マスクで声がこもる原因。大声にせず通りを作る話し方

マスクで声がこもる、聞き返される、暗く聞こえる原因を、声量ではなく息の方向と語尾から整えます。

奥津ユキ

受付や売り場でマスク越しに話すたびに聞き返される。

布一枚の違いで、言葉の輪郭はどこまで残るか

形状、密着の具合、層数がそろい、素材だけが異なる二枚を用意できる場合、受付案内として「受付は三階です」と言ってみてください。一度目は普段の素材のマスクで、二度目はもう一方の素材のマスクで発します。変えるのは、口元を通る布の素材だけです。声量、話す速さ、高さ、言う文、立ち方、口の動かし方は一度目と二度目でそろえます。

片方で「せき付け」のサ行や「かい」のカ行の輪郭が薄くなり、もう片方では言葉の境目が残るなら、こもりの中心は声量ではなく布が減らす音の成分にあります。私がこの場面でまず確認したいのは、大きく話したときの苦しさではなく、どの音の輪郭が先に消えるかです。素材を替えても差が出なければ、マスクだけに理由を求めません。鼻の通りや口の中での音の作られ方など、別の原因を確認してください。素材を変える比較が難しい場合は、この実験を行わず、声量で押し切ろうとしないでください。ここでは布以外を動かさないことに意味があります。二枚の差が小さくても、特定の子音だけを大きくしないで観察します。違いを丁寧に見ます。

こもりは、最初の一音が生まれる場所で決まります

喉の奥で生まれた音は、そのあとの言葉も奥にこもったまま進みます。息の流れに乗って生まれた音は、自然と前へ出ます。マスクはその差を強調しているだけで、差を作っているのは布ではなく、声の立ち上がりです。

マスク越しの会話では、相手もあなたの唇の動きを見られません。普段の対面の聞き取りは、声だけでなく口元の動きにも助けられているので、その助けが消えたぶん、声の立ち上がりと語尾が受け持つ役割は普段より大きくなります。聞き返されるのは、あなたの声が急に悪くなったからではなく、声に求められる仕事が増えたからです。

聞こえないからと声量で押すのは、いちばん損な直し方です。押し出す大声は喉に力を集め、次の言葉をかえって出しにくくします。マスク越しで通らない時はとにかく大きくするしかない、と思われがちですが、実際は声量よりも、トーンをわずかに高めに取ることと、滑舌を整えることのほうが効きます。

もう一つ試してほしいのが、口を大きく開ける前に、上あごの奥を軽く持ち上げる感覚です。喉ぼとけを下げて開けようとするのとは逆の操作で、布の内側にこもっていた響きがふっと前に抜けやすくなります。

確かめる順番は、息、喉、体です

最初は息です。声を出す直前に息が止まっていると、第一声は硬くなります。深く吸い込むより、短く吐く流れを先に作ってください。吸い込みすぎると胸や肩が持ち上がり、体ごとこわばります。

次は喉です。喉に力を込めた声は一瞬強く聞こえても続きません。音量を上げる前に、喉の奥を締めずに出せる小さな声があるかを確かめます。小さな声で詰まるなら、大きくしても負担が増えるだけです。

最後は体です。首、肩、あご、舌の付け根のどこかが固いと、息が流れていても声は前に抜けません。足の裏を床に預け、首の後ろを長く保ってから一文を出すと、喉だけで支えていた癖に気づけます。マスクで口元が隠れると口の動きも小さくなりがちですが、大きく動かすことより、息の通り道を確保するほうが先です。

一文を三段階に割ると、押しか乗せかが聞き分けられます

こもりやすい人ほど、言葉をいきなり声にしています。先ほどの一文を、三つの段階に割ってみてください。まず、口の形だけを作って止めます。次に、声を出さずに息だけを短く前へ流します。最後に、その息の続きへ言葉を乗せます。この順で出すと、自分が喉で押しているのか、息に乗せられているのかがはっきり分かります。三段階といっても、洗面所でマスクを着けたまま一分あれば終わります。出勤前の一回で十分です。

練習の言葉は一つに固定します。毎回違う言葉で試すと、変わったのが声なのか言葉なのかを切り分けられません。録音で聞く場所も四つだけです。出だしが急いで飛び出していないか。途中で息が止まっていないか。語尾が急に落ちていないか。喉が詰まった音になっていないか。うまさの採点は要りません。

マスクの内側の息苦しさが、呼吸から先に崩します

マスクを長時間着けていると、内側の熱気と抵抗で、無意識に吸う量を節約するようになります。浅い息のまま応対を重ねると、声はますます口の中にとどまり、こもりが強まる悪循環に入ります。応対が途切れた数十秒に、口を閉じて鼻から静かに吐く時間を作ってください。声を出さないこのひと呼吸が、次の応対の第一声を支えます。

もう一つ、マスクのずれを気にして顎の動きを抑える癖にも注意が要ります。ずれを恐れて口を最小限しか動かさないでいると、息の出口まで狭くなります。直したいのは口の開きの大きさではなく、話す前に息が動いているかどうかです。ずれが気になる日は、話し始める前に位置を直しておき、話している間は息の流れだけに気を置いてください。休憩でマスクを外せる場所があるなら、その数分は呼吸の深さを取り戻す時間にあててください。外している間に深く吐いておくと、着け直したあとの浅くなり方が緩やかになります。

名前や日付は、その語の手前で一拍だけ待ちます

マスク越しの応対で聞き返されやすいのは、文章の全体ではなく、名前、日付、番号といった聞き逃せない語です。布越しでは細かい音の輪郭がぼやけやすく、大事な語ほど、埋もれたときのやり直しが大きくなります。

対策は、その語の手前で一拍だけ待つことです。全体をゆっくり話す必要はありません。「明日の午前十時にお越しください」なら、時刻の前に半拍だけ置き、そこだけ丁寧に置いて、また普段の速さに戻ります。この一拍は、相手が耳の準備をするための時間です。聞き返されてから大きな声で繰り返すより、先回りして一拍置くほうが、喉にも相手にも負担がありません。

応対の直前は、数秒の点検で第一声が変わります

窓口にお客様が近づいてきてから、発声練習はできません。できるのは、声を出す前のごく短い点検です。息を止めていないか。あごが固まっていないか。肩が上がっていないか。語尾まで言い切る心づもりがあるか。これだけでも第一声は変わります。

昼前後の混み合う時間帯は、応対と応対の間がほとんどなく、気づけば浅い息のまま何人も続けて案内していることがあります。列が途切れた一瞬、書類を整える一瞬に、この点検を挟む癖をつけてください。点検は数秒で終わるので、混雑の妨げにはなりません。

慣れてきたら、声の大きさではなく、言葉を置く位置を意識してください。自分の喉の中で響かせて終えるのではなく、カウンターを挟んだ相手のすぐ手前に、息の流れに乗せて言葉を置く感覚です。投げつけるのではなく、置く。この感覚があると、張らなくても聞こえ方が安定します。

変化が出ない日は、条件と負担を見直します

練習しても変わらないと感じる時は、才能ではなく条件がずれています。話し出す前に急いでいる。息を吸いすぎて胸が硬い。明るく作ろうとして喉が持ち上がっている。語尾を言い切る前に気持ちが次の業務へ進んでいる。この小さなずれの積み重ねが、聞こえ方の全体を変えます。

うまくいった日だけ長く練習するより、短くても同じ条件で毎日続けるほうが再現しやすくなります。録音は消さずに残しておくと、一週間前の自分と聞き比べられます。一日ごとの変化は小さくても、数日分を並べると向きが見えてきます。そして、喉に痛みや強い違和感がある日は、練習を足さないでください。声量を控える、休む、水分を取る。その判断も練習のうちです。違和感が長く続くなら、話し方の癖で片付けず、医師や専門家への相談を考えてください。

マスク越しの一日は、最初のひと流しから変わります

一日中マスクを外せない仕事では、聞き返されるたびに声を張り、夕方には喉が重くなるという悪循環が起きがちです。断ち切る場所は、それぞれの応対の最初の一音です。

「こちらにお名前をご記入ください。」

明日の最初の応対の前に、この一文をもう一度だけ録音してみてください。息をひと流ししてから言えていれば、布の内側で音が丸くなる瞬間は確実に減っています。

これは窓口だけの話でもありません。社内の打ち合わせで距離のある相手にマスク越しに発言するときも、聞き返される理由は同じです。息をひと流ししてから話す順番は、どの場面にもそのまま持ち出せます。マスクを、声を塞ぐ壁ではなく、息の向きを確かめる目印くらいに思えるようになったら、こもりの悩みはもうほとんど片付いています。

よくある質問

Q. マスク越しでは、口を大きく開ければこもりませんか?
口の開きだけを増やしても、舌が奥に残ると音はこもります。私は舌先を下の前歯の近くに置く意識を使い、母音の出口を前方へ作ります。
Q. マスクで通る声を出すために、息を強く吐いてよいですか?
強く吐き続けると喉を締めて押し出しやすくなります。私は息の量ではなく速さを整え、短い言葉でも前へ届くようにします。大声で覆い隠す必要はありません。
Q. 不織布マスクの日は、話す速さを変えるべきですか?
速すぎると子音が布に埋もれ、聞き取りにくさが増します。私は一語ごとの語尾を急いで飲み込まず、舌で子音を置いてから次の音へ進めます。
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奥津ユキ
書いた人
奥津ユキ

ボイストレーナー。Snow Man、NiziUなど多くの楽曲を手がける作曲家・前迫潤哉氏が主宰するLEVETCH VOCAL SCHOOLにて、ボーカル指導の代表を務める。 何千レッスンもの現場で、歌手・社会人・表現者の声と向き合ってきました。

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