低い声を出そうとするたびに喉が重くなる、こもって聞こえる、語尾が沈んで消える。心当たりがあるなら、原因を探す前に、スマホのボイスメモでできる聞き比べを一つ試してください。
まず、低いフレーズをため息の前後で録り比べます
曲の中でいちばん低く感じるフレーズを一つ選びます。Aメロの歌い出しなど、いつも音がこもる場所で構いません。一回目は、いつも通りに歌って録音します。二回目は、歌い出す直前に「はぁ」と小さくため息をひとつこぼしてから、同じフレーズを録音します。
聞き比べると、ため息の後のほうが、音程は同じなのにこもりが薄れて聞こえた人が多いはずです。ため息で息が先に流れ始めたおかげで、喉を押し下げる準備が入り込む前に声が立ち上がったからです。低さは喉の沈め込みで作るものではなく、流れる息の上に響きが乗った結果だ、ということを、この聞き比べは一分で教えてくれます。
低い声は、喉を下げる力ではなく響きの置き場所で決まります
低い声を作ろうとする前に、声を出す前の準備がどうなっているかを見てください。息と体が固まったまま音程だけ下げようとすると、どんな練習をしても喉に負担が集まりやすくなります。
低い声というと喉を緩めて重心を下げるイメージが先に立ちますが、腹式呼吸だけを強く意識しても、それだけで低さは生まれません。大切なのは、息が先に流れて、その上に低い響きが乗っている状態です。
低すぎる声は威圧感があって近づきにくい印象になる、と気にする方もいますが、私の実感ではむしろ逆で、低い声は安心感につながることのほうが多いです。締めた声でなく響きの通った低さであれば、なおさらです。
喉を押し下げれば低くなると考えると、こもって重くなります
この練習でやりがちな失敗は、低い声は喉を押し下げれば出ると考えることです。低い声に憧れが強いほど、最初から喉の奥を強く沈めたくなります。
けれど、低さは喉で押せば作れるわけではありません。押し下げる癖がつくと、その癖のほうが強く残ります。喉を締めて低さを作る癖が強い人には、逆に一度思い切り締める方向を試すと抜けやすくなります。オペラ風に「うー」「あー」と大げさに響かせたり、モノマネのように誇張して「メッ、メッ」と言ってみたりすると、締まった状態がどこにあるかを体で自覚でき、そこから力を抜く感覚がつかみやすくなります。
低い声を目指す人ほど、地声の低い部分だけを探して無理に出そうとしがちです。ですが、無理に出した低い音は、喉に負担がかかるだけで長くは持ちません。楽に出せる高さのまま、響きの置き場所を変えていくほうが、結果として落ち着いた低さに近づきます。マイクを口に近づけて音量でごまかしても、こもった響きはこもったまま大きくなるだけです。整えるべきはマイクとの距離ではなく、息が先に流れているかどうかです。
基本練習は、息、楽な声、一文の三段階に分けます
低音の練習は、最初から長く取り組むより、三つの短い段階に割ったほうが変化を追いやすくなります。
一段階目は息だけです。声はまだ出さず、短く吐きます。吸い込む量を増やすことより、吐く流れを先に作ります。
二段階目は、いま楽に出る高さの声です。大きくも低くもしません。喉が押されていない声を短く置くだけです。
三段階目は、一文です。
「低い声は喉で下げず、息を流して響きを下に置きます。」
この一文を録音して、入りが硬くないか、途中で息が切れていないか、終わりが沈んで消えていないか。この三点だけを聞きます。声の低さそのものは採点しません。
見る順番は、息から始まり、喉、体、録音と続きます。息が止まっていないか。喉で押していないか。体が固まっていないか。録音で聞いて同じ響きを再現できるか。この順を守ると、練習の狙いがぶれません。
録音では、低さの深さではなく再現性を見ます
低音の練習で価値があるのは、一度だけ深い声が出た瞬間ではなく、同じ響きを何度でも呼び出せる状態です。それを確かめる道具が録音です。
録音した自分の低音に、聞き慣れない違和感を覚えるかもしれません。頭の中で響いていた声には骨を伝わった低さが混ざっていますが、相手に届いているのは外へ出た音そのものです。相手の耳に届いている低さを知るには、外に出た音を録音で確かめるしかありません。
座っている時は響くのに、立って歌うとこもるという人は、姿勢が変わって息の通り道が変わっていることが多いです。録音する時は、本番と同じ姿勢で録ることも忘れないでください。
続けるなら、日ごとに内容を変えすぎないことです。決めた一文を使い続けるほど、低さの変化は拾いやすくなります。今日は入りに息が流れていたか。昨日の録音より響きが楽に聞こえるか。深さの立派さではなく、こうした小さな変化を拾います。
うまくいかない時は、文を短くして音量を下げます
低さが保てない時、練習を難しくする方向へ行く必要はありません。使う文を短く切ってください。一文が長いほど、後半で息が尽きて、足りない分を喉の押し下げで補ってしまいます。短くしても浅く感じる時は、文の長さではなく、言い始める手前の一息が足りていない可能性を疑ってください。
音量も同じ方向で考えます。低い声が思うように出ない時ほど、音量で補いたくなります。けれど、喉で押し下げたまま音量を足すと、こもりと負担が同時に増えます。小さな声にすると、低く出そうとした時の自分の癖がよく見えます。小さい声で保てない低さは、大きくしても保てません。楽な音量で、先ほどの一文の入りから終わりまで息が残るのを確かめてから、少しずつ音量を上げます。
低いフレーズは、出だしよりも語尾で崩れることが多い場所です。息の残りが少なくなった語尾では、響きを支えきれずに音程ごと沈んでいきます。語尾が続かない時は、低さの限界と決めつける前に、フレーズの頭で息を使いすぎていないかを先に疑ってください。息が最後まで流れてさえいれば、低い語尾は張らなくても聞き手の側にきちんと残ります。
カラオケでキーを下げたのに楽にならない、という相談も受けます。多くの場合、問題は音の高さではなく、低い音に入る瞬間に息が止まる癖のほうです。キーをいくつ下げても、息が止まったままなら、こもった低音の出し方は変わりません。
練習の種類を増やしたくなった時も、確認する項目を一つに絞るほうが先です。今日は息だけを見る。明日は喉の力みだけを見る。次の日は録音で語尾だけを見る。こうしたほうが、変化がはっきりします。
喉が重い日は、低音の練習量を落とします
低い声への憧れが強い日ほど、練習を詰め込みたくなります。ただ、喉に違和感を覚えたまま低音を反復すると、上達ではなく負担の積み増しになります。
痛みや強いかすれ、休んでも引かない違和感が出ている時は、その日の低音練習をやめてください。長引くようなら専門家に相談する判断も必要です。低い声は一度出せれば十分というものではなく、明日も同じように出せてこそ意味があります。
軽くする日は、声量を上げず、息を流して小さな声で一文だけ録音して終わりにします。低さを育てることと、喉の異変に気づかないふりをして酷使することは別物です。
歌う直前は、響きの位置だけを思い出します
低い声を本番でいきなり出そうとすると、たいてい喉から作った声になります。歌う前の短い時間で、響きの位置を思い出しておくと、本番でも喉に頼らずに済みます。
直前であれば、長く練習する必要はありません。小さな声で、決めておいた一文をひとつなぞるだけで十分です。低さが浅くても構いません。ここで見たいのは深さではなく、息が先に流れているかどうかです。一曲目の歌い出しが低い曲なら、順番が来る前にこの確認を済ませておくと、出だしから喉に頼らずに入れます。
明日の低音は、ため息ひとつ分だけ楽になります
低い声は、その場で気合いを入れて作るものではなく、日々の練習で少しずつ響きの置き場所を広げていくものです。
「低い声は喉で下げず、息を流して響きを下に置きます。」
明日もまず、ため息をひとつこぼしてから、この一文を録音してください。喉の頑張りではなく、息と体でいつでも同じ響きを呼び出せるようになった時、その低さはこもらずに相手まで届きます。
よくある質問
- Q. 低い声 出し方では何から始めるべきですか
- 最初は声量や高音より、息が止まっていないか、喉で押していないか、録音で再現できるかを確認してください。
- Q. 毎日練習した方がいいですか
- 短い練習を続けるのは有効です。ただし喉に痛みや強い違和感がある日は無理に続けず、練習量を落としてください。
- Q. 録音は必要ですか
- 必要です。自分の中で聞こえる声と相手に届く声は違うため、録音で入り、息、語尾を確認します。
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ボイストレーナー。Snow Man、NiziUなど多くの楽曲を手がける作曲家・前迫潤哉氏が主宰するLEVETCH VOCAL SCHOOLにて、ボーカル指導の代表を務める。 何千レッスンもの現場で、歌手・社会人・表現者の声と向き合ってきました。
詳しいプロフィール →歌が上手くなる声の出し方。音程の前に整える息と響き
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