通る声の作り方。張らずに相手に届く声を体から変える

大きな声を出すと喉が先に疲れてしまう人へ。通る声は気合いではなく、息・声帯・響き・語尾という順番で体から組み立てられます。今日から試せる作り方を紹介します。

奥津ユキ

「資料をお渡しします」と言うとき、一度目は口の中を狭くするように上下の奥歯を近づけて言ってみてください。次に、上の奥歯と下の奥歯の間を指一本分あけて、同じ文を言います。声量は変えず、変えるのは口の中の空間だけです。一度目と二度目で言葉の輪郭や息の抜け方が変わるなら、届きにくさは音量不足だけではありません。差が出なければ、口の空間ではなく舌の位置や文末の息が別の原因です。

通る音は大きさと別に考える

通る声という言葉から、強く張った声や大きな声を思い浮かべるかもしれません。しかし、必要な相手へ言葉が届くかどうかは、音量だけでは決まりません。大きくしても、息と音が広がりすぎれば、近くでは圧があるのに少し離れると語尾が見えにくいことがあります。反対に、音がまとまって前へ進むと、静かな声でも言葉の始まりと終わりが残ります。ここで扱いたいのは、音を遠くに飛ばす特別な力ではなく、発した音を途中で散らさない使い方です。大声を出すと首の前や肩が固まりやすい人は、音を前へ送る前に体で押している可能性があります。「通す」ことを努力量の問題にすると、呼びかけるたびに疲れます。私がこの場面でまず確認したいのは、声の大きさが足りないかではなく、話し始めた音がどこでほどけているかです。口の中、唇の前、文末という三つの場所を分けて観察すると、足すべきものと減らすべきものが整理できます。通る声は、声量を積み上げるより、進路を整えることで作られます。

音がまとまる感覚を探すときも、音を一点へ刺すように狙う必要はありません。言葉の形が口の外で急に崩れない状態を目印にします。強さを足さずに輪郭が残るなら、方向は合っています。

口の中の空間を先に開ける

冒頭の実験で奥歯の間をあけたとき、ただ口を大きく開けるのとは異なる感覚があったはずです。重要なのは、前歯を見せるほど開くことではなく、奥の空間をつぶさないことです。奥歯が近いまま話すと、舌が逃げ場を失い、母音が平たくなりやすくなります。すると、音は口の外へ出ても、言葉の中に厚みが残りにくくなります。上と下の奥歯の間に指一本分の余白を作ると、舌は前後に動く幅を持ち、あごも一方向に固定されにくくなります。「か」「さ」「た」のような子音が続く語で試すと、口の中が詰まったまま進めていたかを感じ取りやすくなります。ただし、空間を作ろうとして下あごを強く引き下げる必要はありません。あごを落とす力が増えると、音の通り道を作る動作が、別の緊張に置き換わります。口の中は大きく見せるためではなく、音が形を保ったまま出るために使います。会話中にずっと同じ形を保つのではなく、語頭で余白を作り、言葉に合わせて自然に戻すことが大切です。

奥の空間を保てないときは、口を開ける量ではなく、歯をかみ合わせる直前に止められるかを見ます。わずかな余白で十分です。大きさを競うより、言葉の途中で空間を消さない方が効果的です。余白を残せたかは、話したあとに奥歯をかみしめていないかでも確かめられます。

子音で音の進路を整える

声を通そうとすると、母音を伸ばしたくなることがあります。けれど、相手が受け取るのは音の長さだけではなく、子音が作る言葉の境目です。たとえば「確認します」の「か」「に」「し」の出だしが曖昧だと、全体の音量を上げても意味がまとまりません。子音を強くぶつける必要はありませんが、口の中で作った形を、声が出る前にほどかないようにします。「か」なら舌の奥を一度上あごへ近づけ、「し」なら舌先を力ませず前の空間を残します。そうすると、息だけが先に漏れず、短い音にも輪郭ができます。ここで力む場所は唇や舌ではなく、急いで次の音へ行こうとする気持ちです。言葉を速く終えたいとき、子音は省かれ、母音だけが残って音が拡散します。話す速さを変えずに通りを改善したいなら、一音ごとの時間を引き延ばすのでなく、子音の始まりを消さないことが有効です。私がこの場面でまず確認したいのは、聞こえの強さではなく、子音が口の中で作られたあとに声へつながっているかです。音量を増やす前に境目を整えると、相手に届く情報が増えます。

子音を整えても硬く聞こえるなら、当てる力が増えすぎています。その場合は、子音の前の息を減らし、舌や唇を急停止させないようにします。輪郭と攻撃性は別に扱う必要があります。

息を押し込まずに支える

通る声を作ろうとして息を強く吐き続けると、最初は勢いが出ても、文の後半で音が薄くなったり、のどに乾いた感じが残ったりします。必要なのは、多くの息を一度に送ることではなく、言葉の長さに合わせて息が急に切れないことです。短い文なら、息を吸い直す準備より先に、吐く量を増やしすぎない方が整います。「ご案内します」と言うとき、「ご」の前に息を放出せず、声とほぼ同時に息を使います。続く「あんない」で口の奥の空間が保てれば、息を足さなくても音はつながります。胸を高く上げて支えようとすると、肩や首に力が移ることがあります。支える感覚は、胸を固定することではなく、文末まで肋骨まわりを急にしぼませないことに近いものです。息が足りないと感じた場合も、すぐに大きく吸うのではなく、一文を短く区切る位置を確認してください。喉の痛みや声枯れが続くときは、発声の工夫を続ける前に耳鼻咽喉科を受診してください。声を通すために息を消耗するのではなく、必要な量を言葉の中で使い切ることが、張らない声につながります。

一文を終えた直後に息を大きく吸い込みたくなるなら、出だしで使いすぎている可能性があります。文の前半だけを強くしないことで、後半にも同じ密度を残せます。息の配分は通り方の一部です。

響きを探す場所を間違えない

響きという言葉は便利ですが、頭の上や鼻の奥に音を集めようとして、顔やのどを操作しすぎる原因にもなります。通る声に必要なのは、特定の場所を強く振動させることではありません。口の中の空間、舌の動き、唇の開きによって、すでに出た音が形を失わない状態を作ることです。たとえば、鼻にかかった声を避けようとして鼻の奥を閉じるつもりになると、軟らかい口蓋の動きまで硬くし、音がこもることがあります。逆に、明るくしようとして上唇を持ち上げ続けると、表情が固定されて子音が乱れます。感覚を使うなら、「音を前に置く」よりも、唇の少し先まで言葉が途切れず続くことを感じる方が安全です。鏡がなくても、唇が毎音で強く閉じていないか、あごが前へ突き出ていないかは観察できます。響きは狙い撃ちする場所ではなく、通り道が保たれたときに起こる結果です。私がこの場面でまず確認したいのは、どこに響かせたいかという目的より、どの動作で音を狭めているかという事実です。狭める動作が減ると、音は無理なくまとまりやすくなります。

感じ方に個人差があるため、特定の振動だけを正解にしないでください。顔や胸の感覚が変わらなくても、言葉の形が保てれば進めます。身体の一部を強く操作しないことが、安定した声につながります。

場面ごとの距離を測る

通る声を身につけるには、いつでも同じ出し方を選ぶより、相手との距離に合わせて言葉の密度を変える方が現実的です。机を挟んだ会話と、会議室の後方へ説明する場面では、必要な声量が同じとは限りません。ただし、距離が増えるたびに首で押し出すなら、声はすぐに粗くなります。距離が近い場面では、口の奥の空間を残しながら子音を消さないことを優先します。距離が少しある場面では、語頭を明確にし、文末を飲み込まないことを足します。さらに遠い相手には、一文を長く抱え込まず、意味のまとまりで区切ることで、息と音の進路を保ちます。ここで変えるのは、声の人格ではありません。声量を上げる必要があるときにも、口の中を狭めず、息だけを先に走らせないという土台は共通です。普段から距離の異なる三つの場面を思い出すと、自分がどこで急に張り始めるかがわかります。通る声は常時大きい声ではなく、距離に対して散らない声です。

相手との距離が変わる場所では、最初の一言だけを丁寧に置きます。最初から最後まで強く保とうとしない方が、会話は自然です。距離に応じた調整は、連続した力ではなく、語頭の整え方から始めます。その差を急に大きくしないことも大切です。

張らずに届く状態を育てる

張らずに届く声は、一回の発話で完成を判定するものではありません。口の空間を残す、子音の境目を消さない、息を先走らせないという動作を、短い一文の中で少しずつ組み合わせます。その際、全部を同時に直そうとすると、口、舌、胸、首が別々に働き始めて、かえって不自然になります。一日に扱うのは一つで十分です。今日は「確認します」の語頭で奥歯の間をつぶさない、次の日は同じ文の「ます」で息を押し込まない、というように観察点を替えます。変化の目印は、派手な響きや大きな音ではありません。会話の途中で声が急に細らない、呼びかけたあとに喉へ力が残らない、相手の近くで話すときにも同じ言葉の輪郭を使える、といった状態です。私がこの場面でまず確認したいのは、届く声を出したあとに、次の一文も同じ楽さで言えるかです。一文だけを強く通す方法では、会話全体を支えられません。音を拡散させない動作を育てれば、声量に頼らず、必要な相手へ言葉を運べるようになります。

育てる過程では、疲労の有無も目印になります。通したあとに喉だけが働いた感じが強いなら、声量へ戻りすぎています。口と息の進路を確認し、次の一文でも同じ形を保てる出し方へ戻します。

よくある質問

Q. 通る声は生まれつきの声質で決まりますか
声帯の形そのものは変えられませんが、通る通らないを分けているのは声質より息の使い方・声帯の締め方・響きの通り道です。ここは順番に組み立てれば変わります。
Q. 通る声を作るのに毎日の発声練習は必要ですか
長時間の発声練習より、今日実際に使う一言を材料にして息・声帯・響き・語尾の四か所を確認するほうが、体感としてつながりやすいです。
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奥津ユキ
書いた人
奥津ユキ

ボイストレーナー。Snow Man、NiziUなど多くの楽曲を手がける作曲家・前迫潤哉氏が主宰するLEVETCH VOCAL SCHOOLにて、ボーカル指導の代表を務める。 何千レッスンもの現場で、歌手・社会人・表現者の声と向き合ってきました。

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