発声練習で逆効果になりやすいこと。喉を痛める前に見るべき順番

発声練習をしているのに声が変わらない、喉が疲れる人へ。逆効果になりやすい練習の見直し方を整理します。

奥津ユキ

発声練習を続けているのに声が変わらず、喉だけが疲れていく。それは努力が足りないのではなく、練習が無意識の癖ごと反復になっているサインかもしれません。癖は、自覚がないから癖です。

練習の回数が声に与える変化を、短く比べてください。一度目は発声練習の一回目に「おはようございます」と言い、二度目は同じ言葉を十回繰り返した後に言います。変えるのは繰り返した回数だけです。出だしが重くならなかったか、かすれが増えなかったか、首まわりに力が集まらなかったかを比べてください。差が出なければ回数をさらに増やさず、練習中の力みを確認する判定へ進んでください。喉に痛みが出たらその時点で止めてください。

母音の並びを入れ替えて負担を探る

発声練習が逆効果になりやすい時は、量を増やす前に、口の中で通る母音の並びだけを入れ替えます。「あ・お・え」と一つずつ言った後に、「ただいま資料を送ります」と続けるのが一度目です。二度目は「あ・え・お」と言った後に、同じ文を続けます。母音の数、各音の長さ、文、姿勢、顔の向き、声の大きさは揃えます。変える変数は三つの母音の順番だけで、二組を30秒以内で終えます。

見るのは、続く文の「た」の出だしで舌や顎を余計に動かしたくなるか、文末までに喉の周辺へ押す感じが増えるかです。母音を同じ数だけ出しても、並びが変わると次の言葉へ移る動きが変わるということが起こります。一度目と二度目の間には新しい課題を挟まず、その場で並びだけを替えて終えます。母音を終えた直後に文へ入るため、次の文を言う直前に姿勢を直したり、声を出し直したりはしません。これは、課題を増やす順番そのものが負担を増やしていないかを見る比較です。片方だけで負担の合図が出るなら、その並びを何度も繰り返す順番は外します。差が出なければ、母音順ではなく、声を続ける回数、課題を始める時間帯、文の長さといった別の原因へ進みます。喉に痛みが出たら、その時点で中止してください。

逆効果の正体は、癖の上塗りです

喉で押した声のまま回数を重ねると、鍛えられるのは声ではなく、押す癖の方です。高い声や大きい声からいきなり始めれば、体の支えが整う前に喉だけが固まります。録音せずに感覚だけで良し悪しを決めれば、癖に気づく機会そのものがなくなります。毎回違う練習文を使えば、変化と気分の区別がつかなくなります。

この四つに共通するのは、どれも本人がさぼっているわけではない、ということです。むしろ真面目に量をこなす人ほど、癖の上塗りは速く進みます。毎日欠かさず音階をさらってきた年数が長い人ほど、押す癖も年季が入っている、ということが実際に起きます。だからこそ、直す対象を根性や練習量ではなく、無意識の側に置く必要があります。

体に出る癖にも、録音に映らない種類があります。声を出す直前に顎が上がる。息を吸うたびに肩が持ち上がる。立ったまま練習しているのに、体重が片足に寄っている。録音の答え合わせで音の癖を拾ったら、次の一回は鏡の前か、スマホのカメラを回して、体の側の癖も一度だけ確かめておくと、直す場所の見当が立てやすくなります。

タオルに向かって出す声は、出し惜しむ癖になります

自宅で大きな声が出せないなら、タオルを口に当てて練習すればいい。そう言われることがありますが、私はすすめていません。タオル越しの声はこもりやすく、続けるうちに、声を出し惜しみする感覚の方が体に残ってしまうことがあるからです。

防音のつもりで始めた工夫が、こもり癖という形で本番の声に出てくる。これも発声練習が逆効果になる典型です。厄介なのは、本人の中では防音の工夫と声の変化がつながっていないことです。会議で聞き返されることが増えた原因が、夜の練習方法にあるとは、なかなか思い至りません。

音を抑えたい事情があるなら、道具で声を殺すのではなく、声を出す前の息の流れや語尾の残し方のように、小さな声のままでも確認できる項目に練習を絞ってください。

締めすぎの癖は、崩した声で抜けます

喉を締める癖のある人が、まっすぐ丁寧に発声しようと頑張るほど、締める癖はかえって温存されます。丁寧さの中に、締めた状態がそのまま入っているからです。

そういうときは、一度ふざけた声を挟みます。オペラ風に「あー」「うー」と大げさに崩して出したり、アニメのキャラクターのモノマネのように短く「メッ、メッ」と当てたりする。真面目な発声では緩まなかった締めつけが、崩した声だとふっと抜けることがあります。抜けた感覚をつかんだら、その状態のまま普段の一文に戻ってください。

ばかばかしく感じるかもしれませんが、これは近道です。締める癖は、正しく出そうとする構えとセットで固まっています。構えごと一度外してしまう方が、構えたまま緩めようとするより早いのです。崩した声は人に聞かせるものではないので、うまくやる必要もありません。

話し終えた後の半拍に、癖のしっぽが残っています

発声練習中の意識は、声を出している瞬間に集中しがちです。けれど無意識の癖は、言い終えた直後にも顔を出します。

練習文の最後の一音を出し終えたら、すぐ次へ進まず半拍だけ止まって、自分の体を観察してください。喉に締めつけが残っていないか。息はまだ体に少し余っているか。肩が上がったままになっていないか。出している最中には隠れていた、話し終わり側の癖がここで見つかります。文の終わりがぷつりと途切れる人は、この半拍の観察を入れるだけで、語尾の扱いが変わり始めます。

この半拍は、日常の会話にもそのまま持ち込めます。報告を言い終えた直後、電話を切る直前。急いで次の動作に移る前の一瞬に体を確かめる習慣がつくと、練習時間の外でも癖の発見が続くようになります。癖は練習中だけに出るものではないので、見つける場所も練習の中に限る必要はありません。

癖をやめる順番は、語尾からです

見つかった癖を、全部同時にやめようとしないでください。息も喉も姿勢も語尾も一度に直そうとすると、話すこと自体がぎこちなくなり、それがまた新しい癖になります。

最初の一つには、語尾を選ぶのがおすすめです。語尾は聞き手に残る印象を作る場所で、変化を録音で確認しやすい場所でもあります。冒頭の実験で語尾の予想が外れた人なら、なおさらここからです。語尾まで声を残せるようになってから、次は声を出す直前の息に移ります。話す前に息が止まる癖が抜けると、出だしの硬さも一緒に取れていきます。

一つの癖に取り組んでいる間、他の癖が聞こえても手を出さないのがコツです。気になった癖はメモに逃がしておき、今の一つが録音で三回続けて確認できてから次に進みます。同時に二つ直そうとした瞬間から、どちらの変化も測れなくなります。

癖を直すのに、性格を変える必要はありません。体が覚えてしまった順番を、一か所ずつ入れ替えるだけです。意志の弱さを責め始めると練習は苦行になりますが、順番の入れ替えだと捉えれば、やることは毎回一つで済みます。

予想の外れ方を、記録に残していきます

冒頭の実験は、一度きりで終わらせず週に一度くり返してください。曜日を決めておくと忘れません。記録するのは、予想がどこで外れたか、です。先週は語尾が消えている自覚がなかったのに、今週は当てられた。それは、癖が意識の側に引っ越してきた証拠です。

うまくいった日の条件も一緒に残します。姿勢が楽だった、息が止まらなかった、半拍の観察で喉が軽かった。悪い癖探しだけを続けると練習は重くなるので、再現したい条件のメモで釣り合いを取ってください。

なお、喉に痛みや強いかすれが出ている日は、癖探しそのものを休んでください。調子の悪い日の録音は癖以外の要因が混ざって、答え合わせの材料になりません。状態が長引くなら、耳鼻咽喉科など専門家への相談を優先してください。

予想が当たるようになった日、その癖はもう無意識ではありません

発声練習を逆効果から守る方法は、特別なメニューではなく、自分の癖を無意識の側から意識の側へ移すことです。

自分の耳だけで心もとなければ、答え合わせを人に手伝ってもらう変形もあります。録音を聞いてもらう必要はなく、目の前で一文を言って、最後の言葉まで聞き取れたかだけを尋ねます。自分では残したつもりの語尾が相手に届いていなかったら、それは録音より手厳しい、そのぶん確かな答え合わせです。

締めくくりに、「自分では気づけない癖を、録音で探します。」をもう一度録音して、再生前の予想からやり直してみてください。三つの予想がすべて当たったなら、その癖はもう手の届く場所にあります。まだ当たらなかった場所があれば、そこが次の練習の的になります。

よくある質問

Q. 発声練習で何度も大声を出すと、なぜ逆効果になり得るのですか?
私は、大声そのものではなく、同じ押し方を反復することを警戒します。喉を閉めて音量を足す形を続けると、必要以上の力が残る場合があります。小さい声で前へ伸ばす感覚から確認します。
Q. 喉を下げて太い声を作る練習は避けたほうがよいですか?
私なら、喉を意図的に下げ続ける練習は目的にしません。低く太く聞かせようとして動きを固めると、自然な高さや言葉の動きが失われやすいためです。出しやすい位置を保つほうを選びます。
Q. 発声がうまくいかない日に、練習量を増やすのはよい方法ですか?
私は、うまく出ない理由を見ないまま量だけ増やしません。閉鎖を強くしすぎている、腹圧が抜けているなど、原因は違います。違和感や痛みが続くなら中止し、医療の専門家にも確認してください。
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奥津ユキ
書いた人
奥津ユキ

ボイストレーナー。Snow Man、NiziUなど多くの楽曲を手がける作曲家・前迫潤哉氏が主宰するLEVETCH VOCAL SCHOOLにて、ボーカル指導の代表を務める。 何千レッスンもの現場で、歌手・社会人・表現者の声と向き合ってきました。

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