授業で声が枯れる原因。長く話しても喉に集めない声の使い方

授業で声が枯れる、後半に声が出にくい、聞き取りにくくなる原因を、声量ではなく息と区切りから整理します。

奥津ユキ

一日中教壇に立つ仕事をしていると、1限目の声と5限目の声がまったく別物になっている、ということが起こります。原因の見当をつけるのに、難しい理屈は要りません。

視線を黒板の一点に置くと、授業の途中で喉はどうなるか

教室を想定し、説明を始める文を二度言ってみてください。言う文は「では、黒板の右上の図を見てください」です。一度目は視線を手元の机上に置き、二度目は黒板の右上にある一点へ置いて話します。声量、話す速さ、声の高さ、立つ位置、腕の形、言う文はそろえます。変えるのは視線を置く場所だけです。生徒へ向けるつもりで、長く引き延ばさずに言います。

二度目に文の中ほどで首の前が固まりにくくなり、話した後も喉に乾いた引っかかりが残りにくければ成功です。授業では、声を遠くへ送ろうとして喉だけへ力が集まるということが起こります。視線の置き場が定まると、声の行き先も決めやすくなります。ここでは遠くへ飛ばせたかではなく、一文を終えた瞬間に首まわりの力が抜ける余地があるかを見ます。喉の痛みや声枯れが何日も続くときは、練習を足さずに耳鼻咽喉科へ相談してください。差が出なければ、視線よりも、教室の乾燥や長い説明を一息で抱え込む構成が別の原因かもしれません。話す環境と文の長さを確認してください。

朝は平気なのに、5限目になると声が持たなくなる仕組み

朝いちばんの授業では普通に出ていた声が、午後になるにつれて掠れてくる。教室の一番後ろの席まで届かせようとして、後半にいくほど苦しくなる。こうした崩れ方に共通しているのは、長い説明を一息で押し切り、喉だけで音量を作ろうとする癖です。

勢いだけで押し出した声は、ほぼ確実に喉から立ち上がります。チョークを持つ手を止めずに言葉を整えようとしても、その手前で息が止まっていれば、第一声は硬いままです。1限目はそれでも持ちます。ただ、同じ出し方をコマ数のぶんだけ重ねると、負担は喉の一点に積み上がっていき、5限目に引き出せる声が残らなくなります。枯れは午後に起きているように見えて、実際には朝の最初の一声の出し方から始まっています。

やっかいなのは、枯れが枯れを呼ぶことです。掠れた声のまま話すと、無意識にそれを補おうとして喉の力みがさらに増え、翌日の授業はもっと苦しくなります。この連鎖を断つ入口が、最初の一音の出し方です。

声量を足すより、話し出しの入り方を直します

後半になるほど声が掠れて届きにくくなる時、多くの先生はまず声量を足そうとします。けれど、最後まで大きな声で押し通すと、喉のあたりに力が集まり続け、次の言葉がますます出しにくくなるという悪循環に入ります。

見るべきは声の大きさではなく、最初の一音がどこから始まっているかです。喉の奥からいきなり立ち上がる声は、その後の言葉も奥にこもったままになりがちです。反対に、息の流れに最初の音を乗せて出すと、声全体が自然に前へ抜けていきます。

先ほどの一文で確かめるなら、声にする前に、まず口を開く準備だけをします。次に、声にせず短く息だけを流します。そのうえで、同じ息の流れに一文を乗せて出します。この三段階を踏むと、自分が喉で押しているのか、それとも息に声を乗せられているのかがはっきり分かります。

教壇に立つ声を、息・喉・体の三か所で点検します

一つ目は息です。声を出す前に息が止まっていると、第一声は硬くなります。大きく吸い込もうとするより、短く吐いてから話し始める流れをつくってください。吸い込みすぎると胸や肩が上がり、かえって体が固まります。

二つ目は喉です。喉で押した声はその瞬間だけ強く聞こえても、長時間の授業では持ちません。声を大きくする前に、喉の奥を締めずに出せる小さな声を確認してください。小さい声で詰まるようなら、大きくした時の負担はさらに増えます。長時間しゃべっても枯れにくくする感覚として私がよく伝えるのは、横隔膜のあたりをスライムのようにそっとつまみ出す感覚です。声を出す前も出したあとも、このつまんだ感覚を抜かずに保っておくと、喉だけで持たせようとする力みが減ります。

授業で声が枯れるのは教える仕事だから仕方ない、と受け止めている先生も多いのですが、私はそう思いません。ずっと話し続ける仕事であることは変わらなくても、枯れるかどうかは喉と体の使い方の問題です。話し方の癖を整えれば、同じ一日話し続けても喉に残る負担は変わってきます。

三つ目は体です。首、肩、あご、舌の付け根がこわばっていると、息が流れていても声が前に出ません。姿勢を作り込む必要はありませんが、足の裏を床につけて首の後ろを少し長く保ってから話すと、喉だけに頼っている癖に気づきやすくなります。

説明が長くなる単元ほど、息継ぎの場所を先に作っておきます

声が枯れやすかった日を思い返すと、解き方の手順や実験の段取りのように、説明がどうしても長くなる単元が続いた日ではないでしょうか。長い説明は、意味が切れるまで止まれない気がして、一息で押し切りがちです。押し切った分の負担は、そのまま喉に残ります。

対策は、話しながら頑張ることではなく、話す前に切れ目を決めておくことです。手順を三つに割り、一つ言い終えるごとに「ここまでいいですか」と確認の一言を挟む。この確認は生徒の理解のためだけでなく、あなたの息継ぎの場所にもなります。板書が一区切りついた瞬間や、生徒がノートに目を落とした瞬間も、息を入れ直す時間として使えます。授業の中には、黙ってよい数秒が思っている以上にたくさんあります。

出席確認のような短い声の連続も、油断できません。名前を読み上げては返事を待つやり取りは、一つひとつは小さくても、息を止めたまま次々に読み上げると、朝の時点で喉に力みの癖がついてしまいます。返事を待つ数秒で息をそっと吐いておくと、この時間はむしろ喉を整える準備運動に変わります。

録音を聞く基準は好みではなく、話し出しの順番です

録音を聞くときに声の好き嫌いを判定し始めると、そこで練習が止まってしまいます。まず耳を向けるべきは話し出しの部分です。言葉が急に飛び出していないか、息が止まったまま喉で声を作っていないか、ここを確認します。

続いて、息を流してから話しているかを聞きます。練習文の前に小さく息だけを出してから本文を読むと、力を込めずとも声が前へ運ばれていきます。これを怠って息を止めたまま話し出すと、声は喉のすぐそばに留まったままになり、文の終わりも一緒に沈みます。

最後に、語尾まで声が残っているかを聞きます。これは語尾を伸ばすという意味ではありません。最後の一音まで息が切れずに続いているか、投げ出すように終わっていないかの確認です。語尾が残っていると、教室の奥まで届いた印象がぐっと強くなります。

枯れ始めた日の午後は、張り直さずに区切りを増やします

すでに声が掠れ始めた午後に、気合いで張り直すのはいちばん危険です。掠れた声を音量でごまかすと、喉はさらに締まり、翌日まで疲れが残ります。その日のうちにできる立て直しは、一文を短くし、間を増やし、語尾だけは最後まで言い切ることです。声の大きさが半分でも、区切りと語尾が残っていれば、教室での聞き取りやすさは思うほど落ちません。

教室という場所も、喉には楽な環境ではありません。チョークの粉が舞い、エアコンや換気で空気が乾きやすく、乾いた喉は同じ出し方でも掠れやすくなります。授業の合間に一口ずつ水を飲むだけでも、午後の声の残り方は変わります。声の使い方とあわせて、教卓に水を置く習慣も持っておいてください。

喉が痛んだり、いつもと違う違和感を覚えたりする日は、発声の練習量を増やそうとしないでください。水を飲む、しっかり休む、声を控えめにする、といった判断も時には必要です。掠れが何日も戻らない場合は、医師や専門家に相談することも選択肢に入れてください。声を育てる努力と、喉の不調に目をつぶって押し通すことは、まったく別の行為です。

明日の1限目は、チャイムが鳴る前のひと呼吸から変わります

授業で声が枯れて困っている時は、声質や気合いの問題として片付けない方がよいです。長い文を一息で押し切り、喉だけで音量を作ろうとしていないかを確認し、話し出し・息・喉・体・語尾・間の順番で整えてください。

明日の朝、チャイムが鳴ってから最初の言葉を出すまでの数秒で、短く息をひとつ吐いてみてください。そして放課後、「この問題は、来週の小テストにも出します」をもう一度録って、今日の一本と聞き比べます。出だしが力まず立ち上がり、言い終えた喉が軽ければ、5限目の声はもう昨日と同じ枯れ方をしません。

よくある質問

Q. 授業の後半だけ声がかすれるのは、声量不足ですか?
後半にかすれるなら声量より、話す間じゅう喉に力が集まり続けた可能性があります。私は吐く息だけで支えず、吸うときもお腹まわりの圧を急に抜かない点を見直します。
Q. 教室全体に声を広げようとして疲れるときはどうしますか?
教室を埋めようとすると、声を横へ広げる意識で喉を押しやすくなります。私は一点へ飛ばすように息を前へ進め、文末まで同じ押し方を続けないようにします。
Q. 声が枯れた翌日の授業で、ささやき声を使ってもよいですか?
ささやき声は休めるようで息の量が増え、かえって喉を消耗させることがあります。私は無理に話し続けず、痛みやかすれが続くときは耳鼻咽喉科など専門家へ相談します。
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奥津ユキ
書いた人
奥津ユキ

ボイストレーナー。Snow Man、NiziUなど多くの楽曲を手がける作曲家・前迫潤哉氏が主宰するLEVETCH VOCAL SCHOOLにて、ボーカル指導の代表を務める。 何千レッスンもの現場で、歌手・社会人・表現者の声と向き合ってきました。

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