咳払いは声に悪いのか。喉を守るために見ること

咳払いが癖になっている、喉が気になる人へ。声の負担と代わりにできる整え方をまとめます。

奥津ユキ

声を出す前に、つい咳払いで喉を整えたくなる。その一回が声に悪いのかどうかが気になって、この記事にたどり着いたはずです。答えを先に言うと、たまの一回で喉が壊れることはありません。問題は、咳払いをしないと声を出せない状態が癖として固まっていくことです。

咳払いの直後に起きること

椅子に座り、二十秒間は話さずに過ごした後、「次の予定を確認します」と普通の会話の大きさで言ってみてください。一度目だけは、その直前に軽い咳払いを一回入れます。二度目は同じ二十秒を置き、咳払いをせずに同じ文を言います。文の速さ、高さ、声量、口の形、言葉の区切り、話し始める時刻は二回でそろえ、咳払い以外の動作は加えません。

比べるのは、咳払いの直後から文の途中までに生じる喉の乾き、首の前へ急に力が集まる感覚、唾を飲み込みたくなる回数です。咳払いの後だけにこれらが増すなら、咳払いは異物感を片づける動作であると同時に、次の発話へ余分な圧を持ち込むことがあります。一度目で文頭の「次」にだけ引っかかりが現れ、文の後半では消える場合も、咳払い直後の変化として扱えます。反対に二度目にも同じ乾きや飲み込みが続くなら、咳払いだけを原因と決めず、直前の環境と発話量を切り分けます。二回の間で水分を取ったり、のど飴を口に入れたりせず、咳払いの有無だけを残してください。差がなければ、別の原因として室内の乾燥、鼻からの呼吸、直前までの会話量を確認してください。咳払いで痛み、かすれ、異物感の増加が出た場合は、続けずに中止します。

すっきりするのに、負担は積み上がっています

咳払いは、左右の声帯を強くぶつけ合わせて、引っかかりを吹き飛ばそうとする動きです。一回ごとの刺激は小さくても、日に何十回も繰り返せば、粘膜への負担は静かに積み上がります。

もっと厄介なのは、体が覚えていく順番です。咳払いのあと一瞬すっきりするので、喉に違和感を覚えるたびに鳴らすようになります。ところが強く鳴らすほど喉は締まりやすくなり、締まった喉は違和感を生みやすくなる。違和感が増えれば咳払いも増える。この循環に入ると、咳払いの回数は自然に増えていきます。声に悪いかどうかの本当の分かれ目は、一回の強さより、この循環に入っているかどうかです。

自分が循環に入っているかは、簡単に見分けられます。咳払いのあと、何分もしないうちにまた鳴らしたくなるなら、引っかかりの原因は取れていません。取れないものを取ろうとして、刺激だけを重ねている状態です。その一回はもう、喉を整える動作ではなく、喉を鳴らす癖になっています。

咳払いしたくなる喉では、三つが重なっています

鳴らしたくなる瞬間の喉を観察すると、たいてい三つの条件が重なっています。

一つは乾きです。乾いた粘膜は些細な引っかかりを感じやすく、水分を取らないまま話し続けるほど、鳴らしたい衝動は増えます。手元に飲み物を置き、喉が渇いたと感じる前に少しずつ口に含む習慣があるだけで、鳴らしたくなる回数は目に見えて減ります。もう一つは締めすぎです。声を張ろう、はっきり出そうとして喉の奥で力むほど、異物感に似た感覚が生まれます。最後は息の止まりです。話す直前に息が止まっていると、声が喉の力だけで立ち上がることになり、その引っかかりを整えたくて手前に咳払いを挟みたくなります。

つまり咳払いの多さは、喉の弱さの証明ではなく、乾き・締め・息のどこかが崩れているという知らせです。知らせのほうを直せば、鳴らす必要そのものが減っていきます。

発言の直前ほど、鳴らしたくなるのはなぜか

咳払いには、出やすい時間帯と場面があります。多くの人が挙げるのが、静かな場で自分が話す番が近づいてきた瞬間です。会議で発言の順番が回ってくる直前、電話をかける前、名前を呼ばれて立ち上がる時。さっきまで何ともなかった喉に、急に引っかかりを感じ始めます。

これは喉の状態が急変したのではなく、緊張で息が浅くなり、喉が締まり始めたサインです。締まった喉の感覚を、体は異物感として受け取ります。だから鳴らしても解決せず、席に戻って緊張がほどければ、あれほど気になった引っかかりもいつの間にか消えているのです。

手の打ち方は場面の手前にあります。自分の一つ前の人が話している間に、音を立てずに細い息をゆっくり吐いておく。息が動いていれば喉は締まり切らず、異物感そのものが立ち上がりにくくなります。発言直前の咳払いが減らない人は、喉ではなく、順番を待っている間の息を見てください。

鳴らさなくても声が出る状態を、三段階で作ります

咳払いを我慢するのではなく、咳払いが要らない声の始め方を体に覚えさせます。

最初は息だけです。声にせず、口を軽く開けたまま短い息を体の前へ押し出します。見るのは肩と胸で、ここが固まったままだと息は浅くなります。息が手のひらに当たる位置に手をかざしておくと、流れているかどうかを迷わず確認できます。次に、ごく小さな声を乗せます。音量は要りません。喉の奥でせき止めた感じがないかだけを確かめます。このとき、手で顎の下を軽く押さえて顎が上がらないようにしながら、腹圧をかけたまま声を出してみてください。喉のどこが締まっているのかが、具体的な場所として見つけやすくなります。

仕上げに、先ほどの一文を録音して聞き返します。息だけ、小声、言葉の三段階で、どこまで進むと喉が締まり始めるのかが分かれば、直す場所はもう特定できています。

三段階を通しても、かかる時間は二分ほどです。毎日の決まった時間に組み込むなら、朝の身支度のついでが向いています。一日の最初の声を、咳払いからではなく息から始める。それだけで、その日の喉の基準が変わります。

乳製品を避けるより、出し方を見直します

咳払いが気になる人ほど、痰が絡むからと乳製品を避けがちです。けれど私の実感では、乳製品には喉に膜を作ってガードしてくれる面もあり、それだけで声に悪いとは言い切れません。

避ける食べ物のリストを増やしていくと、ケアをしている安心感は得られますが、咳払いの原因が声の始め方にある場合、リストがどれだけ長くなっても回数は減りません。実際、食べ物にとても気を使っているのに咳払いが減らないという相談は珍しくなく、話を聞いていくと、声を出す直前の息が毎回止まっていた、というところに行き着きます。食べ物の管理はほどほどにして、乾かさないことと、息から声を始めることに力を割くほうが、鳴らさない喉には近道です。

続く違和感は、発声の工夫で抱え込まないでください

咳払いの背景には、練習で扱える癖だけでなく、体の状態が隠れていることもあります。痛みが続く、かすれが取れない、休んでも違和感が戻ってくる。こうした状態が何日も続くなら、声の出し方の工夫で乗り切ろうとせず、耳鼻咽喉科など専門家に診てもらってください。

違和感が軽い日でも、その日は声量を上げない、高い声を狙わない、長く伸ばさないと先に決めてから声を出します。守りながら確かめる日を作れることも、喉を長く使うための技術です。咳払いを我慢する日ではなく、鳴らしたくならない条件を丁寧にそろえる日、と考えると気持ちも楽になります。

一週間で、鳴らしたくなる瞬間の地図を作ります

咳払いの回数を数えて減らそうとすると、意識しすぎてかえって喉に注意が張り付きます。それより、いつ鳴らしたくなるのかを一週間だけ観察してください。

朝いちばんの声の前か。長く黙った後か。緊張する相手に話しかける直前か。乾いた部屋にいる時か。鳴らしたくなった場面を一日一つメモするだけで、自分の咳払いの地図ができます。メモは丁寧に書く必要はなく、「月曜・電話の前」くらいの走り書きで十分です。

地図ができたら、その場面にだけ手を打ちます。朝なら息の流しから始める。黙った後なら水を一口挟む。緊張の場面なら話す前の細い息をひと流し。全部を一度に直すのではなく、いちばん多い場面から一つずつ潰していきます。回数そのものは数えなくて構いません。場面が減れば、回数は勝手についてきます。

咳払いは、喉からの連絡だと考えてください

仕上げに、もう一度だけ録音します。

「喉を強く鳴らさず、水分と軽い息で状態を確認します。」

咳払いなしで、細い息だけを先に流してから。今日最初の録音と比べて、入りの硬さが少しでも減っていれば、咳払いに頼らない始め方はもう体の中にあります。

咳払いそのものは敵ではありません。乾いている、締まっている、息が止まっている——喉がそれを知らせるために鳴らしてほしがっている、と考えてください。連絡に気づいて元を整えるほど、鳴らす回数は自然に減っていきます。減った分だけ、声は一日の終わりまで軽いまま残ります。

よくある質問

Q. 咳払いを繰り返すと、話し声に影響しますか?
咳払いを繰り返すと、声の出だしを強く閉じる癖につながることがあります。私は、まず一度息を静かに吐き、必要なら小さく飲み込んでから話し始める方法を選びます。
Q. 話す直前に喉の違和感があるとき、咳払い以外にできることはありますか?
違和感があるたびに音を強く当てるより、口を閉じて鼻から静かに息を通すほうがよい場合があります。私は、最初の一語を急がず、細い息に声をそっと重ねます。
Q. 咳払いしたくなる状態や声の変化が続く場合はどうすべきですか?
頻繁に咳払いしたくなる状態、痛み、声の変化が続くときは、発声だけの問題と決めつけないでください。私は、無理に声を整えようとせず、医療機関などの専門家へ相談することを勧めます。
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奥津ユキ
書いた人
奥津ユキ

ボイストレーナー。Snow Man、NiziUなど多くの楽曲を手がける作曲家・前迫潤哉氏が主宰するLEVETCH VOCAL SCHOOLにて、ボーカル指導の代表を務める。 何千レッスンもの現場で、歌手・社会人・表現者の声と向き合ってきました。

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