鼻腔共鳴で響きを作る練習。こもらず前に飛ぶ声にする
受付やブース接客で声がこもり、聞き返される人へ。鼻腔共鳴を鼻にかける勘違いをやめ、軟口蓋と息のスピードで前に飛ぶ響きを作る練習を解説します。
奥津ユキ
アクリル板越しの受付や、来場者が行き交う展示会ブースで、同じ説明を何度も繰り返しているうちに「え?」と聞き返される回数が増えていく。声を大きくしても、こもった感じは変わらない。これは声質の問題ではなく、声が喉のあたりに落ちたまま、前まで飛んでいない状態がほとんどです。
アクリル板・ブースの喧騒で聞き返される正体
受付窓口ではアクリル板やパーテーションが声を遮り、展示会ブースでは周囲の話し声やBGMが常に混ざります。この環境で「聞こえにくいのは自分の声が小さいせいだ」と考え、声量だけを上げようとする方がとても多いです。
ですが声を大きくしても改善しないことがあります。私が見ているのは、声が喉のあたりに留まったまま前に飛んでいない状態です。声量の大小よりも、こもっているか、前に抜けているかのほうが、聞き取りやすさには大きく関わっています。
「暗い声=胸に落ちている」ではなく、喉に落ちて前に飛んでいない
声がこもって聞こえる原因を「声の響きが胸のあたりに落ちているから」と説明されることがありますが、私の感覚では少し違います。実際に起きているのは、胸というより喉のあたりに声が落ちてしまい、こもった状態のまま前に出ていっていない、というほうが近いです。
この違いは練習の的にも関わります。胸を意識して響かせようとするより、喉のあたりで止まっている声を、もう一段前へ送り出す意識のほうが、こもりを抜く近道になります。
マイクを使っていても、鼻腔共鳴だけでは通りません
展示会ブースでピンマイクやハンドマイクを使っていても、声がこもって聞き取りづらいという相談を受けることがあります。ここで「鼻腔共鳴を意識すればマイクに乗る」と言われることが多いのですが、私の実感では共鳴だけが第一条件ではありません。しっかり腹圧をかけて、息のスピードをある程度上げることのほうが、マイクへの乗り方には効いてきます。
鼻腔共鳴を無視していいという話ではありません。ただ、共鳴だけに頼って響かせようとすると、かえって鼻先に力を込めた不自然な声になりがちです。まず腹圧と息のスピードを整え、そのうえで共鳴の感覚を足していく順番のほうが、実際のブースの喧騒の中では安定します。
「声を張り上げないと届かない」の思い込みを外します
ブースの周囲が騒がしいと、声を張り上げないと届かないと考えてしまいがちです。ですが私は、そんなことはないと感じています。届かせ方さえ整っていれば、ちゃんと響いた声で指示や説明は届きます。喉から張り上げる必要はありません。
一日中同じ説明を繰り返す仕事では、張り上げる声を選んでしまうと、午後には喉が重くなります。声量で押すのではなく、響きの通り道を整えて届かせる、という方向に発想を切り替えてください。
軟口蓋を上げる感覚で、こもりを抜きます
「喉を開けて話す」というアドバイスを真に受けて喉仏を下げようとすると、声帯がたわみ、かえって声がこもりやすくなります。私が勧めているのは逆で、下を下げるのではなく、口の奥の上側、いわゆる軟口蓋を軽く持ち上げる感覚です。
受付での「本日はご来場ありがとうございます」の「ほ」を出す瞬間、口の奥の天井をわずかに引き上げるつもりで発声してみてください。喉を無理に開こうとするより、この一点を意識するだけで、こもりが抜けて前に出る感覚をつかみやすくなります。
口角を上げるだけで、声は自然に鼻腔側へ乗ります
意図して鼻にかけて響かせようとすると、たいてい余計にこもった鼻声に近づきます。私が実際に提案しているのは、口角を軽く上げることだけです。
口だけで喋ろうとするとモゴモゴした声になりますが、口角を上げると、狙わなくても自然に声が鼻腔側へ乗りやすくなります。受付で名乗る「株式会社◯◯の受付でございます」も、ブースでの「こちらのブースでは、新しいシステムの使い方をご案内しております」も、口角の位置を少し変えるだけで通り方が変わってきます。
隣のブースの声とかぶった時ほど、張り合ってはいけません
展示会場では、隣接するブースのスタッフも同時に声を出しています。相手のトーンにつられて自分も声量を張り合ってしまうと、こもりを抜く前に喉だけが先に疲れていきます。
私が提案しているのは、隣の声量に合わせて張り合うのではなく、自分の声の通り道だけを整え直すことです。軟口蓋を上げる感覚と口角の位置さえ保てていれば、周囲の声量に負けじと張らなくても、来場者の耳には自分の説明のほうがはっきり届きます。喧騒に飲まれそうになった瞬間こそ、声量を足す前に、この二点を思い出してください。
受付の名乗りとブースの案内、トーンの切り替えも同じ土台の上にあります
受付での名乗りは、静かで落ち着いたトーンが求められます。一方でブースでの製品案内は、多少の明るさと聞き取りやすさが求められます。場面によって声の印象を変える必要はありますが、根っこにある軟口蓋の感覚と口角の位置まで、場面ごとに作り変える必要はありません。
土台となる通り道の作り方は共通にしておき、その上でトーンの明るさだけを少し調整する、という考え方のほうが、一日を通して喉への負担が少なく済みます。受付からブースへ、ブースから受付へと配置が変わる日でも、まず整えるべきはこの共通の土台です。
ハミングで、声の通り道を先に作っておきます
出社直後やブースに立つ前、いきなり本番の声で話し始めると、こもりの癖に気づかないまま説明が始まってしまいます。私がすすめているのは、短いハミングで通り道を先に確認する準備です。
無理に張り上げず、鼻の奥のあたりで軽く「んー」と響かせてみます。この時にこもった感じが強いなら、その日は軟口蓋を上げる意識と口角の位置を、いつもより丁寧に確認してから接客に入ってください。
「こちらのブースでは、新しいシステムの使い方をご案内しております」を録音します
一日に何十回と繰り返すこの一文を、休憩の合間にスマホで一度録音してみてください。
「こちらのブースでは、新しいシステムの使い方をご案内しております」
聞き返す時に見るのは三点です。「こちらの」の出だしが喉から立ち上がっていないか。「ご案内」に入る前に息が詰まっていないか。「おります」の語尾までこもらずに息が残っているか。声の好き嫌いを判定し始めると練習が止まるので、見るのはこの三点だけに絞ってください。
一回目は普段どおりに録音します。二回目は軟口蓋を上げる感覚だけを意識して録音します。三回目は口角の位置だけを意識して録音します。三つを聞き比べると、声量を変えなくても、こもりが抜けて前に飛ぶ感覚がどちらの調整で強く出るか、自分の傾向が見えてきます。人によって効きやすいポイントは違うので、どちらが自分に合うかをこの比較で確かめてください。
一日中同じ説明を繰り返す日の疲れとの付き合い方
受付やブースの仕事は、同じ言葉を何十回、何百回と繰り返します。声量で押し続けると、こもりが抜けないまま喉だけが疲弊していきます。休憩のたびに、軟口蓋を上げる感覚と口角の位置だけを短く確認し直してください。
声のかすれや痛みが数日続くようであれば、練習量を増やすより先に、医師や専門家に相談することも考えてください。無理をして声を出し続けることは、長い目で見ると仕事の質にも影響します。声量を上げて乗り切ろうとする癖がついてしまうと、休んでも戻りにくくなるので、違和感が出た時点で対処する方が結果的に長く安定して声を使えます。
まとめ
声がこもって前に飛ばないのは、鼻腔共鳴が足りないという単純な話ではなく、喉のあたりに声が留まっている状態がほとんどです。軟口蓋を上げる感覚で通り道を作り、口角を上げて自然に鼻腔へ声を乗せ、腹圧と息のスピードで支える。声を張り上げるのではなく、この三点を整えるだけで、アクリル板越しでもブースの喧騒の中でも、聞き返される回数は減っていきます。
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よくある質問
- Q. 鼻腔共鳴の練習は、鼻にかけて話すことですか
- 違います。意図して鼻にかけようとすると、こもった鼻声に近づきます。口角を軽く上げるだけで、声は自然に鼻腔側へ乗ります。
- Q. アクリル板越しでも声を張り上げる必要がありますか
- 張り上げなくても、軟口蓋を上げる感覚と息のスピードが整っていれば、声は届きます。声量より先に確認してください。
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ボイストレーナー。Snow Man、NiziUなど多くの楽曲を手がける作曲家・前迫潤哉氏が主宰するLEVETCH VOCAL SCHOOLにて、ボーカル指導の代表を務める。 何千レッスンもの現場で、歌手・社会人・表現者の声と向き合ってきました。
詳しいプロフィール →声が小さい・通らない人へ。大きい声を出さずに改善する方法
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