·プレゼンの声

研修講師の声が通らない時に見ること。大声より届く説明の作り方

研修や講義で声が通らない、後方に届かない、説明が弱く聞こえる人へ。講師の声を第一声・息・語尾から整えます。

奥津ユキ

広い会場で研修を担当すると、前列には届いていても後方の反応が薄いと感じることがあります。多くの講師はそこで声量を足そうとしますが、後方まで届いていないのは音の大きさではなく、言葉の輪郭がどこかで削れてしまっていることのほうが多いです。理屈より先に、その差はいま手元のスマホで確かめられます。

張った声と置いた声を、その場で録り比べます

ボイスメモを起動し、次の一文を二回録ってください。

「ここからは、三つの手順で進めます。」

一回目は、広い会場の最後列に向かって張り上げるつもりで読みます。二回目は、話し出す前にほんの少し息を流し、いちばん近い受講者の前にそっと置く感覚で読みます。再生して並べると、張り上げた一回目は出だしが硬く、語尾が潰れて言葉の形がぼやけているのに対し、置くつもりで読んだ二回目は、音量では負けているのに最後の言葉まではっきり聞き取れるはずです。声を出す前に息が止まっていれば第一声はどうしても硬くなり、息の余白があれば同じ一文でも輪郭が立つ。この差が、後方の席で起きていることの縮図です。

奥津ユキ
奥津ユキのミニコメント

後方まで届くかどうかは、声の大きさより言葉の輪郭が最後まで残っているかで決まります。

後方に届かないのは、声量不足ではなく輪郭の崩れです

前列には聞こえても後方には言葉の形がぼやけて届く時、「部屋が広いのだから大きな声を出すしかない」と力を込める講師がほとんどです。ただ、そうやって喉に力を集めるほど、続く言葉はかえって出しにくくなります。見るべきは声の大きさではなく、最初の音がどこから始まっているかです。最初の音が喉の奥にとどまっていると、後に続く言葉も同じように奥にこもったまま届いてしまいます。

声が届きにくいと感じたら、私はまず声量ではなく、口がどれくらい開いているかと、声のトーンの二点だけを見ます。口が開き切らないまま喋ると音の形がぼやけ、トーンが低く沈んだままだと言葉の芯が奥にとどまりやすくなります。会場の広さを気にする前に、この二点から確認してみてください。研修の声を部屋の奥へ投げつけるものだと捉えている限り、前半は届いても後半には疲れが出ます。講師の声に必要なのは迫力ではなく持続性です。

広い部屋では、息・喉・体の順で輪郭を作ります

広い会場ほど、講師は無意識に喉へ力を入れて距離を埋めようとします。まず息です。話し始める前に一瞬でも止まっていれば、遠くまで届く輪郭は作れません。次に喉です。距離を意識するほど押したくなりますが、押した声は近くの席には強く、遠くの席には硬く歪んで届きます。最後に体です。演台や資料に体を向けすぎると胸が閉じ、声の通り道そのものが狭くなります。足を床につけ、体を受講者側へ開いてから声を出してください。

忘れられがちですが、広い会場には空調の低いうなり、資料をめくる音、プロジェクターのファンなど、薄い雑音の層が常に敷かれています。前列では講師の声のほうが雑音よりずっと近いので問題になりませんが、後方の席ではこの距離の差が縮まり、輪郭の削れた言葉から順に雑音へ沈んでいきます。雑音に音量で勝とうとするのが張り上げの入り口です。実際に効くのは、語尾の子音まで潰さずに残し、雑音の上に言葉の形だけを浮かせておくことです。

同じ一文で確認を続ける時は、まず普段通りに読んで自分の癖を知り、次に息を先に流してから読み、最後に語尾まで音を残して読みます。この三回を聞き比べると、部屋のどのあたりまで輪郭が届いていそうかが感覚的につかめてきます。録音を確認する時も、大きく聞こえるかではなく、説明の最後の言葉まではっきり分かるかを見てください。

説明の区切りごとに、声を置き直します

講師の声は、話し続けるほど崩れやすくなります。最初は届いていても、説明が長くなるにつれて語尾が流れ、受講者が重要点を取りこぼしやすくなります。だからこそ、区切りごとに声を置き直すことが大切です。「ここまでが一つ目です」「次に進みます」のような短い接続の言葉で、息を流し直してください。声を大きくするのではなく、次の説明に入る前に第一声を整え直すという発想です。

ホワイトボードに書きながら説明を続けるのも、後方に届かなくなりやすい典型の場面です。体が板のほうへ向くと、声は受講者ではなく壁に向かって出ていき、後方の席にはくぐもった響きだけが回り込みます。書いている間は無理に話さず、書き終えて受講者側へ向き直り、息を流し直してから説明を再開してください。話が数秒止まることは、後方で言葉が聞き取れない時間が続くことより、ずっと小さな問題です。

説明が長くなるほど、途中から喉に頼った声に戻ってしまう講師は少なくありません。そんな時は、いきなり長い説明を直そうとせず、「では」「次に」のような短い接続語だけを一度整え直してください。短い言葉のほうが、輪郭の崩れにも自分で気づきやすいからです。会場内を移動しながら説明する場合も同じで、立ち位置ごとに声を作り変える必要はありません。息を流し、語尾を残すという同じ手順を、場所が変わっても崩さないことのほうが、一日を通した輪郭のばらつきを減らしてくれます。

後方の反応は、声より先に姿勢で確認します

後方まで届いているかどうかを声の感触だけで判断しようとすると、話しながらの自己評価はどうしても曖昧になりがちです。むしろ確認しやすいのは、後方の受講者の姿勢です。前のめりで聞いているか、それとも視線が下がっているか。声を強める前に、まずこの様子を一度見渡してください。

反応が薄いと感じても、いきなり声量を上げるのではなく、直前の一文の語尾がきちんと残っていたかを自分の中で振り返ります。輪郭が保てていたかどうかのほうが、音量そのものより後方の集中力に影響します。休憩の後にもう一度後方の様子を見て、姿勢が戻っているかを比べる習慣をつけておくと、声を変える判断もしやすくなります。

とりわけ昼食後の最初のセッションは、後方の列から順に集中が切れやすい時間帯です。この時間帯だけは説明の区切りを普段より短くし、区切りのたびに息を流し直す回数を増やしてください。眠気と戦っている受講者に効くのは、声の迫力ではなく、言葉の区切りがはっきり届き続けることのほうです。

マイクがあっても、輪郭作りは変わりません

マイクを使う研修であっても、輪郭を意識する練習そのものは無駄になりません。マイクは音量を持ち上げてくれますが、喉で押した硬い声はそのまま硬く拡声されるだけです。むしろマイクがある時こそ、力を抜いて息を流した声のほうが、聞き取りやすい音として届きます。マイクなしの部屋に急に変わった時も手順は同じで、焦って大声を出す前に、話し始める前の一呼吸を思い出してください。

マイクを通しても後方まで届かないのは、マイクの持ち方が悪いせいだと思われがちですが、実際はそれだけではありません。マイキング自体も大事な要素ですが、そもそも腹圧をかけてしっかり声を出せていなければ、マイクを通しても輪郭は残りません。持ち方を直す前に、まず腹圧をかけた状態で声が出ているかを確かめてください。

グループワークの後、ざわめきが残ったまま説明を再開する一声も、マイクの有無にかかわらず試されます。ざわつきに割り込もうとして声を張ると、その硬さが次のセッション全体に持ち越されます。手を挙げて注目を集める、一拍だけ待つといった声以外の合図で静けさを先に作り、そのうえでいつも通りに第一声を置くほうが、結局は早く場が揃います。

声が枯れそうな時は、量ではなく型を守ります

研修の後半になるほど、声を張って気合いで乗り切ろうとする講師は多いです。ただ、枯れかけた声にさらに力を込めても、輪郭はむしろ崩れやすくなるだけです。声が枯れそうだと感じたら、量を増やす前に、話し始める前の一呼吸と語尾を残す意識だけを守ってください。休憩のたびに崩れた型は、次のセッションに入る前に、姿勢を起こし、短く息を流し、最初の一言だけ声に出しておけば入れ直せます。

型さえ守れていれば、多少声が小さくなっても、後方まで届く輪郭は保たれます。声量に頼らない準備をしておくことが、長時間の研修では結果的に喉を守ることにもつながり、翌日の声にも影響を残しにくくなります。

最後列の一人に届いた日から、会場の広さは怖くなくなります

最初の一週間は、毎回違う原稿で練習せず、「ここからは、三つの手順で進めます。」という同じ一文だけを使ってください。一日目は息が流れているかだけを見る。二日目は喉で押していないかだけを見る。三日目は語尾まで残っているかだけを見る。一つずつ分けて確認すると、自分がどの場面で輪郭を崩しやすいかが具体的に分かってきます。広い会場を想定した練習は、特別な発声よりも、この地道な聞き比べを重ねるほうがずっと効果があります。

次の研修では、開始前に会場のいちばん後ろの席へ一度座ってみてください。その席から演台までの距離を体で覚えてから前に立つと、声を張る理由ではなく、輪郭を保つ理由がはっきりします。比べるべきは、うまい声ではなく後方まで届く声です。語尾まで息が残ってさえいれば、地味な声でも、最後列の受講者は顔を上げて聞いてくれます。

よくある質問

Q. 研修 講師 声が通らないの原因は何ですか
声質だけでなく、声を出す前に息が止まること、喉で押すこと、体が固まることが関わります。
Q. すぐできる練習はありますか
短い一文を決め、普段通り、息を流してから、語尾まで残す形で録音して比べてください。
Q. 喉に違和感がある時も練習してよいですか
痛みや強い違和感がある時は無理に声を出す練習を増やさず、休息や専門家への相談も考えてください。
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奥津ユキ
書いた人
奥津ユキ

ボイストレーナー。Snow Man、NiziUなど多くの楽曲を手がける作曲家・前迫潤哉氏が主宰するLEVETCH VOCAL SCHOOLにて、ボーカル指導の代表を務める。 何千レッスンもの現場で、歌手・社会人・表現者の声と向き合ってきました。

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