騒がしい場所で声がかき消される。張らずに抜けさせる
出玉音や有線放送が鳴り続けるアミューズメント接客で声が埋もれる人へ。声量ではなく息のスピードと支え方で、騒音の中でも聞き取ってもらえる声の作り方を紹介します。
奥津ユキ
出玉が跳ねる音、台の効果音、有線から流れる軍艦マーチ、換気の低いうなり。これらが同時に鳴っている店内で「ただいまお席をご案内いたします」と声をかけても、三列向こうのお客様には音の粒として届く前に消えてしまう。何度も聞き返され、しまいには身振りだけで伝える。この悩みを、声質や経験不足のせいにする前に、声を出す瞬間に何が起きているかを分けて見ていきます。
出玉音と有線に対抗して声を張るほど、かえって届きません
騒音のただ中で声をかけるとき、多くの人がまず声量を上げようとします。ですが機械音や音楽は帯域が広く鳴り続けているので、こちらが声の大きさだけで張り合っても、音の壁の手前で吸収されてしまうことがほとんどです。しかも張り上げようとするほど、力の入れ先は喉に集まります。喉で押して作った声は近くの一人には届いても、少し離れた台の前まではむしろ通りにくくなります。
私が見ているのは声の大きさそのものより、息がどれだけの速さで言葉に乗っているかです。ゆっくりとした息に乗った声は輪郭がぼやけ、周囲の音に紛れて埋もれます。反対に息を少し速く吐いてから言葉を出すと、同じ声量でも音の芯がはっきりして、機械音の隙間を抜けていきやすくなります。
自転車と同じで、ゆっくりでは崩れ、速さが乗ると前に進みます
自転車はゆっくり漕ぐほどふらついて倒れそうになり、ある程度の速さが出ると安定して前に走ります。声もこれと近い感覚で、遅い息のまま出した声は支えを失いやすく、速く吐いた息の上に乗せた声はまっすぐ運ばれていきます。声量を上げようと意気込む前に、まず息だけを少し速く吐き切る練習をしてみてください。
「ただいま景品交換をご案内しております」
この一文を、いつも通りの息の速さで言ってみたあと、口を閉じて一度だけ息を強めに吐き切ってから、同じ一文をもう一度声にしてみます。二回目のほうが、同じ声量でも言葉の先頭がくっきり立つ感覚があるはずです。台の音や有線が鳴っている環境ほど、この差はわかりやすく出ます。
開店前ミーティングで指示を通す声も、同じ土台が要ります
開店前、まだ客足のない店内でスタッフを集めて本日の割り当てや注意事項を伝える場面があります。フロアには機械の起動音や清掃の音が残っていて、静かなようで実は雑音がゼロではありません。ここで声が通らないと、指示が半分しか伝わらないまま持ち場に散っていくことになります。
このときも、声を張り上げて注意を引こうとする必要はありません。集まった面々の顔がこちらを向いた瞬間に、短く息を吐いてから最初の一言を出す。それだけで、雑談交じりの空気の中でも言葉の輪郭が立ち、聞き手の耳がこちらに向きます。声を張るより先に、出だしの一音をどこから出すかを整えるほうが、短い連絡事項ほど効きます。
毎日大声を出し続けても、喉は鍛えられません
「騒がしい環境で働き続ければ、そのうち大きな声にも慣れて喉が強くなる」と考えている方によく出会います。ですが私の見立てはこれとは違います。間違った出し方のまま毎日大声を出し続けると、喉には鍛えではなく負担が積み重なっていきます。出せば多少は強くなる部分もありますが、締めて押す癖がついたままでは、その分だけ痛みやかすれとして跳ね返ってくることのほうが多いです。
大切なのは声を出す回数を減らすことではなく、出し方そのものを変えることです。喉の奥で押して作った声を毎日繰り返すより、息のスピードで運ぶ声に少しずつ入れ替えていくほうが、同じ勤務時間でも喉に残るものが変わってきます。
お腹の圧を保つ感覚で、閉店までの時間をもたせます
案内、呼び込み、景品交換の対応と、閉店までに同じような一言を何十回も繰り返す仕事では、一回ごとの負担は小さくても積み重なりが夕方の声に直結します。ここで役に立つのが、横隔膜のあたりを前へ軽くつまむような感覚を保ち続けることです。声を出すときだけでなく、次のお客様に向かって息を吸う瞬間にも、この圧を抜かないでおくと、何十回目の案内でも一回目に近い声を保ちやすくなります。
お腹を大きく膨らませたりへこませたりする動きの大きさは、実はそれほど重要ではありません。動きの大小より、圧を切らさずに保ち続けているかどうかのほうが、長時間の接客には効きます。
耳栓をしたお客様にも届かせるなら、母音と語尾を見ます
台の音量に配慮して耳栓をされているお客様に声をかける場面もあります。ここで音量だけを上げようとすると、こちらも相手も余計に疲れます。見るべきは母音の輪郭と語尾です。「ご案内いたします」の「い」「た」「し」「ま」「す」を一つずつ丁寧に開き、最後の「す」まで息を残して言い切ると、耳を塞いだ状態でも言葉の形として伝わりやすくなります。
母音を強調しようとして口を大きく開けすぎる必要はありません。舌の動きと語尾の息の残し方のほうが、口の開閉の大きさより効果を感じやすいはずです。
隣のスタッフの声と重なると、二人とも聞き取ってもらえません
フロアが混み合う時間帯は、自分だけでなく隣のカウンターのスタッフも同時に案内の声を出しています。二人分の声が同じ高さ・同じ調子で重なると、お客様の耳にはどちらの声も塊になって届き、結局どちらも聞き取ってもらえないということが起きます。
ここで音量を張り合っても解決しません。私が勧めているのは、口角をわずかに上げて話す方法です。意図して鼻にかけようとしなくても、口角を上げるだけで声が自然と鼻のほうへ抜けやすくなり、同じ音量でも音の質感が変わります。隣の声と重なりそうな瞬間ほど、声を大きくするのではなく、この質感の違いで自分の声を際立たせるイメージを持ってみてください。
一時的な叫び声と、抜ける声は別物です
繁忙時間帯にお客様を呼び止める、急なトラブルで奥のスタッフを呼ぶ、といった場面では、瞬間的に強い声を出さざるを得ないこともあります。ただ、この一時的な叫び声と、閉店まで何時間も使い続ける案内の声は、同じ出し方で扱わないほうがよいです。
瞬間的に張る声は喉に多少の負担がかかっても一回で終わります。ですが同じ張り方を案内のたびに繰り返すと、負担は閉店時間に向けて積み上がる一方です。とっさに強く出す場面と、繰り返し使う場面とで、声の作り方を無意識に切り替えられるようにしておくと、一日を通した喉の消耗がかなり変わってきます。
透明パーテーション越しでは、さらに声が沈みます
景品交換カウンターや受付には、透明の仕切り板が設置されている店舗も多くあります。板があるだけで声は反射し、こもって聞こえやすくなり、機械音との二重苦になります。ここでも大きな声で押し通そうとすると、パーテーションに跳ね返った自分の声にさらに喉が引っ張られ、余計に力んでしまいます。
板越しの接客では、声を張るよりも、板の隙間や受け渡し口に向かって言葉を置くようなつもりで話すほうが伝わりやすくなります。相手の顔に向かって声を投げるのではなく、受け渡し口という決まった位置に言葉を通す感覚に変えるだけで、こもりが少し軽くなります。
休憩中のスマホで、有線の音量を再現してチェックします
練習は難しい環境を用意しなくても、スマホひとつでできます。休憩室や自宅で、動画サイトなどから賑やかなBGMを流しながら、実際に使う一文を録音してみてください。
「ただいま景品交換をご案内しております」
一回目はいつも通りの息の速さで、二回目は声を出す前に息を少し速く吐き切ってから、三回目は語尾の「す」まで息を残す意識で読みます。再生するときに聞くのは、声の良し悪しではありません。BGMの向こう側でも言葉の輪郭が保たれているか、その一点だけを確認してください。三通りの差が耳ではっきり分かれば、明日の勤務でどちらの出し方が届くかも見えてきます。
喉のかすれや痛みが休んでも取れない、あるいは声が急に出にくくなったという状態が続く場合は、環境のせいだけにせず、耳鼻咽喉科など専門家に一度診てもらうことも選択肢に入れてください。
まとめ
騒がしい店内で声がかき消されるのは、声が小さいからでも、経験が足りないからでもありません。機械音や有線に張り合って喉で押し出す出し方をしていないか、まずそこを見直してください。息を速く吐いてから言葉に乗せる、お腹の圧を保ったまま案内を繰り返す、語尾まで息を残して母音の輪郭を保つ。この三つを、次の勤務から一つずつ試してみてください。声を大きくする前に、届く出し方に入れ替えることのほうが、長い一日を乗り切る近道になります。
よくある質問
- Q. 騒がしい店内では、声を張るしかないのでしょうか
- 張り上げるほど喉の奥だけで音を作ることになり、機械音の下に沈みがちです。息を速く吐いて言葉の先端に乗せる方向に切り替えると、同じ声の大きさでも音の壁を抜けやすくなります。
- Q. 一日中呼び込みや案内をしていると夕方に声がかすれます。慣れの問題でしょうか
- 慣れではなく、毎回喉を締めて押し出す出し方を繰り返していることが関わっている場合が多いです。お腹の圧を保ったまま声を乗せる感覚に変えると、同じ回数を話してもすり減り方が変わります。
- Q. 耳栓をしているお客様にも声を通す必要があります。何を変えればよいですか
- 音量だけを上げるより、母音の輪郭をはっきりさせ、語尾まで息を残すほうが、耳を塞いでいる相手にも言葉の形が伝わりやすくなります。
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ボイストレーナー。Snow Man、NiziUなど多くの楽曲を手がける作曲家・前迫潤哉氏が主宰するLEVETCH VOCAL SCHOOLにて、ボーカル指導の代表を務める。 何千レッスンもの現場で、歌手・社会人・表現者の声と向き合ってきました。
詳しいプロフィール →声が小さい・通らない人へ。大きい声を出さずに改善する方法
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