姿勢で声は変わる。喉を押さない立ち方と発声

姿勢が悪いと声が出にくい、息が浅い人へ。胸を張るより、息が流れる体を作ります。

奥津ユキ

立ったまま長く話す、あるいはデスクで前かがみのまま話す場面で声が疲れやすい人がいます。姿勢というと胸を張ることだと思われがちですが、胸を張ること自体が目的ではありません。息が体の中でどこにも詰まらず流れる形を作ることが目的です。姿勢を変えても声が変わらないと感じる人ほど、姿勢そのものより、姿勢を作った後に無駄な力が残っていないかを見落としがちです。

疲れてくると、姿勢は無意識に元へ戻ります

一日の後半や長時間の会議が続くと、意識して整えていた姿勢が疲労とともに崩れ、声も一緒に沈んでいくことがあります。これは怠けではなく、体力が落ちるほど楽な姿勢に戻ろうとする自然な反応です。疲れている時ほど、姿勢を作り直す前に、まず一度だけ短く息を吐いて、体の力みを抜くところから始めてください。

良い姿勢を、胸を張ることだと考えると声は硬くなります

背筋を伸ばそうとして胸を反らせると、かえって喉の周りが固まり、声の通り道が狭くなることがあります。次の一文で確認してください。

「胸を張りすぎず、足裏を置き、息が流れる姿勢で声を出します。」

この一文を、胸を張った状態と、張らずに足裏だけを意識した状態の二通りで録音してみます。多くの場合、張らない方が声の入りが軽く、語尾まで息が残ります。姿勢を作り込むことより、余計な力を抜くことの方が、声にとっては効きます。

奥津ユキ
奥津ユキのミニコメント

姿勢が声を変えるのは、見た目が整うからではありません。息の通り道が広がるか狭まるかが、声の出やすさを左右するからです。

猫背を直そうとして胸を張ると、別の力みが生まれます

猫背を指摘された経験がある人ほど、意識的に胸を張って背筋を伸ばそうとします。ですが、猫背という一つの状態を直そうとして反対方向に力を入れると、今度は胸の周りの筋肉が固まり、息が入りにくくなることがあります。姿勢は反対側へ振り切ることで直すものではなく、力を抜いた状態でどこにも偏りがない位置を探すものです。

崩れの原因は、胸・肩・足の三か所に分けられます

姿勢が悪いと感じる時、原因を一つに決めつけないでください。胸だけを張って肩が上がっている、顎が前に出て首の後ろが詰まっている、足の裏が浮いて体全体が不安定になっている。この三か所のどこが崩れているかによって、声の出にくさの現れ方は変わります。

足裏から声までの流れを、順番に確認します

一つ目は足裏です。立っていても座っていても、足の裏が床に着いているかを確認します。体が浮いていると、その上に乗る息も浅くなります。

二つ目は胸と肩です。胸を張ろうとして肩が上がっていないかを見ます。肩が上がると、息を吐く道が狭くなり、声が前に出にくくなります。

三つ目は顎と首です。顎が前に出たり、首の後ろが詰まったりすると、最初の音を喉で押しやすくなります。首の後ろを長く保つ意識だけで、この詰まりは軽くなります。手のひらで顎の下を軽く押さえ、顎が上がらないようにしたまま短く声を出してみると、喉の締まりだけが抜けていく感覚をつかみやすくなります。

姿勢を正しても、お腹の圧が抜けていると変わりません

姿勢が悪いと声が出ない、という時、腹式呼吸ができていないからだと考える人がいますが、姿勢とつながっているのは腹式呼吸ではなく腹圧です。お腹を膨らませたりへこませたりする動きそのものより、吐くときも吸うときも、お腹の中にかけた圧を抜かずにいられるかどうかが、姿勢と声をつなぐ部分になります。姿勢だけを作り直しても、この圧が抜けていれば声は変わりません。腹式呼吸を真面目にやり込みすぎて、かえって喉で支える癖がつき声を痛めてしまった例もあるくらいなので、膨らませ方より、圧の保ち方を優先してください。

デスクで前かがみのまま話すと、胸がつぶれた状態で声を出すことになります

パソコンの画面を覗き込むように前かがみになると、胸が縮み、その上に乗る息も浅くなります。座ったまま背筋を伸ばそうとして胸だけを反らせると、今度は肩が上がり、別の力みが生まれます。座り姿勢では、腰から頭までを一本の線で保つ意識より、まず画面と目の距離を少し離し、顎を軽く引く方が、声を出す前の準備としては効きます。

立ちっぱなしで話す仕事では、足の使い方が声に直結します

接客やレジ、案内のように長時間立ったまま話す仕事では、片足に重心をかけたまま話し続けると、体が斜めに固まり、息の通り道も片側に偏りやすくなります。両足の裏に均等に体重をかけ直すだけで、声の出やすさが変わることがあります。姿勢を大きく作り直す必要はなく、重心の位置を戻すという小さな調整で十分です。

練習は、姿勢を作ってから声を乗せます

まず、足裏を床に置いたまま、声を出さずに短く息を吐きます。姿勢を正そうと力を入れるのではなく、余計な力を抜く方向で整えます。

次に、その姿勢のまま楽な音量で声を出します。大きくする必要はありません。喉が押されていない声を確認します。

最後に、「胸を張りすぎず、足裏を置き、息が流れる姿勢で声を出します。」を録音します。姿勢を変えた直後と、少し経ってから力みが戻った時とで、声の入りがどう変わるかを聞き比べてください。

歩きながら話す場面では、姿勢は一瞬ごとに変わります

案内をしながら歩く、電話をしながら移動するといった場面では、立ち止まって話す時とは違い、姿勢が一歩ごとに変わります。歩きながらでも、足の裏が地面に着く瞬間に体が跳ねすぎていないか、上半身が前のめりになっていないかを意識するだけで、声の揺れは減ります。完璧な姿勢を保とうとするより、崩れにくい範囲を広げる意識の方が現実的です。

音量ではなく、姿勢の作り方を下げて確認します

声が通らないと感じるほど、胸を張って音量を上げたくなります。ですが姿勢に無理な力が入ったまま声量だけ上げると、喉への負担が増えるだけです。まず力を抜いた状態で小さな声を出し、そこから少しずつ音量を戻していく方が、安定した声に近づきます。

座って話す時と立って話す時は、別々に確認します

椅子に座って話すことが多い人が、立って話す練習だけをしても、実際に使う姿勢での崩れは見えてきません。座った状態と立った状態のそれぞれで、同じ一文を録音して聞き比べてください。多くの場合、座った時は胸が縮みやすく、立った時は重心が偏りやすいという、違う崩れ方をします。自分がよく使う姿勢の方を優先して確認すると、日常での効果が出やすくなります。

姿勢を直しても喉に違和感がある日は、無理をしません

痛みがある、強いかすれがある、休んでも戻らない違和感がある時は、姿勢の練習だけで解決しようとしないでください。専門家に相談する判断も必要です。違和感がある日は、姿勢を軽く整えるだけにとどめ、声量を上げる練習は控えます。

録音では、姿勢が変わったかではなく声が変わったかを聞きます

自分の姿勢は鏡で見えても、声の変化は目では確認できません。録音を使うと、姿勢を変えた前後で声の入り方や語尾の残り方がどう違うかを、感覚ではなく音で比べられます。

「胸を張りすぎず」の入りが楽になったか。「足裏を置き」の途中で息が止まっていないか。「息が流れる姿勢で声を出します」の最後まで息が残っているか。この三か所を、姿勢を変える前と後で聞き比べてください。

同じ姿勢、同じ一文で一週間続けます

毎日違う姿勢を試すと、何が効いたのか分からなくなります。「胸を張りすぎず、足裏を置き、息が流れる姿勢で声を出します。」を、同じ姿勢の作り方で一週間録音してください。今日は足裏だけを見る。明日は肩の高さだけを見る。次の日は語尾だけを見る。日ごとに見る場所を一つに絞ると、変化に気づきやすくなります。

オンライン会議では、画面への集中が姿勢を崩します

画面上の相手や資料に集中するほど、無意識に肩が前に出て胸が閉じていきます。座って話すオンライン会議では、この崩れに自分では気づきにくいのが特徴です。会議の合間に一度だけ、肩を軽く後ろに引いて胸の締めつけを外す動きを入れると、次に話す時の声の入りが変わります。カメラに映る姿勢を気にする前に、息が通っているかを優先してください。

一回で整えようとしないことが、結果的に近道です

姿勢も声も、一度の練習で完成させようとすると、力みが強くなりがちです。今日は楽に声が出たか、今日は喉が押されなかったか、今日は語尾まで残ったか。この積み重ねの方が、胸を張る意識だけで乗り切ろうとするより、長い目で見て安定します。

靴やかばんの重さも、立ち姿勢に関わっています

ヒールの高い靴で重心が前寄りになっていたり、片側の肩だけにかばんをかけて体が傾いていたりすると、話す前の姿勢がすでに崩れていることがあります。声の練習をする前に、靴を替える、かばんの掛け方を変えるといった、姿勢そのものの土台を整えることも、遠回りに見えて有効な手段です。

まとめ

姿勢と声の関係は、胸を張って見た目を整えることではありません。足裏、胸と肩、顎と首の力みを一つずつ抜き、息が通る形を作ることです。「胸を張りすぎず」の入り、「足裏を置き」の途中、「息が流れる姿勢で声を出します」の語尾を録音で確認するだけでも、声の出やすさは変わります。

良い姿勢とは、見栄えの良い形ではなく、息と声が無理なく流れる形のことです。座っていても立っていても、同じ考え方で毎回確認すれば、場面ごとに姿勢を作り直す必要はなくなります。

よくある質問

Q. 姿勢 声 出し方では何から始めるべきですか
最初は声量や高音より、息が止まっていないか、喉で押していないか、録音で再現できるかを確認してください。
Q. 毎日練習した方がいいですか
短い練習を続けるのは有効です。ただし喉に痛みや強い違和感がある日は無理に続けず、練習量を落としてください。
Q. 録音は必要ですか
必要です。自分の中で聞こえる声と相手に届く声は違うため、録音で入り、息、語尾を確認します。
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奥津ユキ
書いた人
奥津ユキ

ボイストレーナー。Snow Man、NiziUなど多くの楽曲を手がける作曲家・前迫潤哉氏が主宰するLEVETCH VOCAL SCHOOLにて、ボーカル指導の代表を務める。 何千レッスンもの現場で、歌手・社会人・表現者の声と向き合ってきました。

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