·歌の声

音程が取れない原因。耳だけでなく息と声の出し方を見る

音程が取れない人へ。耳の問題だけにせず、狙った高さへ届く前に息が変わっていないかを見ます。

奥津ユキ

息を吸ったあと、口を指一本分だけ開けて「あー」を四秒出してみてください。次に、声の高さと大きさは変えず、口の開きだけを指二本分にして「あー」を四秒出してみてください。一度目と二度目で、四秒目に口から出る息が細くなる時刻と、首の前が動く量を手で比べてみてください。差が出なければ、口の開きではなく、音を聴き取る範囲や息の準備に別の原因があります。

音程の課題を耳だけに置かない

狙った音より高い、低い、途中でずれるという現象は、耳の問題として扱われがちです。もちろん、基準の音を聴き分ける力は必要です。ただし、音を認識できていても、声がその高さに届く前に息の状態が変われば、実際に出る音は外れます。高い音へ行こうとした瞬間に息を強く押す、低い音で息を止めて声を沈める、出だしだけで息を使い切る。こうした操作は、耳が選んだ高さを声へ渡す途中に別の条件を加えます。

音程を扱うときは、「正しく聞こえるか」だけでなく、「その高さへ向かう直前に体が何をしているか」を分けて見ます。私がこの場面でまず確認したいのは、音を出す前に肩が上がるか、唇が急に狭くなるか、腹部が一瞬で固まるかです。どれも外から確認できる変化であり、音程へ届く経路を変えます。歌い始めに当たりにくい場合、何度も同じ音を狙うより、音の直前に起こる息の変化を小さくするほうが、原因に近づけます。耳と声は別々に働くのではなく、息の上で結びついています。

音を出す前の息が毎回同じでなければ、同じ高さを再現する条件もそろいません。高い音だけでなく、出しやすい中間の音でも、息を強く始めたときと細く始めたときの違いを比べます。基準の高さを変えずに条件だけを分けることで、耳と発声の役割を混同せずに済みます。

高さへ届く前に息が変わる

高い音を出すとき、息を多く出せば高さへ届くと考えると、声の出だしが押されます。空気の量が急増すると、声帯は細かな調整をする前に強い圧力を受けます。その結果、音が目標を飛び越えたり、出だしだけ低くなってから上へ滑ったりします。低い音では反対に、息を減らしすぎて声が立ち上がらず、下へ落ちることがあります。必要なのは高低に応じた息の量を当てにいくことではなく、狙った高さへ入るまで息の流れを急変させないことです。

鍵盤などの基準音があれば一音を選び、声を出す前に「すー」と二秒だけ細く息を出してみてください。その流れを止めずに「あー」へ移ります。次に、同じ音で、息を止めてから「あー」を始めます。一度目と二度目で、首の前へ入る力と、音が始まるまでの時間を比べてみてください。前者のほうが出だしを作りやすければ、音程以前に息の断続が影響しています。基準音を使えない場面でも、短い息から声へ移る順序は確認できます。音の高さを追いかける前に、到達するための空気が途中で別物になっていないかを見ます。

息の流れを保つといっても、声の前に長く息を漏らす必要はありません。空気が多すぎれば、かえって出だしの高さが定まりにくくなります。短く静かな流れから声へ移り、途中で急に押さないことが要点です。高低の差を大きくする前に、この移行を小さな音で安定させます。

声の出だしを一音として扱う

歌で音程が不安定になる場合、音の途中だけでなく、最初の数十分の一秒に注目します。出だしに「は」のような空気が混じると、音程の中心が決まる前に息が先行します。逆に出だしを固く閉じると、目標の高さより強い力で声が始まり、音が跳ねます。どちらも、音程の線へ乗るまでに遠回りを作る操作です。出だしは、後から直す付け足しではなく、その一音の高さを決める入口です。

「うー」を小さめの声で三回出し、各回の前に息を吸い直さず、一回ごとに一秒だけ休んでみてください。続けるうちに二回目、三回目の出だしが押されるなら、休みの間に息をためすぎている可能性があります。逆に声が沈むなら、休みの間に胸や腹部を固めていることがあります。指先を喉仏の横へ軽く触れ、出だしで首の皮膚が急に引かれないか感じてみてください。触れるだけで押さえないことが重要です。私がこの場面でまず確認したいのは、目標音を外したことそのものではなく、出だしが毎回同じ条件で始まっているかです。

出だしが固いか柔らかいかを、喉の感覚だけで判断しないことも役立ちます。唇や首の前が声の瞬間に急に動くなら、入口で別の操作が加わっています。音程を修正する前に、声が始まるまでの動きを小さくすると、目標の高さへ入る余地が生まれます。

母音の形が高さを動かす

同じ音を歌っているつもりでも、「あ」と「い」、「う」では口と舌の形が異なります。母音の形が急に変わると、息の通り道と声の抵抗が変わり、音程も動きやすくなります。特に高い音で口を横に引きすぎると、首の前が緊張し、狙った高さを支える前に息が押し出されます。低い音で唇を突き出しすぎると、音が後ろへ引かれ、基準より低く感じやすくなります。母音を美しく作ることと、音程を保つことは別の課題ではありません。

一つの高さで「あ、え、い、え、あ」とゆっくり移ってみてください。次に、口の縦の開きをできるだけ変えず、舌と唇の形だけを小さく動かして同じ並びを出してみてください。一度目と二度目で、音が動く直前に顎が動く幅を比べてみてください。二度目で動きが減るなら、母音を作るための大きな顎の操作が高さを揺らしていた可能性があります。変化がない場合は、音を出す前の息の量や、基準音との距離の把握に別の原因があります。母音を均一にするのではなく、母音が変わっても息の流れを急に変えないことを目指します。

母音を変えるとき、口の形だけを先に作り切ると、息の通り道が固定されます。母音の移動は、音が始まった後に小さく起こるほうが、音程の中心を保ちやすくなります。顎の移動を止めるのではなく、母音の変化より息の急変を小さくする順序で扱います。

音を追いかけない練習の順序

外れた音を聞いた直後に、喉で高さを押し上げたり引き下げたりすると、次の音へ入る条件がさらに乱れます。音程を修正する作業は必要ですが、音が外れた瞬間に力で戻すことと、次の音へ届く準備を整えることは分けます。短い二音だけを扱い、一音目を出したあとに息を足さず、二音目へ移る練習が有効です。二音の間で息が急に増えるなら、高さの移動より空気の移動が大きくなっています。

「うーあー」を同じ高さで、次に「うーあー」を一段だけ上がる感覚で出してみてください。実際の音名を決めなくても、低い方から少し高い方へ動く意図で十分です。一音目と二音目の間に、肩が上がる、顎が前へ出る、腹部が急に固まる動きがないかを観察します。高さが変わる直前の体の操作が小さければ、耳が選んだ距離を声へ渡しやすくなります。私がこの場面でまず確認したいのは、二音目が当たったかではなく、一音目から二音目まで息が途切れていないかです。到達の精度は、連続する息の上で育ちます。

二音の練習で音がずれた場合は、二音目だけを強く直さないことが重要です。一音目の終わりで息が減りすぎていないか、二音目の直前で口が急に狭くなっていないかを確認します。移動の手前にある変化を減らすと、声は高さを追いかけにくくなります。

聴き取りを切り分ける目安

息と声の出し方を整えても、基準音との距離が分からない、上がったか下がったかを判断しにくい場合は、聴き取りの要素を切り分けます。ここで大切なのは、音程の問題を一つの原因に決めないことです。同じ高さを保つ課題、二音の差を捉える課題、音を出す瞬間の安定性は別のものです。声が目標へ届く前に息が変わっているなら発声の順序を扱い、距離そのものが判断しにくいなら、短い音の並びを聴く課題として扱います。

切り分けのため、声を出さずに二つの音を聴き、どちらが高いと感じるかを言葉で答えてみてください。次に、同じ二つの音のうち一方だけを小さく出してみてください。この二つで困り方が異なるなら、聴き取りと発声を別に練習する余地があります。声を出す段階だけで外れるなら、音を狙う直前の息、口の開き、首の動きへ戻ります。耳がすべての責任を負うわけでも、息だけで音程が決まるわけでもありません。どの段階で変化が起こるかを順番に見ることで、必要以上に喉を操作せずに済みます。

聴き取りの課題を扱う際も、長い旋律へすぐ進む必要はありません。二音の上下、同じ音の継続、短い間隔の順に分けると、どこで判断が難しくなるかが見えます。発声の条件が安定しているときに聴き取りを確かめることで、二つの課題を混ぜずに扱えます。

無理な高さを押し通さない

音程が取れないと感じると、出しにくい高さを繰り返して突破しようとしがちです。しかし、息が急に変わる状態のまま繰り返すと、外れ方だけでなく喉の負担も固定されます。扱う高さは、声が小さくても出だしを静かに始められる範囲から選びます。高い音を練習する場合も、最初から大きく伸ばさず、短い一音で息の変化を確かめます。届かない高さを力で押し上げることは、耳の学習にも発声の調整にもなりにくいものです。

練習後に喉が乾く、首の前が疲れる、声がかすれるなら、音程の正否より負担の出方を優先します。喉に痛みがある、または声枯れが続く場合は、歌唱練習を続けず耳鼻咽喉科を受診することが大切です。音程は耳だけで決まる技能ではありません。狙った高さを知り、その高さへ届くまで息を急変させず、母音と出だしを過剰に動かさないことが重なって、声は安定します。外れた音を責めるより、届く前に何が変わったかを見つけるほうが、次の一音を扱いやすくします。

出しにくい高さを避け続ける必要はありませんが、扱う時間は短くします。中間の高さから近い距離だけ移動し、息が急に変わらない回数を増やしてから範囲を広げます。音域を広げることより、どの高さでも出だしの条件をそろえられることが、音程の安定につながります。

よくある質問

Q. 音程が取れないのは、耳が悪いことだけが原因ですか?
私は、音程の不安定さは耳だけでなく、息と声の出し方にも関係すると考えます。狙った音に入る前から喉を締めると、音が揺れたり外れたりすることが起こります。
Q. 高い音になると音程がシャープしやすいのはなぜですか?
私は、高音で音程が上ずるときは、届かせようとして息や喉に力が入り過ぎることを考えます。強く締めるのではなく、声を前へ伸ばしながら閉鎖の加減を保つことが大切です。
Q. 歌の一部だけ音程を外す場合、どこから確認するとよいですか?
私は、外れる音だけを繰り返す前に、その直前の言葉と息の流れを確認したいです。上手く歌おうとして一音を長く抱え込むより、音を短く置くと次の音へ移りやすくなります。
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奥津ユキ
書いた人
奥津ユキ

ボイストレーナー。Snow Man、NiziUなど多くの楽曲を手がける作曲家・前迫潤哉氏が主宰するLEVETCH VOCAL SCHOOLにて、ボーカル指導の代表を務める。 何千レッスンもの現場で、歌手・社会人・表現者の声と向き合ってきました。

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