腹式呼吸だけで声は変わるのか。ボイトレで本当に見るべき呼吸

腹式呼吸を練習しても声が変わらない人へ。お腹を動かすことより、息の流れと声への乗せ方を整理します。

奥津ユキ

毎日腹式呼吸を練習しているのに声の印象が変わらない、という相談をよく受けます。原因の多くは、お腹の動く幅にばかり気を取られ、吐いた息の上に声がきちんと乗っているかを見落としていることです。まずは60秒でできる実験から確かめてみます。

60秒の実験。お腹より先に、息と声の接点を探ります

スマホの録音アプリを開き、次の一文をそのまま声に出してください。

「お腹を動かすことより、吐く息に声を乗せる感覚を確認します。」

録れたら聞き直します。見るのは三か所だけです。「お腹を動かすことより」の入りが硬くないか。「吐く息に声を乗せる」の途中で息が止まっていないか。「感覚を確認します」まで語尾の音が残っているか。ここで一つでも引っかかれば、原因はお腹の動かし方ではなく、息と声のつながり方にあります。

奥津ユキ
奥津ユキのミニコメント

腹式呼吸ができれば声は変わる、というのは半分しか合っていません。息のスピードと、その息に声が乗るタイミングまで含めて初めて、出し方は変わっていきます。

「できれば変わる」という思い込みを外します

腹式呼吸さえできれば声が自然に変わると考えると、練習は空回りしやすくなります。変えたい気持ちが強いほど、いきなり難しい練習に手を伸ばしたくなるからです。

「お腹を膨らませて」「喉を開けて」という指導は、昔から声のレッスンでよく使われてきた言い回しです。ただ、体の構造から見るとこの言い方はやや大ざっぱで、そのまま真に受けて喉ぼとけを下げるように力を入れてしまうと、かえって喉が締まり、声帯がたわんで高い声が出にくくなることがあります。感覚的な言い回しをそのまま体の動かし方として受け取ってしまうと、遠回りになりやすいところです。

声が小さい、通らないのは腹式呼吸ができていないからだ、とよく言われます。ですが私の実感では、腹式呼吸そのものよりも、腹圧のかけ方と息のスピード、呼吸筋がどれだけ使えているかの方が本質に近いです。お腹をどれだけ大きく動かせたかではなく、軽い圧を常にかけ続けられているか、吐くときだけでなく吸う瞬間にもその圧を抜いていないかを見ます。実際、お腹を目一杯へこませることを真面目にやり込みすぎて、最後は喉で支え続けてしまい、声帯を痛めてしまった生徒さんもいました。お腹の動きの大きさを競うより、圧を淡々と保ち続けることの方が、声にとってはずっと安全です。

けれど、声は力任せに押し出せば鍛えられるというものではありません。喉に頼った出し方を繰り返すほど、かえってその出し方が定着してしまいます。

見る順番は、息、喉、体、録音の四つです。息が止まっていないか。喉で押していないか。体がこわばっていないか。録音で聞いて同じように再現できるか。この順で見ていくと、練習の方向がぶれにくくなります。

息のスピードは、自転車と同じです

腹圧の次に見てほしいのが、息のスピードです。ここでたとえるなら、自転車がいちばん近いと思います。自転車はゆっくり漕ぐとふらついて倒れますが、ある程度スピードが出ると、逆に安定して自走できます。息もこれと同じで、ゆっくり細く吐こうとするほど声は不安定になり、喉で支えようとして力みが生まれます。

声が小さいと感じている人に「もっと大きい声で」と伝えると、たいてい喉で押した声になってしまいます。ところが「息のスピードを上げてください」「最後まで吐き切ってください」と伝えるだけで、声量は自然と上がっていくことが多いです。お腹の動く幅を気にする前に、吐く息そのものの速さに意識を向けてみてください。

基本練習は、三段階に分けるほど変化に気づけます

最初から長く練習する必要はありません。むしろ短く分けたほうが、声の変化には気づきやすくなります。

一段階目は息だけです。声を出さずに短く吐きます。吸うことよりも、吐く流れを先に作ります。

二段階目は、楽に出る声です。大きくも高くもしません。喉が押されていない状態で、短く声を出します。

三段階目は言葉です。吐く息が始まってから、その上に楽な音量で声を乗せます。息だけではできても、言葉になると喉で押してしまう人がいるためです。

段階やること確認する内容
一段階目息だけを吐く体に余計な力が入っていないか
二段階目楽な音量で声にする喉のあたりが締まっていないか
三段階目一文として録音する入り・息・語尾がそろって残っているか

喉に違和感がある日は、負荷を下げます

早く変えたい気持ちが強いほど、毎日全力で取り組みたくなります。けれど喉に違和感を抱えたまま強度を上げ続けると、それは練習ではなく負担の積み重ねになってしまいます。

痛みを感じる、かすれが目立つ、休んでも戻りきらない。こうした状態が続くようであれば、無理を重ねずに立ち止まってください。必要であれば専門家の判断を仰ぐことも選択肢のひとつです。

軽めに切り替える日は、音量を上げようとせず、息をひとつ通してから、小さな声のまま一文だけを録音します。鍛えることと、体調を無視して押し通すことは、まったく別の話です。

喉をいたわることは、練習をさぼることとは違います。長く声を使い続けるための技術のひとつです。一度だけ強い声を出せることよりも、必要なときに安定した声を出せることのほうに価値があります。

停滞したら、文の長さを疑います

声が安定しないとき、練習を難しくする必要はありません。むしろ文を短くします。一文が長いほど息は不足しやすく、喉で補おうとしがちになるからです。

最初は短い一文で十分です。短い文で楽に出せる感覚が増えてから、少しずつ長い文へ広げていきます。

一週間は日替わりで練習を変えず、月曜は呼吸、火曜は喉、水曜は語尾というふうに、一日につきひとつの観察点だけを決めて、最初の一文を録音し続けてください。傾向がつかめてから幅を広げれば、遠回りになりません。

お腹を動かすより、息を止めないことを優先します

腹式呼吸を意識しすぎると、お腹を動かすこと自体が目的になりやすいです。ただ、声にとって必要なのは見た目のお腹の動きではなく、息が止まらずに流れることです。

お腹を膨らませようとして体がこわばるなら、その練習は声にはつながりにくくなります。体を固めず、吐く息が前へ流れ、その上に声が乗るかどうかを見ます。

「お腹を使う」と考えるより、「息を止めない」と考えるほうが、最初は分かりやすいはずです。息が止まらなければ、声は喉だけに集まりにくくなります。

歌の発声練習だけを繰り返して満足してしまうと、実際に言葉を話す場面での声には結びつきません。音階や母音だけの練習と、意味のある一文を声にする練習は別物として扱う必要があります。まず短く吐く息だけを確認し、次にその息の上に楽な音量で声を乗せ、最後に一文として声に出す。この三段階を飛ばさずに踏むことで、練習が実際の話し声までつながります。

最終確認。同じ一文で、初日との差分だけを聞きます

七日間続けたら、最初と同じ一文をもう一度録音してください。

「お腹を動かすことより、吐く息に声を乗せる感覚を確認します。」

聞くときはうまさを採点しません。「お腹を動かすことより」の入りが最初より楽になったか。「吐く息に声を乗せる」の途中で息が止まらなくなったか。「感覚を確認します」まで語尾が残るようになったか。この三点の変化だけを見ます。

自分の声を録音で聞くと、違和感を覚えることがあります。ただ、その違和感こそが練習の入り口です。自分の中で聞こえる声と、外に届く声は別物であり、外に届くほうを整えるには録音での確認が欠かせません。

腹式呼吸で声が変わる人と変わらない人の違い

声が変わる人は、呼吸を声へつなげています。声が変わらない人は、呼吸練習と発声が分かれたままになっています。

お腹を動かす練習だけをしても、話す瞬間に息が止まれば声は変わりません。反対に、お腹の動きが大きくなくても、吐く息に声が乗れば、声の出し方は変わっていきます。

見るべきなのは形ではなくつながりです。息が始まる。声が乗る。言葉が最後まで続く。腹式呼吸は発声練習の中だけで完結させず、必ず短い一文の声までつなげて終えてください。

腹式呼吸に取り組む際は、いきなり難易度の高い練習に進む必要はありません。呼吸を流すこと。喉に頼らないこと。体をこわばらせないこと。録音で振り返ること。この積み重ねを、今日の一文から始めてください。

よくある質問

Q. 腹式呼吸 ボイトレでは何から始めるべきですか
最初は声量や高音より、息が止まっていないか、喉で押していないか、録音で再現できるかを確認してください。
Q. 毎日練習した方がいいですか
短い練習を続けるのは有効です。ただし喉に痛みや強い違和感がある日は無理に続けず、練習量を落としてください。
Q. 録音は必要ですか
必要です。自分の中で聞こえる声と相手に届く声は違うため、録音で入り、息、語尾を確認します。
無料動画講座

声が変わると、人生が変わる。

通る声、落ち着いた声、人を惹きつける声は、生まれつきだけで決まるものではありません。第一声・息・喉・体の使い方を整えることで、人前で話すたびに「この人は違う」と伝わる声はつくれます。無料動画講座では、声量に頼らず、印象・説得力・存在感が変わる声の整え方をお送りします。

登録後、無料動画講座をメールでお送りします。配信停止はいつでも可能です。

奥津ユキ
書いた人
奥津ユキ

ボイストレーナー。Snow Man、NiziUなど多くの楽曲を手がける作曲家・前迫潤哉氏が主宰するLEVETCH VOCAL SCHOOLにて、ボーカル指導の代表を務める。 何千レッスンもの現場で、歌手・社会人・表現者の声と向き合ってきました。

詳しいプロフィール →
関連記事