動画講座を収録して聞き返すと、声がこもって説明が平坦に聞こえる。マイクや編集ソフトを疑う前に、話し始める前の息と、口の中の使い方を確かめてみてください。収録前のたった一分でできる聞き比べがあります。
収録前に、五十音をはさんで二本録り比べてください
録音ボタンを押して、章の頭で使う一文を読みます。
「ここでは、最初に全体像を確認します。」
録り終えたら、片手で顎を軽く押さえて動かないように固定し、小さな声でいいので五十音を一通り言ってみてください。行ごとに区切って進めてもかまいません。大切なのは速さではなく、顎が動いていないことを手のひらで確かめながら言うことです。顎を固定すると、ふだん顎の動きでごまかしていた発音のブレが自分で分かります。口の中だけで音の形を作る感覚がつかめたら、同じ一文をもう一本録ります。
二本を聞き比べてください。二本目のほうが、言葉の輪郭がはっきりしているはずです。マイクの位置も部屋も何も変えていません。変わったのは口の中の作り方だけです。収録の聞き取りやすさは、この一分の準備でここまで動きます。
こもりの原因は、機材ではなく最初の音の出どころです
受講する側から、内容はよいのに音声が聞き取りにくいという感想が届くと、まず機材への投資を考えたくなります。ただ、機材で解決しようとするほど、実際には喉に力が入り、次の収録ではさらに出しにくくなっていることがあります。見るべきは音量メーターの数値ではなく、最初の音がどこから出ているかです。喉の奥で始まった音は、その後に続く説明ごと、奥にこもったまま録音されてしまいます。
こもりを確かめる手軽な方法は、自分の収録を倍速で聞いてみることです。倍速にすると、輪郭の甘い言葉から先に聞き取れなくなります。どの言葉が落ちるかで、直す場所の見当がつきます。波形やレベルメーターを見つめるより、ヘッドホンで聞いた耳の判断を優先してください。数値が適正でもこもって聞こえる音源は、受講する人にもこもって届きます。
収録後に編集で音量を持ち上げても、喉で押した硬さや消えかけの語尾は、そのまま大きく拡大されるだけです。編集は仕上げの調整であって、声の土台を作り直す工程ではありません。まず収録の時点で、息が流れ、語尾が残る声を作ってください。
講座の声は、語尾で区切りを見せます
動画講座は、視聴者がいつでも止めたり戻したりできます。だからこそ、説明の区切りが声で伝わらないと、内容が頭に入りにくくなります。「ここでは」「次に」「最後に」といった接続の言葉を急がずに置き、語尾を残して区切りを作ってください。声を大きくするより、そのほうが効きます。
画面越しでは印象が薄れるから、身振りや抑揚を普段の倍つけるべきだと思われがちですが、やりすぎはかえって逆効果です。騒がしいくらいの抑揚は、視聴者の理解をむしろ妨げます。変えるのは大きさではなく、息の流れと語尾の扱いだけで十分です。
区切りが声で伝わっているかは、目を閉じて自分の収録を聞くとよく分かります。画面なしで聞いて、いま章のどのあたりにいるのか迷子になるようなら、接続の言葉が流れています。講座は、家事や移動の合間に音だけで聞かれることも多い教材です。音だけで構造が伝わる声は、それだけで聞き続けてもらいやすくなります。
台本を読むか、要点で話すかで崩れ方が違います
一字一句の台本読みは、視線が下がって胸が閉じ、声が奥にこもりやすくなります。一文ごとに顔を上げる一瞬を作ってください。要点だけ見ながら話すスタイルは、逆に間が抜けて語尾が流れやすくなります。文の終わりを急がず、語尾に意識を強めに置くと、それぞれの弱点を補えます。
台本を作る段階でも、声を助けられます。一文を短くし、書き言葉の熟語を話し言葉に開いておくと、息継ぎの場所が原稿の側で自然に決まります。長い一文は、読む前から息切れが決まっているようなものです。
なかでも、手元を映しながら実演するパートは、こもりが一番出やすい場所です。視線が手元に落ち、首が前に倒れ、声はマイクではなく机に向かって出ています。実演中は、操作をいったん止めてから説明する、説明し終えてから次の操作に移る、というように手と声を交互に使ってください。同時にやろうとすると、息の準備が必ず後回しになります。
噛みやすい箇所は、収録前からだいたい分かっています。章の導入、実演の説明、締めの一言。それぞれで最初に使う言葉だけをあらかじめ決めておき、本番前に一度声に出しておくと、その場任せの浅い声で入らずに済みます。決めた言葉の直前に短く息を流すことまでセットにしておくと、撮り直しは自然と減っていきます。
長時間の収録は、声より先に姿勢が崩れます
収録が続くと、声そのものより先に、座り方と画面との距離がじわじわ崩れていきます。喉がかすれてきたと感じたら、声量を上げるのではなく、一度立ち上がって座り直し、短く息を流してから続けてください。急いで本数を消化しようとするほど喉に負担がたまり、録り直しの回数はむしろ増えます。休憩のたびに水をひと口飲み、椅子の高さと画面との距離を最初の状態へ戻すことも忘れないでください。崩れは毎回同じ方向へ進むので、戻す動作も毎回同じで済みます。
途中で声が崩れても、章全体を録り直す必要はありません。崩れた一文だけを録り直し、編集でつなげば足ります。収録日の朝いちばんの一本と、夕方の最後の一本を聞き比べるのも有効です。差が大きい日は、休憩の取り方か椅子の高さを見直すサインです。
喉に痛みや強い違和感がある日は、本数を減らす、休憩を増やす、翌日に分けるという判断を優先してください。声を守ることは、収録スケジュールより上に置いてよい判断です。
マイクとの距離は、楽な声ができてから詰めます
マイクに近すぎれば息の音が目立ち、離れすぎれば薄く録れます。距離を一定に保つ工夫は大切ですが、それ以前に、喉で押した声はどんな距離でも硬く録音されます。まず楽に出せる声を作り、そのあとで距離を合わせる。この順番が逆になると、機材の調整はいつまでも終わりません。マイクの買い替えを考えるのも、この確認を一巡させたあとで遅くありません。土台の整った声は、手持ちの機材のままでも聞き取りやすく録れます。
聞き返しはヘッドホンを使ってください。スピーカーで軽く流すだけでは、こもりや平坦さに気づきにくいからです。そして一日に確認するのは一点だけにします。第一声が急いでいなかったか、途中で息が止まっていなかったか、語尾が落ちていなかったか。次の収録には、その一点だけを持ち込みます。
この一点確認は、翌日の自分への申し送りにもなります。今日は語尾が落ちていたと分かって終えた日は、翌日の録り出しで語尾だけを見ればよく、迷いなく始められます。
一週間は同じ一文で、一日一テーマだけ見ます
収録のたびに違う原稿で確かめると、何が変わったのか分からなくなります。最初の一週間は同じ一文を使い、ある日は息の流れだけ、次の日は喉の力みだけ、その次は語尾の残り方だけと、テーマを一つに絞って録り比べてください。
録り比べに使う一文は、実際の講座で使う章の頭の一文にしてください。練習用の例文で上手くなっても、本番の原稿に戻った瞬間に崩れては意味がありません。一週間分の録音をあとで並べて聞くと、自分がどのタイミングで声を作り込みすぎているかが具体的に見えてきます。この土台を先に整えておくほうが、編集の調整に頼るより、講座全体の聞き取りやすさは安定します。
次の章の録り出しから、声は変えられます
講座の全編を録り直す必要はありません。次に収録する章の冒頭で、顎を押さえた五十音を一分だけはさみ、それから「ここでは、最初に全体像を確認します。」の要領で、章の一文を置いてください。
講座は一本の動画で終わらず、何章も、ときには何十本も録り続ける長い仕事です。だからこそ、その日の声の調子に頼らず、同じ準備で同じ声を出せる仕組みのほうが、話し手であるあなたを守ってくれます。言葉の輪郭が残った第一声で始まった章は、最後まで聞き取りやすさが保たれやすくなります。受講生が倍速で再生しても輪郭が崩れない声は、高価なマイクからではなく、収録前の一分から作られます。
よくある質問
- Q. 動画講座 声 聞き取りやすいの原因は何ですか
- 声質だけでなく、声を出す前に息が止まること、喉で押すこと、体が固まることが関わります。
- Q. すぐできる練習はありますか
- 短い一文を決め、普段通り、息を流してから、語尾まで残す形で録音して比べてください。
- Q. 喉に違和感がある時も練習してよいですか
- 痛みや強い違和感がある時は無理に声を出す練習を増やさず、休息や専門家への相談も考えてください。
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ボイストレーナー。Snow Man、NiziUなど多くの楽曲を手がける作曲家・前迫潤哉氏が主宰するLEVETCH VOCAL SCHOOLにて、ボーカル指導の代表を務める。 何千レッスンもの現場で、歌手・社会人・表現者の声と向き合ってきました。
詳しいプロフィール →プレゼンで声が震える原因と対策。メンタルではなく筋肉から整える方法
プレゼンで声が震える原因は、メンタルではなく筋肉です。本番3分前にできる対策2つから、前日・1週間かけてやる本格対策まで、ボイストレーナーが時間軸別に整理しました。
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