発声の支えとは。お腹に力を入れる前に見る息と体

発声の支えが分からない人へ。お腹を固めるのではなく、息が流れる体の使い方を整理します。

奥津ユキ

「支えを作ってください」と言われて、お腹に力を入れて固めてしまう人がいます。けれど固めた瞬間に息の通り道は狭くなり、声はかえって喉に寄っていきます。支えとは、力で止めることではなく、吐く息が最後まで途切れずに流れ続けている状態を指します。

お腹を固めることと、支えることは別のものです

次の一文を、実際に声に出してみてください。

「お腹を固めず、吐く息を流して、声が楽に残るか確認します。」

「お腹を固めず」の入りで力んでしまうと、その時点で息は詰まります。「吐く息を流して」を急ぐと、息と声のタイミングがずれます。「声が楽に残るか確認します」まで録音で聞かないと、実際に残っているかどうかは分かりません。

奥津ユキ
奥津ユキのミニコメント

支えは、お腹を硬くすることではありません。吐く息を最後まで手放さないことです。

お腹に力を入れることが支えだと考えると、喉が代わりに頑張ります

支えという言葉から、多くの人はお腹を固く緊張させることを思い浮かべます。けれどお腹を固めるほど、息の流れる量はむしろ減り、足りなくなった分を喉が押して補おうとします。

高い声、低い声、大きい声、響く声のどれを狙う前にも、まずは楽に息が流れているかどうかを確認します。見る順番は、息、喉、体、録音です。息が止まっていないか。喉で押していないか。体、特にお腹まわりが固まっていないか。録音で聞いて同じように再現できるか。この順で見ると、練習の方向がぶれにくくなります。

支えを強くするにはお腹をしっかり固めるべきだと思われがちですが、実際は固めるほど喉が支えを肩代わりします。私が伝えている感覚は、横隔膜のあたりを前にスライムのようにそっとつまみ出し、吸う時も吐く時もその感覚を保つというものです。以前、お腹をしっかり固めて喉で支え続けた結果、声帯炎になってしまった生徒がいました。支えは硬く力むことではなく、細く流れを保つことだと捉え直すと、練習中の力みも減っていきます。

支えが感じられない原因は三つに分かれます

支えがある感覚がつかめない時、原因は一つではありません。お腹を固める癖、息が途中で止まる癖、喉で声を押す癖の三つが関わっています。

一つ目は息です。吐く息が強すぎると声は押され、弱すぎると届きません。大切なのは量ではなく、途切れずに流れているかです。二つ目は喉です。喉で結果を作ろうとすると声は硬くなります。三つ目は体です。お腹だけでなく肩や胸が固まると、息の流れそのものが浅くなります。

支えの感覚を、声を出す前から練習します

一つ目は、無声での息の練習です。声を出さず、お腹の力を抜いたまま短く吐きます。固めるのではなく、吐く息が自然に前へ流れる状態を作ります。

二つ目は、楽な音量の声です。大きく出す必要はなく、お腹が固まっていないかを確認するための小さな声です。

三つ目は、一文の録音です。発声練習だけで終わらせず、言葉に乗せた時にも支えが保たれているかを確認します。

順番練習見る場所
1力を抜いて息だけを吐くお腹や胸が固まっていないか
2楽な声を出す喉で押していないか
3一文を録音する入り、息、語尾が残るか

力が入りそうになったら、音量を下げます

声が続かないと感じるほど、お腹に力を入れて音量を上げたくなります。けれど喉で押している状態で音量を上げても、負担が増えるだけです。まずは音量を下げてください。

音量を下げると自分の癖が見えやすくなります。息が止まっているか。喉で押しているか。お腹に不要な力が入っていないか。小さい声で崩れるものは、大きい声にしても崩れます。

楽な状態で「お腹を固めず」を出せるか。次に「吐く息を流して」へつなげられるか。最後に「声が楽に残るか確認します」まで息が残るか。小さい声で確認してから、少しずつ音量を上げます。

喉を守る判断も、練習の一部です

支えの練習中に喉の違和感が出た時は、我慢して続ける必要はありません。痛みが取れない、強いかすれが残る、休んでも戻らないという状態が続くなら、その日は切り上げて専門家に相談する判断も必要です。

喉をかばうことは、練習をゆるめることとは違います。声を長く安定して使うための技術です。一回だけ強く支えようとするより、無理のない支えを何度も再現できる方が、結果として声は安定します。

録音で見るのは、支えの強さではありません

録音を聞くと、支えが弱いように感じることがあります。けれど見るべきは強さではなく、息が最後まで流れて残っているかです。

昨日より「お腹を固めず」が楽に入ったか。「吐く息を流して」で息が止まらなかったか。「声が楽に残るか確認します」まで声が残ったか。この三つだけを見ます。

支えが効いているという体感と、実際に届いている声の安定感は、必ずしも一致しません。力を入れた感覚が強いほど支えられていると錯覚しやすいため、判断は体感ではなく録音の音に委ねます。

迷った時は、練習を一つ減らします

支えを感じたい気持ちが強いほど、練習を増やしたくなります。けれど練習を増やすほど、どれが効いたのか分からなくなります。迷った時は、練習を一つ減らしてください。

今日は息だけを見る。明日はお腹の力みだけを見る。次の日は録音で語尾だけを見る。この方が変化がはっきりします。

一週間は同じ一文で様子を見ます

毎日違う練習をすると、何が変わったのか分かりにくくなります。最初の一週間は、同じ一文で十分です。

「お腹を固めず、吐く息を流して、声が楽に残るか確認します。」

この一文を毎日録音します。お腹に力を入れる日ではなく、息を見る日、体を見る日、語尾を見る日というように、日ごとに一つだけテーマを決めます。

一週間続けると、自分がどこで固まりやすいかが見えてきます。そこから練習を広げれば、無駄に長く練習しなくて済みます。

できない時は、声より前の状態を戻します

支えの感覚がつかめない時、多くの人はすぐにお腹の力を強めようとします。けれど声そのものを触る前に、状態を戻した方が安定します。

最初に見直すのは息です。息が止まった状態で声を出せば、喉が代わりに支えようとします。次に見直すのは体です。肩や顎、お腹が固まっていれば、息は流れを失います。この二つが整って初めて、声そのものを確認します。

録音では、三つの変化だけを聞きます

録音を聞く時に、全体の上手さを判断しないでください。見る場所は三つだけです。

一つ目に確認するのは出だしで、喉から声を押し出していないかを見ます。二つ目に確認するのは中盤の息で、お腹に余計な力が入って流れが乱れていないかを見ます。三つ目に確認するのは終わりで、語尾まで支えが保たれ、息が残っているかを見ます。

この三つのどこかが少しでも変われば、練習は進んでいます。

喉に張りを感じる時は、支えの練習を軽くします

喉に違和感が出たら、支えの練習をこの先も続けるべきかをまず考えてください。痛みが引かない、かすれが強いといった状態が続くなら、声を無理に出して確かめようとしないことです。

そういう日は、音量を上げず、高音も攻めません。息を流す動作だけにとどめ、短い一文を一回だけ録音します。

仕上げは、同じ一文で比べます

最後の録音は、文を変えずに行います。文をそのつど変えると、支えの変化なのか言葉の違いなのかが分からなくなるからです。

前回より楽に声が出せたか。喉に押される感覚がなかったか。最後の音まで残っていたか。この三点だけを確認します。

最後に一つだけ、同じ条件で確認します

練習の最後は、新しいことを増やさず、同じ条件で一度だけ録音します。同じ音量、同じ一文、同じ距離で録ると、声の変化が分かりやすくなります。

聞く場所は変えません。入りが喉から押されていないか、途中で息が止まっていないか、最後の音まで残っているか。この三つだけです。

同じ条件で比べると、感覚ではなく音で判断できます。支えは一回の手応えより、再現できる状態を増やすことで育ちます。

支えは、高い声や長いフレーズで特に問われます

普段の話し声では気づきにくくても、高い声を出す時や長いフレーズを歌う時には、お腹を固める癖が一気に表に出やすくなります。苦しくなった瞬間にお腹へ力を入れて乗り切ろうとすると、息の流れは逆に止まります。

高さや長さを求める前に、まず短いフレーズで支えの感覚をつかんでおくと、難しい場面でも同じ息の流れを保ちやすくなります。支えは特別な場面のための力ではなく、普段の発声の延長にあるものです。

まとめ

発声の支えを練習する時は、お腹に力を入れることだと考える前に、息、喉、体、録音の順番で見てください。「お腹を固めず」の入り、「吐く息を流して」の息、「声が楽に残るか確認します」の録音確認を整えるだけでも、支えの感覚は変わります。

支えを作ることは、喉で頑張ることではありません。吐く息を最後まで手放さない体の使い方を、練習で残していくことです。

よくある質問

Q. 支え 発声では何から始めるべきですか
最初は声量や高音より、息が止まっていないか、喉で押していないか、録音で再現できるかを確認してください。
Q. 毎日練習した方がいいですか
短い練習を続けるのは有効です。ただし喉に痛みや強い違和感がある日は無理に続けず、練習量を落としてください。
Q. 録音は必要ですか
必要です。自分の中で聞こえる声と相手に届く声は違うため、録音で入り、息、語尾を確認します。
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奥津ユキ
書いた人
奥津ユキ

ボイストレーナー。Snow Man、NiziUなど多くの楽曲を手がける作曲家・前迫潤哉氏が主宰するLEVETCH VOCAL SCHOOLにて、ボーカル指導の代表を務める。 何千レッスンもの現場で、歌手・社会人・表現者の声と向き合ってきました。

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