出社前・本番前の1分声ウォームアップ。喉を起こす手順
面接の待合室、出社前のエレベーター、電話営業の一件目の前。まとまった時間が取れない場面で、1分だけ喉と息を起こす手順を紹介します。
奥津ユキ
面接の待合室で、名前を呼ばれるまでの数十秒。今日は喉が渇いているだけでなく、朝からほとんど声を出していないことに気づきます。エレベーターで一人になる十数秒、営業車の中で信号待ちをしている間、朝礼のマイクを渡される直前。声を使う本番は、たいてい声を出す準備がまったくできていない状態のまま訪れます。
3分や5分の発声練習が理想だと分かっていても、現実にはそんな余裕がある場面のほうが少ないです。だからといって、ウォームアップをしなければ喉を傷めるというのも言い過ぎです。普段からきちんと声を出せている人なら、何もしなかった日があっても喉が壊れるわけではありません。1分でできるのは、喉を鍛えることではなく、止まっている息を先に動かして「起こす」ことだけです。
1分で仕上がる声などありません。それでも、この1分をやるかやらないかで、本番の第一声が喉から始まるか、息の上に乗って始まるかは変わります。
「時間がない」ときほど、喉は止まったままです
会議前や電話の前に限って準備の時間がない、という人は多いです。ただ、時間がないことと、何もしなくていいことは別です。声を出す前に息が止まっていると、第一声はどうしても喉から始まりやすくなります。1分あれば、この「止まったまま本番に入る」状態だけは避けられます。
大きな声で気合いを入れて起こそうとする人もいますが、それは逆効果になりがちです。寝起きや黙ったままの状態から急に強く出そうとすると、喉に力が集まり、そのあとの言葉までその力みを引きずってしまいます。1分の目的は、声を大きくすることではなく、息を先に流しておくことです。
面接ロビーの30秒でできること
面接の順番を待っている間、声を出すのは気が引けます。それでも、口を閉じたまま鼻から短く息を吸い、細く長く吐き切ることは何度でもできます。吐くときにお腹の圧を抜かず、吸うときも同じ圧をかけたまま保ってみてください。膨らませたりへこませたりする必要はなく、常に軽く支えている感覚があれば十分です。
呼ばれる直前、頭の中だけで構いません。「本日はよろしくお願いいたします。」を声にせず、口の形だけで動かしておきます。声を出す前に一度この形を作っておくと、実際に声にしたときの入りが硬くなりにくくなります。
エレベーターの十数秒でできること
出社時、エレベーターに一人で乗っている時間は、声を出せる貴重な数十秒です。フロアが上がる間、口を軽く閉じたまま「ん」とだけ小さく響かせてみてください。響かせようと力を込めるのではなく、喉の奥を押していないかだけを確かめます。
余裕があれば、扉が開くまでの間にもう一度短く息を吐き切ります。ゆっくり長く吐くのではなく、思い切り速く吐き切る動きです。この速さの感覚があると、フロアに降りた瞬間の第一声が重くなりにくくなります。
朝礼のマイクを持つ直前にできること
全社員の前でマイクを持つ数秒前は、多くの人が一番喉に力が入る瞬間です。マイクを受け取る手前で、顎を軽く手で押さえ、顎が上に上がらないようにしたまま、声を出さずに一度だけ息を吐いてみてください。顎が上がったまま声を出すと喉が締まりやすくなるため、この一手間だけでも入りが変わります。
「おはようございます。本日の連絡事項をお伝えします。」を、マイクを持つ前に一度だけ口の中で動かしておきます。実際に声にする瞬間まで、喉ではなく息のほうに意識を残しておいてください。
営業車の中、信号待ちの間にできること
一件目の電話営業をかける前、車の中で信号が変わるのを待っている数十秒も使えます。座ったまま背中を伸ばし、短く強めに息を吐き切る動きを二、三回はさみます。ハンドルを握ったまま無理に大きく吸う必要はなく、吐くほうを先に意識してください。
長時間電話をかけ続けて夕方には声が枯れる人は、たいてい喉を締めすぎています。横隔膜のあたりを前にそっとつまむような感覚を保ったまま話し出す練習を、この信号待ちの間に一回だけ試しておくと、一件目の声の入り方が変わってきます。
オンライン面接、入室ボタンを押す3秒前にできること
対面の面接なら待合室があります。ですがオンライン面接は、直前まで別の作業をしていて、入室ボタンを押した瞬間にいきなり声を出すことになりがちです。声を出す準備がないまま「本日はよろしくお願いいたします」と言おうとすると、最初の一音が遅れて聞こえたり、喉から絞り出したような響きになったりします。
ボタンを押す前の3秒、椅子に座り直し、肩を一度落としてから、声を出さずに短く息を吐き切ってください。たった3秒でも、無音のまま入室するのと、一度息を動かしてから入室するのとでは、最初の挨拶の届き方が変わります。画面越しの声は対面より硬くなりやすいので、この3秒は省かないほうがよいです。
1分の順番は、息、喉、体、ためし声の四段階です
場所を選ばずできる基本の1分は、次の順番で行います。最初の15秒は、声を出さずに短く息を吐き切ることを二、三回。次の15秒は、小さく「ん」と響かせて喉の奥を押していないか確認。次の15秒は、顎や肩の力を軽く抜いて姿勢を整える。最後の15秒で、本番に近い声量で実際に使う一言を一度だけ声にします。
この順番を変えないことが大切です。息より先に声を出そうとすると、結局いつもの喉で押す癖に戻ってしまいます。時計を見ながら厳密に15秒ずつ区切る必要はありません。信号待ちのように区切りが分かる場面ならそのまま使い、待合室のように時間の感覚がつかみにくい場面では、四段階の順番だけ守って自分の呼吸のペースで進めてください。
会議の前に3分の余裕がある日は、じっくり喉を慣らす3分の手順を使ったほうが向いています。この1分版は、そこまでの余裕がまったくない日のための最低ラインだと考えてください。何もしないまま本番に飛び込むよりは、この四段階のどこか一つでもやっておくほうが、声の入りは確実に変わります。
「今日は崩れそう」と感じた日は、声を出す段階を長めに取ります
寝不足の朝や、立て続けに話す予定が詰まっている日は、普段よりも喉が重く感じることがあります。そういう日は、四段階のうち息を吐く時間を延ばしてみてください。声を出す段階を焦って増やすより、息だけの時間を長く取るほうが、結果として喉の負担は軽くなります。
逆に、うまくいかない1分ほど全部を直そうとしないでください。今日は喉が硬いと感じるなら喉だけ、声が小さく感じるなら息だけ、というように一点に絞るほうが短い時間では効果的です。
一日の中で立て続けに人前に立つ予定がある日、たとえば朝礼のあとに来客対応、午後に電話営業が控えているような日は、最初の1分で無理に強い声を作らないでください。一件ごとに強く出し切ってしまうと、夕方には喉が締めすぎの状態で持たなくなります。最初の1分は軽めに整え、合間合間で短く息を吐き直すほうが、一日を通しての持ちがよくなります。
録音でのチェックは、本番のあとで構いません
1分しかない場面で録音まで確認する余裕はないはずです。そのときは無理に聞き返さず、本番が終わったあとに、実際に使った一言を思い出しながら一度だけ声に出して録音してみてください。第一声が急いでいなかったか、語尾まで息が残っていたかを確認するだけで、次に同じ場面が来たときの1分の使い方が変わってきます。
まとめ
1分のウォームアップは、喉を鍛えるためのものではなく、声を出す前に止まっている息を先に動かしておくためのものです。面接の待合室、エレベーターの中、朝礼のマイクを持つ直前、営業車の信号待ち。場所は違っても、息を吐く、軽く響かせる、体の力を抜く、実際に一言声にするという順番は変わりません。
長い発声練習ができない日でも、この四段階だけは崩さないでください。大きな声を出すことより、いつもの入り方で本番を迎えられることのほうが、声を使う仕事では価値があります。
場所も相手も毎回違うので、最初はどの段階に一番効果を感じるか分からないかもしれません。数日試してみて、自分がよく崩れるのは息なのか、喉なのか、それとも体の力みなのかが見えてきたら、そこだけを1分の中で少し長めに取るようにしてください。1分という短い時間だからこそ、毎回同じ順番で試すことが、変化に気づく一番の近道になります。
よくある質問
- Q. 1分のウォームアップだけで本当に効果はありますか
- 喉を完全に仕上げる時間ではありませんが、息を止めたまま本番に入ることは避けられます。1分は「起こす」ためのもので「鍛える」ためのものではありません。
- Q. ウォームアップをしないと喉を傷めますか
- 普段から声が出せている人であれば、しなかったからといって必ず喉を傷めるわけではありません。ただ長時間・立て続けに声を使う日は、締めすぎたまま入りやすいので保険として使う価値があります。
- Q. 声を出さずにできる準備はありますか
- 待合室やエレベーターなど声を出しにくい場所では、息の出し入れと軽い腹圧だけでも喉の立ち上がりは変わります。
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ボイストレーナー。Snow Man、NiziUなど多くの楽曲を手がける作曲家・前迫潤哉氏が主宰するLEVETCH VOCAL SCHOOLにて、ボーカル指導の代表を務める。 何千レッスンもの現場で、歌手・社会人・表現者の声と向き合ってきました。
詳しいプロフィール →声が小さい・通らない人へ。大きい声を出さずに改善する方法
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