カラオケに行くと必ず喉が疲れる。翌日は決まって声がかすれる。この悩みは、歌のうまさとはあまり関係がありません。多くの場合、曲順と声量の配分が、喉にとって不利な形のまま毎回繰り返されています。原因の説明より先に、自分の歌い方のどこが喉に効いているのかを、部屋で一分だけ確かめてみてください。
サビで顔の向きを変えて確かめる
カラオケでサビに入る前、立つか座るか、歌詞、テンポ、声の大きさはそのままにして、変える変数は顔の向きだけです。「まだ終われない」という一行を、一度目は正面を向いて歌います。二度目は同じ一行の最初から最後まで、顔だけを右か左へ向けて歌ってみましょう。首を回し続けたり、上体をひねったりはせず、顔の向きを決めたら保ちます。二回とも一行だけなので、30秒もかかりません。
私がこの場面でまず確認したいのは、サビの最初の音に入る直前の首まわりの突っ張りと、一行を終えた時点で残る喉の乾いた感じです。正面と横向きで片方にだけ詰まりや引っかかりが出るなら、歌っている途中の顔の向きが負担に関わることがあります。一度目の最中に感じた変化を二度目の途中で探し直すのではなく、二回それぞれで文が終わった直後にだけ観察します。歌詞を覚えている箇所を使えば、視線で歌詞を追う動きも混ぜずに済みます。この比較では、声を張り直すために音量を上げないことも揃える条件です。差が出なければ、原因を顔の向きに決めず、音の高さ、連続して歌う一行の長さ、直前までの発話量など別の原因へ進みます。喉に痛みが出たら、その時点で中止してください。
疲れは一曲ごとではなく、曲順で積み上がります
喉が疲れやすい人の選曲を見ると、その日いちばん歌いたい曲、いちばん盛り上がる曲が最初のほうに固まっていることが多いです。喉が温まる前に音域の広い曲や速い曲を入れると、そこで生まれた負担は消えずに、後の曲へそのまま引き継がれます。
最初の一、二曲は、自分の声域の真ん中あたりで、テンポのゆるやかな曲を選んでください。ここは点数や盛り上がりのための時間ではなく、息と喉の状態を確かめるための時間です。盛り上がる曲を歌った直後には、落ち着いた曲を一曲挟むと、喉が回復する隙間ができます。テンションを保ったまま高い曲を連続させるより、緩急のある曲順のほうが、結果として長く歌い続けられます。
予約の入れ方にも癖が出ます。歌いたい曲を思いついた順に入れていくと、難しい曲ばかりが序盤に固まりがちです。楽な曲を先に二曲入れてから本命を挟む、と自分の中でルールを決めておくだけで、曲順の失敗はかなり減ります。
一曲を通しで録音して、疲れ始める場所を特定します
部屋での一分の実験で入り口がつかめたら、次のカラオケでは一曲だけ、スマホで通し録音してみてください。聞き返して探すのは、うまく歌えたかではなく、どの場面から声の質が変わり始めるかです。
Aメロでは軽かった声が、サビの繰り返しで硬くなる。二番に入った途端、語尾が短く切れ始める。質が変わり始めた場所が、あなたの喉が押し始めた場所です。場所さえ特定できれば、対策はその一点だけで済みます。サビで硬くなる人はサビだけ声量を一段落とす。二番から崩れる人は、間奏で一度、息と姿勢を仕切り直す。曲全体の歌い方を作り替える必要はありません。自分の中で聞こえている声は骨を伝う響きが混ざった別物なので、疲れの入り口は録音でしか特定できません。
「歌い込めば喉が強くなる」は、疲れる人ほど裏目に出ます
喉を鍛えるつもりで、高い曲や大声の曲をあえて続けて歌う人がいます。けれど、喉で押した声を繰り返すほど、その負担のかけ方が癖として体に刻まれていくだけです。私の実感では、カラオケで疲れやすい人の多くは喉を締めすぎる側に寄っています。ただし逆に、息が漏れて緩みすぎている人も、支えがない分だけ同じように疲れます。どちらに寄っているかは人によって違うので、力を抜けば解決すると自己判断で決めつけないほうが安全です。
鍛える前に確かめたいのは、楽な音域の曲で息の流れが保てているかどうかです。楽な曲で喉が張るなら、難しい曲では確実に張ります。順番はいつも、楽なほうから難しいほうへです。
頻度についても同じことが言えます。喉が疲れたまま週に何度も歌いに行くより、疲れが抜けた状態で歌うほうが、出し方を確かめながら歌えます。前回の疲れが残っているうちに重ねた無理は、強さではなく癖として蓄積します。
疲れてきたら、音量を一段下げて歌います
盛り上がる場面ほど声量を上げたくなりますが、喉に力が入った状態で音量を足しても、疲れが増えるだけで歌いやすさは戻りません。喉が重くなってきたと感じたら、次の曲は音量を一段下げるか、キーを下げるか、どちらかを選んでください。
マイクの使い方でも負担は変わります。口元に近づけすぎたまま張り上げる歌い方は、喉で押す量を増やします。マイクを少し離し、スピーカーから返ってくる音に声量を預けるつもりで歌うと、同じ聞こえ方でも喉の仕事は減ります。小さい声で疲れる歌い方は、大きくしても同じ場所が疲れます。だから確認はいつも、小さいほうの声で行います。
原曲キーへのこだわりも、疲れやすい人ほど一度手放す価値があります。キーを二つ下げて楽に歌い切れた曲は、喉の調子が良い日に一つずつ戻していけばよいのです。その日の喉に合わせてキーを選ぶのは逃げではなく、配分の技術です。
曲間の過ごし方が、後半の喉を決めます
歌っている間、口の中と喉の粘膜は思っている以上に乾きます。喉が渇いたと感じてから飲むのではなく、曲の合間ごとに一口ずつ水分を取ってください。冷たい飲み物より、常温か少し温かいもののほうが喉を締めつけにくいと感じる人が多いです。お酒の席では利尿作用で体の水分が抜けていくので、飲む量が増えるほど、水を挟む回数も意識して増やします。
もう一つ、曲間の落とし穴がささやき声です。喉を休ませるつもりで、ひそひそ声でお喋りを続ける人がいますが、実際はささやき声も声帯をよく動かすため、意外と疲れます。本当に休ませたい合間は、無理に声を出さず黙って過ごすほうが回復は早いです。
大人数の部屋では、順番が回ってくる間隔が長いぶん、この合間の過ごし方の影響が大きくなります。盛り上がりに合わせて叫ぶような合いの手を入れ続けていると、自分が歌っていない時間にも喉は着実に消耗します。合いの手は手拍子に置き換えるだけでも、次に自分の番が来た時の声は変わります。
姿勢が崩れると、喉に頼る歌い方へ戻ります
長時間のカラオケでは、座りっぱなしや前かがみの姿勢が続きがちです。体が前に丸まると息の通り道が狭くなり、足りない分を喉で補う歌い方に、知らないうちに戻っていきます。
数曲ごとに一度、背もたれから体を起こし、肩を一度上げてすとんと落としてから次の曲に入ってください。たったこれだけの仕切り直しでも、後半の喉の残り方は変わります。疲れは歌っている瞬間だけでなく、歌っていない時間の姿勢からも積み上がっています。
モニターの位置にも注意してください。画面が高い位置にある部屋では、歌詞を追うだけで顎が上がり、喉が詰まりやすい形になります。立つ位置や座る場所を変えて、顎を引いたまま歌詞が読める角度を確保するだけで、同じ曲でも出しやすさが変わります。
最後の一曲と帰り道が、翌日のかすれを左右します
締めの一曲は、盛り上がる曲ではなく、楽に歌える落ち着いた曲にしてください。最後まで全力で歌い切ると、その日の満足感は高くても、興奮した状態の喉のまま店を出ることになり、翌日にかすれとして残りやすくなります。
帰宅後もすぐに大声で話したり長電話をしたりせず、喉を休ませる時間を作ります。就寝前に水分を取り、部屋の乾燥を避けることも、翌朝の声に効いてきます。翌日に会議や接客など声を使う予定があるなら、前日のカラオケは選曲と声量を意識して抑えめに組む。歌うことを我慢するのではなく、次の日の予定に合わせて力の配分を決めるだけで、疲れの残り方は大きく変わります。
次は、喉が軽いまま店を出ることを目標にします
カラオケの目標を、全曲を全力で歌い切ることから、喉が軽いまま店を出ることへ置き換えてみてください。楽な曲から入る曲順、疲れたら一段下げる声量、合間の一口の水分、数曲ごとの姿勢の仕切り直し。この四つがそろえば、同じ時間歌っても喉の残り方は別物になります。
我慢の多い歌い方に聞こえるかもしれませんが、実際は逆です。喉が最後まで軽いと、終盤にこそ本命の曲を気持ちよく歌えます。序盤で使い切る配分から、終盤に残す配分へ。それだけの違いです。
次にカラオケへ行く前に、最初に録った二本のフレーズをもう一度聞き比べてください。張った一回目ではなく、息を先に流した二回目の出し方を一曲目に持ち込めたら、その日の疲れ方はもう変わり始めています。
よくある質問
- Q. カラオケで一曲目から喉が疲れるのは、選曲の問題ですか?
- 曲の高さだけでなく、マイクが小さく聞こえて自分の声を押し上げることも原因になります。私は、まず伴奏とマイクの音量を調整し、歌声を前に運べる大きさから始めるようにしています。
- Q. 高音で苦しくなったら、裏声に逃げたほうがよいですか?
- 裏声に切り替えること自体は悪くありません。ただし、苦しさを隠すために急に別人の高さへ飛ばすと、つながりを失いやすくなります。私は、届く範囲を少し下げ、前へ伸ばす感覚を保ちます。
- Q. カラオケの合間に声を休めるには、何を避ければよいですか?
- 曲間に大声で話したり、ささやき続けたりすると、歌っていない時間にも負担が重なります。私は、次の曲を探す間は口数を減らし、水分をとりながら静かに呼吸を整えます。違和感が続くときは無理をせず専門家へ相談してください。
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ボイストレーナー。Snow Man、NiziUなど多くの楽曲を手がける作曲家・前迫潤哉氏が主宰するLEVETCH VOCAL SCHOOLにて、ボーカル指導の代表を務める。 何千レッスンもの現場で、歌手・社会人・表現者の声と向き合ってきました。
詳しいプロフィール →歌が上手くなる声の出し方。音程の前に整える息と響き
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