音域を広げたくて、出ない高音を毎日何度も出しにいっていませんか。届かない音を力任せに押し上げる練習は、喉に力を入れる癖を固定するだけで、範囲はむしろ狭くなっていきます。順番が逆です。最初の一分、いま出せている音をスマホで録るところから始めてください。
まず、いつも歌う曲のワンフレーズを二回録音します
カラオケでよく歌う曲を一曲思い浮かべて、サビのいちばん高い箇所ではなく、その一つ手前のフレーズを選びます。無理なく出せているつもりの高さです。スマホのボイスメモで、そのワンフレーズだけを二回録ります。
一回目は、普段カラオケで歌っている音量のまま。二回目は、音量を半分に落として、同じフレーズを同じ高さで。伴奏は要りません。二本を続けて再生してください。
音量を半分にした途端、声が揺れる、息が続かない、高いほうの音がかすれる。そうなった方は、普段そのフレーズを声量の勢いで押し切っていて、息の支えでは出せていなかったということです。小さい声で崩れる音域は、大きくしても崩れています。音域を広げる前に整える場所が、この二本の差にそのまま録れています。
音階練習ではなく曲のフレーズで録るのには理由があります。ドレミの上下だけなら出せる高さでも、歌詞が乗り、音の跳躍が入り、息継ぎの位置が決められた途端に出なくなることが多いからです。広げたいのは音階表の上の数字ではなく、実際の曲の中で使える範囲のはずです。だから確認も、最初から曲の形でしておきます。
高い音が出ない主因は、締まりだけではありません
高い音が出ないのは喉が締まっているからだ、とよく言われます。私の実感では、それだけではありません。声帯そのものはしっかり閉じておく必要があり、実際には喉仏を上げすぎていることのほうが主な原因になっているケースが多いです。
締まりをすべて悪者にして、とにかく脱力しようとすると、今度は声帯の閉じが甘くなります。閉じの甘い声は息が漏れて薄くなり、高さを支えられず、音域はかえって狭くなります。力を抜く場所と保つ場所を分けることが先です。抜くのは喉まわりの余計な力、保つのは声帯の閉じと息の流れ。この区別がないまま高音を繰り返しても、押し上げる癖が上書きされていくだけです。
出ない音を攻めるより、真ん中を厚くします
音域が狭いと感じたとき、原因を高音の出しにくさだけに絞ってしまいがちです。ですが実際には、低いほうを出そうとして喉を押し下げていたり、真ん中の音域を息が浅いまま歌っていたりすることが少なくありません。
真ん中が浅いまま上を攻めると、上に行くほど無理が積み重なります。逆に、真ん中の音域で息がしっかり流れていれば、その上に一音足すための負担は小さくて済みます。音域を広げる作業は、端から端へ一気に引き伸ばすものではなく、真ん中を厚くしてから外側へにじませていくものだと考えてください。
下に広げたい場合も原理は同じです。低い音を出そうとして顎を引き込み、喉ごと押し下げると、音程は下がっても声は詰まってこもります。低いほうへ足すときも、息の流れは真ん中と同じ速さのまま、音の置き場所だけを一段下げる意識で降りてください。低音は押し込んで作る音ではなく、力を抜いたまま降りていける深さまでが実力です。
順番はいつも同じです。息が止まっていないか、喉に余計な力が入っていないか、体のどこかが固まっていないか、そして録音で同じ状態を再現できているか。この四段階を真ん中の音域で確かめてから、初めて上下に手を伸ばします。
毎日の練習は、この三段階だけで足ります
| 順番 | 練習内容 | 確認する場所 |
|---|---|---|
| 1 | 声を出す前に、短く息だけ吐く | 肩や胸が力んでいないか |
| 2 | 楽に出る高さで軽く声を出す | 喉の奥に力が入っていないか |
| 3 | 半音ずつ上下させて録音する | どの高さから喉が硬くなるか |
三段階目で喉が硬くなり始める高さが見つかったら、そこがあなたの現在地です。攻めるのはその音ではなく、一歩手前の音です。硬くなる直前の高さを、小さな音量で、息の流れを切らさずに安定させる。ここが安定すると、硬くなり始める高さそのものが半音ずつ上に動いていきます。
息は強すぎても弱すぎても声を不安定にします。大切なのは量ではなく、声に乗る流れの一定さです。毎日テーマを一つに絞り、今日は息だけ、明日は喉の力みだけ、と決めて録音すると、何が効いたのかが濁りません。
出ない日ほど、音量を下げます
思うように高さが出ないと、声量で押し上げたくなります。ですが喉に力が入った状態で音量を上げても、負担が積み増しされるだけで範囲は広がりません。出ない日はむしろ音量を下げてください。
冒頭の録音実験で確かめた通り、音量を落とすと隠れていた癖が表に出ます。息がどこで止まるか、どの高さで喉が持ち上がるか、体のどこが先に固まるか。小さい声はごまかしが利かないぶん、練習の精度を上げてくれます。楽な音量で崩れずに出せるようになってから、段階的に音量を戻す。この順番を守るだけで、喉を痛める練習が喉を育てる練習に変わります。
カラオケの採点や周りの盛り上がりの中では、どうしても声量で届かせたくなるものです。挑戦の場と練習の場を分けて、広げる作業そのものは一人の小さな音量の時間に回してください。人前の一曲は、練習で安定した範囲の中から選ぶ。この線引きができている人ほど、結果として人前で出せる高さも伸びていきます。
広がらないのはセンスではなく、筋肉量の話です
音域がなかなか広がらないと、才能やコツの問題だと考えたくなります。ただ私の感覚では、正しい使い方さえ覚えれば、あとは声を出すための筋肉量を鍛える話です。地声側の張力を支える筋肉と、高音側の張力を支える筋肉。その両方を少しずつ育てていけば、時間はかかっても多くの人は変わっていきます。
筋肉の話である以上、一晩では変わりませんし、休む日も要ります。寝不足の朝や長時間話した後の夜は、普段出せる高さでも負担が大きくなるので、挑戦は体調のいい日に絞ってください。調子の悪い日に無理をして喉を痛めて休むより、良い状態の日にだけ半音を足しにいくほうが、結果として記録は着実に伸びます。
頻度の目安も筋肉と同じ考え方で決められます。週に一度カラオケで何時間も粘るより、毎日数分、三段階の練習を回すほうが変化は残りやすいです。長時間の練習は後半ほどフォームが崩れ、崩れたフォームの反復は癖の上塗りになります。短く、良い状態のうちに切り上げる。物足りないくらいでやめるのが、翌日も同じ質で続けられるこつです。
曲で試すときは、いちばん高いフレーズだけを切り出します
練習の成果を曲で確かめるとき、頭から通して歌うと、リズムや歌詞に気を取られて、どこで喉に力が入ったのかが分からなくなります。曲の中でいちばん高いフレーズだけを切り出してください。
切り出したフレーズを、まず楽な音量で数回。次に、その直前のフレーズから息をつなげたまま入ります。高いフレーズの直前で息を吸い直して構えると、そこで喉が持ち上がりやすいからです。息が途中で切れていないか、喉が上がっていないかを録音で確かめ、安定してから前後をつなげる。この順番なら、通しで歌ったときにも力みが出にくくなります。
喉に痛みや強い違和感が出た日は、高い音にも低い音にも挑まず、真ん中を軽く確かめる程度で切り上げてください。休んでも戻らない状態が続くなら、練習で乗り切ろうとせず専門家に相談する。守る判断も、音域トレーニングの一部です。
半音の外側に、録音を一本ずつ積んでいきます
録音で見るべきものは、今日どこまで高く届いたかではありません。昨日と同じ高さを、昨日と同じ楽さで再現できたかどうかです。頭の中で聞こえている声と、外に届いている声は別物です。外に届くほうの声を整えるために録音を使います。
冒頭で録ったワンフレーズを、一週間後にもう一度、同じ二通りで録ってみてください。音量を半分にしても揺れなくなっていたら、その半音上のフレーズを新しい定点にします。音域はそうやって、崩れない範囲の外側に半音ずつ、録音を一本ずつ積むように広がっていきます。届かない高さを見上げるより、今日崩れずに出せた音を一つ増やすこと。それが遠いようでいちばん速い道です。
よくある質問
- Q. 音域 広げる ボイトレでは何から始めるべきですか
- 最初は声量や高音より、息が止まっていないか、喉で押していないか、録音で再現できるかを確認してください。
- Q. 毎日練習した方がいいですか
- 短い練習を続けるのは有効です。ただし喉に痛みや強い違和感がある日は無理に続けず、練習量を落としてください。
- Q. 録音は必要ですか
- 必要です。自分の中で聞こえる声と相手に届く声は違うため、録音で入り、息、語尾を確認します。
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ボイストレーナー。Snow Man、NiziUなど多くの楽曲を手がける作曲家・前迫潤哉氏が主宰するLEVETCH VOCAL SCHOOLにて、ボーカル指導の代表を務める。 何千レッスンもの現場で、歌手・社会人・表現者の声と向き合ってきました。
詳しいプロフィール →歌が上手くなる声の出し方。音程の前に整える息と響き
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音域は根性で押し広げるものではなく、いま出せる範囲の外側に半音ずつ足していくものです。