·歌の声

音階練習のやり方。音程だけを追わないボイトレの見方

音階練習をしても声が変わらない人へ。音を当てる練習ではなく、隣の音へ移る瞬間の変化を見る練習です。

奥津ユキ

楽に出せる高さで「ドレミ」を二回声にしてみてください。一度目は普段どおりに出し、二度目は下あごに人差し指を軽く添え、あご先が指から大きく離れない範囲で同じ速さにしてみてください。ドからレ、レからミへ移る瞬間にあご先が動いた回数と、息が途切れた回数で一度目と二度目の違いを比べてください。差が出なければ、あごではなく、舌の奥が各音で引き直されていることが別の原因です。

音階は到着点より移る瞬間を見る

音階練習をすると、正しい高さに当たったかどうかへ注意が集まりやすくなります。けれども、声の出し方を整えるための音階では、ド、レ、ミの各音を別々に成功させることが主目的ではありません。重要なのは、隣の音へ移るあいだに何が変わったかです。ドからレへ上がるとき、あごが下がる、舌が奥へ引かれる、息が急に強くなる、首が前へ出る。こうした変化があると、到着したレの高さが合っていても、次のミで条件は崩れます。音階は、その変化を短い距離で見つけるための道具です。

一音ずつ止めて正確に出せても、つなげた途端に声が細くなるなら、問題は音程の知識ではなく移行の動きにあります。私がこの場面でまず確認したいのは、音が変わった瞬間に、どこかを新しく作り直していないかです。上がるたびに口を開け直す、下がるたびに息を足すと、各音は独立します。音階の練習では、前の音で作った形を次の音へどこまで持ち運べるかを確かめます。音の高さは変わっても、足幅、首の向き、口の基本形まで変える必要はありません。移る瞬間を観察できるようになると、外れた音を追う練習から、変化の起点を直す練習へ変わります。

移る瞬間を見るためには、音を急いで並べないことも必要です。少しゆっくりした速さで二音をつなぎ、どちらの終わりで形が変わったかを区別します。各音を正解か不正解かで終わらせず、次の音へ何を持ち越せたかで見ると、音階の役割が変わります。

隣の音へ行く前の動きを小さくする

隣の音へ上がる前に、体が先回りして動くことがあります。レへ行く前にあごを下げる、ミへ行く前に胸を持ち上げる、ファへ行く前に息を強く吸い直す。この先回りは、高さを助けようとして起こりますが、声の条件を大きく変えます。移行を滑らかにするには、次の音を作る動きを小さくします。ドを出している間に、あご、首、口の形が安定しているかを見て、その形のままレへ進みます。高さだけが動くのに、周辺の形まで動く必要はありません。

練習では、「ドレ」だけを一秒ずつつなげます。ドの終わりとレの始まりの間で、下あごが一度下がって戻るなら、二音の距離に対して動きが大きすぎます。指をあご先に軽く添える方法は、その動きを止めるためでなく、動いたことを知るために使います。次は「レミ」に替え、同じ動きがどの区間で現れるかを見ます。すべての区間で同じ修正をしないことが大切です。ドレでは安定するのにレミで崩れるなら、レの高さで既に形が変わっている可能性があります。隣の音への移行を分けて扱うと、音階全体をぼんやり繰り返さずに済みます。

先回りの動きが見つかったら、次の音を低くしたり高くしたりして消そうとはしません。前の音を保つ時間を少し増やし、その形のまま次へ進みます。移行の幅を小さくする練習では、派手な変化より、同じ形が途切れず残ったことを成果にします。

あごの位置を高さごとに作り直さない

音が上がると、あごを下げて口の奥を広げたくなることがあります。下がると、反対にあごを引いて出口を狭くしたくなることがあります。この往復が大きいと、各音の母音が別の形になり、響きも息の流れも切れます。あごは全く動かない部位ではありませんが、隣り合う音ごとに新しい位置を作る必要はありません。基本の位置を保ち、言葉を発音するために必要な小さな動きだけを許します。音程を合わせるためのあごの移動を減らすことが目的です。

「イ」で三音を上がると、あごの動きは見つけやすくなります。口角を極端に引かず、上下の歯の間を少し残したまま「イーイーイー」と三音で進みます。各音の間であごが下へ落ちたなら、高い音そのものではなく、移る前の準備が大きかったと考えます。次は音量を変えず、あご先だけを同じ高さに保つ範囲で行います。形が安定すると、音の高さが不安定に感じることもありますが、それは今まであごの動きで補っていた部分が見えるためです。高さを無理に押し上げず、移行の形をそろえる時間を取ることが必要です。

あごの位置が保てたかは、音の高さより先に確認できます。指先を軽く添えたまま二音を行い、上下の移動が小さかったかだけを見ます。動きが減れば、音階の速度を少し上げても形は残りやすくなります。作り直さない経験を先に積みます。

舌の奥を引き直さず母音を渡す

あごが大きく動いていないのに音階が途切れるなら、舌の奥が各音で引き直されている場合があります。舌先は下の前歯の裏側近くに置いていても、音が上がるたびに奥が沈むと、口の中の通り道が変わります。音は届いていても、次の音で急に重くなるということが起こります。舌そのものを固める必要はありません。母音を変えない区間で、舌の奥を急に後ろへ引かないことが大切です。

練習は「ウー」で二音ずつ行います。唇を強くすぼめず、舌先を下の前歯の近くに置いたまま、「ドレ」「レミ」と短く上がります。区間の境目で、舌の付け根が奥へ落ちる感覚があれば、音を半分の長さにして動きを小さくします。感覚が分かりにくい場合は、首の前を指先で軽く触れ、音が変わるたびに首の表面が急に硬くならないかを確かめます。押さえ込むためではなく、奥を引き直す動きが首にも出ていないかを見るためです。隣の音へ渡る間に通り道を作り直さなければ、音階は線として聞こえやすくなります。

舌の奥の変化は見えにくいため、まず二音だけで観察します。音を伸ばし過ぎず、首の前の硬さや口の奥の急な狭まりに気付きます。変化が出た区間を小さくできれば、舌を固定するのでなく、次の音へ母音を渡す操作として扱えるようになります。

息の流れを音ごとに切り替えない

音階が階段のように切れるとき、各音の間で息も止まりかけていることがあります。次の高さへ行くために一度空気を集め直すと、音の入口が毎回新しくなり、移行の観察ができません。息は音の高さを引き上げるための押し棒ではなく、隣の音へ渡る間も続く土台です。そこで、長く一息で耐えることより、短い二音の間で流れが途切れないかを見ます。「ドレ」を二秒で出すなら、ドで使い切ってレで足すのではなく、二つの母音に同じ細さの流れを渡します。

確かめるには、口の前に手のひらを十センチほど置きます。音が変わる瞬間に手のひらへ当たる空気が急に強くなったり消えたりしないかを見ます。これは息の量を増やす練習ではありません。音ごとに押し出す癖を発見するための方法です。変化が大きければ、音の幅を狭くし、二音だけでやり直します。手のひらの感覚が安定してから、三音へ増やします。声の大きさが少し均一になるのは副次的な変化で、中心は移行の間に空気を再起動しないことです。息の流れが続くと、次の音で必要以上に首やあごを動かす理由も減ります。

息の連続が保てる範囲では、声の大きさをそろえようとしなくて構いません。高さによって少し色が変わっても、空気が毎回再開していなければ移行は続いています。まずは二音の間で一度も押し直さないことを確かめ、その後に範囲を広げます。

上行と下行を別の移行として扱う

上がる音階と下がる音階は、同じ道を逆向きに通るだけではありません。上行では次の高さを急いで作り、下行では音が落ちないように口を固めることがあります。したがって、上行であごが下がる癖と、下行で舌が奥へ引かれる癖は別に扱います。上行が不安定なら「ドレミ」だけ、下行が不安定なら「ミレド」だけを選び、どの境目で形が変わるかを見ます。両方を続けて行うと、どちらの移行が原因かが混ざります。

下行では、低い音へ行く前に息を抜き過ぎることがあります。ミからレへ下がるとき、口を閉じ気味にして空気を減らすと、レの入口が細くなります。そこで、ミで作った口の開きを急に閉じず、レへ渡してから必要な分だけ変えます。上行では、レからミへ行く前にあごを落とさないことを見ます。同じ母音を使い、音の名前を言わずに「ナー」で行うと、発音の差が減り、移行そのものを見やすくなります。方向ごとに変化を分けると、音程が外れる理由を一つずつ取り出せます。

方向を分けて練習すると、上行で使える形を下行へ無理に当てはめずに済みます。どちらが難しいかを決めるより、どの境目で何が変わるかを記録するように見ます。上と下の両方で移行が小さくなれば、往復しても声の条件を保ちやすくなります。

小さな往復で移行の癖を見つける

音階を端から端まで何度も往復すると、途中で崩れた場所が埋もれます。最初は二音の往復だけで十分です。「ドレドレ」を四回行い、レへ行くときとドへ戻るときで、あご、舌、息のどれが変わるかを見ます。次に「レミレミ」へ移ります。区間ごとに同じ変化が起きるなら、共通する原因を探せます。特定の区間だけで起きるなら、その高さに入る直前の作り直しを小さくします。音を当てる回数を増やすのではなく、隣へ渡る回数を丁寧に見る練習です。

一日の最後には、最も滑らかに渡れた二音だけで終えます。難しい高音まで進めなくても、移行の条件が一つ残れば翌日の練習へつながります。喉の痛みや声枯れ、違和感が続くときは、音階を繰り返して押し切らず耳鼻咽喉科を受診してください。音階練習は声を消耗させるための反復ではなく、隣の音で何が変わるかを観察するための短い検査です。到着点だけを追わず、移る瞬間を小さく保てるようになると、音程と声の出し方を同時に整えやすくなります。

往復の回数は多くなくて構いません。二音を四回ほど行い、動きが増え始める前に止めます。疲れてから形を保とうとすると、観察より耐える練習になってしまいます。滑らかに渡れた区間を終点にすることで、次の日も同じ条件から始められます。

よくある質問

Q. 音階練習で途中から声が裏返るとき、音程だけを追いかけるべきですか?
音程を当てようと追いかけるほど、上がる音で喉を締めることがあります。私は裏返る直前の音を小さく戻し、母音が前へ抜ける感覚を保ったまま半音ずつ上げます。届く高さより出し方を優先しましょう。
Q. ピアノに合わせると喉が締まる場合、どの母音で音階を練習しますか?
私の考えでは、「い」は口の中が狭くなり、首に力が入りやすい人がいます。まずは「う」や「お」で息の通り道を確かめ、詰まらなければ別の母音へ移ります。痛みや強いかすれが続くなら、無理をせず専門家へ相談してください。
Q. 上行と下行の音階では、声の出し方を変える必要がありますか?
上行では高音を取りにいこうとして、下行では息が抜けてしまうことが起こります。私はどちらも最初の一音と同じ腹圧を保てているかを見ます。音程の正しさだけでなく、各音の出だしと終わりの質を確認しましょう。
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奥津ユキ
書いた人
奥津ユキ

ボイストレーナー。Snow Man、NiziUなど多くの楽曲を手がける作曲家・前迫潤哉氏が主宰するLEVETCH VOCAL SCHOOLにて、ボーカル指導の代表を務める。 何千レッスンもの現場で、歌手・社会人・表現者の声と向き合ってきました。

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