授業で声が枯れる原因。長く話しても喉に集めない声の使い方

授業で声が枯れる、後半に声が出にくい、聞き取りにくくなる原因を、声量ではなく息と区切りから整理します。

奥津ユキ

一日中教壇に立つ仕事をしていると、1限目の声と5限目の声がまったく別物になっている、という相談をよく受けます。声質を変えようとする前に、まず疑ってほしいのは、長い説明を一息で押し切り、喉だけで音量を作ろうとする癖です。教室のどこに座っている生徒にも届く声は、大声を張ることではなく、話し出す前の準備で決まります。

朝は平気なのに、5限目になると声が持たなくなる仕組み

朝いちばんの授業では普通に出ていた声が、午後になるにつれて掠れてくる。教室の一番後ろの席まで届かせようとして、後半にいくほど苦しくなる。板書をしながら話すと、途中で息継ぎが追いつかなくなる。こうした崩れ方には、実は共通の原因があります。

次の一文で考えてみます。

「ここで大切なのは、次の三つです」

この一文を勢いだけで押し出すと、声はほぼ確実に喉から立ち上がります。チョークを持つ手を止めずに言葉を整えようとしても、その手前で息が止まっていれば、第一声は硬いままです。逆に、声にする前にひと呼吸だけ体の前側に通しておくと、同じ一文でも立ち上がり方が変わります。

奥津ユキ
奥津ユキのミニコメント

声の印象は音量だけでは決まりません。話し出しの入り方、息の流れ、語尾の残り方、そして間の取り方。この四つが揃うと、同じ一文でも教室のいちばん奥まで届き方が変わります。

声量を足すより、話し出しの入り方を直します

後半になるほど声が掠れて届きにくくなる時、多くの先生はまず声量を足そうとします。けれど、最後まで大きな声で押し通すと、喉のあたりに力が集まり続け、次の言葉がますます出しにくくなるという悪循環に入ります。

見るべきは声の大きさではなく、最初の一音がどこから始まっているかです。喉の奥からいきなり立ち上がる声は、その後の言葉も奥にこもったままになりがちです。反対に、息の流れに最初の音を乗せて出すと、声全体が自然に前へ抜けていきます。

「ここで大切なのは、次の三つです」を声にする前に、まず口を開く準備だけをします。次に、声にせず短く息だけを流します。そのうえで、同じ息の流れに一文を乗せて出します。この三段階を踏むと、自分が喉で押しているのか、それとも息に声を乗せられているのかがはっきり分かります。

教壇に立つ声を、息・喉・体の三か所で点検します

一つ目は息です。声を出す前に息が止まっていると、第一声は硬くなります。大きく吸い込もうとするより、短く吐いてから話し始める流れをつくってください。吸い込みすぎると胸や肩が上がり、かえって体が固まります。

二つ目は喉です。喉で押した声はその瞬間だけ強く聞こえても、長時間の授業では持ちません。声を大きくする前に、喉の奥を締めずに出せる小さな声を確認してください。小さい声で詰まるようなら、大きくした時の負担はさらに増えます。長時間しゃべっても枯れにくくする感覚として私がよく伝えるのは、横隔膜のあたりをスライムのようにそっとつまみ出す感覚です。声を出す前も出したあとも、このつまんだ感覚を抜かずに保っておくと、喉だけで持たせようとする力みが減ります。

授業で声が枯れるのは教える仕事だから仕方ない、と受け止めている先生も多いのですが、私はそう思いません。ずっと話し続ける仕事であることは変わらなくても、枯れるかどうかは喉と体の使い方の問題です。話し方の癖を整えれば、同じ一日話し続けても喉に残る負担は変わってきます。

三つ目は体です。首、肩、あご、舌の付け根がこわばっていると、息が流れていても声が前に出ません。姿勢を作り込む必要はありませんが、足の裏を床につけて首の後ろを少し長く保ってから話すと、喉だけに頼っている癖に気づきやすくなります。

同じ一文を条件を変えて録音し、聞き比べます

練習には「ここで大切なのは、次の三つです」だけを使います。毎回違う文で練習すると、声が変わったのか文が変わっただけなのかが分からなくなるからです。同じ一文で、話し出し、息、語尾の三点を録音で比べます。

聞き返す時、話し方の巧拙は判定材料にしません。最初の音が急いでいないか。途中で息が止まっていないか。語尾が落ちていないか。喉が詰まって聞こえないか。この四点だけを確認します。

一回目は普段通りに読みます。二回目は声にする前に短く息を流してから読みます。三回目は語尾の一音まで息を保ったまま終えます。三つを聞き比べると、声量を上げなくても届き方が変わるポイントが見えてきます。

録音を聞く基準は好みではなく、話し出しの順番です

録音を聞くときに声の好き嫌いを判定し始めると、そこで練習が止まってしまいます。まず耳を向けるべきは話し出しの部分です。言葉が急に飛び出していないか、息が止まったまま喉で声を作っていないか、ここを確認します。

続いて、息を流してから話しているかを聞きます。練習文の前に小さく息だけを出してから本文を読むと、力を込めずとも声が前へ運ばれていきます。これを怠って息を止めたまま話し出すと、声は喉のすぐそばに留まったままになり、文の終わりも一緒に沈みます。

最後に、語尾まで声が残っているかを聞きます。これは語尾を伸ばすという意味ではありません。最後の一音まで息が切れずに続いているか、投げ出すように終わっていないかの確認です。語尾が残っていると、教室の奥まで届いた印象がぐっと強くなります。

大教室でも少人数の面談でも、確認する順番は変わりません

声の悩みは場面によって形を変えます。大教室では声が届かず小さく感じられ、前列に近い生徒には逆に強すぎ、板書をしながら話すと語尾が流れていく。それでも、確認する順番自体は共通しています。話し出し、息、喉、体、語尾、間、この並びです。

場面ごとに違う技を増やそうとすると、何を直しているのか自分でも分からなくなります。まず同じ一文で息が流れているかを確認し、次に喉で押していないかを見て、最後に語尾まで同じ質感で残っているかを確かめる。この順番を崩さなければ、授業のどの場面にも同じように応用できます。

とりわけ大切なのは、声を出すその瞬間より前の時間です。崩れの多くは、話している最中ではなく、話す前の準備段階でもう決まってしまっています。気が急いている、息を吸ったきり止まっている、肩がわずかに上がっている、喉のあたりを先にこわばらせている。こうした状態のまま声を出発させると、途中から立て直すのはかなり骨が折れます。

授業中、話し出す直前にできる小さな整え

授業前に長い発声練習をする必要はありません。必要なのは、声を出す直前のごく小さな確認です。息を止めていないか、あごが固まっていないか、肩が上がっていないか、語尾まで言い切る準備ができているか。これだけの確認でも、第一声はかなり変わります。

慣れてきたら、声の大きさではなく、言葉をどこに置くかを意識してみてください。自分の喉の中で鳴らすのではなく、教室の一番後ろの机の上に言葉を置くようなイメージです。力任せに投げるのではなく、息の流れに乗せて前に運ぶ。これができると、声を張らなくても届き方が安定します。

練習しても変わらない時は、声ではなく前提を疑います

いくら練習しても変化が出ない時、原因は声の才能ではなく、練習の前提条件がずれていることがほとんどです。話す前に急いでいる。息を吸いすぎて胸が硬くなっている。教室の隅まで届かせようとして喉が上がっている。語尾を最後まで聞かずに次へ進んでいる。こうした小さなずれが、届き方を大きく変えてしまいます。

長時間話しても喉だけに負担が集中しない状態を目指すなら、最初から完成した声を求めない方がうまくいきます。まずは短い一文だけで、喉が軽いか、息が続いているか、録音で前に出ているかを確かめてください。授業が詰まっている週だけ長く練習するより、短い時間を同じ条件で続けるほうが、変化を再現しやすくなります。

喉が痛んだり、いつもと違う違和感を覚えたりする日は、発声の練習量を増やそうとしないでください。水を飲む、しっかり休む、声を控えめにする、といった判断も時には必要です。声を育てる努力と、喉の不調に目をつぶって押し通すことは、まったく別の行為です。

話し終えたあとの余白まで聞いてください

声の練習では、声を出しているその瞬間だけに耳を向けがちです。けれど授業で本当に大切なのは、話し終えたあとに生徒が言葉を受け取るための余白が残っているかどうかです。文末が唐突にしぼむと、話の中身が合っていても頼りない印象になります。逆に最後まで息の支えが残っていれば、たった一文でも安心して耳を傾けてもらえます。

確認する時は、最後の一音のあとに半拍だけ黙ってみてください。その半拍の間に、喉が苦しくないか、息が完全に止まり切っていないか、肩が上がっていないかを見ます。ここまで聞くと、声を出している最中の癖だけでなく、話し終わりの癖まで見えてきます。

日常で使う声は、特別な発声練習だけでは変わりません。短い一文を、同じ条件で、無理なく再現できることのほうが重要です。強い声を一度だけ出すより、軽い声を何コマも同じように出せるほうが、実際の授業では役に立ちます。

短い言い換えで、癖が出ていないかを仕上げに確認します

練習文に慣れてきたら、似た長さの別の言葉でも確認します。「進めます」「確認します」「ここまでいいですか」のような、授業でよく使う短い言葉を選んでください。短い言葉ほど、話し出しと語尾の癖がはっきり出ます。

練習の手順は、まず普段通りに声に出す。次に、息を流してから話す。最後に、語尾まで声を残す。この三回を録音すれば、どこで声が変わったかが見えてきます。変化はわずかでも構いません。喉の負担が減り、教室の奥まで届く位置が少し手前に寄っていれば、その方向を練習として残してください。

回数を増やすより、再現できる条件を残します

声を変えたいと思うほど、たくさん練習したくなるものです。ただ、崩れた条件のまま回数だけ重ねると、喉で押す癖がかえって強くなることがあります。短く、同じ一文で、同じ順番を確認するほうが、良い変化を残しやすくなります。

一回ごとに、息・喉・体・語尾・間のうち、どれが変わったかを一つだけ見るようにしてください。まとめて全部を手直ししようとすると、逆にわざとらしい声になってしまいます。息を止めていないかをまず確かめ、喉で押していないかを次に確かめ、語尾がきちんと残っているかを最後に確かめる。この順で一つずつ見ていくだけで、声の印象は少しずつ落ち着いていきます。

録音は一回で十分です。喉が軽く、語尾まで声が残っている条件を見つけたら、次の授業でも同じ基準で使ってください。

まとめ

授業で声が枯れて困っている時は、声質や気合いの問題として片付けない方がよいです。長い文を一息で押し切り、喉だけで音量を作ろうとしていないかを確認し、話し出し・息・喉・体・語尾・間の順番で整えてください。

練習は「ここで大切なのは、次の三つです」を録音するだけで十分です。普段通りに読む、息を流してから読む、語尾まで残して読む。この三つを聞き比べれば、どこで声が崩れているかが見えてきます。長く話しても喉だけに負担が集中しない状態をつくるには、大きな声よりも、同じ条件で再現できる声を育てることが近道です。

よくある質問

Q. 授業 声が枯れるの原因は何ですか
声質だけでなく、声を出す前に息が止まること、喉で押すこと、体が固まることが関わります。
Q. すぐできる練習はありますか
短い一文を決め、普段通り、息を流してから、語尾まで残す形で録音して比べてください。
Q. 喉に違和感がある時も練習してよいですか
痛みや強い違和感がある時は無理に声を出す練習を増やさず、休息や専門家への相談も考えてください。
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奥津ユキ
書いた人
奥津ユキ

ボイストレーナー。Snow Man、NiziUなど多くの楽曲を手がける作曲家・前迫潤哉氏が主宰するLEVETCH VOCAL SCHOOLにて、ボーカル指導の代表を務める。 何千レッスンもの現場で、歌手・社会人・表現者の声と向き合ってきました。

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