高音で母音がつぶれる、あるいは喉が締まる人は、口の形だけを直そうとしていることが多いです。「もっと縦に開けて」「もっと横に引いて」と口の形を変えても、息の流れが変わっていなければ、高い音のところで同じように喉が締まります。
母音を口で「作る」ほど、喉は締まりやすくなります
高い音に近づくほど、多くの人は母音の形をはっきり作ろうとします。あ、い、う、え、おをくっきり発音しようとすると、口や舌に力が入り、その力みが喉にも伝わります。結果として、音が高くなるところでちょうど喉が締まってしまいます。
次の一文で、母音の作り方を確認してみてください。
「母音を押さず、息を流して、響きが残るか録音します。」
「母音を押さず」の部分で、口を無理に作ろうとしていないか。「息を流して」の途中で息が止まっていないか。「響きが残るか録音します」の語尾まで息が残っているか。この三か所は、高音になるほど崩れやすい場所です。
高い音を出すには喉を開けて力を抜くべきだ、と言われることがありますが、私の実感では喉は開けない方がいいです。声帯自体はしっかり閉じておく必要があり、力を抜くほど高い音が出るわけではありません。「喉を開ける」を真に受けて喉仏を下げようとすると、かえって声帯がたわんで高音が出にくくなります。下げるべきは喉仏ではなく、口の奥の上側を軽く持ち上げる感覚です。ここが持ち上がると、締めすぎずに響きを保ったまま母音が乗ります。
高い音ほど、母音より先に息の量を見ます
高音で母音がつぶれる原因の多くは、母音の形そのものより、その手前の息にあります。音が高くなるにつれて、口の形を変える前に、まず息の流れが途切れていないかを確認してください。
確認する順序は、息、喉、体、録音の四つです。息が途中で止まっていないか。喉で押し出していないか。体のどこかが固まっていないか。そして録音で聞き返して同じ状態を再現できるか。この順に見ていくと、母音そのものを直す前にやっておくべきことが分かります。
母音別に、崩れやすい場所は違います
「あ」は口が大きく開く分、喉も一緒に開いてしまい、高い音で喉が締まりやすい母音です。
「い」と「え」は口の中が狭くなりやすく、息の通り道まで狭めてしまうと、高い音で喉に力が集まります。
「う」と「お」は口を丸めようとするあまり、喉の奥まで力んでしまうことがあります。
どの母音も、口の形を頑張って作るのではなく、息が先に流れてから母音が乗る、という順番を守ることが共通の対策になります。
高音練習の基本メニューは、声を出す前から始めます
高音の練習に入る前に、まず母音の形を一切気にしない段階を作ります。声を出さず、短く息を吐くだけです。ここでは吸う量を増やそうとせず、吐く息が体の前へ抜けていく感覚をつかみます。
次の段階で、はじめて音を出します。ただし音域は上げず、いちばん楽な高さで母音を短く置くだけにとどめます。ここでの目的は、喉が押されていないかを確かめることです。
最後の段階で、一文を録音に移します。発声のためだけの母音ではなく、実際の言葉として母音がどう響くかを確認する段階です。歌や音階の練習で終わらせず、言葉に変えたときの響きまで見ておきます。
練習の流れをまとめると、次のようになります。
- 息だけを短く吐き、体が固まっていないかを確認する
- 楽な高さで母音を出し、喉で押していないかを確認する
- 一文を録音し、響きが最後まで残っているかを確認する
うまくいかない時は、音域より先に音量を下げます
高音が出ない時ほど、音量を上げたくなります。けれど、喉で押している状態で音量を上げると、負担が増えます。まず音量を下げてください。
音を小さくした瞬間に、普段は隠れている癖がはっきり出てきます。息の流れが途中で切れていないか、喉に力が入っていないか、母音の響きが消えていないか。小さい音で崩れる部分は、音量を戻しても同じように崩れます。
小さい声で「母音を押さず」の入りを出せるか。「息を流して」までつなげられるか。「録音します」まで息が残るか。小さい声で確認してから、少しずつ音量を上げます。
喉を守る判断も、高音練習の一部です
高音を狙っている時ほど、喉の違和感を後回しにしがちです。痛みがある、いつもよりかすれが強い、休んでも治まらない。こうした状態なら、音域を広げる練習は一度止め、専門家に相談する判断を優先してください。
音域を守るために練習量を落とすことは、後退ではありません。狙った高さを一回だけ出すことより、必要な音域を毎回安定して響かせられることの方が、歌でも仕事の声でも価値があります。
録音で見るのは、母音のきれいさだけではありません
録音を聞くと、自分の声が嫌に感じることがあります。けれど、録音で見るのは母音の形の良し悪しだけではありません。再現できるかです。
昨日より「母音を押さず」が楽に入ったか。「息を流して」で息が止まらなかったか。「録音します」まで響きが残ったか。この三つだけを見ます。
録音を使う利点は、感覚ではなく実際の音で確かめられることです。自分の内側で聞こえている声と、実際に外へ届いている声とは違うものです。外に届く方の響きを整えるために、録音という手段を使います。
一週間の練習は、同じ一文と同じ母音で十分です
母音や音域を日替わりで変えて練習すると、どの調整が効いたのか見分けがつかなくなります。最初の一週間は、次の一文と同じ母音だけに絞ってください。
「母音を押さず、息を流して、響きが残るか録音します。」
この一文を毎日録音します。音域を広げる日ではなく、息を見る日。喉を見る日。響きを見る日。日ごとに一つだけテーマを決めます。
一週間続けると、自分がどの母音のどの場面で崩れやすいかという傾向が見えてきます。傾向をつかんでから音域を広げれば、余計に喉へ負担をかけずに済みます。
うまくいかない時は、母音ではなく手順を巻き戻します
高音がうまく出ない時、多くの人はすぐに母音の形や口の開け方を直そうとします。もっと縦に開ける、もっと横に引く、もっと響かせる。でも、口の形を先に触るより、手順を一度巻き戻す方が結果は安定します。
巻き戻す最初の場所は息です。息が止まったまま声を出すと、喉の方が先に働いてしまいます。次に戻すのは体です。肩や顎がこわばると、息の流れそのものが妨げられます。最後に戻ってくるのが母音です。息と体の状態が整ってから、楽に出せる母音を確認します。
この順番を守るだけで、高音の練習は変わります。母音を直接よくしようとするより、声が出やすい状態を作る方が、喉への負担も減ります。
一回で仕上げようとしない方が、高音は安定します
狙っている高さに早く届きたいほど、一回の練習でそこまで到達しようと力んでしまいます。ただ、その焦りが強いほど、母音を口先で作り込む力みも強くなります。
最初は、楽に出せる音域だけで構いません。高い音も、低い音も、まず楽な母音があってから広げます。楽な範囲を無視して難しい音へ進むと、声は不安定になります。
一日目は息の流れだけを見る。二日目は喉の力み具合だけを見る。三日目は録音で響きの残り方だけを見る。それで十分です。テーマを分けるほど、何が変わったのかがはっきり見えてきます。
喉に違和感がある時は、音域を攻めません
喉に違和感を覚えたら、まず練習を続けてよいかどうかを判断してください。痛みがある、いつもよりかすれが強い、休息を取っても戻らない。こうした状態が続くなら、発声だけで無理に解決しようとしないことです。
練習を軽くする日は、音域を上げることも、高い音を攻めることも、長く伸ばすこともしません。息を流しながら、短い一文だけを録音する程度に留めます。声を守る判断は、練習をさぼることではありません。いつでも安定して使える声を保っておくことも、ボイトレの大切な一部です。
仕上げは、同じ一文・同じ母音で比べます
仕上げの録音は、母音や文を変えずに行ってください。同じ条件だからこそ、息、喉、響きのわずかな差が聞き取れます。
見る基準は三つです。前回より楽に高音へ入れたか。前回より喉が押されていないか。前回より響きが最後まで残っているか。高音を変えるとは、別の声質になることではなく、自分の声のまま響きを再現できる音域を広げることです。
まとめ
高音で母音を出す時は、口を大きく開ければよいと考える前に、息、喉、体、録音の順番で見てください。「母音を押さず」の入り、「息を流して」の途中、「録音します」の響きの残り方を整えるだけでも、高音の出し方は変わります。
声を変えるとは、口の形を作り込むことではありません。息の流れに母音を乗せて、高い音でも響きを保てるようにすることです。
よくある質問
- Q. 高音 母音では何から始めるべきですか
- 最初は声量や高音より、息が止まっていないか、喉で押していないか、録音で再現できるかを確認してください。
- Q. 毎日練習した方がいいですか
- 短い練習を続けるのは有効です。ただし喉に痛みや強い違和感がある日は無理に続けず、練習量を落としてください。
- Q. 録音は必要ですか
- 必要です。自分の中で聞こえる声と相手に届く声は違うため、録音で入り、息、語尾を確認します。
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ボイストレーナー。Snow Man、NiziUなど多くの楽曲を手がける作曲家・前迫潤哉氏が主宰するLEVETCH VOCAL SCHOOLにて、ボーカル指導の代表を務める。 何千レッスンもの現場で、歌手・社会人・表現者の声と向き合ってきました。
詳しいプロフィール →歌が上手くなる声の出し方。音程の前に整える息と響き
歌が上手くなりたい人へ。音程やテクニックの前に、息、喉、体、録音で声の土台を整える方法をまとめます。
母音の発声練習。声を前に届けるための基本
母音が暗い、こもる、歌詞が聞こえにくい人へ。母音を喉で作らず、息と響きで整えます。
高い声の出し方。喉を締めずに上へ逃がさない発声
高い声を出すと喉が締まる、声が裏返る人へ。力で上げず、息の流れと体の支えで高音を整えます。

高い音は、母音の形を頑張って作るものではありません。息の流れと体の使い方を分けて見ると、響きは残しやすくなります。