ボイトレの順番は、腹式呼吸、高音、滑舌と練習名を並べるだけでは決まりません。先に、声を支える力が途中で抜けていないかを確かめます。
両手を脇腹へ軽く添え、楽な量だけ息を吸います。「支えを残したまま、楽な声で確認します」を自然に一度言い、二度目は脇腹が手を薄く押し返す状態だけを保って言います。音量、速さ、高さは変えません。「楽な声」より前に手が内側へ動いたか、後半を喉で押した感じが減ったかを比べてください。差があれば腹圧の残り方を先に整えます。差がなければ同じ比較を繰り返さず、後述する声帯閉鎖の判定へ進みます。
短い課題と文章の順を反転する
ボイトレの順番を決める時は、内容を足す前に二つの課題の並びだけを反転します。課題Aは「承知しました」を一回言うこと、課題Bは「承知しました。本日中に確認して返答します」を一回言うことです。一度目はAからBへ、二度目はBからAへ進めます。使う言葉、各課題の回数、座る位置、顔の向き、声の大きさ、速さは揃えます。変える変数はAとBを行う順番だけで、二組なら30秒以内です。
観察するのは、長いBの後半で言葉が急に短くならないか、短いAの出だしで喉に押す感じが出ないかです。私がこの場面でまず確認したいのは、どちらの課題が難しいかではなく、どちらを先に置くと次の課題の形が崩れるかです。二度目に移る時は、二つの課題の間へ別の文や発声を足しません。AとBの間で立ち位置を変えたり、口を動かして準備したりもしないでください。順番の比較では、先に行った課題が後の課題へ残す変化だけを見ます。したがって、順番を決める前に新しい課題を増やす必要はありません。同じ課題でも並びを変えると、後に来る文の入り方が変わるということが起こります。差が出なければ、順番ではなく、Bの文量、各課題の回数、当日の乾きといった別の原因へ進みます。喉に痛みが出たら、その時点で中止してください。
吐くほどお腹を緩めると、喉が支え役になります
声を出すときにお腹をへこませ切ると、文の後半ほど体からの支えが弱くなります。そこで声量を保とうとすれば、顎を上げる、首を固める、声帯を強く寄せるといった補い方が起こりやすくなります。高音や大声で苦しくなる場合も、練習種目より前にこの流れを疑います。
腹式呼吸そのものを一律に悪いと決める必要はありません。ただし、「お腹を大きく動かせば声が出る」と考え、喉の状態を見ずに反復するのは危険です。歌を習っていた生徒の中には、腹式呼吸を真面目に続け、吐くたびにお腹をへこませて喉で支えた結果、医師から声帯炎と咽頭炎を指摘され、発声を止められた人がいました。これは歌のレッスンでの事例であり、仕事場面の指導事例ではありません。
練習量の多さより、どこが支えを担当しているかが重要です。喉が代わりに頑張っている状態では、難しい発声へ進まず、体側の準備へ戻します。
発声する前に、練習してよい状態かを分けます
順番のゼロ番目は、声を出してよい日の判定です。喉に痛みがある、声が急に枯れた、異物感が続く、休んでも状態が戻らないときは、発声で確かめようとしないでください。練習を止め、必要に応じて医師などの専門家へ相談します。
乾燥しているだけなのか、声の使い方で疲れているのか、医療的な確認が必要なのかは、短い自己実験だけでは確定できません。痛いまま小声を出し続ける方法も勧めません。ささやき声であっても、出し方によっては負担になります。
違和感がなく、普段どおり話せる日だけ次へ進みます。休む判断を練習の外へ追い出さず、順番の中に含めておくと、調子の悪い日に無理を重ねずに済みます。
第一段階は、声を出さずに胴体の張りを保ちます
椅子に座っても立っても構いません。肩を持ち上げず、両手を脇腹へ添えます。鼻または口から楽に息を吸い、手の下にある張りを全部消さないまま、細い息を静かに吐きます。吐き切る競争ではないため、苦しくなる前に次の呼吸へ移ります。
ここでは四回ほど、声を加えずに行います。確認するのは、吸う瞬間だけ腹部が張り、吐き始めると急にしぼんでいないかです。腕でお腹を押し込んだり、息を強く噴き出したりする必要はありません。圧を保つことと、力任せに固めることは別です。
途中で肩や姿勢も一緒に直すと、何が効いたか分からなくなります。この段階では腹部の張りだけを扱います。張りが残るようになったら声へ進み、残らなければ発声種目を増やさず、この無声音の段階で終えます。
第二段階で、声帯閉鎖の偏りを切り分けます
腹圧を保っても声が出しにくいなら、声帯閉鎖の加減を次に見ます。声帯は、強く閉じるほど良いわけでも、開いて息を多く流すほど良いわけでもありません。閉鎖が強すぎれば出だしが詰まり、緩すぎれば空気の多い薄い音になりやすくなります。人によって偏る方向が反対なので、全員へ同じ練習を当てることはできません。
楽な高さで「あ」と一度言い、次は高さと速さを保ったまま、音量だけを一段小さくします。小さくした側で出だしの引っ掛かりが減るなら、強く寄せすぎる方向を先に疑います。反対に、音量を下げた途端に息だけが先へ抜けて「あ」が不明瞭になるなら、閉鎖が緩い可能性があります。どちらでも変わらなければ、舌や顎の動き、文の長さを別に見ます。
この比較で声帯の状態そのものを確定することはできません。閉めすぎと思って喉を無理に開く、息漏れと思って強く締める、といった自己判断は避けてください。痛みのない範囲で傾向を分け、楽に輪郭が出る小さな声を探すところまでにします。
第三段階で、仕事に使う一文へ移します
単音が楽に出ても、そこで練習を終えると会議や電話へ移しにくくなります。次は、実際の仕事に近い短文を一つだけ選びます。
- 「本日の進行を三点ご案内します」
- 「来週の納期について、二点確認させてください」
- 「折り返しは午後三時までにお願いいたします」
一日に三つすべてを直す必要はありません。一文を選び、腹部の張りを残したまま話します。声の高さ、明るさ、滑舌を同時に変えず、文のどこで脇腹が緩んだかだけを見てください。名詞の途中で抜けるなら、その名詞より前で息を使いすぎています。二つ目の意味のまとまりで抜けるなら、文を短く分ける方が先です。
腹圧が保ててから、息の速度や舌の動きを一項目ずつ加えます。体の支えがないまま早口言葉や大声へ進むより、短い業務文を楽に再現できることの方が、社会人の練習として使い道があります。
録音は、体の順番を作った後の検算に使います
録音は有効ですが、練習の一番目には置きません。体の使い方を決めないまま何度も聞くと、「声が好きではない」「もっと低くしたい」と印象の修正へ流れやすいからです。自分には骨を通った音も聞こえるため、録音の声との違いが生じます。外へ届く側の音を知るために、一文だけ録音します。
聞く場所は、意味の区切りを越えた瞬間です。後半の句が急に細くなったか、息を継いだ後だけ喉から押し直していないかを確認します。気になる場所があっても、次は高さや速さを足さず、その場所まで腹圧が残る長さへ文を短くします。
録音を採点表にせず、体で作った順番が外の音にも表れたかを見る道具にすると、聞き返す目的がぶれません。
戻る場所が分かれば、練習メニューに迷いません
練習時間は長くなくて構いません。体調を確認し、声を出さずに腹圧を保ち、楽な単音を出し、最後に仕事の一文へ移す。この流れを一回通せば、その日に崩れた場所が分かります。
腹圧が先に抜ける日は、無声音の段階へ戻ります。腹圧が残っているのに出だしが詰まる日は、声帯閉鎖の偏りを疑います。単音は楽なのに業務文だけ苦しい日は、声量を足さず、情報を二文へ分けます。録音だけ不安定なら、録音回数を増やすのではなく、外へ移した一文の長さを見直します。
毎日同じ課題を押し通すことが、継続ではありません。変わらない練習を重ねず、原因に応じて一段前や別の判定へ移ることも練習設計です。腹圧が保たれ、その上に声帯閉鎖、息、言葉が順に乗っていれば、高音や滑舌へ進んでも土台を見失いません。
順番を決めておく利点は、うまくいかなかった日に何を疑うかが先に決まっていることです。声が出にくい朝に発声種目だけを増やすと、喉が支え役を続けたまま負荷が積み上がります。腹圧、声帯閉鎖、業務文、録音という並びを持っていれば、その日に何かを足すのではなく、どこへ戻るかを選べます。練習は積み上げだけでなく、その日に何をやらないかという引き算の判断も含みます。
ボイトレの順番は、人気の練習を並べた一覧ではなく、崩れたときに戻れる道筋です。次に何を足すかより、どの段階まで楽に再現できたかを基準にしてください。
よくある質問
- Q. 息の練習を長くしても声に移ると崩れる場合、順番を変えるべきですか?
- 変える価値があります。息だけで終えると、声を出す瞬間に喉の締め方が元へ戻ることがあります。私は、短い息の確認の直後に一音を乗せ、感覚が残るうちに言葉へ進めます。
- Q. 発声練習より先に録音をすると、何を判断できますか?
- 最初の状態を残すことで、練習後の変化を声量だけでなく、息漏れや語尾の詰まりまで見分けられます。私が録音を先に置くのは、練習の狙いを曖昧にしないためです。
- Q. 時間がない日に「息・声・言葉」のどこまで行えば練習になりますか?
- 一連を短く通す方が、息だけを反復するより実際の話し方につながります。私なら、息を整えた後に一音、次に仕事で使う一文まで出して終えます。
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ボイストレーナー。Snow Man、NiziUなど多くの楽曲を手がける作曲家・前迫潤哉氏が主宰するLEVETCH VOCAL SCHOOLにて、ボーカル指導の代表を務める。 何千レッスンもの現場で、歌手・社会人・表現者の声と向き合ってきました。
詳しいプロフィール →声が小さい・通らない人へ。大きい声を出さずに改善する方法
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