·歌の声

歌に自信がない人へ。声を責めず録音で整える練習

歌に自信がなく声が小さくなる人へ。自信の有無ではなく、どこが崩れているかを言葉にできるかで整えます。

奥津ユキ

立ったまま、腕を体の横に下ろして「ラー」と一度だけ無理のない高さで伸ばしてみてください。次に、音の高さも長さも変えず、片方の手のひらをみぞおちの少し下に軽く当ててから同じ音を二度目に伸ばしてみてください。あご、肩、息の減り方に差が出たなら、その動きを歌の崩れを言葉にする手がかりにしてください。差が出なければ、手を当てることではなく、音程の移動、歌詞の子音、立つ位置など別の原因を確かめてください。

自信は歌う前に作るものではない

歌に自信がないとき、「堂々と歌えれば声は安定する」と考えやすいものです。しかし、歌っている最中に起こる崩れを自信の不足だけで説明すると、次に何を変えるかが見えなくなります。音程が不安定になる、息が途中で足りなくなる、声が細くなる、言葉が急ぐといった出来事には、起きる場所があります。自信があるかどうかより、どこで何が起きているかを言葉にできるかが、練習の出発点になります。

自信は、失敗を一度も経験しないことから生まれるわけではありません。崩れたときに、何が崩れたのかを一つ言えることから生まれます。「下手だった」で終わると、次回も同じ不安が残ります。「サビの最初の高い音の前であごが上がった」「二番の言葉が速くなって息が早くなくなった」と分けられれば、次に試す操作を選べます。歌への自信は、評価の高さより、失敗を扱える具体性に支えられます。

私がこの場面でまず確認したいのは、歌い終えた後に一つの場所を指せるかです。曲全体を「良かった」「悪かった」と判定する前に、最初の一音、音が上がる直前、フレーズの終わり、子音が続く箇所などを選びます。全曲を一度に整えようとしないことが、歌に向き合う自信を失わないための前提です。

崩れる場所に短い名前を付ける

歌の崩れを言葉にするとき、専門用語を急いで覚える必要はありません。自分が次回も同じ場所を指せる短い名前を付ければ十分です。「サビの入口」「高くなる前」「二番の早い言葉」「伸ばす音の終わり」といった呼び方で構いません。名前があると、練習の対象が曲全体から一箇所に縮まります。自信が揺らぐのは、問題が大きすぎて見えるときです。場所を小さくすると、試すことも小さくできます。

名前を付けたら、その場所の直前と直後も見ます。高い音で苦しくなるなら、高い音そのものだけではなく、その直前に息を急いでいないか、あごが動いていないか、歌詞の子音で口が閉じすぎていないかを確かめます。崩れは目立つ地点に現れても、始まりは少し前にあることがあります。短い名前は、原因を決めつけるためではなく、観察する範囲を決めるために使います。

一曲に崩れる場所がいくつもあるなら、優先順位を付けてください。最も目立つ場所ではなく、最も再現しやすい場所を先に選ぶと、変化を判定しやすくなります。毎回同じサビの入口で崩れるなら、そこから始められます。日によって違う場所が気になるなら、曲の長さ、疲れ、音量など別の条件が働いているかもしれません。名前を付けることで、漠然とした不安を観察の単位に変えます。

音程の前に入る直前を観察する

高い音や跳躍で不安になると、音程を当てることだけに注意が集まります。しかし、音に入る直前に息が止まる、あごが上がる、肩が固まるといった動きがあるなら、音程の問題だけとして扱うと変化が読めません。まずは目的の音を歌う前の一瞬を観察してください。外から見える動きが一つ見つかれば、音を強く押し上げる前に試せる操作ができます。

試す操作は一つで十分です。例えば、跳躍の前で足裏を床につけ直す、歌詞の前の子音を急がずに置く、あごを動かさずに入れるために鏡で位置を確認する、といった形です。音程、音量、表情、呼吸を同時に変えると、歌えた理由が残りません。自信を増やすには、偶然うまくいった一回ではなく、どの操作で入りが変わったかを知る必要があります。

入る直前に何も変化が見つからない場合は、音程の移動そのものではなく、前のフレーズの長さや言葉の速さを比べます。短い前置きから入るときと、長い歌詞の後から入るときで差があるなら、見るべきものは高音ではなく前の消耗かもしれません。差が出なければ、同じ操作を続けて信じ込まず、別の原因へ進んでください。歌の不安を、一つの原因に押し込めないことが大切です。次の一回で見る場所が残ります。

歌詞の子音が続く場所を切り分ける

音程は合っているのに歌いにくい場所では、歌詞の子音が続いて口やあごの動きが忙しくなっていることがあります。速い言葉、同じ子音の繰り返し、口を閉じる音が続く箇所では、息や音程だけを調整しても苦しさが残る場合があります。そのときは、問題のフレーズを歌詞だけでゆっくり言い、どの文字で口が閉じるか、あごが前へ出るかを見ます。歌に入る前に言葉の動きを分けることで、崩れの入口を探せます。

次に、同じフレーズを無理のない小ささで歌い、言葉が続く場所だけに注意を向けます。速さを遅くする、音量を小さくする、口を必要以上に大きく動かさないなど、変える操作は一つだけにします。歌詞を明瞭にしようとして全ての子音を強くすると、かえって次の母音へつながりにくくなることがあります。ここでの目的は発音を完璧にすることではなく、どの文字から音の流れが崩れるかを見つけることです。

言葉をゆっくり言っても崩れが出ないなら、子音は中心の原因ではないかもしれません。フレーズの長さ、前の音の高さ、息を入れる位置など別の条件へ進みます。歌いにくい理由を「滑舌が悪い」と広く決めず、どの場所でどんな動きが増えるかを言葉にしてください。自信は、歌詞を責めずに扱えるようになったときにも育ちます。

フレーズの終わりを押し切らない

フレーズの終わりで声が細くなると、最後の音だけを強く出して埋めたくなります。しかし、終わりで起こる崩れは、最後の音そのものより、前半で息や力を使い過ぎた結果であることがあります。終わりを押し切る前に、フレーズの中ほどで何が起きているかを確認してください。前半から音量が上がり続けている、子音を強く置きすぎる、姿勢が前へ寄るといった動きがあれば、終わりだけを直そうとしても戻りやすくなります。

試すなら、フレーズを前半と後半に分けて歌います。前半だけでは安定するのか、後半だけなら楽に出るのかを比べると、長さが条件かどうかが分かります。変えるのはフレーズの長さだけにし、音の高さや音量を同時に変えないでください。前半では問題がなく、つないだときだけ終わりが崩れるなら、途中で使う息や力の配分を見直す理由ができます。

終わりを保てない日があっても、それを自信の欠如と結びつけないでください。どこから細くなるか、前半と後半のどちらで変わるかが分かれば、次に試す手順があります。差がなければ、長さよりも音程の移動や歌詞の条件を見ます。最後まで出し切ることを目標にする前に、崩れが始まる場所を小さく探してください。

小さく歌っても残る崩れを選ぶ

自信をつけようとして、最初から本番に近い音量や感情で歌うと、複数の要素が重なり、崩れの理由が見えにくくなります。まずは無理のない小ささで、同じ一節を歌います。それでも残る崩れは、音量の問題だけではない可能性があります。反対に小さくすると安定するなら、大きさを保つ条件を後で分けられます。小さく歌うことは、弱い歌に慣れるためではなく、観察できる状態を作るためです。

小さく歌うときは、音を消え入りそうにする必要はありません。普段の会話に近い出し方で、フレーズの入り、途中、終わりのどこが変わるかを見ます。歌う前に決めるのは一つだけです。「跳躍の直前のあご」「サビの終わりの息」「速い歌詞で口が閉じる位置」など、観察点を絞ります。全ての音程や表現を採点し始めると、小さく歌っても不安は減りません。

小さい声でも痛み、強いかすれ、違和感が出る場合は、練習で無理に原因を探り続けないでください。喉の痛みや声枯れが続く場合は耳鼻咽喉科を受診してください。安全を確認することは、歌に自信を持つことと矛盾しません。声の状態を守れる範囲で試すからこそ、結果を落ち着いて見られます。

小さく歌った後は、崩れた箇所から戻る手順を一つ用意します。歌の途中で崩れたときに、直後の音まで焦って修正しようとすると、曲全体が不安定になりやすくなります。そこで、崩れた後に戻る手順を一つ用意します。次の息継ぎで一度口を閉じる、次のフレーズを小さく始める、足裏を床につけ直すなど、外から確認できる操作を選びます。自信がある人は崩れない人ではなく、崩れた後に次の音へ戻る場所を持てる人です。

戻る手順は、失敗を隠すためのものではありません。崩れを連鎖させないための境目です。例えば高い音で押してしまった後、次のフレーズまで同じ強さで歌い続けるのではなく、次の息継ぎまで待ってから小さく入り直します。このとき、音程を直そう、表情を作ろう、息を深くしようと同時に行わないでください。一つの操作にすることで、戻れた理由を確かめられます。

戻る手順を試しても次のフレーズが変わらないなら、その操作は今の崩れに合っていないかもしれません。同じ手順を増やすより、崩れた直前の動きやフレーズの長さに戻って確認します。うまく歌えなかった一回を消そうとしないことが重要です。何が起きて、どこから次を整えられるかが分かれば、失敗は次回の地図になります。

一曲を三つの観察単位にする

一曲を丸ごと「できた」「できない」で扱うと、歌に自信を持ちにくくなります。曲を、入り、最も崩れやすい箇所、終わりの三つに分けてください。入りでは最初の音の前に何が起きるか、崩れやすい箇所では直前の動きは何か、終わりでは押し切ろうとしていないかを見ます。三つに分けるだけで、練習後に残す言葉が具体的になります。入りと終わりを混ぜずに比べられるためです。

次の練習では、この三つのうち一つだけを対象にします。サビの入口を選ぶなら、曲全体を何度も歌うより、入口の前後だけを少量試します。変える操作も一つにします。足裏を置き直す、子音を急がない、前半と後半を分ける、といった操作です。歌い切る回数を増やすことは、崩れの位置が分かってからでも遅くありません。

自信の有無を毎回問う必要はありません。「今日はサビの入口であごが上がった」「小さく歌うと終わりまで残った」と言葉にできれば、次の一回を選べます。歌への自信は、良い評価を待つものではなく、自分の崩れを具体的に扱える回数から生まれます。曲を小さな観察単位に分け、崩れを責めず、次に動かす一つを決めてください。その積み重ねが、歌う場面で戻れる感覚につながります。

よくある質問

Q. 歌声を録音で聞くと嫌になり、自信がなくなるのは普通ですか?
普通に起こります。自分が普段聞く声には骨伝導の響きが混ざるため、録音の空気を通った声との差に驚きやすいからです。私は好き嫌いの判定より、音程と息の流れを分けて確認します。
Q. 自信がない歌の録音は、何を基準に聞けばよいですか?
一度に声質、感情、音程を採点すると、欠点ばかりが大きく聞こえます。私は一回目はリズム、二回目は語尾の息、三回目は音の高さのように、確認する項目を一つに絞ります。
Q. 歌で失敗した一音を何度も責めてしまうときは、どう整えますか?
一音の失敗だけを繰り返すと、喉を守ろうとしてさらに縮こまりやすくなります。私は失敗した音の前後を含めて短く歌い、どこで息や高さが変わったかを録音で事実として捉え直します。
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奥津ユキ
書いた人
奥津ユキ

ボイストレーナー。Snow Man、NiziUなど多くの楽曲を手がける作曲家・前迫潤哉氏が主宰するLEVETCH VOCAL SCHOOLにて、ボーカル指導の代表を務める。 何千レッスンもの現場で、歌手・社会人・表現者の声と向き合ってきました。

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