腹圧呼吸とは。腹式呼吸で声が通らない人に必要な体の使い方

腹圧呼吸とは何か、腹式呼吸との違い、横隔膜をつまむ感覚、声を通すための息の使い方を、奥津ユキの視点で解説します。

奥津ユキ

腹圧呼吸で声が崩れる人の多くは、お腹をどれだけ動かせているかより先に、横隔膜のあたりに圧をかけ続けられているかで差がついています。声質や性格の問題ではなく、ひとつの発話の中で圧・喉・体・語尾のどこかが抜けているだけです。まずは録音で、自分がどこで圧を手放しているかを確かめてみてください。

スマホ録音1回で、圧が抜ける瞬間を確かめます

次の一文を、スマホのボイスメモで一度録音してください。

「お電話ありがとうございます。ただいま担当におつなぎいたします」

録り終えたら、聞き直す場所は三つだけです。出だしの「お電話」がしっかり入っているか。「担当」の手前にわずかな間があるか。「いたします」の語尾まで息が保たれているか。次に、横隔膜のあたりを軽くつまんだ感覚を保ったまま、同じ一文をもう一度録ってみてください。二回を聞き比べると、圧が保たれていた場所と抜けていた場所の差がはっきり分かります。一回目で語尾が消えていた「いたします」が、二回目でしっかり残っていれば、直すべきは声量ではなく圧の残し方だったと分かります。

録音の自分に驚くのは、声が悪いからではありません

録音した自分の声を初めて聞くと、多くの人が戸惑います。これは声質の問題ではなく、自分の中では骨を伝って低く響いている声と、空気を伝って相手に届いている声とでは、伝わり方そのものが違うからです。実際には、自分で思っているよりわずかに高い声を出していることがほとんどです。ここで声そのものを嫌いになる必要はありません。録音は嫌な声を採点するための道具ではなく、圧が保たれていた場所と抜けた場所を分けて聞くための道具です。自分の声を嫌ったまま練習をやめてしまう人を何人も見てきましたが、原因の多くは声質ではなく、この骨伝導のずれを知らなかっただけです。何度か聞き返しているうちに耳のほうが慣れてきて、声を無理に作り直したいという気持ちも自然と減っていきます。慣れてきたら、好き嫌いの判断はいったん脇に置いて、出だしの音・重要語の手前の間・語尾・圧が抜ける瞬間の四点だけに絞って聞き直してください。評価するための録音ではなく、体の使い方を確かめるための録音だと思うと、続けやすくなります。

圧はどこで抜けているか

腹圧呼吸で声が沈む原因は、ひとつだけであることは少なく、たいてい三つが重なっています。話し始める前に横隔膜の圧をゆるめてしまうこと。重要な言葉の手前で息を吸い直そうとして圧を抜いてしまうこと。言い終えた安心感で語尾の圧を先に手放してしまうこと。このどれかが起きると、聞き手には最初の一音が届かなかったり、大事な言葉が流れたり、自信のなさそうな締めに聞こえたりします。三つとも同時に起きている人も多く、その場合は出だしから直すと連鎖的に整いやすくなります。受電の場面でいえば、着信音が鳴った瞬間の緊張で息を止めてしまい、そのまま第一声を出すと出だしの圧が抜けます。相手の名前や案件名を聞き取ろうと意識が向くと、重要語の手前で息を吸い直す余裕がなくなります。対応が長引いて疲れが出ると、語尾の圧を先に手放してしまいます。気合いや根性の問題ではなく、体を使う順番の問題です。

横隔膜をつまむ感覚——腹式呼吸との違い

腹圧呼吸は、お腹を膨らませたりへこませたりする腹式呼吸とは前提が違います。お腹の動きの大きさばかりを追いかけると、喉で押した声になりやすくなります。私が生徒さんに伝えているのは、横隔膜のあたりを指でスライムを細くつまみ出すように保つという感覚です。吐くときだけでなく、息を吸うときもこの圧を抜かないことが土台になります。真面目にお腹をへこませて喉のほうで支え続けた結果、声がかすれて出しにくくなった方も見てきたので、お腹を動かす大きさより、圧を保つ意識のほうを優先してください。力を入れる場所を間違えると、頑張るほど喉のほうに負担が寄っていきます。感覚をつかむ手がかりとして、実際に横隔膜のあたりを指で軽くつまんでみてください。その状態を保ったまま息を吸って吐いてみると、お腹の見た目の動きが小さくても圧は保てることが体感できます。この感覚さえつかめれば、鏡でお腹の動きを確認しなくても、指の記憶だけで再現できるようになります。

声だけを作り直すのは逆効果です

声が弱いと感じたとき、低く作る、明るく作る、大きく張る、ゆっくり読もうとする、といった声色の作り込みに逃げたくなります。どれも一時的には変わった気がしますが、圧を保つ土台が変わっていなければ本番では元に戻ります。喉で低く作った声や、申し訳なさそうに小さくした声は、とくに語尾から先に消えていきます。電話越しに無理やり明るく作った声も同じで、相手には作り物めいた印象として伝わりがちです。クレーム対応の直後などは特に、次の一件で慌てて声を張り直そうとする人が多いのですが、それでは前の対応で抜けた圧はそのまま残ってしまいます。必要なのは作った声ではなく、圧を保ったまま最後の音まで届ける体の使い方です。

受電の一言を、一日中枯らさずに保つには

受付や問い合わせ対応で一日に何十件も電話を受ける人は、腹圧呼吸の差がいちばん出やすい立場にいます。相手の口調が穏やかな日もあれば、急いでいたり不満げだったりする日もあり、そのたびに声のトーンを合わせようとするだけでも喉には負担がかかります。先ほどの一文を件数分繰り返すうち、喉で押して声を出す癖がつくと、夕方には声がかすれて出づらくなります。長時間の勤務で声が枯れる人のほとんどは、声量ではなく喉の締めすぎが原因です。試しに、朝一番に出社してすぐの録音と、午後の対応が続いたあとの録音を聞き比べてみてください。声量はさほど変わらなくても、語尾の残り方に差が出ていることが多いはずです。受話器を取る直前に、横隔膜のあたりをつまんだ感覚を一度作ってから話し始める。これだけで、同じ件数をこなしても喉に残る負担が変わってきます。声を張って乗り切ろうとするより、圧を保つ一呼吸を挟むほうが、最後の一件まで同じ声で対応できます。

本番30秒前の整え方

電話が鳴ってから受話器を取るまでの数秒でも、整える時間は作れます。口を閉じて息を一度吐き切り、肩を上げずに短く息を入れ、声には出さず「お電話ありがとうございます」と口の形だけをなぞってから、実際の声で応答します。もし話している途中で圧が抜けたと感じたら、無理に全部を直そうとせず、その一文を短く区切り、語尾だけは最後まで置いてください。次の話に移る前の一拍は、黙り込む時間ではなく、相手が言葉を受け取るための時間だと考えてください。慣れないうちは、電話が鳴った瞬間に反射で出るのではなく、ワンコール分だけこの手順を挟む余裕を持つとやりやすくなります。何件も対応が続いて余裕がない日ほど、この数秒を省きたくなりますが、省いた分は必ず語尾の弱さとして相手に伝わります。

次に受話器を取る前の一呼吸から、試してみてください

腹圧呼吸を身につけるというのは、声質を作り替えることではありません。今日何十件目の電話であっても、最初の一音と最後の語尾に同じだけの圧を残せるようにすることです。体の点検はお腹だけでは足りません。足裏が床にしっかりついているか。ここが浮くと圧も一緒に抜けます。胸は資料や画面へ意識が向くと縮こまりがちで、閉じた状態では声が前へ抜けにくくなります。顎と首は、顎が前へ出たり首の前側がこわばったりすると、出だしの音を喉だけで押し出す形になりやすいので注意します。この三か所も合わせて見直すと、横隔膜の圧はさらに保ちやすくなります。腹圧呼吸さえ鍛えれば声の悩みはほとんど解決すると思われがちですが、実際には腹圧をかけ続けられていることに加えて、喉のほうは逆に力を抜けているかどうかも問われます。両方がそろって、初めて長時間の対応に耐える土台になります。次に受話器を取る前の一呼吸から、試してみてください。

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腹圧呼吸のほかにも、声の届き方を見直したい人は次も参考にしてください。

よくある質問

Q. 腹圧呼吸は腹式呼吸と何が違いますか
腹式呼吸はお腹を膨らませたりへこませたりする動きとして教わることが多いですが、腹圧呼吸はお腹に圧をかけたまま息を使う考え方です。
Q. 腹圧呼吸は話し声にも使えますか
使えます。会議、プレゼン、オンライン会議などの話し声でも、喉で押さずに息を安定させる土台になります。
Q. 腹圧呼吸は何から練習すればいいですか
まずはお腹を大きく動かさずに息を吸い、横隔膜をつまむ感覚を保ったまま短い声を出す練習から始めてください。
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奥津ユキ
書いた人
奥津ユキ

ボイストレーナー。Snow Man、NiziUなど多くの楽曲を手がける作曲家・前迫潤哉氏が主宰するLEVETCH VOCAL SCHOOLにて、ボーカル指導の代表を務める。 何千レッスンもの現場で、歌手・社会人・表現者の声と向き合ってきました。

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