午後に声が出にくくなる。だるさと沈みを立て直す
午後になると声が沈んでだるくなる人へ。電話対応が続く仕事を例に、気合いではなく腹圧と息のスピードから午後の声を立て直す方法を紹介します。
奥津ユキ
昼を過ぎて三本目、四本目の電話に出るころ、受話器の向こうの相手に「もう一度よろしいでしょうか」と聞き返される。午前中はそんなことはなかったのに、午後になると声がひとまわり小さく、こもって聞こえる。デスクの島全体がだるそうな空気に包まれ、隣の席からも心なしか声が沈んでいる。エアコンの音と誰かのため息が重なる中で、自分の声だけが遠くまで届かなくなっていく感覚を覚える方も多いはずです。私のところにも、電話や窓口の対応が続く仕事の方から「午後だけ声が沈む、だるくて仕方ない」という相談がよく来ます。
午後の沈みは、気合いの入れ直しでは直りません
「午後は気が緩むから声が小さくなる」と考えて、背筋を伸ばし直したり、意識的に大きな声を出そうとする方がいます。ですが午後に声が出にくくなる本当の理由は、気持ちの緩みではなく、午前中の対応で喉を締める使い方を繰り返し、腹圧が少しずつ抜けていった結果です。性格やその日のやる気の問題ではなく、体の使い方が午前と午後で変わってしまっているだけだと私は見ています。無理に大きな声を出そうとすると、かえって喉で押した声になり、午後の疲れた喉にはさらに負担がかかってしまいます。
一日100件を超える対応の後半で、何が起きているか
朝から電話や来客の対応を数十件、多い日には百件近くこなしていると、午後の早い時間からすでに喉が重くなってきます。一件ごとの会話は短くても、「お待たせいたしました」「かしこまりました」と繰り返すたびに喉で押した声を出していると、疲労は少しずつ積み上がります。午前中は勢いでカバーできていた締めた発声が、午後になって蓄積の限界を迎え、声がかすれたり沈んだりという形で表に出てくるのです。件数をこなすほど、休む間もなく同じ締め方を繰り返してしまうことも、蓄積を早める一因になっています。
「感情豊かに」読み上げようとするほど、午後は持ちません
案内文言を元気よく、感情豊かに読み上げようとする対応が良いとされることがありますが、私はそこまで作り込む必要はないと考えています。わざとらしい抑揚をつけようとするほど喉に余計な力が入り、午後の疲れた喉にはむしろ負担になります。自然に会話するくらいの温度で十分に伝わりますし、そのほうが長時間の対応にも耐えられます。午前中は勢いで乗り切れていた作り込んだトーンが、午後になるほど息切れして続かなくなるのは、そもそも喉に無理をかける話し方だったからだと私は見ています。
猫背とこもり声も、午後にそろって出てきます
長時間座って画面や電話に向かっていると、午後になるほど背中が丸まり、あごが前に出た姿勢になりがちです。この姿勢では腹圧がかけにくくなるだけでなく、口の開け方も縦に狭くなり、声がこもって聞こえやすくなります。口を大きく開ければこもりが直ると思われがちですが、縦に大きく開けるより、猫背を戻して喉の通り道をまっすぐにするほうが効果を感じやすいはずです。午前中は張っていた背筋が、午後の疲れとともに緩んでいないか、電話を取る前に一度肩の位置を戻すだけでも、こもりは軽くなります。
横隔膜をつまむ感覚で、午後の腹圧を立て直します
声が沈んでくると、多くの人はお腹を大きく膨らませたりへこませたりする呼吸で立て直そうとします。ですが本当に効くのは、常に一定の圧をかけ続ける腹圧の感覚です。横隔膜のあたりを前にスライムのように細くつまみ出すイメージを、吐くときも吸うときも保ってみてください。午前中に抜けてしまった圧を、この感覚だけで午後からでも取り戻せます。お腹を強く締め上げる必要はなく、軽くつまんだ状態を保ち続けることのほうが、長時間の対応には向いています。
保留にする前後の一呼吸で、声はリセットできます
確認のために電話を保留にする数十秒は、声を立て直す小さな休憩に変えられます。保留にした瞬間、肩の力を抜いて一度だけ息を吐き切り、再開する直前にもう一度短く息を吸って腹圧をかけ直す。これだけで、保留前と保留後で声の重さが違って聞こえることに自分でも気づけるはずです。忙しい午後ほどこの数十秒を惜しんで一気に話し続けてしまいがちですが、そこを区切りに使うかどうかで、対応五件目、十件目の声のもちが変わってきます。
息のスピードを取り戻すと、だるさの中でも声は前に出ます
だるさを感じると、息を吐く速さそのものがゆっくりになっていきます。自転車と同じで、息はゆっくり出すと声も一緒に倒れてしまい、ある程度のスピードで吐くと声は自然に前へ出てきます。受話器を置いた合間に、一度だけ強めに息を吐き切ってみてください。声を張り上げるのではなく、息のスピードだけを取り戻す動きです。だるさで動くのがおっくうな時ほど、この一回だけの息の動きは効果を感じやすいはずです。
休憩の五分は、声を休ませる五分にします
休憩時間に軽食を口にしながら同僚と話し込んでしまうと、喉を休める時間がないまま午後の対応に戻ることになります。短い休憩でも、鼻からハミングするように小さく声を出しておくと、次の対応に入ったときの喉の重さが違います。声を全く出さずに黙っているより、軽く鳴らしておくほうが午後の入りが楽になります。休憩の終わり際に一度だけ軽くハミングしてから席に戻る、という順番を決めておくと習慣にしやすくなります。
電話を切る最後の一言ほど、午後は語尾が消えます
対応の終わりに言う「ありがとうございました、失礼いたします」は、一日の中で最も回数を重ねる言葉のひとつです。午前中はしっかり届いていたこの語尾が、午後になると尻すぼみに消えて、相手が切ったかどうか分からないまま自分だけ声を残していることがあります。語尾が消えるのは性格が投げやりになったからではなく、その時点で息が尽きているだけです。文の最後まで息を残しておく、というだけの意識で、この語尾は戻ってきます。
午後の沈みと、体調のサインは分けて考えます
だるさと声の沈みが重なると、風邪や体調不良ではないかと不安になる方もいます。私の実感では、午後の対応で起きる沈みの多くは体の使い方の積み重ねによるものですが、声のかすれが数日続く、喉の痛みや異物感が取れないといった場合は別のサインかもしれません。その時は無理に発声で乗り切ろうとせず、医師や専門家に相談することを優先してください。
「お待たせいたしました、本日ご案内いたします」で練習します
午後の対応で必ず使う一言を練習に使います。
「お待たせいたしました、本日ご案内いたします」
まず普段どおりのだるい状態で録音します。次に、話す前に横隔膜をつまむ感覚で腹圧をかけ、「お」の出だしで息のスピードを少し上げてから録音します。同じ声量でも、二回目のほうが最初の一言がはっきり前に出ていることに気づくはずです。この一言だけを昼休み明けに一度練習しておくと、午後最初の応対でこもりを引きずらずに済みます。
続けて、対応の締めの一言も同じように練習します。「ありがとうございました、失礼いたします」を、語尾の「いたします」まで息を残す意識で言い切ってみてください。出だしと締めくくり、この二か所を整えるだけで、午後の対応の輪郭がはっきりしてきます。
録音でチェックするのは、元気さではありません
午後の自分の声を録音で聞くと、疲れて聞こえることに落ち込む方がいますが、確かめたいのは元気の量ではありません。出だしの一言で腹圧がかかっているか、息のスピードが落ちていないか、この二点だけを聞き分けてください。元気さの判定を始めると、そこで練習が止まってしまいます。何日か録音を続けていると、自分がどのタイミングで圧を抜いてしまう癖があるかも見えてきます。
午後の声は、気力ではなく体の使い方で立て直せます
午後になると声が沈んでだるくなるのは、気合いが足りないからでも、体調が弱いからでもありません。午前中に締めた喉と、抜けていった腹圧の結果です。横隔膜をつまむ感覚で圧を保ち、出だしの一言で息のスピードを上げる。保留の数十秒と語尾の一音まで、この二つを丁寧に扱うだけで、次の対応の声は変わってきます。大きな声を出す前に、まず腹圧を確かめる。この順番を、次に午後の電話が鳴った瞬間から試してみてください。件数をこなす日ほど、小さな立て直しの積み重ねが夕方の声の残り方を左右します。
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よくある質問
- Q. 午後だけ声が沈むのは、体調が悪いサインですか
- 体調不良で起きることもありますが、多くの場合は午前中に締めた喉と抜けた腹圧の積み重ねです。数日続けても改善せず、痛みや異物感がある場合は医師や専門家に相談してください。
- Q. 午後になるとだるくて声を出す気力がわきません。気合いを入れ直すしかないですか
- 気合いの問題にする必要はありません。腹圧と息のスピードという体の使い方の話なので、気力が落ちている時ほど体の側から立て直すほうが早いです。
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詳しいプロフィール →声が小さい・通らない人へ。大きい声を出さずに改善する方法
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