昼食後のプレゼンで通る声。眠い午後イチの場を起こす話し方
昼食後の眠い時間帯のプレゼンで声が沈む人へ。声量を上げるのではなく、高さの動かし方と息のスピードで、だれた場を起こす練習を紹介します。
奥津ユキ
昼食を終えたばかりの13時、会議室の空気はエアコンで乾き、体は消化にエネルギーを使っていて、資料をめくる音だけがやけに響きます。蛍光灯の白い光の下、後ろの席で目をこすっている人が見えると、声を張って場を起こそうとする方が多いのですが、私がまず見るのはそこではありません。
午後イチの声が沈むのは、気合いの問題ではありません
「午後イチのプレゼンは声に力がない」と言われると、多くの方は気持ちの入れ方や熱意を疑います。ただ、昼食後の会議室で実際に起きているのは、話し方が単調になっていることと、聴き手の眠そうな顔色を気にしすぎて声が縮こまっていることの二つです。単調な話し方だと聞き手の集中が切れやすい、というのは私の実感でも当たっていると感じます。ただそれだけが原因ではなく、話す側が「寝られてしまうのでは」と焦るほど、声はさらに小さくなっていきます。
居眠りする人と目が合っても、そこにフォーカスする必要はありません
昼食後のプレゼンでやりがちな失敗は、あくびを噛み殺している人や、まぶたが落ちてきている人を見つけて、そこに向けて声を張ってしまうことです。目を見て訴えかければ場が起きると思われがちですが、そこまで聴き手の目にフォーカスしなくても大丈夫です。見るのは顔全体でよく、目を合わせようと躍起になるほど、話す側の呼吸のほうが浅くなります。同じように、演説のように後ろの壁へ声を飛ばすイメージで力むのも、午後イチの空気にはあいません。声量を上げることより、この後お伝えする高さの動かし方のほうが、眠気にはよほど効きます。実際、居眠りしそうな一人だけに向けて声を張った結果、他の聴き手には威圧的に響いてしまい、場全体がかえって固くなることもあります。
抑揚は声の大きさでなく、高さで作ります
単調な話し方を直そうとすると、多くの人は声を大きくしようとします。でも眠い聴き手に効くのは、音量差ではなく高さの差です。「それでは午後の部を始めます」という一文を平坦に読むのと、「それでは」を少し高めに置いて「始めます」でふっと下げるのとでは、同じ声量でも耳への引っかかり方がまったく違います。物語を音の高さを変えながら読む練習は、この単調さを取るのに向いています。プレゼン資料の見出しを一枚めくるたびに、意識して高さを上下させてみると、どこが平坦になっていたか自分でも気づけます。
声を張るより先に、息のスピードを上げます
「もっと大きな声で」と言われると、喉で押した声になりがちです。昼食後は特に消化にエネルギーが向いていて体の反応が鈍く、声を張ろうとすると余計に喉へ負担がかかります。自転車と同じで、息はゆっくり出すと声も倒れ、ある程度のスピードで吐くと声が自然に前へ出てきます。「本日は3つのポイントに絞ってお伝えします」という一文の「3つの」の手前で、吐く息のスピードだけを少し上げてみてください。声を張り上げなくても、その一語だけが眠気の中でも耳に引っかかるようになります。
眠気に負ける声には、たいてい二つの崩れが重なっています
昼食後の場で声が沈む時、原因はひとつではありません。ひとつは、単調な高さのまま話し続けてしまうこと。もうひとつは、居眠りしそうな聴き手を見つけて焦り、語尾の力が抜けて声が小さくしぼんでしまうことです。この二つが同時に起きると、内容は同じでも聞き手には眠気を後押しする声として届きます。性格の問題ではなく、高さの動かし方と語尾の残し方、この二点を見れば直せる範囲のことです。
場を早く終わらせようとする早口も、逆効果になります
眠そうな空気を感じ取ると、「早く終わらせてしまいたい」という気持ちから早口になる方がいます。急ぎたい心理だけでなく、内容に入り込みすぎて気づかないうちに速度が上がっていることもあります。ただ理由がどちらであっても、早口になると高さの変化をつける余裕がなくなり、結果として一段と単調に、聞き手には流し読みのように届いてしまいます。眠気を巻き取ろうとするほど、皮肉にも眠気を後押しする声になりやすいのです。急ぐ前に、まず「それでは」のところで一度高さを変える余白を作ってください。
満腹の体では、腹圧が抜けやすくなっています
昼食後は胃に食べ物が入っている分、お腹まわりに常に圧をかけ続ける感覚がふだんより保ちにくくなっています。お腹を膨らませたりへこませたりする呼吸ではなく、吐くときも吸うときも軽く圧をかけ続けるほうを意識してください。満腹で苦しいからと圧を抜いてしまうと、声を出す土台がゆるみ、語尾から先に沈んでいきます。椅子に浅く座ったまま猫背でスライドを操作していると、この圧はさらに抜けやすくなるので、話し始める前に一度背もたれから体を起こしておくだけでも変わります。立って話す場合も同様で、満腹感で重心が後ろに落ちていないかを、話し出す前に一度足の裏で確かめておくと声の支えが戻りやすくなります。
だれた読み方と、起きる読み方を同じ一文で比べます
だれた読み方は、「それでは午後の部を始めます。本日は3つのポイントに絞ってお伝えします」を、最初から最後まで同じ高さ・同じ速さで流す読み方です。内容は正しくても、資料をめくる音に負けて聴き手の意識の外へ流れていきます。
起きる読み方は、大声にすることでも、身振りを増やすことでもありません。「それでは」をわずかに高く置く。「3つの」の手前で息のスピードを上げる。語尾の「お伝えします」まで息を残す。手を加えるのはこの三箇所だけです。同じ内容、同じ声量でも、聴き手の耳への引っかかり方は明らかに変わります。
開始1分前は、顎の力みを抜いておきます
本番直前に長い発声練習をすると、かえって喉がこわばります。昼食後にやるべきなのは、ごくわずかな調整だけです。手のひらで顎の下に軽く触れ、力が入って上がっていないかを確かめます。口を閉じたまま息を一度吐き切り、肩を上げないように短く吸います。声には出さず「それでは午後の部を始めます」と口の形だけ動かし、最後に小さな声で一度だけ実際に声にしてみます。確かめたいのは元気の大小ではなく、顎が浮いていないか、語尾まで息が保てているかの二点です。
「それでは午後の部を始めます」で練習します
長い原稿をすべて練習し直す必要はありません。冒頭の一文だけを使います。
「それでは午後の部を始めます。本日は3つのポイントに絞ってお伝えします」
まず普段どおりに録音します。次に、「それでは」の高さを少しだけ上げて「午後の部」でいったん落ち着かせ、「3つの」の手前で息のスピードを上げて、「お伝えします」の語尾まで息を残して録音します。二回を聞き比べると、声量はまったく変えていないのに、二回目のほうが眠気に負けず耳に入ってくることが分かります。
録音でチェックするのは、元気に聞こえるかどうかではありません
昼食後の自分の声を録音で聞くと、思ったより元気がないように感じて落ち込む方がいます。ですが録音で確かめたいのは、元気の量ではありません。「それでは」で高さの変化があるか、「3つの」の手前で息のスピードが上がっているか、語尾まで息が残っているか。この三点だけを聞き分けてください。元気さを判定し始めると、そこで練習が止まってしまいます。
昼食後の場は、声を張らなくても起こせます
眠い午後イチの場を起こすのに必要なのは、大きな声でも、身振り手振りを増やすことでもありません。高さの置き方と、息のスピードの切り替えだけです。「それでは」で少し高さを変える。「3つの」の手前で息を速める。語尾まで残す。これだけで、資料をめくる音しかしなかった会議室の空気は変わってきます。次に午後イチの発表が回ってきたら、声を大きくする前に、この三箇所だけを見直してみてください。
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よくある質問
- Q. 昼食後のプレゼンで声を張ると、かえって場が冷めるのはなぜですか
- 眠気で下がった集中を大声で引き戻そうとすると、聞き手には威圧に感じられやすいからです。声量より高さの動かし方を変えるほうが効きます。
- Q. 居眠りしている人が目に入ると焦ってしまいます。どうすればいいですか
- その人の目を見続けようとしなくて大丈夫です。顔全体をゆるく見る程度にとどめ、意識は自分の声の届け方に戻してください。
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ボイストレーナー。Snow Man、NiziUなど多くの楽曲を手がける作曲家・前迫潤哉氏が主宰するLEVETCH VOCAL SCHOOLにて、ボーカル指導の代表を務める。 何千レッスンもの現場で、歌手・社会人・表現者の声と向き合ってきました。
詳しいプロフィール →プレゼンで声が震える原因と対策。メンタルではなく筋肉から整える方法
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