

声量が急に上がる人は、必要な大きさを決めないまま話し始め、届いていないと感じた瞬間に胸や喉で補おうとします。急に下がる人は、相手の反応が気になり、文の途中から息を引きます。どちらも声の能力が足りないというより、開始時点の設定が曖昧なことから起こります。私がこの場面でまず確認したいのは、今の場面が三段階のどれに当たるかを、話す前に身体で選べているかという点です。声量には、その場で連続的に探すより、用途に応じた段を先に決めることで安定するということが起こります。段が決まれば、文の途中で大きさを判断し続ける負担が減ります。

三段階を距離と目的で名前づける

三段階を作るとき、数字だけで「一、二、三」と決めると、実際の場面へ結びつきにくくなります。そこで、距離と目的に結びついた名前を付けます。一段目は、目の前の一人へ情報を渡す「近距離の会話」。二段目は、机を囲む数人へ順序を示す「共有の説明」。三段目は、部屋の端にいる人まで含めて要点を渡す「全体への案内」です。人数だけで分けず、相手にどこまで届かせるかで分けると、会議室の人数が変わっても使いやすくなります。三段すべてで言葉の明瞭さは保ち、変えるのは息の量と口の前への出し方です。段ごとの役目が先に定まると、必要以上に声量を迷いません。

一段目では、口の前に手を置いたときに、ごく近い位置で息を感じる程度にします。二段目では、手を少し離しても息の流れが途切れない程度にします。三段目では、手の距離をさらに広げるのではなく、立つ足幅を少し安定させ、息を押し込まずに前へ流します。手の距離を極端に変えると、息の量を増やしすぎるため、ここでは身体の安定と口の出口を合わせます。各段階で「おはようございます」のような短い文を一度だけ言い、胸が跳ね上がらない大きさを探します。三段階は最大・最小・中間ではありません。無理なく何度も使える三つの実用的な設定です。

一段目は近くへ置く

一対一の会話では、相手に聞こえることを確認しようとして、必要以上に声を小さくしたり、逆に静かな場所だからと緊張して強く出したりすることがあります。一段目の狙いは、声を縮めることではなく、目の前へ置くことです。立っているなら、足裏の前後どちらかへ体重を寄せず、両足で床を踏みます。座っているなら、背もたれへ沈み込みすぎず、骨盤を椅子に乗せます。この姿勢で、口の出口を相手の顔の高さへ向け、短い文を出します。顔を突き出す必要はありません。首を前へ出すと声が細くなり、近距離なのに聞き取りにくくなります。

一段目を確認する際は、「ありがとうございます」「承知しました」のような返答を使います。息を多く出すのではなく、文の最後まで口の出口が相手側を向くようにします。声量を下げるという意識だけでは、語尾まで小さくなりがちです。そこで、下げるのは呼気の量ではなく、届ける距離だと考え、実際に身体の向きを相手へ正対させます。外から観察できる操作を一つ選ぶなら、両足の向きを相手へそろえることです。これで声の向きが定まり、余分な音量を足さずに済みます。一段目で喉をささやき声のように絞ると、次の段へ上げるときに差が大きくなりすぎます。近くへ置く段にも、言葉を支える息と明瞭な子音は残します。静かに話しても、口の出口まで音を運びます。

二段目は机の中央へ出す

少人数の打ち合わせでは、相手一人へ話す声と、全体へ話す声の中間が必要です。この場面を一段目の延長で済ませると、横に座る人へ届きにくくなります。反対に三段目で話し続けると、内容が強く押し出され、会話の余白がなくなります。二段目は、声を特定の一人へ向けず、机や輪の中央へ置く段です。座っているなら、上半身だけを前へ倒さず、椅子の座面に両方の坐骨が触れた状態を保ちます。立っているなら、片足に寄りかからず、足幅を一段目より少し広くします。

練習では、両手を机の上に置き、「本日の進捗を共有します」と言ってみます。次に、両手を膝の上へ移し、ほかは変えずに同じ文を言います。手を置く位置が変わるだけで胸や肩が固くなるなら、その固定が声量を不自然に押し上げています。二段目では胸を張って大きくするより、体幹を安定させ、息が文の途中で切れない程度にします。声の大きさが不足しているかを常に考えると、音量が揺れます。話す前に「机の中央へ」と届け先を決め、途中では文の内容に戻ります。二段目は最も使用頻度が高い段になりやすいため、無理に目立つ声ではなく、一定の大きさを保てることを優先します。聞き手が変わっても、段を急に上げません。

三段目は遠くの一人を基準にする

全体への案内や会議での説明では、部屋全体を相手にしようとして、声を四方へ広げたくなります。けれども、出す方向が散ると、必要以上に息を使い、音量が上がったり下がったりします。三段目では、もっとも遠い位置にいる一人を基準にします。全員の顔を見回しながらでも、声の出口はその一人の顔の高さへまっすぐ向けます。実際に遠くの相手がいない練習では、壁に小さな印を一つ決め、その位置へ口の正面を向けます。壁へ向かって叫ぶのではなく、出口の方向を散らさないための目標です。

三段目に入る前は、両足を安定させ、ひざを伸ばし切らず、肩を上げないようにします。大きな声を出すために胸を持ち上げると、最初の音だけが大きくなり、その後に息が続きません。短く鼻から吸い、口を先に開け、息の流れに声を乗せます。語頭を叩きつけると、遠くへ届く前に疲れます。三段目は一文ごとに全力を使う設定ではありません。説明の核になる一文を、最後まで同じ方向へ保つ設定です。私がこの場面でまず確認したいのは、声を強く出しているかではなく、遠くの一人へ向く身体と口の出口が保たれているかです。方向が定まると、必要な声量を超えて押し出さなくても、言葉は散りにくくなります。遠くへ届ける段でも、声を荒くしないことが基準です。

段を切り替える合図を身体に作る

三段階を実際に使うには、頭の中で判断するだけでなく、切り替えの合図を身体に持つことが役立ちます。一段目は両足を相手へ向ける、二段目は両足を床へ均等に置く、三段目は足幅を指二本分だけ広げる、といった小さな差を決めます。合図は一段につき一つで十分です。肩を上げる、あごを引きすぎる、息をたくさん吸うといった大きな動きを合図にすると、声そのものが不自然になります。外から見ても分かる足の向きや幅なら、再現しやすく、喉への負担も増えません。

同じ文を三回言い、毎回足の合図だけを変えます。一回目は相手へ足先を向けて近距離、二回目は足裏を均等につけて共有、三回目は足幅を少し広げて全体へ、という順序です。言葉、語速、口の開きはできるだけそろえます。段による違いを音量だけで作ろうとせず、身体の安定から息の量が変わるようにします。切り替えがうまくいかないときは、三段の差を大きくしすぎている可能性があります。遠距離用を叫び声にしない、近距離用をささやき声にしないという範囲に戻します。三つの段が隣り合っていれば、場面の途中で上げ下げしても急な変化になりません。身体の合図を小さく保つほど、切り替えも自然になります。

文の途中でつまみを回さない

声量が不安定になる大きな理由の一つは、話している最中に「今の大きさでよいか」を繰り返し判断することです。文の半ばで声を少し大きくし、相手の表情を見て少し下げる、といった調整が続くと、息の流れが途切れ、語尾が弱くなります。音量を変える必要があるときは、文の途中ではなく、次の文の前に段を選び直します。たとえば近距離の会話から全体への説明へ移るなら、前の文を終え、足幅の合図を変えてから次の文を始めます。切り替えを一文単位にすると、内容の区切りと声量の区切りが一致します。

これは硬直した話し方にするためではありません。聞き手が増えたり、距離が変わったりする場面で、意図して音量を変えられるようにするためです。段を変えずに急に大きな言葉だけを出すと、強調が強くなりすぎます。逆に、段を変える前に足元と向きを整えると、文全体が自然に少し前へ出ます。一つの文のなかで抑揚をつけることはできますが、土台となる声量の段は保ちます。強調は子音や語の長さ、間で作り、段そのものを揺らしすぎないようにします。声量を連続的なつまみのように扱わず、三つの定位置として扱うと、仕事中の説明でも呼吸の計画が立てやすくなります。段を保つほど、語尾の急な失速も防ぎやすくなります。段を変える判断は、次の文の前に行います。

三段階は、一度決めただけで自動的に使えるものではありません。日常のなかで、各段に対応する短い文を一つずつ持つと定着しやすくなります。一段目には「承知しました」、二段目には「進捗を共有します」、三段目には「開始時刻をお知らせします」のように、実際に使う言葉を選びます。練習では同じ文を何度も連続して繰り返すのではなく、段を選び、一本の文を一度だけ発し、足元と胸の動きを確かめます。次は別の段へ移ります。これにより、切り替える動きそのものを覚えられます。

喉の痛みや声枯れが続く場合は、三段目を強く出し続けて解決しようとせず、耳鼻咽喉科を受診してください。声量の設計は、負荷を増やす練習ではありません。場面に対して必要な大きさを選び、余分な努力を減らすための方法です。近くへ置く、中央へ出す、遠くの一人へ向けるという三つの段を持てば、その場の不安に押されて声を出す必要が減ります。声量の安定は、常に同じ大きさで話すことからではなく、どの大きさを使うかを話す前に決められることから生まれます。

よくある質問

Q. 会議で声量を上げたいとき、どこに力を入れるべきですか?
喉や肩に力を足すのではなく、私は息のスピードを上げます。腹圧を保ったまま息を前へ送り、言葉の最初を小さく縮めないことで、押し叫ばずに音量を作れます。
Q. 相手との距離で、声の出し方はどう変えますか?
距離が遠いほど、声を太くしようとして喉を閉めることがあります。私は距離に応じて息の速さを調整し、母音を前に置く感覚で届かせます。大きく口を開けるだけでは補いません。
Q. 静かなオフィスで、声が浮かないように話すにはどうしますか?
静かな場では音量を抑えても、語頭まで弱くしないことが大切です。私は腹圧を抜かず、子音を強打せずに話し始め、語尾だけを消さないように整えます。
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奥津ユキ
書いた人
奥津ユキ

ボイストレーナー。Snow Man、NiziUなど多くの楽曲を手がける作曲家・前迫潤哉氏が主宰するLEVETCH VOCAL SCHOOLにて、ボーカル指導の代表を務める。 何千レッスンもの現場で、歌手・社会人・表現者の声と向き合ってきました。

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