リップトリルで脱力する練習。力みを抜いて声を通す
検温や点滴の説明を一日中繰り返す看護師へ。声を張る前に喉と顎の力みを抜くリップトリルの使い方と、病棟の合間でできる練習手順を紹介します。
奥津ユキ
唇を軽く閉じ、指先を下唇の中央にそっと当てて「ブルル」と二秒だけ鳴らしてみてください。一度目は首をいつもの位置にして行い、二度目はあごを一センチだけ前へ出して同じ長さで行ってみてください。指先に伝わる唇の細かな動きと、空気が抜ける感触のどちらが先に乱れるかを比べます。二度目だけ急に途切れるなら、唇だけでなく首とあごの位置が息の流れを変えています。差が出なければ、唇の形よりも後で扱う息の圧の変化を別の原因として確かめてください。
リップトリルで扱うのは唇ではなく息の流れ
リップトリルは、唇を震わせることそのものを上達させる練習ではありません。唇は、内側から来る空気の押し方が細かく変わったとき、その変化を隠せず表に出してくれる場所です。唇が止まると「唇の筋力が足りない」と考えたくなりますが、唇を横へ引いたり、口角を強く持ち上げたりしても、安定は得にくいものです。振動に必要なのは強い力ではなく、唇が触れ合ったまま、一定の間隔で空気に押されて戻る余地です。その余地をなくす主な要因は、吐く息が急に強くなること、あるいは途中で弱くなることです。
息の量と圧は分けて扱います。大きく吸っても出口を狭くすれば圧は上がり、空気が残っていても出口を開けば唇を押す力は保ちにくくなります。数秒で壊れるときは、空気不足と決めず、押し方が跳ねたか、急に抜けたかを観察します。私がこの場面でまず確認したいのは、開始から停止までの振動の均一さです。短くても均一なら、声を通す出発点になります。短くても一定なら、次の声の操作を比べる基準になります。
指で頬を軽く支える補助は、唇を動かすためでなく、息の変化を感じるためにだけ使います。支えを外して止まるなら、口角を固定する前に、息の出だしを小さくする段階へ戻ります。
途切れ方から息の圧の変化を読む
途切れ方には種類があります。始めた直後に「ブッ」と大きく破裂して止まるなら、出だしの圧が高すぎる形です。最初は振動していたのに、二秒後から空気だけが漏れるなら、押す力が急に下がって唇を持ち上げられなくなっています。音程を上げた瞬間だけ唇が固まるなら、音を高くしようとして息を追加していることがあります。どれも唇の意志で解決する問題ではなく、息の圧が時間の中で一定でないという情報です。止まったことを失敗と数えるより、どの瞬間に、どちらへ変化したかを分けると次の操作が選べます。
鏡の前で「ブルル」と鳴らす間、肩が上がるか、胸の上部がすぼむか、あごが前へ出るかを見てください。これらは呼気圧を急に上げるときに出やすい動きです。反対に、止まる直前に口が大きく開くなら、出口が急に広がっています。鏡の目的は見栄えでなく、内側の圧の変化を外側の動きから追うことです。変化の順番を目で追えます。
長さを競うと、苦しくなったときに押し込む癖がつきます。二秒の振動を一回として、止めたら鼻から吸い、同じ二秒をもう一回行います。開始時と終了時の唇の開き方が大きく変わらないことを見ます。外見の変化が少なければ、圧も急変しにくくなります。
強く吹かずに始めるための準備
リップトリルの直前、口を閉じたまま鼻から静かに吸ってください。その後、唇を押しつけずに触れ合わせ、息を出す前に肩とあごが動いていないことを鏡で確かめます。この停止があると、吸った勢いをそのまま吐く流れを切れます。次に「フー」と無音の息を一秒だけ出してから、同じ出口の大きさのまま「ブルル」へ移ってください。無音の息から振動へ移るとき、唇に当たる空気が急に熱く、強くならないことが目安です。変えるのは声の大きさではなく、出だしを滑らかにすることです。
息を細くしようとして唇を強くすぼめると、今度は出口が狭くなりすぎ、内側の圧が上がります。唇の中央に小さな穴を作ろうとしないで、唇全体が軽く触れている状態を残してください。頬を膨らませる必要もありません。頬が大きく膨らむと、口の中に空気を溜めようとして、流れが一度止まることがあります。息は溜めてから放出するより、体から口まで同じ方向へ移動し続けるほうが、唇の振動を保ちやすくなります。見える操作としては、口角が横へ引かれず、あご先が上下へ跳ねない状態を保つことが役立ちます。
出だしが毎回破裂する場合、吸う量を減らす操作も試せます。深く吸うことが常に良いとは限らず、短いトリルに対して空気を多く準備すると、余った圧を出口で処理したくなります。鼻から半分ほど吸い、二秒だけ鳴らして止める。この小さな設定で均一になるなら、課題は呼吸の容量ではなく、最初の圧の配分です。差が出なければ、胸や肩の動きだけでなく、声を乗せるときに舌やあごが固まる別の原因へ進みます。準備は長くするほどよいのではなく、目的の長さに合うだけで十分です。
音程を動かすときに押し上げない
一定の高さで二秒ほど振動できたら、低い位置から少しだけ上へ滑らせ、また下へ戻す形を加えます。このとき、唇の回転を速くしようとしないでください。音程が上がれば唇の振動の感触が変わることはありますが、外から見える口の形まで急に小さくなる必要はありません。上がる途中で首の前が前へ出る、あごが持ち上がる、肩が固まるなら、音程を作るために息の圧を足している状態です。動かす幅を半分にして、同じ口の形で往復できる範囲を探します。
高いほうへ行くときに途切れる場合、「もっと強く吹く」ではなく、戻る位置を少し高くします。たとえば低い地点から高い地点まで大きく移動していたなら、低い地点を少し上げ、移動距離を短くします。これは逃げではありません。急な段差を越えようとして圧を跳ね上げる動作を取り除き、一定の流れで通れる通路を見つける作業です。唇が続く範囲が見つかったら、毎回の幅はそのままにして、開始位置だけを半音程度ずつ変えます。一度に幅と高さを変えると、どちらが圧の乱れを起こしたか分からなくなります。
音程を上げる直前に息を吸い直すと、上昇に必要な操作と、吸った勢いが混ざります。上へ行く途中で苦しくなるときは、途中で息を追加せず、一度止めてから短い範囲でやり直します。ただし、同じ形を繰り返して押し上げ続けるのではなく、幅、開始位置、吸う量のうち一つだけを小さく変えます。変数を一つにすると、唇の停止がどの操作と結びつくかが見えます。リップトリルは高音を直接作る練習ではなく、高くなっても圧を急変させない経路を探る練習として使えます。
声を重ねる前に無音の流れを残す
唇が安定して震えるようになると、すぐに大きな声を重ねたくなります。しかし、声を足した瞬間に振動が止まるなら、唇の動きが悪化したのではなく、声を鳴らすための圧を一気に上げたことが考えられます。そこで、無音の「ブルル」を二秒行い、次の一回だけ、ごく小さな「ウ」の高さを重ねます。唇の前へ手のひらを置き、無音の回と声を重ねた回で、手に当たる風が急に強くならないかを比べてください。声を出すほうだけ風が強くなるなら、声量より圧の追加が先に起きています。
声を重ねるときは、口の中で母音を大きく作ろうとしないことも重要です。「ウ」を選ぶのは、口を横へ広げず、あごを大きく下げずに続けやすいからです。舌の奥を無理に下げたり、喉を広げようとしたりする必要はありません。口の中の形を大改造すると、息の出口が変わり、トリルの情報が読み取りにくくなります。外から見える条件をほぼ同じにし、声の有無だけを変えると、声が加わったときの圧の変化を把握できます。響きの評価より、唇の振動が保たれるかを基準に置きます。
もし声を重ねると必ず止まるなら、声の高さを下げるか、長さを一秒へ短くしてください。無音で続く長さを越えて声を出そうとすると、必要以上に息を押し出してしまいます。小さく始め、唇の振動が保てる声量を探すほうが、後から音量を増やす土台になります。逆に、無音では続かず声を重ねると続く場合もあります。この場合は、声が少し出口の抵抗を作って圧を整えていることがあります。どちらにしても、続いたかどうかだけでなく、前後であごと首の動きが増えたかを見て、余分な力を見逃さないようにします。
続かない日に調整する順番
同じ長さのトリルが日によって続かないことは起こります。その日に無理に前日の長さへ合わせると、息を強くし、唇を締める方法で帳尻を合わせやすくなります。調整は、最初に長さ、次に音程の幅、最後に声の有無の順で行います。二秒が続かない日は一秒にする。一定の高さが揺れる日は上下への移動を入れない。無音が不安定な日は声を重ねない。この順番なら、より複雑な要素を早く足しすぎずに済みます。私がこの場面でまず確認したいのは、できない理由を気合いで埋めようとしていないかです。
反対に、安定している日に長時間続けすぎることにも注意が必要です。リップトリルは唇が楽に見えるため、息を出し続ける練習になりがちです。十秒を何度も続けるより、短い振動の前後で、肩が上がらず、首が前へ出ず、あごが跳ねないことを確かめるほうが目的に合います。短い反復の間に鼻から吸い、吐き終わりまで待ってから次を始めると、焦って圧を重ねることを防げます。疲れの感覚が出たら、その日の課題を長さではなく均一さの確認へ戻します。
練習中に唇の片側だけが止まるとき、左右差を力で直そうとしないでください。口角の高さ、あごの向き、頬への指の触れ方を鏡で見て、外側の形が左右で違っていないかを確かめます。それでも差が続くなら、唇を動かす練習へ固執せず、無音の息で同じ出口を保てるかに戻ります。差が出なければ、唇そのものを原因に決めず、声を乗せる局面での舌や首の動きなど、別の原因を確かめます。調整の順番を持つと、続かない日を能力不足の証拠にしなくて済みます。
力が抜けた状態を会話と歌へつなぐ
リップトリルで確認したい状態は、唇を震わせている間だけの技術ではありません。短く均一に空気を流せたら、唇を離し、同じ高さで小さく「ウ」と言ってみます。そのとき、トリルの直後より首が前へ出る、肩が上がる、あごが大きく落ちるなら、言葉に替えた途端に別の押し方へ戻っています。トリルを何回も続けるより、一回のトリルと一回の母音を交互に置くと、脱力の感覚を話す声や歌声へ渡しやすくなります。移行直後の動きが増えないことを、外から見える基準にします。
歌詞へ進む場合も、いきなり子音の多い言葉へ移らず、一つの母音で短い音を出してから言葉を足します。子音を明瞭にしようとして口を急に閉じたり開いたりすると、息の圧が断続的になり、トリルで整えた流れが見えなくなります。文章を読む場合は、文頭の一語だけを小さく言い、その直前のあごの位置がトリル中と大きく変わらないかを確かめます。声量は後から増やせますが、出だしの圧が跳ねる癖は、声量を上げるほど隠れにくくなります。
喉に痛みがある、または声枯れが続く場合は、練習で押し切らず耳鼻咽喉科へ相談してください。リップトリル中に違和感が強まるなら、振動を続けることを目標にしないことが大切です。力が抜けた状態は、何も感じない状態ではなく、必要以上の圧を加えずに声を通せる状態です。唇の振動を手がかりに、強さ、長さ、音程を一度に増やさない。そうすると、続かなさを唇の弱さと決めつけず、息の圧という操作できる要素として扱えるようになります。
よくある質問
- Q. リップトリルは震えを長く続けられるようにする練習ですか
- それ自体が目的ではありません。震えが続くかどうかより、震わせている間に喉や顎の力が抜けているかを確認するための練習として使ってください。
- Q. マスクをつけたまま声が届きにくいのは、声量が足りないからですか
- 声量だけの問題とは限りません。マスク越しだと言葉の輪郭がこもりやすいので、大きさを足すより息を前に通すほうが届きやすくなることがあります。
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詳しいプロフィール →声が小さい・通らない人へ。大きい声を出さずに改善する方法
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