仕事の電話で「声が小さい」と言われる原因。受話器越しに届ける整え方
仕事の電話で声が小さいと言われる人へ。周りの目を気にして声を潜める癖と、受話器の持ち方から届く声に変える方法を説明します。
奥津ユキ
受話器をいつものように持ち、「お電話ありがとうございます」と一度言ってみてください。次に、声の大きさも言葉も変えず、口だけを送話口から左右どちらかへ四十五度そらして、同じ一文を二度目に言ってみてください。二度目で口元の空気が送話口を外れる感じが変わったなら、音量より口の向きを点検する余地があります。差が出なければ、原因を口の向きに固定せず、受話器の位置や回線という別の原因を確認してみてください。
「声が小さい」は、声量だけを指していない
電話で「少し聞こえにくいです」と返されると、多くの人は胸や喉に力を足して声を大きくしようとします。しかし電話の相手が受け取るのは、部屋に広がった声全体ではなく、送話口に入った音です。対面なら顔の向き、表情、身ぶり、距離が意味を支えますが、通話ではそれらが消え、受話器の近くに届いた成分だけが細い通路を通っていきます。そのため、自分には十分に出している感覚があっても、口元から外れた方向へ音が流れていれば、相手には小さく、輪郭の薄い声として届くということが起こります。声の問題を「出力不足」と決める前に、音の入口がどこにあるかを扱う必要があります。私がこの場面でまず確認したいのは、話している最中に送話口が口の正面に残っているかどうかです。相手の反応に焦って口を覆う、画面を見るために顔を横へ向ける、資料を探して受話器を肩と頬で挟む、といった動作は、発声そのものを変えなくても入口から音を遠ざけます。「小さい」と言われた瞬間は、声を押し出す合図ではなく、通り道を見直す合図として扱ってください。
この見方に立てば、通話のたびに声質を採点する必要はありません。相手の言葉を受けたら、端末の入口へ音が届く位置を再現することだけに集中できます。配置は目で確認でき、次の一文から直せるため、会話を止めずに扱いやすい基準になります。
受話器の送話口は、口元の一点を見ている
固定電話でもスマートフォンでも、通話用の収音部は会議室全体を均一に拾うものではありません。口から出た音は前方へ広がりながら、歯、唇、頬、手、衣服、受話器の縁などの影響を受けます。ここで重要なのは、口から送話口までの距離を短くすることだけではありません。送話口に対して口がどの方向を向いているかで、入る音の密度が変わります。送話口を口の横に置いたまま横を向いて話すと、短い距離であっても音の主な流れは外れます。逆に、少し距離があっても口が送話口を正面から向いていれば、言葉の輪郭が残りやすくなります。ここで必要なのは、受話器に唇を近づけすぎることではありません。近すぎると息の当たりや破裂音が強くなり、別の聞きにくさを作るからです。口の前から指二、三本分ほど離し、送話口を口角の少し横に置くと、息を直撃させずに音を入れやすくなります。通話中に資料を見る必要があるなら、首だけを資料へ向けず、受話器を持つ手ごと口の向きに合わせて移してください。受話器は机上の固定物ではなく、口元の一点へ音を受け渡すための道具です。
口の近くに置くことと、息を当てることは別です。送話口の中心を唇の真正面に固定せず、少し横へ逃がしておけば、子音の輪郭を保ちながら息の強い当たりを避けやすくなります。位置を決めたら、話すたびに手首を下げないことが次の課題です。
声を足す前に、手と首の位置をそろえる
電話での姿勢は、見栄えのための決まりではありません。手、首、口の位置関係を毎回似た状態にして、送話口へ入る音を安定させるための準備です。受話器を持つ手のひじを空中に浮かせ続けると、数分後には手首が下がり、送話口があごや頬の下へずれていきます。首を前へ出して画面をのぞき込むと、口の開き方も狭くなり、言葉の出口が下向きになります。そこで、通話が始まったらひじを机か身体の近くで支え、受話器を口角の横へ戻し、首を片側へ倒し込まない位置を作ります。これだけで、毎文ごとに口と送話口の距離が変わるのを減らせます。相手が聞き返したとき、立て直すために必要なのは大声ではなく、この位置へ戻ることです。「はい、失礼しました」と言う前に、受話器の底が口の近くにあるかを一秒だけ確かめてください。操作は小さいものですが、相手には次の文から届き方が変わったように感じられます。長い説明ほど、力を入れ続けるより位置を戻し続けるほうが、声の形を崩しにくくなります。
この配置は、長い用件を聞き取りながら話すときほど役に立ちます。手を支える場所があると、相手の話を聞くためにうなずいたり資料へ視線を移したりしても、送話口が大きく落ちません。声を維持しようと力む代わりに、道具の位置を維持してください。
聞き返された瞬間に、説明を重ねない
相手から「もう一度お願いします」と言われると、同じ内容に補足を足したくなります。けれど、聞こえ方の問題が起きているときに情報量まで増やすと、何が届かなかったのかがさらに見えにくくなります。私がこの場面でまず確認したいのは、相手が意味を理解できなかったのか、それとも言葉の形を受け取れなかったのかです。後者なら、言い換えや背景説明を増やす前に、受話器を口角の位置へ戻し、最初の核だけを一文で置き直します。たとえば「火曜日の十五時でお願いいたします」と伝えた場合は、日付や理由を加えず、「十五時でお願いいたします」と届け直します。送話口の位置が整えば、同じ語でも輪郭が変わります。ここで語尾だけを強く押し出すと、最後の音に息が当たり、かえって言葉が粗くなることがあります。必要なのは、文全体を送話口の正面に通すことです。相手の聞き返しは評価ではなく、通話の入口で起きたずれを知らせる信号です。一度置き直しても伝わらなければ、口の向きだけに固執せず、場所の騒音、スピーカーモード、端末のマイク穴の汚れ、回線状態へ原因を移してください。
同じ核を置き直したあと、相手が受け取れたなら、その時点で説明を前へ進めます。聞き返されたことを取り戻そうとして過去の文を膨らませないことが大切です。位置を戻して短く渡すことで、どの部分が伝わったかも会話の流れの中で確かめられます。
資料を見る動作が、口元を外しやすくする
仕事の電話では、話すことだけに集中できる場面は多くありません。予定表を開く、顧客情報を検索する、手元のメモを追う、別の人へ確認する。そのたびに視線と首が動き、受話器と口の関係がほどけます。とくにスマートフォンを肩と頬で挟み、両手を空ける形は、送話口が口から下がり、顔が斜めに固定されやすくなります。便利に見えても、相手に届く一点からは離れやすい姿勢です。資料を見る必要があるなら、資料を顔の近くへ上げるか、端末を口元へ合わせたまま視線だけを移すほうが、音の入口を保てます。パソコン画面が低い場合は、受話器を持つ側の肩を上げるのではなく、画面に近づく位置を短時間だけ作ってください。話しながら紙をめくるときも、顔だけが紙へ落ちるのではなく、手元の紙を動かすほうを選びます。声の通り道は、発声の瞬間だけ作るものではありません。資料操作まで含めて、口の正面に送話口を置き続けられる段取りが、電話での聞き取りやすさを支えます。
机上の資料を使う通話では、端末、資料、ペンの順番を始める前に決めておくとよいでしょう。資料が端末の反対側にあるだけで、口元へ送話口を保ったまま視線を移せます。小さな配置の選択が、説明の途中で繰り返す首の動きを減らします。
自分の耳の感覚と、相手の入口を分けて考える
自分の声は骨や身体の振動も含めて聞こえるため、通話相手が受け取る音より厚く感じられます。この差があるので、「自分には出ている」という感覚と、「相手には小さい」という返答は矛盾しません。だからといって、相手の一言だけで発声全体を作り変える必要もありません。電話で再現性を作るには、自分の感覚ではなく、外から観察できる配置を基準にします。送話口が口角の横にあるか、口が横を向きすぎていないか、手で送話口を覆っていないか、端末の下端が服に触れていないか。この四つなら、会話の途中でも確認できます。声の大きさは相手や端末ごとに感じ方が変わりますが、位置関係は自分で整えられます。通話の終わりに疲れたときも、喉から音を足そうとするより、まず端末を口元へ戻してください。喉の痛みや声枯れが続く場合は、発声だけで対処を続けず、耳鼻咽喉科を受診してください。身体の不調と通話時の配置は別に扱うことで、必要な対応を取り違えずに済みます。
この基準は、通話の相手を責めるためのものでもありません。届く場所を整えたうえで反応が変わらないなら、端末や環境の要因を冷静に切り分けられます。自分の感覚だけに頼らず、見える位置関係から確認を始めることが、無駄な負担を減らします。
電話の声は、届く位置を毎回そろえて安定する
電話での「声が小さい」を減らす鍵は、強い声を一度作ることではなく、通話中に音の入口を外さないことです。受話器は、こちらの気合いや話す内容を知りません。口元から届いた音だけを拾います。その前提に立つと、通話中にすることは明確です。話し始めに送話口を口角の横へ置き、資料を見るときも手と端末の位置を保ち、聞き返しがあれば音量を足す前に配置を戻します。短い一文でも長い説明でも、この順序は同じです。相手へ向けて言葉を届けようとして顔を横へ向ける場面ほど、端末も同じ方向へ連れていく必要があります。電話は見えない会話ですが、音の入り口はきわめて物理的です。自分の声を評価するより、口、手、送話口が作る小さな三角形を整えてください。その三角形が保たれれば、無理に押し出さなくても、言葉の輪郭は相手に届きやすくなります。
通話の前後で一度だけ、端末の下端と口角の位置を目で確かめる習慣を作ると、会話中にも戻る場所が分かります。大きな準備は不要です。音が入る一点を外さないという基準があれば、電話の声は毎回同じ手順で整えられます。
通話の最中に迷ったら、内容ではなくこの三角形へ戻ると決めておくと、口元の操作が会話の負担になりません。
よくある質問
- Q. 電話は立って話した方が声は届きやすくなりますか
- 別に立たなくても問題ありません。座ったままでも、口の開き方と息の使い方が整っていれば届く声は作れます。
- Q. 電話で聞き取りにくいと言われるのは、マイクや電話機の性能のせいですか
- 性能や距離が関わることもありますが、話し方そのものが原因になっていることも多いです。両方を切り分けて見る必要があります。
声が変わると、人生が変わる。
通る声、落ち着いた声、人を惹きつける声は、生まれつきだけで決まるものではありません。第一声・息・喉・体の使い方を整えることで、人前で話すたびに「この人は違う」と伝わる声はつくれます。無料動画講座では、声量に頼らず、印象・説得力・存在感が変わる声の整え方をお送りします。
登録後、無料動画講座をメールでお送りします。配信停止はいつでも可能です。

ボイストレーナー。Snow Man、NiziUなど多くの楽曲を手がける作曲家・前迫潤哉氏が主宰するLEVETCH VOCAL SCHOOLにて、ボーカル指導の代表を務める。 何千レッスンもの現場で、歌手・社会人・表現者の声と向き合ってきました。
詳しいプロフィール →声が小さい・通らない人へ。大きい声を出さずに改善する方法
声が小さい、通らない、聞き返される悩みを、性格や気合いではなく息のスピード・喉の力み・第一声から整理します。会議やプレゼンで使える具体的な練習も紹介します。
電話対応の声。第一声で信頼される話し方の整え方
電話対応で声が暗い、聞き返される、頼りなく聞こえる人へ。第一声、名乗り、聞き返し、語尾まで、電話で信頼される声の整え方を解説します。
予約の電話で声が小さくなる原因。日時と名前が聞き返されない話し方
予約の電話で声が小さい、名前や日時を聞き返される、早口になる原因を第一声・間・語尾から整理します。