大人になってもラ行が言えない人へ。舌の位置と息で直す練習

大人になっても「ら・り・る・れ・ろ」がうまく言えず、名乗る場面で毎回引っかかる人へ。舌先の位置と息の流れから、直せる可能性を探ります。

奥津ユキ

名乗るたびに「ろ」が微妙に潰れる。初対面のあいさつで「よろしく」の"ろ"がひっかかる。学生の頃から気づいていて、大人になった今もその感覚がそのまま残っている人がいます。指摘されるたびに舌先だけを速く動かす練習を重ねても変わらなかったなら、見る場所を変えてみてください。

最初に、「よろしく」の"ろ"だけを聞き比べます

スマホの録音アプリを開き、「初めまして、よろしくお願いいたします。」と普段の速さで一度だけ言ってみてください。再生したら、"ろ"の部分だけを聞き返します。舌先が上の歯の裏に軽く触れて跳ね返っているか、それとも音がこもって"どぅ"や"ん"に近づいていないか。この一点だけをまず確認します。良い声で言えたかどうかは、ここでは関係ありません。何十回と繰り返してきた自己紹介の中で、この一音だけを取り出して聞くのは、案外初めてという人が多いはずです。

聞き返す時は、文全体の印象で判断しないでください。良い、悪いを決めるのではなく、"ろ"の輪郭がはっきりしているか、それとも溶けて別の音に近づいているかだけを聞き分けます。判定に迷ったら、同じ一文をもう一度録音し、二回分を続けて聞き比べてみてください。

舌先の跳ね返りが浅いと、ラ行は別の音に寄っていきます

ラ行は、舌先が上の歯茎に一瞬だけ触れて、すぐに離れることで生まれる音です。触れる時間が長くなると、音はダ行に近づきます。逆に舌先が歯茎まで届かず宙に浮いたまま動くと、音は輪郭を失ってこもります。子どもの頃から言えないと感じている人の多くは、この「触れて、すぐ離れる」動きを一度も体感しないまま、代わりに舌全体を持ち上げる、喉の奥で押し出すといった別の動きで長年代用してきています。

代用に慣れているぶん、意識せずに直すのは難しくても、動きの違いさえ知れば練習で置き換えられます。生まれつき舌の形が特殊というより、動かし方の癖が固定されているだけのことがほとんどです。癖は年齢とともに強くなっているように感じますが、それは長く使ってきた分だけ動きが自動化されているというだけで、置き換えが不可能というわけではありません。

大人になってから直らない、というのは思い込みです

大人になってから声や発音の癖を変えても意味がないと考える人がいますが、私の実感ではむしろ逆です。大人はすでに声の出し方に長年の癖がついているぶん、その癖を一つ変えたときの変化がはっきり出やすくなります。子どものうちに直さなければ一生このままだと決めつける必要はありません。

舌先の動きは筋肉の使い方であって、性格や年齢で固定される部品ではないというのが私の見立てです。緊張しやすいから、根がおっとりしているから、というメンタル面の説明で片づけたくなりますが、実際に舌先が動いているかどうかは筋肉の使い方の問題です。むしろ、何十年も同じ動きで言ってきたからこそ、正しい動きを知った瞬間の差が大きく感じられることのほうが多いというのが、私がこれまで見てきた実感です。

口を大きく動かす練習だけでは、舌の位置は変わりません

滑舌を良くするには口を縦にも横にも大きく動かすべきだとよく言われますが、私が見てきた範囲では、口の動きの大きさとラ行の出しやすさはあまり関係しません。むしろ滑舌が良い人ほど、口はそれほど大きく動かしていません。大きく開けようと意識すればするほど、肝心の舌先が歯茎から離れて浮いてしまい、ラ行はかえって不安定になります。

唇や顎を頑張らせる前に、舌先だけがどこにあるかを確かめてください。口の開閉に力を割いている間は、舌先の繊細な動きにまで意識が回らなくなります。鏡の前で口の開き方を確認する練習をしてきた人ほど、実は一番肝心な舌先の動きを見落としていることがあります。

鏡を見る練習そのものを否定する必要はありませんが、映すべきは口の開き方ではなく、舌先が上の歯茎のどのあたりに触れているかです。口を薄く開けたまま、舌先の動きだけが見える角度で確認してみると、これまで気づかなかった動きのくせが見えてきます。

舌の置き場所を、話す前に決めておきます

練習の起点は、話す瞬間ではなく話す前の状態です。口を閉じているとき、舌先がどこにあるか意識してみてください。舌全体が下の歯の裏に沈んだままだと、話し出す瞬間に上の歯茎まで届かせる距離が長くなり、ラ行が遅れて出たり抜けたりします。

普段から舌先を上の歯茎の裏あたりに軽く置いておくと、話し出すときの距離が短くなり、ラ行の立ち上がりが安定します。デスクで作業している時、電車を待っている時、口を閉じて何もしていない時間の舌の位置を変えるだけでも、本番の一音は変わってきます。話す直前だけ頑張るより、話していない時間の姿勢を変える方が、結果として近道になります。姿勢が丸まって顎が前に出ていると舌も一緒に下がりやすくなるので、背もたれに寄りかかりすぎない座り方も合わせて意識してみてください。

口を開けたまま過ごす時間が長い人ほど、舌は自然と下に落ちたままになりがちです。口を軽く閉じ、舌先を歯茎の裏に置いておく状態を、話す前の定位置として体に覚えさせておくと、いざ名乗る場面でも舌が慌てて移動する距離が短くて済みます。

顎を固定すると、跳ね返りの精度が上がります

顎を大きく上下に動かしながら話すと、舌先の位置も一緒にぶれてしまいます。先ほどの一文を、顎を動かさずに固定したまま、横に「い」の形を保った状態でもう一度言ってみてください。顎が安定すると、舌先だけが歯茎に触れて離れる動きに集中でき、ラ行の音がくっきりします。

マイク越しに声がこもりやすい人にも、同じ形が効きます。最初は不自然に感じても、動かす場所を顎から舌先に絞るだけで、跳ね返りの精度は上がっていきます。慣れないうちは声が小さく感じるかもしれませんが、それは音量が落ちているのではなく、余計な動きが減って音の輪郭がはっきりしただけのことがほとんどです。

名乗る場面だけを、繰り返し練習します

あらゆる場面で一気に直そうとすると長続きしません。まずは名乗る場面、電話を受けた最初の一言、初対面のあいさつなど、ラ行が出やすい一つの場面に絞ってください。「初めまして、よろしくお願いいたします。」を一日数回、舌先の触れ方だけを意識して録音します。慣れてきたら「来月から新しい担当になります」のように、別のラ行を含む一文も試してみます。

今週と来週で同じ一文を聞き比べると、舌先の跳ね返りがどれだけ変わったかが分かりやすくなります。録音を聞き続けていると、最初は自分の声に違和感を覚えても、次第に耳が慣れて、変化そのものを冷静に聞き取れるようになっていきます。

変わらない違和感が続くときは、専門家という選択肢もあります

練習を重ねても特定の音だけがずっと出ない、聞き取りにも不安があるといった場合、自己流の練習だけで抱え込む必要はありません。医師や言語聴覚士など、発音の仕組みに詳しい専門家に相談する道もあります。有資格者でなくても知識のある人に話を聞いてもらうだけで見えてくることもあります。

録音を重ねるたびに舌先の跳ね返りが少しでも変化しているなら、その練習には手応えがあります。反対に、月単位・年単位で試しても一音の聞こえ方がまるで動かないなら、練習量ではなく見立ての向きそのものを疑ってみてください。長年の癖として片づける前に、一度相談してみてください。相談したからといって、それまで積み重ねてきた練習が無駄になるわけではありません。自分の耳だけで判断が難しいときこそ、第三者の耳を借りる意味があります。

"ろ"の跳ね返りが変わると、名乗る一言から変わります

ラ行が引っかかるという感覚は、性格でも生まれつきの限界でもありません。舌先がどこにあり、どのタイミングで歯茎に触れて離れるか。ここを知っているかどうかの差です。次に名乗る場面が来たら、力を込める前に、舌先の位置だけを思い出してみてください。何十年も気にしてきた一音が、今日の一回の録音から動き始めることがあります。

自己紹介や電話の第一声は、内容そのものより、最初の一音の印象で受け取られ方が決まることがよくあります。ラ行の跳ね返りが変わるだけで、名乗る瞬間の印象は静かに変わっていきます。焦らず、まずは一音だけを聞き分けるところから始めてみてください。

よくある質問

Q. 大人になってからラ行の発音を直すことはできますか
できます。大人は声の出し方に癖がついている分、直したときの変化がむしろ大きく出ることがあります。子どものうちに直さないと固定されるというのは思い込みです。
Q. ラ行だけが子どもの頃からずっと言えません。病気の可能性はありますか
舌の使い方の癖であることが多いですが、幼少期から一貫して特定の音だけ出ない、聞き取りにも不安があるといった場合は、自己判断で片づけず医師や言語聴覚士など専門家に相談してください。
Q. ラリルレロを連打する練習は効果がありますか
無意味ではありませんが、それだけに頼ると舌先に力が入りすぎることがあります。舌を置く位置と息の流れを合わせて見る方が変化が出やすいです。
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奥津ユキ
書いた人
奥津ユキ

ボイストレーナー。Snow Man、NiziUなど多くの楽曲を手がける作曲家・前迫潤哉氏が主宰するLEVETCH VOCAL SCHOOLにて、ボーカル指導の代表を務める。 何千レッスンもの現場で、歌手・社会人・表現者の声と向き合ってきました。

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