収録した自分の声を聞き返して、圧が強い、息の当たりがうるさい、と感じた時、多くの人はまずマイクから離れようとします。その前に、スマホで確かめられることがあります。距離を一切変えずに、聞こえ方だけが変わる実験です。
口元の近さを固定したまま、二通りで録り比べます
スマホを口から握りこぶし一つ分ほどの近さに構えて、ボイスメモで次の一文を二回録音します。二回とも、構えた位置は絶対に動かさないでください。
「それでは、今日の内容に入ります。」
一回目は、いつもの収録と同じ出し方で。二回目は、声を出す前にスマホへ短く息だけを送り、その流れが続いているうちに一文を続けます。喉から押し込むのではなく、流れている息の上に言葉を乗せる感覚です。
聞き比べると、同じ近さで録ったのに、二回目は圧が抜けて聞こえるはずです。きつく聞こえていた犯人は距離ではなく、息が止まったまま喉で声を押し込んでいたことでした。この実験は収録の本番前にもそのまま使えます。会場やマイクが変わっても、スマホ一つあれば同じ確認ができるからです。
マイクは、離すほど良くなる道具ではありません
声が近すぎると言われると距離を取りたくなりますが、マイクはそもそも近いほうが声を拾いやすい道具です。離したほうがいいのは、声を張り上げる場面だけ。普通のトークで距離を取ると、下がった音量を喉の力で補おうとして、かえって押しの強い声になります。
問題にすべきは近さそのものではなく、その近さで何がマイクに当たっているかです。止まった息を破裂させるように出せば、破裂ごと拾われます。流れる息に乗った声なら、同じ近さでも角が立ちません。距離の調整より先に、乗せ方を変える。順番はこちらが先です。
ヘッドセットやピンマイクでも理屈は同じです。口との位置関係が固定される機材は、そのぶん、息の乗せ方の差がそのまま録音の差になります。機材を替えるたびに悩まなくて済むよう、直すのは体の側だと決めておいてください。
顎を止めて、横の「い」の口で話してみます
マイクのりが悪い、こもると感じる人の多くは、話しながら顎を下へパカパカと動かしています。顎が大きく上下するたびに口の中の空間が変わり、音が奥へ引っ込んでしまうのです。
試しに、顎を軽く固定して、口の形を横の「い」に開いたまま、先ほどの一文を言ってみてください。縦に大きく開けるよりこもりにくく、近い位置のマイクにもすっと乗ります。見た目には地味な変化ですが、録音で聞くと違いがはっきり出ます。冒頭の実験に、この口の形を重ねて三回目を録ってみるのもおすすめです。息の乗せ方と口の形、二段階でどれだけ変わるかが自分の耳で確認できます。
顎の動きは自分では気づきにくいので、一度、スマホのカメラで口元だけ撮って確かめるのが確実です。思っている以上に動いていることに、たいていの人が驚きます。
ぱ行の破裂と息継ぎの音は、別枠で確認します
近い位置のマイクがとりわけ拾いやすいのが、ぱ行やば行の破裂と、文の切れ目の息継ぎです。破裂音は、いったん止めた息を一気に開放して出す子音なので、息の直撃がそのままボッという音になって乗ります。子音を弱く言ってごまかすのではなく、その一音の手前で吐く流れができていれば、破裂の勢いは自然に和らぎます。
もう一つの調整は、口の正面を数センチだけマイクの中心から外すことです。距離は変えず、息の直撃だけを外す。現場でも広く使われている、いちばん安上がりな対処です。
息継ぎの音は、語尾で息を使い切る癖と直結しています。一文の終わりで空っぽになるまで吐いてしまうと、次の吸気は大きく速く、音の立つものになります。語尾に息を少し残して終えられれば、次の息継ぎは小さく静かに済みます。息継ぎ音を消そうとするより、語尾の残し方を変えるほうが、根本に近い対処です。
収録前の呼吸は、吸う量より吐く流れです
マイクの前に座ると、良い音で録ろうとして深く吸い込みたくなります。ただ、たっぷり吸うほど胸と肩がせり上がり、固まった体のまま第一声を迎えることになります。近距離のマイクに効くのは、吸い込む量ではなく、話し出す寸前に短く吐いておく流れのほうです。
喉の状態も先に確かめておきます。ささやくくらいの小声で一言出してみて、それだけで詰まる感覚があるなら、その日は喉が固まっています。音量や近さで稼ぐ前に、小声のまま詰まりが取れる姿勢を探すほうが早道です。首の後ろを伸ばし、足の裏を床に置き直すだけで変わることもあります。朝いちばんの収録は、声が起きていないぶん喉で押しやすくなるので、小声での確認を普段より丁寧にやってから始めてください。
収録が長丁場になる日は、開始前だけでなく、章やテーマの切れ目ごとに同じ確認を挟みます。録り進めるうちに前のめりになり、口とマイクの位置関係が最初と変わっていることはよくあります。位置が変われば、序盤と終盤で音の質感が揃わなくなり、編集で悩むことになります。
言葉は、マイクの少し手前に置きます
慣れてきたら、声の大きさではなく、言葉をどこに置くかを考えます。自分の喉の中で鳴らして終わらせるのではなく、マイクの少し手前の空間に、息の流れで軽く置くイメージです。投げ込むのではなく、置く。この感覚がつかめると、距離を変えなくても圧が抜け、長時間聞いても疲れない録れ方になります。
語尾の扱いも同じです。近い位置では、語尾を投げ捨てるように終えると、その乱れまで全部拾われます。最後の一音まで息を残して置き切ると、近さはそのまま、耳元で丁寧に話してもらえている印象に変わります。近いことは、本来は武器なのです。
この置く感覚は、聞き手の疲れとも直結しています。圧の強い録音を長く聞くことは、耳元で押され続けることに近く、内容より先に疲労が残ります。置かれた声は、同じ時間聞いても押される感じがありません。内容を最後まで聞いてもらえるかどうかは、こうした録れ方の質から効いてきます。
本番前の点検は、一文とチェック二か所だけ
収録や配信の直前に、長い発声練習は不要です。冒頭の一文を一度だけ録り、二か所だけ聞きます。出だしが破裂していないか。語尾が投げ捨てられていないか。この二つが取れていれば、そのテイクの調子のまま本番に入れます。
何度録っても圧が残る日は、収録より前の状態を疑ってください。時間に追われたまま椅子に座っていないか。原稿を目で追ううちに顎が突き出ていないか。マイクが気になって上体ごと前のめりになっていないか。喉に痛みや強い違和感があるなら、その日は無理をせず、声量を落とすか収録日を改める判断も必要です。喉を削って録った音は、編集では直せません。
テイクを重ねる時は、良かったテイクの体の感覚をひと言メモしておくのも効きます。息を先に流せた、顎が止まっていた、など自分の言葉で十分です。次の収録は、そのメモから始められます。
圧が強いと言われた日の録音は、消さずに残します
指摘を受けた日のデータは、聞き返すのがいやで消してしまいがちです。ただ、圧の強い録音は、あなた専用の教材でもあります。冒頭の実験で圧の抜けた録音が録れたら、以前の録音と並べて聞いてみてください。何がどう違うのかを自分の耳で言語化できた時、その変化は次の収録でも再現できるものになります。
比べる時のポイントは三つです。出だしの一音が破裂していないか。文の途中で息の音が割り込んでいないか。語尾が投げ捨てられていないか。この三つを言葉にして残しておくと、機材や会場が変わった日でも、自分の基準に立ち返れます。
近さはそのままで、届き方だけ変えられます
マイクで声が近すぎると悩んでいた人が変えるべきなのは、機材との距離ではなく、声がマイクに触れる瞬間の質でした。息を先に流す。顎を止めて横の口で話す。言葉はマイクの少し手前に置く。この三つは、どのマイクでもどの現場でも同じように使えます。
次の収録の前に、もう一度だけ録音してください。
「それでは、今日の内容に入ります。」
握りこぶし一つ分の近さのままで圧が抜けていたら、それがあなたの録れ方の基準です。距離を取って逃げるのではなく、近さを味方につけた声で、次の収録に入ってください。聞き手は、語り手の圧に敏感な一方で、整った近さの声には想像以上に長く付き合ってくれます。
よくある質問
- Q. マイク 声が近すぎるの原因は何ですか
- 声質だけでなく、声を出す前に息が止まること、喉で押すこと、体が固まることが関わります。
- Q. すぐできる練習はありますか
- 短い一文を決め、普段通り、息を流してから、語尾まで残す形で録音して比べてください。
- Q. 喉に違和感がある時も練習してよいですか
- 痛みや強い違和感がある時は無理に声を出す練習を増やさず、休息や専門家への相談も考えてください。
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ボイストレーナー。Snow Man、NiziUなど多くの楽曲を手がける作曲家・前迫潤哉氏が主宰するLEVETCH VOCAL SCHOOLにて、ボーカル指導の代表を務める。 何千レッスンもの現場で、歌手・社会人・表現者の声と向き合ってきました。
詳しいプロフィール →プレゼンで声が震える原因と対策。メンタルではなく筋肉から整える方法
プレゼンで声が震える原因は、メンタルではなく筋肉です。本番3分前にできる対策2つから、前日・1週間かけてやる本格対策まで、ボイストレーナーが時間軸別に整理しました。
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