高い部分で声が割れる。無理に張らず抜けさせる
号令・呼び込み・掛け声など、高さを出す一瞬だけ声が割れる人へ。喉を締める力みを外し、割れずに声を抜く出し方を紹介します。
奥津ユキ
体育館の号令、屋台の呼び込み、保育士の朝の会。高さが乗る一瞬だけ声が割れる、かすれるという相談をよく受けます。仕組みの説明はいったん後回しにして、まずスマホの録音アプリで一つ確かめてください。
まず、割れる一言をあごを押さえて録り比べます
自分の場面の一言を選びます。号令なら「前へならえ」、保育の掛け声なら「せーの」、呼び込みなら店頭の最初の呼びかけだけでかまいません。
一回目は、いつも通りの調子で録音します。二回目は、手のひらであごの下を軽く押さえ、あごが上がらない状態を保ったまま、同じ一言を小さめの声で録音します。
聞き比べると、あごを押さえた二回目のほうが、高さの乗る一点の引っかかりが軽くなった人が多いはずです。あごが上がると声帯を締める合図になりやすく、締めた声帯は高さが乗る一瞬に震えきれず、割れとして表に出ます。あごを押さえただけで軽くなったなら、割れの正体は喉の弱さではなく、締める癖のほうだと分かります。
体育館、屋台、保育室──場面は違っても割れる仕組みは同じです
「気をつけ、前へならえ」を体育館いっぱいに響かせようとした瞬間、「ら」のところで声が裏返るように割れる。屋台や催事場で「いらっしゃいませ、掘り出し物ありますよ」と声を張った拍子に、「ま」の手前でガサッとかすれる。保育室で「せーの、パチパチパチ」と場を盛り上げようとした一声目が、抜けずに詰まる。
場面はまったく違いますが、体の中で起きていることはほぼ同じです。高さが必要になった瞬間、声帯を平行のまま強く締めて音の高さを作ろうとしています。締めれば締めるほど声帯は震えにくくなり、震えないと声にならず、結果として割れやかすれとして表に出ます。
「もっと思いっきり出せば直る」と考えると、遠回りになります
割れが続くと、練習量を増やすより先に「もっと腹から思いっきり出せば通る」と考えがちです。ですが、思いっきり出そうとする力の大半は喉に向かいます。声量を増やすほど締まりも強くなり、割れる頻度はむしろ増えていきます。私の実感では、割れやすい人の多くは声帯そのものが弱いわけではなく、締めて高さを作る癖がついているだけです。まず疑うべきは筋力ではなく、締めているかどうかという使い方の側です。
体育祭で一日に何度も号令をかける、催事場で何時間も呼び込みを続ける、保育室で朝の会を毎日繰り返す。どれも同じ高さを繰り返し使う仕事です。繰り返すほど喉は疲れ、疲れるほど締める力に頼りやすくなるので、午前中は割れなかった号令が、午後になると同じ強さで割れ始めることがあります。これは気合いが切れたのではなく、単純に締める頻度が積み重なった結果です。
三つの場面、直前に見る場所はそれぞれ一点です
体育の号令が割れる人の多くは、腹から声を出そうとするあまり、喉元にも一緒に力を入れています。冒頭の実験で確かめた通り、まず見るのは号令の直前にあごが上がっていないかどうかです。あごを軽く引いたまま、高さが乗る音に入る直前に息をひとしずく多めに流しておく。声量を追加するのではなく、息の通り道を先に空けておく感覚です。
呼び込みの声は、周囲の雑音に負けまいと一瞬で声量を上げる必要がある点が特徴です。急に声量を上げようとすると、体はとっさに喉を締めて対応しようとします。私の実感では、屋外の呼び込みで割れやすい人ほど、声を出す前の一拍で息を止めてしまっています。最初の呼びかけに入る前、止めていた息を一度小さく流してから声に乗せてみてください。息が先に動いていれば、声帯は締めた状態からわずかにゆるみ、割れる手前で持ちこたえやすくなります。
保育の現場では、子どもたちの注意を一瞬でこちらへ向けるために、明るく高い一声が必要になります。この一声目が詰まって割れる人は、笑顔を作ろうとする顔の力みが、そのまま喉のあたりにも伝わっていることが多いです。「せーの」の「せ」を出す直前に、口角だけをふっと上げて、喉やあごには力を入れないようにします。表情の明るさは口角と目もとで作り、喉は締めずに開けておく。この役割分担ができると、盛り上げの一声が抜けやすくなります。
| 場面 | 割れやすい一点 | 直前に見る場所 |
|---|---|---|
| 体育館の号令 | 「前へならえ」の「ら」 | あごが上がっていないか |
| 屋台・催事場の呼び込み | 「いらっしゃいませ」の「ま」の手前 | 声を出す前に息が止まっていないか |
| 保育室の掛け声 | 「せーの」の「せ」 | 表情の力みが喉に伝わっていないか |
場面ごとに言葉は違っても、直前に見る場所は三つとも同じ種類のものです。あごの角度、息の流れ、力みの向け先。どれも高さそのものをいじるのではなく、声を出す一瞬前の体の状態を整える作業です。
割れ癖を一度外す、ふざけた声の準備運動
割れが強く出る人には、あえてふざけた声を挟む練習も効きます。ステッチやミッキーのモノマネのような「メッ、メッ」という裏返った高い声を何度か出してから、本来の一言に戻ってみてください。締めすぎる癖が一度外れ、次に出す声がふっと軽くなることがあります。恥ずかしく感じても、割れを抜くための準備運動だと思って試してみてください。
録音を聞き返すときは、全体の出来を採点しないでください。見るのは、割れた音がどこにあったかという一点だけです。割れが起きる場所は毎回だいたい同じ位置に集中しています。その直前であごが上がっていないか、息が止まっていないかだけを確認します。良い声・悪い声の判定を始めると、そこで練習が止まってしまいます。
一週間、同じ一言だけで慣らします
日によって練習内容を変えると、何が効いたのか分からなくなります。最初の一週間は、自分の場面に合わせた一言だけに絞ってください。
一日目はあごの角度だけを見る。二日目は声を出す前の息の流れだけを見る。三日目は表情の力みが喉に伝わっていないかだけを見る。このように一日ひとつのテーマに絞って録音を残していくと、自分がどの場面のどの一点で割れやすいのかが具体的に見えてきます。そこから初めて、本番の音量に近づけていけば無駄がありません。
録音は消さずに日付順に残しておいてください。一週間後に初日の一言と聞き比べると、割れの手前の音がどれだけ滑らかになったかを、自分の耳ではっきり確認できます。
本番直前の30秒と、割れた後の立て直し
号令や呼び込みの直前に長い発声練習をする時間はまずありません。必要なのは30秒です。肩を上げずに一度だけ息を吐き切り、自然に入ってくる息を受け取ります。あごの下を軽く押さえたまま、本番で使う一言をささやくくらいの音量で一度だけ声にします。ここで確認するのは音量ではなく、あごが上がっていないか、割れそうな一点で息が止まっていないか、この二つだけです。この30秒は、声を温める準備運動というより、締める癖を本番へ持ち込まないための最終確認です。
本番中に一度割れても、そこで焦って声を張り直す必要はありません。割れた直後にもう一段強く押そうとすると、締める方向にさらに寄ってしまい、次の一声も割れやすくなります。立て直す順番は決まっています。まず言葉をひと呼吸だけ止め、あごを軽く下げて締まりをゆるめます。そのうえで、次の一言を出す前にだけ短く息を通します。声を張り直そうとする気持ちは脇に置き、締める代わりに伸ばす感覚に戻すことを優先してください。
明日の一声目は、あごを引くところから始めてください
高さが必要になる場面で声が割れるのは、声量や才能の問題ではなく、締めて高さを作ろうとする体の使い方の問題です。号令台に上がる前、店頭に立つ前、朝の会が始まる前。あごを引く、息を先に流す、割れる一点だけを録音で確かめる。実際に使う一言でこの三つを繰り返すうちに、高さの乗る一瞬は、身構える場所ではなくなっていきます。
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よくある質問
- Q. 高い部分で声が割れるのは、声量を出そうとしているからですか
- 声量よりも、高さを出す瞬間に声帯を締める方向で頑張ってしまっていることが大きな要因です。まず締めているかどうかを確認してください。
- Q. 毎日、大きな声を出す練習をすれば割れなくなりますか
- 同じ締め方のまま声量だけ増やすと、割れる回数はむしろ増えます。締める代わりに伸ばす感覚に置き換えることが先です。
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高い部分で割れるのは、声帯が弱いからではありません。締めて出そうとするほど出にくくなるだけで、直す方向は締めることではなく、声帯を前へ伸ばす、斜めにする感覚です。