地声の鍛え方。喉で押さず芯のある声を作るボイトレ

地声が弱い、薄い、強く出すと喉が痛い人へ。声量ではなく息と体で支える地声の練習を整理します。

奥津ユキ

地声が薄い、強く出すと喉が痛い、鍛えているのに変わらない。そう感じている方に最初にやってほしいのは、発声練習を増やすことではなく、いま出している地声を一分だけスマホに録ることです。芯が足りない原因は、たいてい声を出す前の段階に録れています。

地声で歌う曲の出だしを、二通りで録音してみてください

地声で歌いたい曲を一曲決めて、Aメロの最初の一行だけをボイスメモに録ります。サビの高い場所ではなく、いちばん気負わずに出せるはずの出だしです。

一回目は、何も準備せず普段通りに歌い出します。二回目は、歌い出す前に口を閉じたまま息を一度短く吐き切り、吐いたときの勢いが残っているうちに、同じ一行を声に乗せます。音量はどちらも上げません。二本を続けて再生してください。

一回目は出だしの一音が喉のあたりから硬く始まり、二回目は同じ音量なのに声の芯が少し前に出て聞こえるはずです。足したのは声量でも力でもなく、声より先に流れている息だけです。地声の芯とは何を指すのか、この二本の差がいちばん短い答えになっています。

大きく強く出すほど鍛えられる、が遠回りの入り口です

地声を太くしたい気持ちが強いほど、いきなり大きな声や低い音域で練習したくなります。ですが声は力任せに出すことでは育ちません。喉で押した声を繰り返すほど、押すという動作そのものが体に染みつき、練習した分だけ癖が強化されます。

確かめる順番を固定してください。息、喉、体、録音の四つです。息が止まっていないか。喉の力で音を作っていないか。肩や胸、顎がこわばっていないか。そして録音で聞いて、同じ状態を翌日も再現できているか。太さも響きも、この四つが揃った後についてくる結果であって、最初に狙いにいく目標ではありません。

奥津ユキ
奥津ユキのミニコメント

地声は生まれつきの太さで固定されてはいません。息の流し方と体の支え方を変えれば、出し方ごと変えていけます。

低く作るほど、地声は扱いにくくなります

地声が低くて重いのは生まれつきだから仕方ない、と諦めている方をよく見かけます。私の実感では、むしろ逆で、低さを保とうと押し下げていることが扱いにくさの原因になっているケースが多いです。

無理に低さを守ろうとせず、ほんの少しだけ高めの位置に音を置いてみてください。声そのものを作り替えるわけではなく、置き場所をわずかに変えるだけです。それだけで息が乗りやすくなり、同じ地声でも軽く前に出るようになります。太い声への近道が、実は少し高めの位置にある。地声のトレーニングでいちばん見落とされている点だと思います。

カラオケでも同じことが起きます。原曲のキーにこだわって、届いてはいるものの押し下げたような地声で一曲を通すより、キーを一つ二つ調整して、息の乗った地声で歌い切るほうが、聞いている側にはよほど太く安定して届きます。原キーは目標として残しておけばよく、練習の土台にする必要はありません。楽に鳴る高さで支えを育ててから、半音ずつ原キーへ戻っていくほうが、結局は早く着きます。

息のスピードが、芯の正体です

冒頭の実験で二回目にやった、吐き切ってから声に乗せる動作をもう少し丁寧に分解します。

息のスピードは自転車をこぐ感覚に近いものです。ゆっくりこげばふらついて倒れそうになり、ある程度スピードが乗れば勝手に安定して進みます。声も同じで、息をそっと出すと支えが甘くなり、勢いよく吐き切るとその流れの上で声のほうが自走してくれます。合図なしに吸って、一気に短く吐き切る。この動作を数回繰り返してスピード感を体に覚えさせてから、同じ勢いのまま声に変えます。

手順やること確かめる点
1口を閉じて息だけを短く吐き切る肩や胸がこわばっていないか
2音量を絞って地声を出す喉に頼っていないか
3Aメロの一行を録音する出だし・息・語尾が保たれているか

三段階目まで必ず言葉とメロディの形にしてください。単発の発声で終わらせると、うまくいった感触が記憶にしか残らず、翌日確かめる材料が消えてしまいます。

出だしにAメロを選んでいるのにも訳があります。サビで確かめようとすると、高さへの気負いと力みが混ざって、息の状態だけを切り分けて見られなくなるからです。気負いの入らない高さで息と声の関係を作り、その関係を保ったままサビへ持ち上げていく。芯のある地声は、曲のいちばん低い温度の場所から作り始めるほうが確実です。

張らない日の録音ほど、癖がよく見えます

太さが出ないと焦ると、音量で押し切りたくなります。ですが喉に頼ったまま音量を足しても、上乗せされるのは負担だけです。むしろ声を張ることをいったんやめてみてください。

音量を絞ると、普段は声量の陰に隠れている癖が表に出ます。息がどこで止まるか、喉のどこに力が集まるか、語尾がどう尻すぼみになるか。小さな声で崩れる地声は、大きくしても崩れたままです。声量は癖を隠す化粧のようなもので、落としてみて初めて素の支えが確かめられます。絞った音量で出だしから語尾まで崩れずに歌えるようになってから、段階的に音量を戻す。この順番を守ると、張った声にも芯が残るようになります。

録音を聞き返すときも、全体の良し悪しをまとめて評価しないでください。聞くのは変わった箇所だけです。出だしが楽に始まったか、途中で息が切れなかったか、語尾が保たれたか。昨日より一つでも楽になっていれば、その日の練習は成立しています。

カラオケの直前は、温めるより確かめます

カラオケや合唱の本番前に、これから地声を使うからと大声で一気に温めようとする方がいます。体が冷えたまま音量を上げると、喉で押し込む入り方がかえって強まります。

直前に必要なのは発声練習ではなく確認作業です。最初に歌う曲の出だしを、まず声を出さずに口の動きだけでなぞります。次に、ごく小さな声で一度だけ実際に歌ってみて、喉が軽く動くかどうかだけを見ます。本番前の数分で喉を大声で削らないこと。それが、最後の一曲まで地声が持つかどうかを分けます。

一週間、同じ一行と同じ音量で比べます

日によって違う練習を試すと、何が効いたのか分からなくなります。最初の一週間は、冒頭で選んだAメロの一行と、楽に出せる音量だけで通してください。

毎日テーマを一つに絞ります。今日は息だけを見る、明日は喉の力みだけを見る、次の日は語尾だけを録音で聞く。メニューを足したくなったら、逆に一つ引くくらいでちょうどよいです。項目が増えるほど、どれが効いたのかは見えなくなります。

一週間分の録音がたまると、自分がどこで崩れやすいかがはっきりします。出だしで硬くなる人、中盤で息が切れる人、語尾で喉に力が戻る人。崩れる場所が分かって初めて、練習量を増やす意味が生まれます。安定してきたら、音量か音の高さのどちらかだけを少し動かします。両方いっぺんに動かさないことが、崩れずに広げるこつです。

喉をかばう判断も、鍛え方のうちです

痛みがある、かすれが強い、休んでも戻らない。そういう状態で練習を続ける必要はありません。量で押し切ろうとせず、専門家へ相談する判断も選択肢に入れてください。

違和感のある日にできることも残っています。音量を上げない、高い音や低い音に挑まない、長く伸ばさない。息の吐き切りと口の動きの確認だけにとどめる。かばうことは怠けることではなく、地声を何年も使い続けるための技術の一つです。

強い声を一度出せた日より、軽い声しか出さなかった日のほうが、後から効いてくることも珍しくありません。喉の状態が良いまま一週間を通せれば、録音の比較がずっと正確になるからです。無理をした一日は、その日の録音だけでなく、翌日以降の比較材料まで濁らせます。

芯のある地声は、力を抜いた録音の中から育ちます

強い声を一度出せることより、必要な声をいつでも同じように出せることのほうが、地声の実力としては上です。頭の中で聞こえている自分の声と、外に届いている声は別物で、その差を埋める道具が録音です。

今日録った二本のうち、息を吐き切ってから歌った側の感触を明日も再現してみてください。翌日も、その翌日も同じ楽さで出せたなら、それがあなたの地声の新しい土台です。芯は力んだ一発の中ではなく、力を抜いても崩れなかった録音の積み重ねの中に育っていきます。

よくある質問

Q. 地声 鍛え方では何から始めるべきですか
最初は声量や高音より、息が止まっていないか、喉で押していないか、録音で再現できるかを確認してください。
Q. 毎日練習した方がいいですか
短い練習を続けるのは有効です。ただし喉に痛みや強い違和感がある日は無理に続けず、練習量を落としてください。
Q. 録音は必要ですか
必要です。自分の中で聞こえる声と相手に届く声は違うため、録音で入り、息、語尾を確認します。
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奥津ユキ
書いた人
奥津ユキ

ボイストレーナー。Snow Man、NiziUなど多くの楽曲を手がける作曲家・前迫潤哉氏が主宰するLEVETCH VOCAL SCHOOLにて、ボーカル指導の代表を務める。 何千レッスンもの現場で、歌手・社会人・表現者の声と向き合ってきました。

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