張らずに遠くまで届く声の作り方。広い会場や後方まで

倉庫やグラウンド、展示会場など広い空間で声が届かない人へ。張り上げずに、息のスピードで遠くまで声を届ける方法を解説します。

奥津ユキ

倉庫の端まで安全確認の声をかけたのに気づいてもらえない。グラウンドの反対側にいる選手に指示が届かない。展示会場で呼びかけても、通り過ぎる人の足は止まらない。どの場面にも共通しているのは、届かない理由を声量不足だと決めつけて張り上げるほど、声はかえって届きにくくなるという点です。まず疑うべきは声の大きさではなく、声を運んでいる息のほうです。

遠くまで届く声は、大声ではなく息のスピードで決まります

遠くに声を届けたい人がまずやりがちなのが、喉に力を入れて声を張り上げることです。ところが、喉で押した声は近くにいる人には大きく聞こえても、距離が離れるほど輪郭を失い、意外と遠くまでは伸びていきません。

私が実際に効くと感じているのは、声の大きさより息のスピードです。自転車を思い浮かべてください。ゆっくり漕ぐと不安定で倒れそうになりますが、ある程度スピードが出ると自転車は自立して走ります。声も同じで、息がゆっくりのまま声を大きくしようとすると不安定になり、息のスピードを上げると声のほうが勝手に前へ進んでいきます。

奥津ユキ
奥津ユキのミニコメント

遠くまで届く声は、喉で押して量を増やすものではありません。息のスピードを上げると、無理に張らなくても声は自然と前に伸びていきます。

倉庫・工場の広いフロアで、安全確認の声が届かない理由

天井が高く、フォークリフトの音や機械音が鳴っている倉庫や工場のフロアでは、声をかけても相手が気づかないことがよくあります。

「そこ通ります、お下がりください」

この一言を、喉から押し出す大声のまま言うと、機械音に負けじと張り上げた分だけ声が硬くなり、かえって輪郭がぼやけて相手の耳まで抜けていきません。息のスピードを上げてから同じ音量で言うと、声の芯だけが機械音の隙間を通り抜けて届きやすくなります。声を大きくする前に、息を吐くスピードを上げることを先に試してください。

グラウンド・体育館で、コーチの声が選手まで届かない理由

屋外のグラウンドや広い体育館では、指導の声が反対側にいる選手まで届かないことがあります。

「はい、そこまで。次のドリルに移ります」

このとき、声を張り上げようとして喉に力が入ると、近くの選手には大きく聞こえても、離れた選手の耳には音が割れて届きます。効果的なのは、腹圧をかけたまま、息を速く吐き切ってから言葉を乗せることです。腹式呼吸のようにお腹を大きく動かす必要はなく、話している間ずっと軽く圧をかけ続けたまま、息のスピードだけを上げます。

展示会・イベント会場で、呼びかけが人混みに埋もれる理由

展示会やイベント会場では、周囲の話し声や案内放送に紛れて、呼びかけの声が埋もれてしまうことがあります。

「こちらで新商品のご案内をしております」

ゆっくりした息のまま声だけ大きくしても、周囲の雑踏に混ざって輪郭が薄れます。息のスピードを上げてから、普段と同じくらいの音量で言うと、声だけが雑踏の上に浮き上がるように届きます。呼び込みというと大きな声を思い浮かべがちですが、必要なのは音量ではなく息の速さです。

「張り上げる」ではなく「響かせる」という見立てで練習します

遠くの人に声を届けるには張り上げるしかない、と思われがちですが、張り上げるほど喉に負担がかかり、距離が伸びるほど声は不安定になっていきます。私が見ているのは、張り上げることではなく響かせることです。

響かせるといっても難しい技術ではありません。息のスピードを上げ、喉で止めずに前へ通すことができれば、同じ声量でも輪郭のはっきりした声になり、結果として遠くまで抜けていきます。倉庫でもグラウンドでも展示会場でも、まず試すのは声量を上げることではなく、この息の通し方です。

遠くに向ける意識と、後ろの人だけを見る意識は違います

「一番後ろの人に向かって話すイメージを持てば声が飛ぶ」という助言をよく耳にします。ですが、後ろの一人だけをじっと見て話そうとする意識は、実際にはあまり効果的ではありません。一方で、声を遠くへ向ける方向性そのものは間違っていません。

つまり、後方の特定の一人に向けて演技するのではなく、息の勢いを遠くへ伸ばしていく感覚として持つのがちょうどいい距離感です。倉庫の一番奥、グラウンドの反対側、会場の出入り口。特定の顔を見つめる必要はなく、その方向へ息を通す意識だけで十分です。

肺活量ではなく、息のスピードを鍛える練習

遠くまで届く声を作るには肺活量を鍛えるべきだ、と言われることがあります。走り込みや水泳を頭に浮かべる人もいますが、真っ向から否定はしないものの、まず効くのは肺活量そのものより呼吸筋の筋力と息のスピードです。

スマホ1つでできる練習はこうです。息を大きく吸い、強制的に速く吐き切ります。これを数回繰り返し、体で息のスピードを覚えます。慣れてきたら、その速いスピードのまま「そこ通ります、お下がりください」「はい、そこまで。次のドリルに移ります」「こちらで新商品のご案内をしております」のどれか一文を言ってみます。声量を意識せず、息の速さだけを保つことに集中してください。

一回目は普段の話し方で録音します。二回目は、息を吐き切ってから話し始め、速さだけを保ったまま同じ一文を言います。三回目は、声量を少し落としてでも息のスピードを優先して言ってみます。この三回を聞き比べると、声の大きさを変えていないのに輪郭が変わっていることに気づきやすくなります。

広い場所で声が枯れる人は、たいてい息より先に喉を使っています

倉庫やグラウンドで一日じゅう声をかけ続けたあと、喉がガラガラになる人がいます。これは声を出す量が多いからではなく、息のスピードを上げる代わりに喉を締めて音量を稼いでいることがほとんどです。

長時間声を出しても枯れにくくする感覚として、私がよく伝えるのは、横隔膜のあたりをスライムのように前へ細くつまみ出すイメージです。このつまむ感覚を、声を出しているときだけでなく、息を吸うときにも保っておきます。吐くときだけ支えて吸うときに抜けてしまうと、次の一声でまた喉に頼ることになり、フォークリフトの往来を見張りながらの声かけや、練習中に何度も繰り返す指示出しでは、あっという間に喉が疲れてしまいます。

立つ位置と体の向きも、届く距離に関わります

同じ息のスピードで声を出していても、体の向きひとつで届き方は変わります。倉庫の通路で横を向いたまま声をかけると、声は壁や資材にぶつかって拡散し、届けたい相手まで真っすぐに伸びていきません。グラウンドで下を向いてノートを見ながら指示を出すのも同じで、声の通り道がその場でふさがれてしまいます。

体を届けたい方向へまっすぐ向け、顎を軽く引いた状態で息を通すと、同じ息のスピードでもより遠くまで芯が残ります。展示会の呼び込みでも、通路の奥に向かって体ごと向き直ってから声をかけるだけで、雑踏の中での届き方が変わってきます。

録音でチェックするのは、輪郭が保たれているかどうかです

練習の効果を確かめるときは、録音を離れた場所で再生して聞いてみます。近くで聞くとどの言い方も似て聞こえますが、少し距離を取って再生すると、喉で押した声は輪郭がぼやけ、息のスピードを上げた声は輪郭がはっきり残ることが分かります。

見る場所は、声の大きさではありません。言葉の芯が離れた場所でも崩れずに残っているかどうか、その一点だけです。

まとめ

倉庫の奥、グラウンドの反対側、展示会場の雑踏。遠くまで声を届けたい場面はさまざまですが、共通する原因は声量不足ではなく、息のスピードが遅いまま声を出そうとしていることです。

張り上げるのではなく響かせる、後ろの一人を見るのではなく息を遠くへ向ける、肺活量より息のスピードを鍛える。この三つの見立てに沿って、実際に使う一言で練習すれば、喉を痛めずに届く声へ近づいていきます。倉庫でもグラウンドでも展示会場でも、明日また同じ声を使う予定があるなら、今日のうちに一言だけ試しておいてください。

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よくある質問

Q. 遠くまで声を届かせるには、肺活量を鍛える必要がありますか
肺活量が無関係というわけではありませんが、まず効くのは呼吸筋の筋力と息のスピードです。走り込みより先に、息を速く吐く練習のほうが実感につながりやすいです。
Q. 一番後ろの人に向かって話せば声は届きますか
後ろの一人だけを見て話そうとする意識はあまり効果的ではありません。ただし、声を遠くへ向ける方向性そのものは間違っていません。張り上げず、響かせる意識に変えてください。
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奥津ユキ
書いた人
奥津ユキ

ボイストレーナー。Snow Man、NiziUなど多くの楽曲を手がける作曲家・前迫潤哉氏が主宰するLEVETCH VOCAL SCHOOLにて、ボーカル指導の代表を務める。 何千レッスンもの現場で、歌手・社会人・表現者の声と向き合ってきました。

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