交流会・懇親会で埋もれない声。ざわつく場所で名乗りを届ける
交流会や懇親会のざわつきで名乗りが埋もれる人へ。声を張らずに、息のスピードと語尾を整えて、BGMや人混みの中でも届く声にする方法を解説します。
奥津ユキ
乾杯の直後、会場中に人の話し声とBGMが重なった瞬間に、自分の名乗りだけが届かなくなる。この相談を受けたとき、私は「もっと大きな声で」とは言いません。会場で頑張る前に、自宅で確かめられることが一つあります。まずそれを試してみてください。
自宅で、ざわつきごと名乗りを録音して聞き比べます
テレビかスピーカーで少し賑やかな音を流しながら、実際に使う名乗りの一文を、スマホのボイスメモで録音します。
「初めまして、〇〇会社の〇〇と申します」
一度目はふだんの調子のまま録ります。二度目は、言う直前に口を閉じたまま息を少し強めに吐き切ってから録ります。再生して並べると、二度目のほうが声の輪郭がはっきり立って、流れている音の上に名乗りが乗って聞こえるはずです。声量は何も変えていないのに、です。
確認するのは三点だけです。出だしが周りの音に埋もれていないか。息の勢いが声より先に動いているか。語尾の「す」まで音が残っているか。この差が、そのままざわついた会場で届くかどうかの差になります。
名乗りの一言がBGMと話し声に沈む、そのしくみ
交流会や懇親会の会場では、複数の会話とBGMが同時に鳴っています。向かい合う相手との距離は一メートルもないのに届かないのは、距離の問題ではありません。この環境で声が届かない人の多くは、単純に声が小さいのではなく、息の流れが遅いまま言葉を出しています。ゆっくりした息に乗った声は、周囲の音に混ざりやすく輪郭を失います。
先ほどの一文をふだんの会話と同じ息の速さで言うと、静かな部屋なら十分伝わっても、ざわついた会場では出だしの時点で相手の耳に届く前に音が薄れてしまいます。反対に、息のスピードだけを少し上げて同じ音量で言うと、声の輪郭がはっきりして、周囲の音の上に自分の声が乗るようになります。
自転車を思い浮かべてください。ゆっくり漕ぐと安定せず倒れそうになりますが、ある程度スピードが乗ると自然に真っ直ぐ走ります。息もこれと同じで、遅い息は声を支えきれず、速い息は声を前へ運びます。
声を張り上げるほど、かえって届かなくなる理由
ざわつきに負けまいとして、多くの人がまずやるのは声を張り上げることです。ただ、張り上げる方向で声を作ると、喉で押した声になりやすく、近くにいる相手には大きく聞こえても、少し離れた場所には輪郭が届かないことがあります。
私が見るのは声量そのものではなく、喉が締まっていないかどうかです。高く出そう、大きく出そうとするほど声帯を締めて押し出す形になりやすく、そうなると息の勢いが声に変わらず、喉の中で止まってしまいます。締めて出すのではなく伸ばすようにして、息の通り道を保つ。これだけで、同じ声量でも相手に届く距離が変わります。
口角を上げると、語尾の「す」まで音が残ります
名乗りが埋もれる人にもうひとつよく見られるのが、語尾が消えることです。名乗りの最後の「す」まで息が残っていないと、名乗り自体は正しくても、相手の記憶には最初の社名しか残りません。
ここで役に立つのが口角です。意識して鼻にかけようとするより、口角をわずかに上げるだけで、声が自然と鼻の方に響きやすくなります。笑顔を作る動きとほぼ同じなので、初対面の挨拶にも違和感なく馴染みます。
口角を上げた状態で先ほどの一文を言うと、こもりがちだった声の芯が変わり、語尾まで音が残りやすくなります。強く言い切る必要はなく、口角と息、この二つを合わせるだけで十分です。
輪への合流と相槌――名乗り以外の声も埋もれさせない
交流会では、名乗りだけでなく、すでに数人で話している輪に自分から加わる場面もあります。ここで声が届かない人の多くは、輪の会話が途切れる瞬間を待ちすぎて、声をかけるタイミングそのものを逃しています。
タイミングを逃さないために声を張ろうとすると、割り込むような強い声になり、かえって輪の空気を壊してしまいます。必要なのは声の強さではなく、出だしの一音をどこに置くかです。「お話し中失礼します」の「お」の音を、相手の会話の語尾が終わりかけた位置にそっと重ねるように置くと、声量を上げなくても自然に輪の中へ入っていけます。一度その輪の呼吸を聞き取ってから声を出す。これだけで、割り込みではなく合流として受け取られやすくなります。
名乗りを聞き返されたときの対応も決めておくと楽になります。もう一度お願いしますと言われた瞬間、多くの人は反射的に声を大きくして言い直しますが、至近距離で急に音量だけ上げると、相手には強い声として届いてしまいます。言い直すときに変えるのは音量ではなく息の速さです。同じ大きさのまま、息だけを速めて輪郭を立てて言い直すと、二度目は自然に通ります。
輪に入ったあとの立ち話では、相槌の声も見落とせません。「そうなんですね」「なるほど」といった短い相槌は、名乗りの一文より短いぶん、ざわつきの中では真っ先に消えてしまいます。相槌を大きくする必要はありません。語尾の母音を心持ち長めに保つだけで、短い言葉でも音の芯が残りやすくなります。最後の母音がわずかに響いた状態で切り上げると、ざわつきの中でも相手に「聞こえている」ことが伝わります。短い言葉ほど息が抜けやすいので、相槌の前に軽く息を吐いてから声を出すことも合わせて意識してみてください。
名刺を渡す一瞬、視線と声が離れる問題
名乗りながら名刺を渡す動作が重なると、視線が名刺に落ち、声もつられて下を向いたまま出てしまうことがあります。下を向いて話すと、声が自分の胸元にこもり、相手の耳まで届く前に音量が落ちます。
名刺を渡す手元の動きと、声を出すタイミングを完全に一致させる必要はありません。名乗りの語尾を言い切ってから名刺に手を伸ばすくらい、ほんの少し声を先に出しておくだけで、下を向いたまま話す癖が減ります。
立食の会場では、グラスや小皿を持ったまま名乗る場面も多くなります。物を胸の前に抱えると胸が縮こまり、息が浅くなって声も細くなりがちです。名乗る数秒だけでいいので、グラスを体の脇に下げて胸の前を空けてから声を出すと、同じ息でも通り方が変わります。
会場に入る前の30秒と、何度名乗っても枯れない圧
会場に入ってすぐ大きな声を出すと、喉が驚いて締まりやすくなります。入る前に、鼻からハミングでごく小さく「んー」と数回鳴らしておくと、声の通り道が少し開いた状態で会場に入れます。口を閉じたまま行うので、化粧室やエレベーターの中でも気づかれずにできます。声を張る準備ではなく、ざわつきに負けない息の通り道を先に作っておく、というだけの意味合いです。
もう一つ、交流会では一人だけでなく、何人にも同じ名乗りを繰り返します。ここで声が枯れていく人の多くは、毎回声を張って名乗り直しているうちに、喉だけで押す癖が積み重なっています。対策は、声を出す量を減らすことではありません。お腹のあたりに軽く圧をかけたまま保っておく感覚を、名乗りのたびに思い出すことです。吐くときだけでなく、次の相手に向かって息を吸うときも、その圧を抜かずにおくと、何十回名乗っても喉だけがすり減っていく感覚が減ります。会の後半で声が重くなってきたと感じたら、飲み物を口に運ぶ間に一度だけ、口を閉じて息を吐き直してください。喉を休ませる数秒は、会話を止めなくても作れます。
交流会は声の大きさでなく、届く一言で覚えてもらう場です
何人もの名乗りが行き交う会場で必要なのは、響き渡る声量ではなく、自分の一言だけが相手の耳にきちんと残ることです。仕上げに、もう一度だけ録音してみてください。
「初めまして、〇〇会社の〇〇と申します」
息を先に動かし、口角を上げて、語尾まで残す。最初に録ったものと並べて聞いて、輪郭の差が自分の耳で聞き取れたら、その出し方が次の会場に持っていく声です。声を張り上げる必要は、どこにもありません。
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交流会以外の場面でも、声が埋もれる原因は共通しています。あわせて確認しておくと練習の幅が広がります。
よくある質問
- Q. 交流会で声が届かないのは声量が足りないからですか
- 声量よりも、息のスピードが遅いまま話していることが原因になりやすいです。声を張るより息を少し速く吐いて言葉に乗せる方が、周囲の音に埋もれにくくなります。
- Q. 会場で大きな声を出す練習が必要ですか
- 必要ありません。むしろ毎回声を張って名乗ると喉に負担がたまります。息のスピードと語尾の残し方を先に整えてください。
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交流会で届く声というのは、大きい声のことではありません。息のスピードが上がった声のことです。声量だけを上げようとするほど喉に負担がかかり、逆に輪郭がぼやけていくことがあります。