通る声の作り方。張らずに相手に届く声を体から変える

大きな声を出すと喉が先に疲れてしまう人へ。通る声は気合いではなく、息・声帯・響き・語尾という順番で体から組み立てられます。今日から試せる作り方を紹介します。

奥津ユキ

声を届けたい場面で「もっと大きく」と自分に言い聞かせるほど、喉に力が入って早く疲れてしまう。そんな経験がある人は、声を大きくする方向ではなく、声を組み立てる順番のほうを見直してみてください。通る声は才能や性格ではなく、いくつかの部品を正しい順で重ねてできあがるものです。

通る声は「張る」ものではなく「組み立てる」ものです

通る声というと、腹の底から声を絞り出すような気合いのイメージを持たれがちです。ですが実際に私が見ているのは、もっと地味な四つの部品です。息をどれくらいの速さで流しているか。声帯をどのくらいの加減で閉じているか。響きをどこへ通しているか。そして語尾まで息が保たれているか。この四つを土台から順に積み上げると、声量を意識しなくても声は自然と前へ伸びていきます。

逆に、この順番を飛ばしていきなり音量だけを足すと、力の逃げ場は喉しかなくなります。喉に負担をかけた声は近くでは大きく聞こえても、少し離れるとかえって輪郭を失い、聞き手には威圧的か、あるいは頼りない声として届いてしまいます。

奥津ユキ
奥津ユキのミニコメント

通る声は、喉から絞り出す量ではなく、体の下から積み上げる順番で決まります。焦って音量から手をつけないでください。

作り方1. まず息の速さを決めます。量より速さです

声を届ける力の出どころは、肺活量の大きさではなく息の速さです。ゆっくり細く出す息の上に声を乗せようとすると、声はその場でとどまってしまいます。反対に、息を勢いよく流したところに言葉を乗せると、力を込めなくても声のほうが前に運ばれていきます。自転車のペダルを想像してみてください。踏む速さがのろいうちは倒れないよう気を張っている状態ですが、ある速さを超えた瞬間、車体はふっと安定して自分から進み始めます。声もこれと同じで、遅い息のまま声量だけ足そうとするほど不安定になり、息の速さを先に上げてしまえば、声はその上に軽く乗るだけで届きます。

作り方2. 声帯の締め方を、強すぎず緩すぎずに合わせます

息の速さが整ったら、次に見るのは声帯の閉じ方です。ここを締めすぎると喉声になって長くは持たず、逆に緩すぎるとかすれた息もれの声になって遠くまで伸びません。私がよく伝えるのは、声帯を真横に締めるのではなく、前方向へわずかに伸ばすように使う感覚です。締めるという意識のままだと力の入れどころを間違えやすいので、伸ばす・斜めにするという言い方に置き換えるだけで、通りの良い声に近づく人が多くいます。

作り方3. 響きの通り道を、鼻の奥にひらいておきます

声帯までの準備が整っても、響く場所がふさがっていると声はこもって聞こえます。口先だけで発音しようとすると、音は口の中で止まりやすくなります。私が勧めているのは、鼻の奥、口の天井のさらに奥の部分をふわっと持ち上げる意識です。ハミングで軽く鼻を鳴らしてから同じ言葉を話すと、それだけで声の芯が鼻腔側に抜けていく感覚がつかみやすくなります。ここで注意したいのは、意図して鼻にかけようと力むのではなく、口角を軽く上げるだけで自然にその通り道が開くという点です。力を入れて作った鼻声はかえって不自然に響きます。目安は、電話でこもって聞こえがちな声が、口角を軽く持ち上げただけで急に輪郭を取り戻す感覚です。特別な発声法ではなく、日常の表情の作り方に近いものだと考えてください。

作り方4. 語尾まで息を残し、最後の一音を落とさないようにします

ここまでの三つが整っても、文の終わりで息が切れてしまえば、聞き手の耳には最後だけ弱く頼りない声として残ります。上手に話す人ほど一音一音は短く、だらだらと伸ばしません。音を短く切ることで、次の音のためのブレスの余地が生まれ、結果として語尾まで息が持続します。長く伸ばして粘る話し方は、一見丁寧に見えて実際には息を使い切ってしまい、肝心の語尾で失速する原因になります。

急いで音量から作ろうとすると、たいてい三つの崩れ方をします

四つの部品を飛ばして声量だけを足そうとすると、決まって同じ崩れ方が起こります。

ひとつ目は、話し出す前に息を止めてしまうことです。止まった息の上に第一声を乗せようとするため、出だしの音が硬くなり、聞き手には身構えた声として届きます。

ふたつ目は、途中で息の速さが落ちることです。話し始めは勢いがあっても、文の半ばで息が細くなり、後半の言葉が急に近くで止まったように聞こえてしまいます。

三つ目は、語尾より先に気持ちがゴールしてしまうことです。言い終えた安心感が先に来て、最後の一音が置き去りになります。

どれも根性や性格の弱さではなく、息・声帯・響き・語尾のどこかで手順が抜けているだけです。抜けている箇所さえ見つかれば、そこだけ直せば十分です。

今日、家で1分だけできる確認練習

道具は要りません。息を大きく吸い、強制的に速く吐き切る動作を三回繰り返します。これだけで、ふだんどれだけゆっくりした息で話しているかに気づけます。

慣れてきたら、速く吐き切った直後に短い一言を乗せてみます。声量を変える必要はありません。息の速さだけを保ったまま声を出し、出だしの音が欠けていないか、語尾まで息が残っているかをスマホで録音して確認します。うまく言えたかどうかより、四つの部品のうちどこが整い、どこがまだ抜けているかを聞き分けることに使ってください。

管理組合の総会で、司会を任された日に組み立てる

マンションの管理組合の総会で司会を任されたとします。会場は集会室ほどの広さでも、住民の私語や資料をめくる音が混ざり、後ろの席まで声が届いているか不安になる場面です。

「それでは、次の議題に移らせていただきます」

この一言を、いきなり声量で押そうとすると、声は硬くなって近くの席にだけ響き、後方には音の芯が届きません。先に息を速く流し、声帯を伸ばす感覚を保ち、鼻の奥に響きを通し、語尾の「す」まで息を残す。この四段階を順番に整えてから同じ音量で言うと、無理をしていないのに後方の私語まで静まる瞬間が作れます。議事を進める途中で声が浅くなってきたと感じたら、次の議題に移る前だけ一拍間を置いてください。その間は聞き手が内容を受け取るための時間であり、焦って次の言葉を重ねるほど声はかえって浮ついていきます。

結婚式の乾杯の音頭を任された時の30秒仕上げ

友人の結婚式で乾杯の音頭を頼まれる場面もよくあります。披露宴会場はBGMや歓談の声で賑やかで、マイクがあっても緊張から声が浮ついてしまいがちです。

「それでは、皆さま、ご唱和をお願いいたします」

本番の直前にできるのは長い発声練習ではなく、30秒ほどの短い仕上げです。口を閉じたまま息を一度吐き切り、肩を上げずに短く吸い直し、声には出さずにこの一言を口の形だけでなぞります。最後に小さな声で一度だけ実際に発声し、出だしの音が欠けていないか、語尾まで息が残っているかだけを確認します。音量を確かめる必要はありません。

録音で確認するのは、うまさではなく積み上げの順番です

自分の声を録音して聞くと、多くの人が違和感を覚えます。これは声そのものが悪いからではなく、普段自分の中で骨を通して聞こえている響きと、外に出て相手に届いている音が違うために起きる自然な現象です。録音を評価に使うのではなく、四つの部品がそろっているかを確認する道具として使ってください。息の速さは保てていたか。声帯は締めすぎでも緩すぎでもなかったか。響きは鼻の奥まで通っていたか。語尾まで息は残っていたか。この四点だけを聞き分ければ十分です。

通る声は、キャラクターを変えることではありません

通る声を目指すと、つい別人のように明るく大きな声を演じたくなります。ですが必要なのは声のキャラクターを変えることではなく、いつもの自分の声のまま、息・声帯・響き・語尾という四つの部品を正しい順で積み上げることです。総会の司会でも、結婚式の乾杯でも、日常のちょっとした場面でも、この積み上げ方さえ体に入れば、声を張り上げる必要はなくなっていきます。四つすべてが一度にそろわなくても構いません。息の速さだけ上げられた、声帯が締まりすぎなかった、鼻の奥に響きが通った、語尾が消えなかった。このうちどれか一つでも実現できれば、その日の声は昨日までと違うものになっています。今日どれか一つの場面で、この四段階を順に試してみてください。

無料動画講座では、声量だけに頼らず、息・声帯・響き・語尾を整えて、日常の場面で届く声を作る方法をお伝えしています。

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よくある質問

Q. 通る声は生まれつきの声質で決まりますか
声帯の形そのものは変えられませんが、通る通らないを分けているのは声質より息の使い方・声帯の締め方・響きの通り道です。ここは順番に組み立てれば変わります。
Q. 通る声を作るのに毎日の発声練習は必要ですか
長時間の発声練習より、今日実際に使う一言を材料にして息・声帯・響き・語尾の四か所を確認するほうが、体感としてつながりやすいです。
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奥津ユキ
書いた人
奥津ユキ

ボイストレーナー。Snow Man、NiziUなど多くの楽曲を手がける作曲家・前迫潤哉氏が主宰するLEVETCH VOCAL SCHOOLにて、ボーカル指導の代表を務める。 何千レッスンもの現場で、歌手・社会人・表現者の声と向き合ってきました。

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