·歌の声

歌うと鼻声になる原因と直し方。鼻にかけず明るく響かせる

歌うと鼻にかかる、抜ける、こもる人へ。鼻腔共鳴と鼻声を分けて整えます。

奥津ユキ

鏡の前で口を少し開け、「まー」と一度だけ声にしてみてください。二度目は、同じ口の開き・同じ高さ・同じ長さのまま、両方の小鼻を親指と人差し指で軽く横へ広げてから「まー」と声にしてみてください。変えたのは小鼻の横幅だけです。一度目と二度目で上唇の横や鼻の付け根の詰まり方が変われば、鼻に音を送る量ではなく、鼻へ向かう経路の狭さが関係している可能性があります。差が出なければ、口の奥の形や舌の動きなど、別の原因を見ます。

鼻声は鼻に響きすぎている状態ではない

歌声を鼻声だと感じると、「鼻にかけているから鼻を使わないようにしよう」と考えやすくなります。しかし、鼻の空間は鼻音だけでなく声の響きにも関わるため、鼻に関わること自体を止める目標にすると、声が平たくなったり、言葉の「ま」「な」が不自然になったりします。問題になりやすいのは、鼻の奥へ進む経路が開きすぎていることより、むしろ狭く、流れが一箇所へ集まっている状態です。狭い通路を空気が通ると、音の輪郭が鼻の付け根に貼りついたように感じられます。

鼻に抜ける経路の広さは、鼻そのものだけで決まりません。上唇を引き上げる、鼻の下を縮める、歯を見せたまま母音を固定する、鼻をすするように吸う、といった顔の前側の動きが、鼻の付け根を狭くすることがあります。その結果、口を十分に開けているつもりでも、響きの出口が前方で詰まったようになります。明るく歌おうとして表情を強く作るほど、鼻声が目立つことがあるのはこのためです。

私がこの場面でまず確認したいのは、鼻を意識しているかではなく、歌う直前に小鼻が内側へ寄っていないかです。鏡では、鼻孔の形、上唇の中央の縮み、口角が上がる勢いを見ます。鼻声を減らすために鼻をつまむ方法は、原因の位置を見えにくくします。音の通りを外から締めるより、顔の前側で起きる狭まりを一つずつ外すほうが、明るさを失わずに取り組めます。

小鼻の動きと上唇の縮みを分ける

鼻の付け根が詰まるとき、本人は小鼻を動かしている感覚を持たないことがあります。上唇を持ち上げた瞬間に鼻翼の周辺も引かれるため、顔全体で笑う形を作っただけのつもりでも、鼻の通り道には変化が出ます。特に「い」「え」のような前寄りの母音では、唇を横に引く動きと上唇を短くする動きが重なりやすく、鼻の周辺に力が集まりやすくなります。ここでは笑顔を消すのではなく、上唇を縮める距離を減らすことが焦点です。

人差し指を小鼻の横にそっと当て、「にー」と短く声にしてみてください。次に、同じ指の位置のまま、二度目だけ口角を上げずに「にー」と短く声にしてみてください。変えるのは口角の上下だけです。指の下の皮膚が強く内側へ寄らなくなるなら、鼻声の一部は「に」の鼻音ではなく、口角を上げる準備から生まれています。口角を下げる必要はなく、歌詞を明るく見せる表情と、鼻の付け根を縮める操作を同じものにしないことが大切です。

上唇の力を完全になくそうとすると、子音の明瞭さまで失われます。「ぱ」「ば」「ふ」の発音では上唇は必要です。違いは、子音の一瞬だけ動かすか、母音の間まで縮めた形を持ち続けるかにあります。子音を出した後に、上唇が前歯から離れていく時間を作ると、鼻の付け根にも余裕が戻ります。歌詞の一語全体を同じ表情で固定せず、母音ごとに顔の前側の形を変えられると、鼻声の密度を下げやすくなります。

鼻をすする吸い方が残す形

歌う前に鼻から吸うことは、それだけで鼻声の原因ではありません。ただし、鼻をすするように急いで吸い、鼻の穴を細くして息を集める癖があると、その縮んだ形が発声の出だしまで残ることがあります。吸ったときに小鼻が内側へ引かれ、上唇の中央が短くなるなら、声を出す時点で鼻の経路はすでに狭い状態です。そこで鼻声を消そうとして口だけを大きく開けても、前側の詰まりは残ります。

片方の手の甲を鼻の下に近づけ、口を閉じて静かに息を吸ってみてください。次に、二度目だけ小鼻が内側へ寄らない幅を保ちながら、同じ時間だけ息を吸ってみてください。変えるのは小鼻の幅です。二度目に首や上唇が動きにくいなら、吸う動作が鼻声の準備になっていました。鼻の穴を意図的に大きく広げ続ける必要はありません。吸い終わった時点で縮める力を残さないことが目的です。

吸気を長く取りすぎると、別の問題も起こります。息をたくさん入れようとして肩が上がれば、首の前側も動きやすくなり、鼻だけでなく喉の通りにも影響します。鼻声の調整では、吸う量を競うより、吸った後の顔の形を観察します。口から吸うか鼻から吸うかを一律に決める必要はありません。歌詞の前にどちらを使っても、小鼻を締めたまま待たないこと、上唇の中央を縮めたまま母音へ入らないことが、明るい響きを保つ条件になります。

明るさを鼻へ集めない母音の作り方

明るい声は、鼻の付け根だけに集めた細い音とは異なります。口の前で響きを感じたいあまり、唇を前へ尖らせたり、上の前歯の裏へ音を当てるようにしたりすると、出口が狭くなります。明るさは音を一点へ押し込むことで作るより、口の中の母音が動き、前側に詰まりを作らないことで生まれます。鼻声が気になるときほど、顔の中心へ音を集めようとする操作を減らす必要があります。

「あ」と「え」を同じ高さで交互に短く声にしてみてください。二度目は、両方の母音で上の前歯を見せる量を増やさず、唇の厚みが前後に折れない形のまま声にしてみてください。変えるのは上の前歯の見え方だけです。「え」で小鼻の横が縮みにくくなるなら、明るさを作る表情が経路を細くしていました。母音を暗く覆うのではなく、前歯を見せる操作を必要な最小限にします。

「い」は鼻声が出やすい母音として扱われがちですが、母音そのものを避ける必要はありません。横へ引きすぎた口角と縮んだ上唇のまま「い」を長く保つと、前方の狭まりが続きます。そこで「い」を言う前の唇の形を一度戻し、母音に入ってから必要な範囲で横へ開きます。母音の開始前から形を完成させるのではなく、声と一緒に形を動かすと、鼻へ集まる圧を減らせます。明るさと鼻声の違いは、音色の印象だけでなく、顔の前側が固定されているかどうかにも表れます。

鼻音の子音を不自然にしない

「ま」「な」「ん」は鼻に関係する子音です。鼻声を気にしてこれらを口だけで発音しようとすると、言葉が不明瞭になり、かえって母音への移行が不安定になります。鼻音を短く通過することと、母音の間まで鼻の付け根を縮めることは別です。鼻音の直後に上唇や小鼻を固めたままにしないことが、歌詞の自然さを守ります。鼻音を消すのではなく、必要な時間だけ使う考え方が役立ちます。

「なー」と一拍伸ばすより、「な・あ」と子音と母音を分けてゆっくり声にしてみてください。二度目は、「な」の直後に上唇の中央を少し下へ戻してから「あ」を声にしてみてください。変えるのは鼻音の後の上唇の位置だけです。「あ」に入ってから鼻の付け根の狭さが残らないなら、問題は鼻音を出したことではなく、次の母音へ形を渡す方法にあります。歌詞ではこの動きを大きく見せる必要はありません。子音の役目が終わったら、顔の前側も次の母音へ移れることが重要です。

鼻音の多い言葉では、音を口の奥へ引っ込めて回避しようとすることがあります。しかし、口の奥を閉じると響きの幅まで狭まり、別の種類のこもりが起きます。鼻の経路を整える記事では、舌を後ろへ引くことを答えにしません。焦点はあくまで、鼻の付け根、上唇、小鼻に集まる狭さです。口の奥や舌の位置に課題がある場合は、それは別の原因として分けて扱います。原因を混ぜないことが、鼻声への調整を過剰にしないための基準です。

フレーズの終わりで鼻に残る詰まり

鼻声は出だしだけでなく、フレーズの終わりに強くなることがあります。長く伸ばした音を保とうとして唇を固定し、息が減るにつれて顔の前側をさらに締めるからです。語尾を細くきれいに終えようとするほど、小鼻が内側へ寄り、上唇の中央が短くなることがあります。この場合、鼻声を防ぐために語尾を強く切ると、歌の流れそのものが失われます。終える直前に経路を狭くしないことが必要です。

短い「あー」を二拍だけ伸ばしてみてください。二度目は、声を終える直前の一拍だけ、小鼻の横を指で触れずに軽く外側へ広げる形を保ちながら「あー」を伸ばしてみてください。変えるのは最後の一拍の小鼻の幅だけです。終わり際に上唇が縮む量が減るなら、鼻声は声量の低下ではなく、終止の形で経路が狭くなることから生まれています。息を急に増やす必要はなく、終わりまで前側を締めないことが目標です。

フレーズの最後では、次のブレスを急ぐほど鼻をすする形に入りやすくなります。歌い終わりの口を閉じるタイミングが早ければ、鼻の付け根に力が残ったまま吸い始めます。終止の母音を保った後、顔の前側を縮めずに静かに口を閉じる順序を作ると、次の出だしにも余裕が出ます。私がこの場面でまず確認したいのは、最後の音そのものより、音が消えた直後の小鼻と上唇の形です。そこに残る形が次の鼻声を準備していることがあります。

曲の中で経路の広さを保つ

鼻声を調整するときは、曲全体を同じ口の形で歌わないことが重要です。母音と子音が変われば、唇も上唇も当然動きます。ただし、どの言葉でも小鼻を締め、上唇を高く持ち上げる形へ戻るなら、前側の経路は繰り返し狭くなります。一語だけで形が整っても、次の言葉で表情を作り直すたびに鼻声が戻るなら、曲の中の連続した動きとして見直します。

練習では鼻声が気になる一語の前後に、無意味な母音を増やすより、本来の歌詞を短く区切って扱います。歌う前に鏡で小鼻の幅を一度見てから、その一語だけを小さめに声にします。次に前の言葉を足し、最後に後ろの言葉を足します。増やすたびに見るのは音の印象だけではなく、小鼻が内側へ寄る瞬間と上唇の中央が縮む瞬間です。観察する項目を二つに絞ると、鼻に響かせるか止めるかという曖昧な判断から離れられます。

喉の痛みや声枯れが続く場合は、練習を続けず耳鼻咽喉科を受診してください。痛みがなくても、鼻声を消そうとして鼻を押さえたり、口を過度に開け続けたりする必要はありません。小鼻の横幅、上唇の縮み、吸った後の顔の形という外から見える操作を一つずつ扱うと、明るさを残しながら鼻の経路を広く保てます。鼻へ響かせない声を作るのではなく、鼻へ向かう通り道を狭めない声を作ることが、調整の軸になります。

よくある質問

Q. 歌うと鼻にかかる声と、鼻へ響きが抜ける感覚は同じですか?
同じではありません。響きを感じること自体は自然ですが、言葉がこもるなら鼻声として聞こえやすくなります。私は母音の明瞭さと、息が前へ流れているかを分けて確かめます。
Q. 鼻声を直すために鼻をつまんで歌い続けてもよいですか?
鼻をつまむ方法は、音の変化を知るための確認には使えます。ただし、そのまま歌い続ける練習には向きません。口の中で母音を保ち、喉を閉めずに声を前へ伸ばす意識に戻します。
Q. 低音では平気なのに高い音だけ鼻声になるのはなぜですか?
高い音で喉を閉めないようにしようとして、口の形や舌の位置が曖昧になることがあります。私は高音だけを作り込まず、直前の母音から息の流れを途切れさせないことを優先します。
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奥津ユキ
書いた人
奥津ユキ

ボイストレーナー。Snow Man、NiziUなど多くの楽曲を手がける作曲家・前迫潤哉氏が主宰するLEVETCH VOCAL SCHOOLにて、ボーカル指導の代表を務める。 何千レッスンもの現場で、歌手・社会人・表現者の声と向き合ってきました。

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