仕事中に声が裏返る原因と直し方。大事な場面で上ずらせない

会議で指名された瞬間や電話の折衝中に声が裏返る人へ。震える声とは違う裏返りの正体と、仕事の場面に合わせた直し方を紹介します。

奥津ユキ

まっすぐ立ち、下あごの先に人さし指を軽く触れたまま、「はい」を一度、少し高めの高さで言ってみてください。次に、ほかは変えず、下あごの先を最初の位置より指一本の幅だけ下げた状態で、同じ高さの「はい」を言ってみてください。一度目と二度目で、指に触れるあごが急に上へ跳ねるかを比べてみてください。二度目にあごの跳ね上がりが減るなら、裏返りは緊張の強さではなく、高さが上がる途中の切り替えに関係しています。差が出なければ、裏返りの原因は別の原因にあります。

裏返りは高さの途中で起こる

仕事中に声が裏返ると、緊張したから、気持ちが弱いから、声が不安定だからと考えやすくなります。しかし、裏返りが起きる瞬間を細かく見ると、声の高さが上がる途中で、発声の使い方が急に切り替わっていることが分かります。低い高さでは安定していた息と声帯の組み合わせが、少し高い位置へ進むときに急に変わり、その境目で音が跳ねます。重要なのは、緊張をゼロにしようとすることではありません。高さを一気に飛び越えず、切り替わりやすい場所を通過できる動きを作ることです。

裏返りを恐れると、高い音を避けたり、反対に力で押し上げたりしがちです。避け続ければ必要な場面で不意に高くなったときの切り替えが残り、押し上げれば首やあごが固まり、境目がさらに急になります。私がこの場面でまず確認したいのは、どの言葉で裏返るかではなく、その直前に高さがどのように上がったかです。語尾で疑問形になるとき、名前を呼ぶとき、急いで返事をするときなど、音程が上向く経路に共通点が見つかることがあります。裏返りは、声の大きさの問題でも、単なる緊張の量でもなく、高さの移動が段差になったときに起こるということが起こります。その段差を見つければ、扱う場所を具体的に選べます。高さを上げる位置を分ける準備ができます。

高さを一段で飛ばさない

高さを上げるとき、音程を目標へ一気に置こうとすると、途中の動きがなくなります。特に短い返答では、低い出だしから高い終わりへ急に移りやすく、切り替えが表に出ます。練習では、二音からなる短い返答を二つの音に分けます。最初の「は」を普段の高さで短く置き、続く「い」へ向かう間に、あごを急に上げずに少しずつ高さを動かします。長く歌う必要はありません。二つの母音の間を、階段ではなく小さな坂にすることが目的です。

外から確認するには、下あごの先へ指を軽く添えます。音が高くなる瞬間に指が上へ跳ねるなら、あごが高さの変化を代わりに担っています。二度目は、あごを押さえ込まず、触れている指が急に持ち上がらない範囲で同じ言葉を言います。変えるのはあごの跳ね上がりだけです。声を小さくする、息を多くする、首を下げるといった操作を同時に足しません。高さの移動にあごの急な動きが重なると、口の中の空間と舌の位置が急変し、声の切り替えも急になります。高さをなめらかにするとは、気持ちを落ち着かせることではなく、身体の急な移動を減らすことです。小さく通過するほど、切り替えは急になりにくくなります。目標の高さの手前に、通過する場所を一つ作ります。

あごの跳ね上がりを減らす

高い声を出そうとすると、あごが上へ上がる人がいます。これは口を開けるための動きではなく、首の前側を縮め、舌の根元を引き上げやすくする動きです。低い音では問題にならなくても、少し高くなるとその動きが声の通り道を狭くし、切り替えを早めます。あごを下げ続ける必要はありません。必要なのは、音程が変わる瞬間だけ、あごが急に上へ飛ばないことです。あごの先に指を触れたまま「ええ」と言い、二つ目の「え」で指が上へ押されないようにします。指は支えではなく、動きの大きさを知らせる印です。

あごの動きが減ると、最初は高い音が出しにくく感じるかもしれません。それは、これまであごの跳ね上がりで高さを作ろうとしていたからです。そこで無理に高くしようとせず、普段の高さから半音ほど上へ動く程度の小さな変化を使います。「へえ」や「ほう」といった、口の開きが異なる短い音でも試します。音によってあごが上がりやすいものが分かれば、切り替えの場所を特定しやすくなります。あごを固めると別の詰まりが出るため、指で軽く触れたまま動ける状態を保ちます。裏返りを減らす作業は、あごを動かさない訓練ではなく、高さの移動とあごの移動を同時に急がせない訓練です。

息を増やして境目を越えない

裏返りそうになると、息を一気に増やして高い音を押し切りたくなることがあります。けれども、急な呼気は高さの境目をなめらかにするより、声の切り替えを強制しやすくなります。低い音から高い音へ移る途中では、息の量を増やすより、流れを途切れさせないことが大切です。短い紙片を口の前に持ち、「あー」と低い位置から少しだけ高く移します。紙を大きく揺らすのではなく、高さが上がっても紙の動きが急に強くならないかを見ます。紙の動きが急に大きくなる場所があれば、そこで息を足して境目を越えようとしている可能性があります。

仕事で使う声は歌のように長く伸ばす必要はありませんが、練習で短い持続音を使うと、切り替えの瞬間を急がずに通過できます。「あー」を三秒ほど出し、最後の一秒だけ少し高くします。音量は一定に保ちます。次に短い返答へ戻り、同じように後半だけを少し高くします。ここで音量まで上げると、何が裏返りを減らしたのか分かりません。高さ、音量、息の量を別々に扱うことが重要です。私がこの場面でまず確認したいのは、高い音が出たかどうかより、高くなる直前に息の流れが急変していないかです。切り替えを越えるために力を足すほど、次の場面でも同じ段差が残るということが起こります。

語尾の上がり方を小さく分ける

質問や確認の場面では、語尾が上がり、裏返りが起きやすくなります。「大丈夫ですか」「こちらでよろしいですか」の最後を一気に上げると、低い話し声から高い確認の音へ飛ぶことになります。これを避けるには、語尾の最後の一音だけで高さを作らず、語尾に入る少し前から小さく動かします。「ですか」なら、「で」は普段の高さ、「す」でわずかに上へ進み、「か」で目標へ着くように分けます。三つの音を不自然に区切るのではなく、動く距離を分散させます。

この練習では、指をあごに添え、語尾の三つの音のうちどこで指が跳ねるかを見ます。「か」だけで跳ねるなら、そこに高さの移動が集まりすぎています。二度目は「す」の時点でわずかにあごを動かせる状態を保ち、「か」で急に上げないようにします。変えるのは高さを移す位置だけであり、疑問の意味や文の長さは変えません。語尾を低くして逃げる必要もありません。必要な上向きは残しながら、上がる距離を分けるのです。仕事中に質問の語尾で裏返る場合、緊張を責める前に、どの音へ高さが集中しているかを見ると、修正の入口が見つかります。上がる場所を前へ分ければ、急な切り替えを減らせます。

高さが上がるとき、口の形が急に狭くなると、声の切り替えが起きやすくなります。特に「い」「う」のように口の開きが小さくなりやすい母音で、高さと口の狭まりが同時に来ると、あごや唇が固まりやすくなります。そこで、音を高くする前に、下あごが少し動ける空間を残します。「いいですね」の最初の「い」を高く言う練習なら、唇を横へ強く引かず、下の歯がわずかに下がる形を保ちます。これは口を大きく開ける操作ではありません。狭まりすぎを防ぐための余地です。

鏡を使わずに確認するなら、下あごの先へ軽く触れた指の動きが止まっていないかを見ます。高い母音であごが完全に固まる場合は、少し低い高さから始め、口の形を保ったまま半音ずつ移動します。一度に高い位置へ行かないことで、声と口の切り替えが重なるのを避けます。唇をすぼめる音では、唇だけが前へ出て首が固まらないようにします。高い声が不安定なとき、喉だけを問題にする必要はありません。高さの移動に伴って口の空間が急に変わることも、切り替えの引き金になります。口の形を固定するのではなく、変化を急にしないことが狙いです。

仕事の短い応答で切り替えを扱う

裏返りは、長い発表よりも、予想外に返す短い応答で起こることがあります。名前を呼ばれたとき、確認されたとき、相手の説明に反応するときの場面です。短い言葉ほど、高さの移動が一つの母音に集まりやすいためです。日常で扱うなら、返答を急いで高く出す前に、口を一度だけ開け、あごが跳ねない位置で最初の音を置きます。そのあと、高さを必要な分だけ小さく動かします。返答を遅らせる必要はありません。急な動きを減らすために、口の準備を一瞬先にするだけです。

練習に使う短文は三種類に絞ります。同じ文を連続で再掲し続けるのではなく、場面を変えて一度ずつ使います。一つ目は後半の母音への移動、二つ目は同じ母音の高さの移動、三つ目は語尾の上がり方を扱えます。どの言葉で裏返りが起きるかを覚えておくと、次に高くなる場所を予測できます。予測できれば、あごや息が急に変わる前に小さな移動を始められます。裏返りをなくすことだけを目標にせず、高さを通過できた回数を見ると、恐れによる力みを増やさずに練習を続けられます。返答の内容と高さの移動を、別々に扱えるようになります。短い返答ほど、移動の位置を一音前へ分けてください。これで高さの段差を小さくできます。

切り替えの前後を身体で確かめる

声が裏返ったあと、失敗したと感じてすぐに声の高さを下げると、何が起きたかを見失います。練習では、裏返りの有無より、切り替わりの前後で身体がどう動いたかを確かめます。あごが跳ねたか、首が前へ出たか、紙片の動きが急に大きくなったか、唇が急にすぼまったかを一つだけ見ます。音を聞き返す必要はありません。外から感じられる動きが分かれば、次の一回で変える変数も一つに絞れます。あごが上がったならあごの跳ね上がり、息が強くなったなら紙片の動き、唇が固まったなら口の開きというように扱います。

喉の痛みや声枯れが続く場合は、高い声の練習で乗り越えようとせず、耳鼻咽喉科を受診してください。裏返りを減らす目的は、いつも低い声で安全に話すことではありません。必要な高さへ、急な切り替えなしに移れる幅を持つことです。高さを上げる途中の坂を小さく分け、あご、息、口の形の変化を急がせないと、短い返答でも声は安定しやすくなります。緊張の有無だけで判断せず、どこで高さが飛び、身体のどこが同時に飛んだかを見てください。そこに分けて練習できる具体的な入口があります。次に高くなる一音を予測し、移動を少し前から始めます。高さの変化を、一か所へ集めないことが重要です。

よくある質問

Q. 声が裏返るのと声が震えるのは同じ原因ですか
別の現象です。震えは息や体の支えが細かく揺れる状態、裏返りは声帯の使い方が一瞬だけ切り替わって起きる現象です。対処の当てどころも変わります。
Q. 会議で名前を呼ばれた瞬間だけ裏返る場合、どこを直せばいいですか
指名された直後に息を止めて声帯を締めていないかをまず見ます。締める方向ではなく、声帯を前に伸ばす感覚に置き換えると裏返りにくくなります。
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奥津ユキ
書いた人
奥津ユキ

ボイストレーナー。Snow Man、NiziUなど多くの楽曲を手がける作曲家・前迫潤哉氏が主宰するLEVETCH VOCAL SCHOOLにて、ボーカル指導の代表を務める。 何千レッスンもの現場で、歌手・社会人・表現者の声と向き合ってきました。

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