飲食店で声が通らない原因。騒がしい場所でも届く声の置き方

飲食店や騒がしい場所で声が通らない、注文が聞き返される原因を、大声ではなく息と第一声から整理します。

奥津ユキ

混雑した居酒屋で店員さんを呼んでも気づいてもらえない。隣に座った連れとの会話さえ、何度も聞き返される。こうした時、私が最初に確かめてもらうのは声の大きさではありません。

食器音の切れ目に料理名を置く

食器が触れ合う音を想定し、「お待たせしました。鶏のグリルです」と言ってみてください。一度目は、皿を置く動作と同じ時間に、食器が重なる音の中でその文を言います。二度目は、皿を置き終え、食器同士が離れた瞬間に、同じ文を言ってください。変えるのは、料理名を言い始める時刻を食器音の中に置くか、その切れ目に置くかだけです。立つ場所、顔の向き、BGMの大きさ、声量、速さ、高さ、文の長さは変えません。

私がこの場面でまず確認したいのは、文を出した直後に客の手がどの皿へ伸びるか、また同席者どうしの会話がいったん止まるかです。食器音の切れ目に料理名を置くと、同じ大きさの声でも、品名と皿の動きが同じ瞬間に視界へ入るということが起こります。一度目と二度目で、客が皿を見直す回数や、料理を示して確かめる動作が減るかを見ます。品名を聞かせるために声を張るのではなく、皿が卓上で静止する時刻だけを選びます。複数卓がある場合も、隣の卓でグラスが触れ合うときに言い始めないよう、注文票を置く手を止めてから文を出す条件は同じにします。差が出なければ、話す時刻ではなく、卓上のメニュー、食器の配置、店内BGMの音量が別の原因です。

喧騒に埋もれる声は、まず狙いが定まっていません

店内のざわめきに負けまいと喉を張り上げると、力がそこへ集中して、続く言葉がかえって出しにくくなります。しかも張った声は、近くでは強くても、店の低いざわめきとぶつかったまま流されがちです。

見てほしいのは、呼びかけの一音目がどこから出ているかです。一音目が喉の奥にこもって始まると、後に続く言葉も奥に沈んだまま外へ出てきません。反対に、一音目が息の流れの上に乗っていれば、声は張らなくてもざわめきの隙間を抜けていきます。

もう一つが、声を投げる先です。忙しく動き回る店員さんの背中へなんとなく発した声は、誰宛てでもない音として店の喧騒に混ざります。呼ぶ前に相手の姿をいったん目で捉え、その人の手前に言葉を置くつもりで出す。狙いが決まるだけで、同じ声量でも気づいてもらえる確率は変わります。

狙いには、タイミングも含まれます。両手に皿を抱えて通り過ぎる瞬間の背中に声をかけても、店員さんは足を止められません。軽く手を上げて、視線がこちらへ動いた一瞬に合わせて第一声を置く。呼びかけは早い者勝ちではなく、相手が受け取れる瞬間に置けたかどうかで決まります。声を出す前に視線を待つこの半拍は、息を先に吐いておく時間としてもちょうど使えます。

大声の代わりになるのは、少し高めのトーンと言葉の頭です

騒がしい場所ではとにかく大きな声を出すしかない、と思われがちですが、私の実感では、声量だけを上げるより、トーンをわずかに高めに取り、言葉の頭の音をくっきりさせるほうが、雑音を抜けて相手の耳に留まります。店のざわめきは低めの音の塊なので、同じ高さで張り合うより、少しだけ上へ外すほうが分がいいのです。別人のような高さまで作る必要はありません。気持ち悪くならない程度の、ほんのわずかで十分です。

聞き返されて言い直すときも、同じ大きさでただ繰り返すより、頭の音を立て直して、区切りを一つ増やすほうが二度目で通ります。大きさを変えずに言い方を変える。この選択肢を持っているだけで、騒がしい店での消耗はかなり減ります。

呼びかけの前に、息、喉、体の順で崩れています

一つ目は息です。呼びかける直前に息が止まっていると、一音目はどうしても硬く出ます。メニューをのぞき込んで前かがみになったまま注文を決め、顔を上げた勢いでそのまま呼ぶと、たいていこの形になっています。大きく吸い込んで身構えるのではなく、先に短く吐いて、息が前へ流れる状態を作ってから言葉を乗せます。周りに負けまいと吸い込みすぎると、胸や肩が持ち上がって体ごと固まります。息のスピードは自転車に似ています。ゆっくりこいでいるうちはふらふら揺れますが、ある程度の速さが乗れば勝手に安定します。呼びかけの声も、勢いで強く吐き出すより、一定の速さで流し続けるほうがざわめきの中で崩れません。

二つ目は喉です。喉の力で押し出した声は、その一言だけは強くても、飲み会の後半まで持ちません。先に確かめたいのは、小さな声でも詰まらずに出せるかどうかです。小さく出した時点で詰まっているなら、そこへ音量を足しても負担が増えるだけです。

三つ目は体です。首や肩、顎、舌の付け根が固まっていると、息が流れていても声は手前で落ちます。座敷でもカウンターでも、足の裏を床に置き直し、首の後ろをすっと長く保ってから声を出すと、喉一つで支えていた癖に自分で気づけます。

隣の連れに聞き返されるのは、距離ではなく向きと語尾です

店員さんには届くのに、すぐ隣に座っている連れには何度も聞き返される。この場合は距離の問題ではありません。横並びの席では、口が相手ではなく正面のテーブルを向いたまま話しがちで、声は目の前の皿のあたりに落ちています。ひと言だけでも顔ごと相手へ向けて、文末の一音まで息を残す。それだけで、同じ声量でも届き方は変わります。

BGMの強い店では、文の長さも効きます。長い一文をひと息で言い切ろうとすると、後半で息が切れて語尾が雑音に沈みます。伝えたいことを短い文に割り、そのかわり一文ごとに語尾を残す。騒がしい場所の会話は、言葉を増やすより、区切って置くほうが通ります。

宴会の席で斜め向かいの相手と話すときは、あいだの皿やグラスに声がぶつかる分、テーブルの上を這わせるのではなく、相手の顔の高さへ少しだけ上げて置く意識が効きます。声を張るのではなく、届け先の高さを変えるだけです。

カウンター越しや持ち帰りの短い注文も、直す場所は同じです

フードコートやテイクアウトのカウンターでは、店内の喧騒に加えて、アクリル板やマスクが高い音を削っていきます。ここで頑張って声量を積むと、こもった音だけが大きくなり、かえって聞き取りにくくなります。板越しほど、言葉の頭を丁寧に立てて、文を短く区切ってください。

注文の品数が多い日は、最初のひと呼びと注文本体を分けるのも手です。呼び止める一言で店員さんの耳をこちらへ向けてから、品名は一つずつ区切って置く。ひと息に全部を言い切るより、聞き返しの回数はずっと減ります。会計や持ち帰りの場面で使う短い言葉ほど、入りと語尾の癖がそのまま出るので、家の録音に一つ足して確かめておくと店で慌てずに済みます。

録音で聞くのは、好き嫌いではなく届き方の三点です

家での録音は、同じ一文、同じ雑音の条件で繰り返します。一回目はいつも通り、二回目は息を先に流してから、三回目は語尾まで息を残して。聞き比べるのは、出だしが焦って飛び出していないか、途中で呼吸が途切れていないか、最後の一音が沈んでいないか、の三点だけです。自分の声が好きかどうかを判定し始めると、そこで練習は止まります。届き方だけを聞いてください。

もう一つ、再生した自分の声が思ったより低く、頼りなく聞こえても心配は要りません。自分の耳には骨を伝って低めに届いているだけで、周りの人が実際に聞いているのは録音のほうの声です。誰にでも起きることなので、録音は声の良し悪しを裁く道具ではなく、届き方の三点を見るためだけに使ってください。

張り続けた夜の翌日は、練習より負担減らしを優先します

騒がしい店で数時間張り合った帰り道、喉がひりつくように疲れている日があります。そういう翌日に練習量を増やすと、喉で張る癖をそのまま反復することになります。声量を落とす、短い一文に戻す、水分をとる、録音は一回で切り上げる。こうした引き算も練習のうちです。痛みや強い違和感が続くときは、声を出す練習を足さず、医師や専門家に相談することも考えてください。比べるべきは、昨日より大きく出せたかではなく、昨日より喉が軽いかどうかです。

次に店へ入る直前は、三十秒の確認で足ります

入店の直前に発声練習は要りません。呼吸が浅くなっていないか、顎と肩に力が入っていないか、最後まで言い切る心づもりがあるか。この三つをさっと確かめるだけで、最初の呼びかけは変わります。連れと店を探して歩いている間に、喉を軽く起こすつもりでひと言だけ声を出しておくのも、静かに効く準備です。

仕上げに、最初に録音した一文をもう一度録って、一回目と聞き比べてください。

「すみません、注文をお願いします。」

短く吐いた息の上に、少し高めのトーンで、頭の音を立てて置く。この三つが乗っていれば、金曜の混んだ店でも、一度の呼びかけで気づいてもらえる回数は少しずつ増えていきます。今夜の一杯目の前に、まず家の一分から試してみてください。

よくある質問

Q. 食器の音が大きい店内で、注文確認の声だけ埋もれるのはなぜですか?
周囲の音に対抗して喉を締めると、声は前へ飛ばず近くで潰れやすくなります。私が選ぶのは音量を力で足すことではなく、息の速度を上げて言葉の頭を届けることです。
Q. お客様の横では聞こえるのに、厨房へ伝える声が通らないときの違いは?
厨房に向けると首だけをひねり、口元が横へ逃げることがあります。私なら身体ごと方向を変え、口の前の空間を保ってから短い指示を出します。
Q. 混んだ時間帯に声を張り続けず、注文を通すにはどう区切りますか?
一息で注文を詰め込むと、後半ほど子音が弱くなります。私が意識するのは、品名と数量の間をわずかに分けることです。聞き返しを減らせれば、連続して張る必要も小さくなります。
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奥津ユキ
書いた人
奥津ユキ

ボイストレーナー。Snow Man、NiziUなど多くの楽曲を手がける作曲家・前迫潤哉氏が主宰するLEVETCH VOCAL SCHOOLにて、ボーカル指導の代表を務める。 何千レッスンもの現場で、歌手・社会人・表現者の声と向き合ってきました。

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