一日の研修を終える頃に声が枯れる講師は、話す量そのものが原因だと思いがちです。ただ実際に負担を作っているのは、時間の長さそのものより、午前中から喉で押して声を作り続けていることのほうが多いです。
長時間の講義でも、締まりは最初の一文と最後の語尾から生まれます
丁寧に説明しているつもりでも、第一声や語尾が場の役割にきちんと合っていないと、受講者には軽く、あるいは頼りなく聞こえてしまうことがあります。受け止める場面、進める場面、締める場面を同じ声色のまま押し通すと、聞き手には印象が薄く残ります。
まず、この場で確かめてください。スマホのボイスメモで、次の一文を読んで録音します。
「ここから、実践の流れを説明します」
一回目は普段どおりに一息で読みます。二回目は、話し始める前に肩を上げずに短く息を吐いてから読みます。聞き比べると、一息で流した一回目は内容まで軽く聞こえ、短く吐いてから話した二回目は同じ言葉でも締まって聞こえます。
声量で乗り切ろうとするほど、後半で崩れます
長時間話して声が枯れるのは声帯がもともと弱いからだ、と思われがちですが、私の実感ではそうとは限りません。実際に枯れている講師の多くは、声が大きすぎたり息を流しすぎたりと、その日の使い方の癖で喉に負担をかけています。生まれつきのせいにする前に、まず使い方を疑ったほうが早く変わります。
研修講師にありがちな失敗は、声量だけで一日を乗り切ろうとすることです。午前中に強く出せても、その押し方はそのまま午後の疲労として残ります。低く作った声も、明るく張った声も、ゆっくり丁寧に読んで間を稼いだつもりの声も、体の準備そのものが変わっていなければ時間が経てば元の状態に戻り、とくに語尾から先に崩れていきます。
まず見るべきは、話し始める前に毎回息が動いているかどうかです。息が止まったまま第一声を出す回数が増えるほど、喉が肩代わりして疲れていきます。重要語の前で吸い直さずに喉だけで強調しようとしていないか、語尾に入るところで息が先に切れていないかも、時間が経つほど差として現れます。
録音は、この三か所で判断します
練習では、長い講義原稿を通しで読む必要はありません。さきほど録音した音源を、上手いかどうかでは判断しないでください。確認するのは三か所です。話し始めの音が小さく入っていないか。受講者に残したい言葉の手前で、ほんの少し間が取れているか。そして「です」「ます」「します」という語尾が、最後まで息を保ったまま終わっているか。長時間押し続けて後半で声がかれる講師ほど、崩れ始めはこの三か所のどこかに現れています。
悪い例は、一文を一息で最後まで流してしまう話し方です。言葉自体は合っていても、語尾の前で息が終わっていれば、声を大きくしても印象は弱いままです。直す例は全部を強く読むことではなく、一文の前に短く息を入れ、重要語の前でほんの少し待ち、最後の音まで息を残すことです。受講者が受け取るべき言葉を、置くべき場所に置く。これだけで印象は変わります。
録音した自分の声に違和感を覚えるのは、自分の中で響いている声と、受講者に届いている声が違うからです。録音は嫌な声を責めるための道具ではなく、この三か所を聞き分けるための道具だと考えてください。好きな声かどうかを判断し始めると、そこで練習は止まってしまいます。
体の準備が、長時間の声を支えます
研修前に長く発声練習をすると、かえって焦ることがあります。直前にやることは少なくて構いません。口を閉じたまま一度息を吐き、肩を上げずに短く息を入れ、声を出さずに冒頭の一文を口だけ動かしてから、最後に小さな声で一度だけ言ってみます。ここで見るのは声の大小ではなく、最初の音が欠けていないか、喉で押していないか、語尾まで息が残っているかの三つです。
声が弱いと感じると、喉を直したくなります。けれど喉に力を入れても声は安定しません。まず足裏が床についているかを見てください。体が浮いていると、息も浮きます。次に胸の向きです。資料やホワイトボード、受講者の反応に意識を取られると胸が閉じ、声が前に出にくくなります。最後に顎と首です。顎が前に出たり首の前側が固まったりすると、最初の一音を喉で押しやすくなります。教室内を移動しながら話す講師の場合は、歩くたびに姿勢と息の準備が崩れやすくなるので、立ち止まる一瞬だけでも足裏の感覚と息の流れを戻す癖をつけてください。
長時間の研修で私がよく伝えるのは、体の前あたりで横隔膜を軽くつまみ出すような感覚を、話している間ずっと保つことです。吐くときだけでなく、次の一文を吸うときもこの感覚を緩めないでいると、喉で締めて声を作る量そのものが減り、午後まで枯れにくくなります。
グループワークの合間に机を回って個別に声をかける講師も少なくありません。その場合、前かがみになって話しかける瞬間に胸が閉じやすく、声が急に小さくなりがちです。膝を軽く曲げて目線だけを合わせ、胸の向きは受講者に正対させたまま保つと、距離が近い会話でも語尾まで息が残ります。
声が崩れる時は、三つが重なっています
研修講師の声の失敗は、一つだけで起きることは少なく、多くの場合は三つが重なっています。話し始める前に息が止まっていること。重要語の前で間を取るのが怖くて急いでしまうこと。そして言い終えた安心から、語尾の「です」「ます」が小さくなること。どれも性格の弱さではなく、第一声、息、喉、体の向き、語尾という体の使い方を見れば直せるものです。
崩れたら、休憩を仕切り直しに使います
研修の途中で声が崩れても、全部を一度に直そうとしないでください。一文を短くする、語尾まで言い切る、それでも崩れるなら次の文の前で一拍置く。この一拍は沈黙ではなく、受講者に言葉を渡す時間です。焦って次の文を重ねるほど、声はさらに浅くなります。
休憩があるなら、そこは声を仕切り直す時間として使ってください。次のセッションの最初に使う一文を一度だけ声に出し、息がきちんと流れているか、喉が疲れていないかを確認します。水分を取ることも大切ですが、水分だけでは喉の力みは取れません。姿勢を戻し、息を短く流し、最初の一文を軽く出す。この三つを毎回セットにしてください。
休憩室に移動する前後の数十秒も、声にとっては仕切り直しの続きです。廊下で誰かに話しかけられて早口で応じてしまうと、教室に戻った時の第一声までその勢いを引きずります。次のセッションに入る直前だけは、会話のテンポを一段落として戻すようにしてください。
練習は、今日使う一文一つで十分です
毎日長く練習する必要はありません。今日の研修で使う一文を一つだけ選び、まず一回録音します。聞く場所は最初の音、重要語、語尾です。同じ一文をもう一度録音する時は、最初の音だけを少しはっきり入れてみます。三回目では語尾だけを残すことに集中します。抽象的な発声練習だけでは本番に移りにくいものが、実際に使う一文で整えると現場で出せる声に変わります。
研修中に声が崩れる講師は、次に何を話すかをその場で組み立てていることが多く、考えながら話すと呼吸のリズムが乱れ、声はどうしても喉に頼りがちになります。だから、区切りに使う言葉、要点に戻る言葉、次に進める言葉の三つだけをあらかじめ決めておきます。「ここでいったん区切ります」「ここは繰り返し使う考え方です」「次のパートに進みます」。この三つがあれば、声を作る前に話の道筋ができ、息も戻りやすくなります。
普段使う一文をそのまま書き出し、余計な説明を削って短くし、声を入れる場所を決めてください。冒頭の一文であれば、最初の音、重要語、語尾の三箇所だけで十分です。全文を完璧にしようとせず、このうち一つでもできれば、声の印象は変わります。教室に立つたびに、この三か所だけを合わせにいく。それが長時間もつ声への一番の近道です。
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長時間の声を別の場面からも確認したい方は、次の記事もあわせてどうぞ。
よくある質問
- Q. 研修講師 声で最初に確認することは何ですか
- 声量ではなく、話し始める前の息、重要語の前の間、語尾まで声が残っているかを確認してください。
- Q. 強く話せば印象は良くなりますか
- 強く押すと喉が固まり、かえって聞き取りにくくなることがあります。息と間を整えることが先です。
- Q. 本番前にできる練習はありますか
- 実際に使う一文を録音し、出だし、間、語尾の三つだけを確認してください。
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ボイストレーナー。Snow Man、NiziUなど多くの楽曲を手がける作曲家・前迫潤哉氏が主宰するLEVETCH VOCAL SCHOOLにて、ボーカル指導の代表を務める。 何千レッスンもの現場で、歌手・社会人・表現者の声と向き合ってきました。
詳しいプロフィール →ウェビナーの声。画面越しに飽きられず聞かれる話し方
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長時間話し続けても声が保つかどうかは、声量ではなく息と語尾の使い方で決まります。