発声練習を終えたあとに喉がヒリつく。翌朝、声がかすれている。ここで「まだ練習が足りない」と量を増やすのは、いちばん避けたい選択です。あなたの発声が喉を痛める出し方になっているかどうかは、練習メニューを見直す前に、スマホのボイスメモ一つ、三十秒で確かめられます。
メニューを見直す前に、三十秒だけ録音してください
ボイスメモを起動して、次の一文を二回録音します。
「喉に違和感がある日は、声量を上げず、息と短い一文だけ確認します。」
一回目は、いつも発声練習を始める時と同じ調子で、いきなり声から入ります。二回目は、口を軽く開けたまま細い息を一秒だけ先に流し、その息の流れに文をそのまま乗せます。
聞き比べるのは第一声の当たり方、一点だけです。最初の音が硬くぶつかって始まっているか、息に乗ってすっと立ち上がっているか。再生する時は、文全体を通して聞かず、最初の一音だけを二つの録音で交互に、三回ずつ聞いてください。全体を聞くと声の好み、滑舌、抑揚と気になる場所が次々に増えて、肝心の一点がぼやけます。
二回目で入りが柔らかくなっていれば、喉の痛みの主な原因は練習量ではなく、声の始め方にあります。始め方が変われば、同じ練習時間でも喉に残る負担はまったく違ってきます。逆に二回とも同じように硬い場合は、息を流したつもりで止めている可能性が高いので、今度は手のひらを口の前に置き、息が当たるのを確かめてから三回目を録音してみてください。
痛みが出やすい練習には、三つの共通点があります
喉を痛めやすい練習には共通点があります。声を出す前に息が止まっている。大きな声や高い声からいきなり始めている。痛みや違和感を我慢しながら回数をこなしている。この三つがそろうと、練習した分だけ喉に負担が集まり、鍛えているつもりでダメージを積み上げることになります。
とくに見落とされやすいのが一つ目です。息が止まったまま出した声は、必ず喉から始まります。どれほど良いメニューを選んでも、一回ごとの声がこの始まり方をしていれば、メニューの効果は喉の負担で相殺されてしまいます。
二つ目の「いきなり大声・高音」には、出ない高さを当てにいく動きも含まれます。あと少しで届きそうな高さを、喉を持ち上げて無理やり取りにいく。取れたように聞こえても、その音は喉の力で支えられているので、繰り返すほど負担が積まれます。高さを広げたい時ほど、いま楽に出る高さで始め方を整えるのが遠回りに見えて近道です。
三つ目のサインとして分かりやすいのは、練習の途中で咳払いが増えることです。喉に何か引っかかる感じがして、咳払いでリセットしてはまた出す。この繰り返しが始まったら、その日の練習はすでに喉主導になっています。回数を足す前に、一度止まってください。
枯れにくい人は、横隔膜のあたりを保ち続けています
長く声を出しても喉が疲れにくい人に共通しているのは、みぞおちの少し下、横隔膜のあたりを前に細くつまみ出すような感覚を、吐く時だけでなく吸う時にも保っていることです。この感覚があると声の支えがお腹側に置かれたままになるので、喉だけで声を支える時間がそもそも生まれません。
この感覚がぴんとこない場合は、探し方があります。声を出さずに、ろうそくの火を揺らすくらいの細い息を長く吐いてみてください。息が細く長く続いている時、みぞおちの下に自然と張りが生まれています。その張りの場所と強さを覚えて、今度は声を乗せた時にも同じ張りが残っているかを確かめる。息だけならできるのに声にすると消える、という段差が見つかれば、そこがあなたの練習ポイントです。
反対に、この支えがないまま練習を続けると、一音ごとに、喉が声を作り、喉が声を支え、喉が声を止める、という三役を喉一人に負わせることになります。練習量を増やすほど痛みが増えるのは、この三役をそのまま反復しているからです。
発声前の準備運動より、出している最中の支えが効きます
「声枯れを防ぐには、話す前に必ずウォームアップの発声練習をするべきだ」とよく言われます。ただ、仕事や生活の合間にそれを毎回こなせる人は多くありません。私は、準備運動の有無よりも、声を出しているあいだ腹圧をかけ続けて体幹で支えられているかどうかのほうが、現実的な喉の守り方だと考えています。
準備を完璧にした日でも、話し始めた途端に支えが抜ければ喉は疲れます。逆に、準備の時間が取れなかった日でも、最中の支えが保てていれば喉は残ります。守るべき場面は、声を出す前ではなく、出している最中です。練習の時も同じで、最初の五分を丁寧にウォームアップに使うより、練習中ずっと支えが抜けていないかを一回ごとに確かめるほうが、喉の残り方は変わります。
録音は、喉がどこで力んだかを探すために聞きます
自分の中で聞こえている声と、相手に届いている声は違います。自分の声には骨を伝った響きが混ざっているため、喉の力みには案外気づけません。だから録音が要ります。
聞く場所は三か所に絞ります。第一声が硬くぶつかっていないか。文の途中で息が細くなっていないか。語尾で喉が締まった響きに変わっていないか。声の良し悪しを判定し始めると録音を聞き返すのが嫌になるので、上手い下手は採点しない、と先に決めておいてください。探しているのは、喉が力んだ瞬間だけです。
録音の環境にこだわる必要はありません。静かなスタジオでなくても、出かける前の玄関や車の中で十分です。ただ、聞き返す時だけはイヤホンを使うことをおすすめします。スピーカーで流すより、語尾に混ざるかすれや、息が細くなる瞬間の小さな変化まで拾えるからです。喉の力みは大きな崩れとして録音に残るのではなく、こうした小さな変化として先に顔を出します。
違和感がある日は、練習の中身を先に軽くします
喉の状態は毎日同じではありません。痛みがある、強いかすれが取れない、休んでも違和感が戻ってこない。こうした状態が続くなら、練習で乗り切ろうとせず、専門家に相談する場面です。
軽い張りを感じる程度の日なら、内容を軽くして続ける選択もあります。その場合は、声量を上げないと先に決めてから始めてください。小さな声で先ほどの一文だけを確かめ、小さな声でも同じ違和感が出るなら、その日は休ませます。
声を出さない日にも、できることは残っています。細い息を長く吐く練習は、声帯を使わずに支えの筋肉だけを動かせるので、喉を休ませながら土台を保てます。完全に何もしない日と、息だけ続ける日を分けて考えられるようになると、休むことへの焦りも減ります。喉を守る判断は、弱さではありません。一回だけ強い声を出せることより、必要な時にいつでも安定した声を出せることのほうが、長い目で見て価値があります。
文を短く、見る項目は一日一つに絞ります
声が安定しない時ほど、練習の難易度もメニューの数も増やしたくなりますが、実際に効くのは逆です。一文が長いほど息が足りなくなり、足りない分を喉で補う癖が顔を出します。まず文を短くして、楽に出せる範囲を確実に作ってください。短い文で楽に出せた感覚は、そのまま長い文へ広げられます。
文を短くする方法は単純で、いま使っている一文を句読点で二つに割るだけです。割った前半だけを楽に出せるようになったら後半を足す。この刻み方なら、練習の題材を新しく探す手間もかかりません。
確認する項目も、一日一つに絞ります。今日は息の流れだけ。明日は喉の力みだけ。その次は語尾の残り方だけ。同じ一文で一週間これを続けると、自分がどこで崩れやすいのか、傾向がはっきり見えてきます。項目を増やして全部を同時に見るより、このほうが変化は早く届きます。
強い声を一回出すより、楽な声をもう一回
結果が出ないと感じた時に「もっと追い込めば変わるはず」と量を足すと、いまの癖をそのまま強化しかねません。喉を痛めない発声は、我慢の量ではなく、息を先に流す、喉で押さない、力んだ場所を録音で探す、という順番で作られていきます。
仕上げに、最初の一文をもう一度だけ録音してください。「喉に違和感がある日は、声量を上げず、息と短い一文だけ確認します。」を、細い息を先に流してから。今日最初の録音と並べて、第一声の当たりが少しでも柔らかくなっていれば、直している方向は合っています。明日の練習は、その柔らかい入りをもう一回だけ再現するところから始めてください。それが、喉を痛めずに声を育てる一番の近道です。
よくある質問
- Q. 喉を痛めない 発声では何から始めるべきですか
- 最初は声量や高音より、息が止まっていないか、喉で押していないか、録音で再現できるかを確認してください。
- Q. 毎日練習した方がいいですか
- 短い練習を続けるのは有効です。ただし喉に痛みや強い違和感がある日は無理に続けず、練習量を落としてください。
- Q. 録音は必要ですか
- 必要です。自分の中で聞こえる声と相手に届く声は違うため、録音で入り、息、語尾を確認します。
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ボイストレーナー。Snow Man、NiziUなど多くの楽曲を手がける作曲家・前迫潤哉氏が主宰するLEVETCH VOCAL SCHOOLにて、ボーカル指導の代表を務める。 何千レッスンもの現場で、歌手・社会人・表現者の声と向き合ってきました。
詳しいプロフィール →声が小さい・通らない人へ。大きい声を出さずに改善する方法
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