·会議の声

仕事中に声が裏返る原因と直し方。大事な場面で上ずらせない

会議で指名された瞬間や電話の折衝中に声が裏返る人へ。震える声とは違う裏返りの正体と、仕事の場面に合わせた直し方を紹介します。

奥津ユキ

会議で名前を呼ばれて「はい、私から」と答えた瞬間、そこだけ声が甲高く裏返る。電話の相手が早口でまくし立ててきて、つられて答えを急いだ拍子に、語尾が割れる。こうした裏返りは、気の弱さでも生まれつき喉が弱いせいでもありません。声が震えるときとは、体の中で起きていることが違います。

声が裏返るのと声が震えるのは、起きていることが違います

同じ「緊張で声がおかしくなる」でも、震えと裏返りは区別して見る必要があります。震えは、話している間じゅう息や体の支えが細かく揺れ続けている状態です。一方の裏返りは、たいてい一音か二音の間だけ、声帯の使い方がふっと切り替わって起きる現象です。震えは持続的な不安定さ、裏返りは瞬間的な切り替わりミスと言い換えられます。

奥津ユキ
奥津ユキのミニコメント

声帯は締めて高さを作るものではありません。締めるほど声は不安定になり裏返りやすくなります。直す方向は締めることではなく、声帯を前に伸ばす、斜めにする感覚に近いものです。

裏返りが起きる瞬間を録音で聞き返すと、決まって声を高く張ろうとした一音の直前で息が止まっています。止まった息の上に声を乗せようとするので、声帯は締まったまま高さだけを無理に作ろうとし、そこで切り替わりが起きて裏返ります。筋肉が弱いから裏返るのではなく、伸ばすべきところを締めて対応してしまっていることのほうが大きな要因です。

会議で名前を呼ばれた瞬間に、なぜ甲高く裏返るのか

「〇〇さん、この件についてどう思いますか」。司会や上司から急に振られて、準備していない言葉を即座に返そうとする瞬間があります。

「はい、私からお伝えします」

この一言のうち「はい」の高さが定まらないまま声を出そうとすると、そこで裏返りが起きやすくなります。理由は単純で、指名された直後は息が浅いまま止まりやすく、止まった息の上で声を高くしようとすると声帯がぎゅっと締まるからです。準備していた発言なら息の通り道ができていますが、不意打ちの発言では息の準備が追いつかず、締める方向に逃げてしまいます。

対策として効くのは、「はい」を出す前に短く息を通すことです。止めたまま声を出そうとするのをやめ、わずかでも息が動き出してから「はい」の音に乗せます。これだけで、締めて高さを作る癖から抜けやすくなります。

電話の折衝中、相手のペースに引っ張られて声が裏返る瞬間

もう一つよくあるのが電話です。相手が早口で強い調子で話してくると、こちらも無意識にペースを合わせようとして早口になり、答えの語尾で声が甲高く裏返ることがあります。

「そちらの件は、確認して折り返しご連絡いたします」

この一文を相手の勢いに引っ張られたまま言おうとすると、腹圧が抜けたまま喉だけで音を作ることになり、語尾に向かうほど声帯が締まって裏返りやすくなります。緊張で上ずったり震えたりする人に効くのは、腹圧をかけたまま話す感覚です。お腹を膨らませたりへこませたりする動きそのものより、話している間ずっと軽く圧をかけ続けられているかどうかのほうが、電話でのとっさの受け答えでは効いてきます。

相手のペースに合わせて早口になる必要はありません。折衝の場では、こちらが先に一拍だけ間を取っても不自然にはなりません。その一拍の間に腹圧を保ったまま息を通しておくと、語尾まで声帯が締まりきらずに済みます。

声帯は「締める」のではなく「伸ばす」という見立てで練習します

会議での指名にも電話の折衝にも共通するのは、高さを作ろうとする瞬間に声帯を締めてしまっていることです。締めて出ないのではなく、締めているから出ない、と言い換えたほうが実感に近いです。

直す方向は、声帯を平行にきゅっと締めることではなく、前に伸ばす、斜めにする感覚に置き換えることです。伸ばす感覚が身につくと、高さを作ろうとしたときに切り替わりで裏返る回数が減っていきます。急に別人の声を作る必要はなく、いま出ている声のまま、締める代わりに伸ばす方向へ少しずつ寄せていくだけで十分です。

会議の指名に備える、スマホ1つの練習

今日の会議で指名される可能性があるなら、次の練習をスマホの録音で試してください。

「はい、私からお伝えします」

一回目はいつも通りに録音します。二回目は、手のひらであごの下を軽く押さえ、あごが上がらない状態を保ったまま同じ一言を言います。あごが上がる動きは、声帯を締めて高さを作ろうとする合図になりやすいので、あごを固定するだけで締まりが抜けやすくなります。三回目は、あご押さえを外し、「はい」を出す前にだけ短く息を通す意識で言います。

三回分を聞き比べて、どのタイミングで甲高い裏返りが減ったかを確認してください。うまさで判断せず、裏返った音がどこにあったかだけを聞きます。

電話の折衝で使う、テンポを合わせない練習

電話向けの練習は、相手のいない状態で受け答えの一文だけを繰り返します。

「そちらの件は、確認して折り返しご連絡いたします」

一回目は普段の速さで録音します。二回目は、文全体をわずかにゆっくり言い、お腹に軽い圧をかけたまま最後まで保つことだけを意識します。三回目は、速さを普段に戻しつつ、お腹の圧だけは二回目と同じように保ちます。

速さを変えずに圧だけ保てるようになると、電話越しに相手が早口でも、自分の語尾まで声帯が締まりきらずに済みます。

裏返りやすい人に共通する、話す前の姿勢のクセ

会議で指名されたときも、電話で急に答えを求められたときも、裏返りやすい人にはもう一つ共通する姿勢のクセがあります。資料や画面に顔を近づけたまま答え始めることです。

顔が下を向いたまま声を出そうとすると、首の前側が縮こまり、声帯の周りの筋肉も一緒に固まります。固まった状態で高さを作ろうとするので、締める以外の選択肢がなくなり、そこで裏返りが起きやすくなります。指名されたら、まず顔を資料から少し起こし、目線を相手か正面に戻してから「はい」を出す。それだけで、首から声帯にかけての固まりが一段階ゆるみます。

朝礼で名前を呼ばれて返事をする場面でも同じことが起きます。点呼のように短く名前を呼ばれ、反射的に「はい」と答える瞬間、下を向いたまま声を出すと裏返りやすく、顔を上げてから声を出すと安定しやすい。この違いは、声を出す前のわずか一秒に体がどちらの状態にあるかで決まります。

裏返った後、その場で立て直す順番

会議の発言中や電話の途中で一度裏返ってしまっても、そこで話を止めてしまう必要はありません。裏返った瞬間に慌てて声を張り直そうとすると、締める方向にさらに寄ってしまい、次の一音も裏返りやすくなります。

立て直す順番は決まっています。まず、いま言いかけている文をそこで一度短く切ります。次に、顔と首の固まりをゆるめるつもりで、あごを軽く下げます。そのうえで、次の一言を出す前にだけ短く息を通します。声を大きくし直そう、しっかり言い直そうとする気持ちは脇に置き、締める代わりに伸ばす感覚に戻すことだけを優先してください。

一度の裏返りは、聞き手にとってそれほど大きな失点ではありません。そのあとに慌てて締めた声を重ねるほうが、聞き手の耳には不安定な印象として残ります。

録音でどこの一音が裏返っているかを特定します

裏返りの直し方でいちばん遠回りなのが、「声全体を直そう」とすることです。録音を聞くときは、裏返っている一音がどこにあるかだけを探してください。

「はい」の入り、「お伝えします」の途中、「ご連絡いたします」の語尾。裏返りはこの中のどこか一箇所に集中して起きていることが多く、全体ではありません。一箇所が特定できたら、その直前で息が止まっていないか、あごが上がっていないかだけを確認します。声の好き嫌いを判断する必要はなく、切り替わりが起きた場所だけを見ます。

会議前・電話前にできる30秒の準備

指名されそうな会議や、折衝の電話をかける前は、長い発声練習をする時間はまずありません。30秒あれば十分です。

肩を上げずに一度だけ息を吐き切ります。吐き切った分だけ、自然に入ってくる息を受け取ります。あごの下を軽く押さえたまま、その日使いそうな一言だけを小さな声で一度言ってみます。「はい、私からお伝えします」でも「確認して折り返しご連絡いたします」でもかまいません。

ここで見るのは声量ではなく、あごが上がっていないか、「はい」や語尾が甲高く裏返っていないか、この二点だけです。

まとめ

会議で名前を呼ばれた瞬間、電話の折衝で相手のペースに引っ張られた瞬間。仕事の中で声が裏返る場面には共通点があります。高さを作ろうとして声帯を締めてしまい、息が止まったままそこに声を乗せていることです。

震える声とは違い、裏返りは一音か二音の切り替わりで起きます。締める代わりに伸ばす感覚へ置き換え、あごを固定して息を通してから声に乗せる。この二つを、実際に使う一言で練習すれば、大事な場面での上ずりは減らせます。

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よくある質問

Q. 声が裏返るのと声が震えるのは同じ原因ですか
別の現象です。震えは息や体の支えが細かく揺れる状態、裏返りは声帯の使い方が一瞬だけ切り替わって起きる現象です。対処の当てどころも変わります。
Q. 会議で名前を呼ばれた瞬間だけ裏返る場合、どこを直せばいいですか
指名された直後に息を止めて声帯を締めていないかをまず見ます。締める方向ではなく、声帯を前に伸ばす感覚に置き換えると裏返りにくくなります。
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奥津ユキ
書いた人
奥津ユキ

ボイストレーナー。Snow Man、NiziUなど多くの楽曲を手がける作曲家・前迫潤哉氏が主宰するLEVETCH VOCAL SCHOOLにて、ボーカル指導の代表を務める。 何千レッスンもの現場で、歌手・社会人・表現者の声と向き合ってきました。

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