ボイトレは何分やるべきか。初心者が続けやすい時間配分

ボイトレを何分やればいいか迷う人へ。長さではなく、声帯の閉じ加減を保てているかで区切ります。

奥津ユキ

ボイトレは、長くやれば伸びるとは限りません。声を出した時間よりも、声帯の閉鎖の加減を保てた時間が、練習の価値を決めます。

体感実験として、出しやすい高さで「あー」を一度だけ短く出してください。次に、同じ高さ・同じ大きさの「あー」を休まず30秒続け、息を整えてから同じ一音を出します。一度目と二度目で、出だしに引っかかる感じが増えたかを比べてください。変えるのは経過時間だけです。差が出なければ、今の出しにくさは閉鎖の崩れよりも、息の速さや顎・舌の固さが主な原因かもしれません。

時間の数字より閉鎖を保てるか

「一日に何分やればよいですか」と聞かれたとき、私は最初に分数を決めません。答えは、声帯を閉じる力の加減が保てるところまでです。声が鳴るためには、声帯がある程度寄る必要があります。ただし、強く押しつければよいわけでも、息に任せて開いたままでよいわけでもありません。

閉鎖がちょうどよいときは、出だしが急に硬くならず、息だけが先に漏れすぎず、音を止めるときにも喉がつぶれた感じになりません。この加減を保ったまま五分練習できるなら、その五分には意味があります。反対に、二十分声を出しても、途中から押し込む、かすれる、出だしを勢いで作る状態なら、練習したのは望まない出し方です。

初心者ほど「決めた時間を終えること」を目標にしがちです。しかし、ボイトレで積みたいのは根性ではなく、必要な閉鎖を自分で選び直す感覚です。時計は便利な目安ですが、終了を決める主役にはなりません。声の出だしと息の流れが変わった瞬間を捉えられると、短い練習でも内容が変わります。

声帯閉鎖は強さではなく加減です

声帯閉鎖を「しっかり閉じること」と考えると、練習が苦しくなります。仕事で使う声に必要なのは、常に最大まで閉じることではなく、言葉に必要な分だけ閉じることです。会議で一言伝えるときと、静かな場所で相手に話しかけるときでは、同じ閉鎖の強さは要りません。

閉鎖が強すぎると、音の出だしが詰まり、喉の奥に力が集まりやすくなります。少し大きくしようとして、語頭を「ッ」と押すように始めるなら、閉じる量が多くなっている合図です。反対に緩すぎると、音になる前に息が抜け、言葉の輪郭がぼやけます。「はぁ」と息を足さないと始められないときは、寄せる量が足りていない可能性があります。

この二つは正反対に見えますが、どちらも声を弱くします。押し込みすぎれば音が動かず、開きすぎれば音が育たないからです。だから練習では、出た声の大きさだけを採点しません。軽く出たのに芯があるか、低い音でも息に沈まないか、止めたあとに余計な力が残らないかを見ます。これが閉鎖の加減を知る入口です。

長く続けると加減が崩れる理由

最初の一音ではできていたことが、数分後にできなくなるのは珍しくありません。声が疲れたと決めつける前に、閉鎖を保つための補助が増えていないかを見ます。音を出し続けるほど、人は無意識に「次も外さず出したい」と思います。その気持ちが、首、顎、舌、肩の余計な支えになり、声帯を必要以上に押し合わせる方向へ働きます。

もう一つは、息が減ってくることです。息が足りない感覚が出ると、音を保つために喉だけで頑張りやすくなります。すると閉鎖は強まり、最初は安定したように聞こえても、次第に出だしの柔らかさが失われます。体感実験の二度目に引っかかりが増えたなら、長さに耐える練習を足す前に、加減が変わる地点を知るほうが先です。

私がこの場面でまず確認したいのは、何分できたかではなく、何秒目から声を押し始めたかです。十五分のメニューを完走できなくても、七分目で変化に気づいて止められたなら、それは失敗ではありません。閉鎖が崩れた出し方を繰り返さずに済んだからです。

初心者に合う時間配分

始める時間は、合計十分前後で十分です。ただし、十分を一つの塊にしないでください。二分から三分声を出したら、三十秒から一分は黙って呼吸を整えます。休む時間は練習の中断ではなく、閉鎖の加減を初期位置へ戻すための時間です。再開するときに、最初の一音が硬くなっていないかを確かめます。

例えば、二分の準備、三分の短い発声、一分の休止、三分の言葉の練習、一分の振り返りという配分にします。準備では肩を回すより、静かに息を吐いて、首と顎を動かしすぎずに立てる状態を作ります。短い発声では、楽な高さの「うー」や「まー」を、伸ばし切らない長さで出します。言葉の練習では「おはようございます」「承知しました」など、仕事で使う一文を一回ずつ置きます。

三分ごとに声を止めると、崩れたまま粘る習慣を防げます。時間が取れる日に二十分練習したい場合も、十分を二回に分けます。一回目と二回目の間には、声を出さない時間を入れてください。二回目の出だしが一回目より硬いなら、その日の追加分は削ります。多く行うことより、最初と同じ加減で再開できることを優先します。

やめ時を決める三つの合図

練習を終える判断には、明確な合図を用意しておくと迷いません。一つ目は、同じ高さなのに出だしだけが急に重くなることです。二つ目は、音量を保とうとして首の前や顎が動き始めることです。三つ目は、息を吸った直後から「次は強く出さなければ」と感じることです。いずれも、声帯の閉鎖の加減を喉以外の力で補おうとしている可能性があります。

この合図が出たら、発声を一段階やさしくして続けるのではなく、そのセットを終えます。閉鎖が崩れた状態で音程や滑舌を足すと、何を直しているのか分からなくなります。終了後に確認するのは、できなかったことの数ではありません。どの言葉、どの高さ、どの長さで合図が出たかです。次回はそこより手前で止める設計に変えられます。

声を出していて痛みがある、または枯れた状態が続くときは、練習量の調整だけで済ませず、医療機関などの専門家に相談してください。無理に閉鎖を調整しようとせず、声を休ませる判断を優先します。

十分で行う練習の流れ

十分の練習は、声を鍛える時間というより、閉鎖の加減を探して戻す時間にします。最初の二分は、口を軽く閉じたまま「んー」と短く鳴らします。鼻の奥や唇の近くに振動があれば十分です。音を大きくしようとしません。次の三分は、「む」「も」「ま」と母音を変えながら、一音ずつ短く出します。どの母音でも出だしが押しつぶれない位置を探します。

続く二分では、声を出さずに呼吸を整えます。吐く息を細く長くし、吸うときに肩を上げないようにするだけで構いません。この休止のあとに一音出し、前半の一音と比べます。ここで硬さが増えていなければ、閉鎖の加減は大きく崩れていません。最後の三分は「資料を共有します」「次の案を確認します」といった短文を使い、語頭だけでなく語尾まで同じ軽さを保ちます。

一つの文を三回も四回も連続で言う必要はありません。一回言ったら黙り、出だし、途中、止め際のどこに力が集まったかを感じます。二回目は、直す場所を一つだけ選びます。例えば出だしが硬かったなら、音量や高さを変えず、語頭を急いで押さないことだけを試します。変数を増やさないから、閉鎖の加減を自分で判断できます。

週ごとに時間を増やす基準

時間を増やすのは、同じ加減で終えられる日が続いてからです。目安として、十分の練習を数回行い、終わりの一音が始めの一音より明らかに重くならないなら、一回の発声セットを一分だけ足します。合計時間を急に倍にする必要はありません。閉鎖は微妙な加減なので、増やす量も微妙でよいのです。

反対に、練習後は平気でも翌朝の声が出にくいなら、前日の時間を戻します。時間が長すぎたのか、セットの間に休止が足りなかったのか、言葉の練習で音量を上げすぎたのかを一つずつ見直してください。「毎日二十分」といった数字を守るために、閉鎖を乱す必要はありません。

練習の記録には、合計分数に加えて「出だしが軽かった時間」を一言だけ残してください。数字と感覚が結びつくと、次回のやめ時を自分で決めやすくなります。

ボイトレは、長く続けた人が必ず有利になるものではなく、適切な閉鎖を再現できる人ほど進めやすくなります。今日の終了を決めるのは時計ではなく、最初と同じように声が始められるかどうかです。時間を短く切り、崩れた地点で終える。その積み重ねが、仕事で必要な安定した声につながります。

よくある質問

Q. ボイトレは長く続けるほど効果が出ますか?
長さだけでは決まりません。喉を締めた状態で反復すると、その使い方まで身につきます。私は、声が前へ伸びているかを途中で確かめ、質が落ちたら一度区切ります。
Q. 練習時間は発声と会話練習にどう分ければよいですか?
発声だけに偏るより、短い発声のあとに実際の話し言葉へ移す方が役立ちます。私は母音で響きを整えた後、挨拶や説明文に同じ感覚をつなげます。
Q. 毎日練習できないと、声づくりは進みませんか?
毎日まとまった時間を取れなくても、声を出すたびに腹圧と息の速さへ意識を向けられます。私は生活の中の一言を練習に変え、無理な連続練習は避けます。
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奥津ユキ
書いた人
奥津ユキ

ボイストレーナー。Snow Man、NiziUなど多くの楽曲を手がける作曲家・前迫潤哉氏が主宰するLEVETCH VOCAL SCHOOLにて、ボーカル指導の代表を務める。 何千レッスンもの現場で、歌手・社会人・表現者の声と向き合ってきました。

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