座りっぱなしで声が沈む人へ。デスクワークの姿勢を直す
座ったまま何時間も電話や会議をこなすと声が沈む人へ。原因はデスクでの姿勢と腹圧にあります。席を立たなくても直せる、座ったままの整え方を紹介します。
奥津ユキ
朝の電話対応では普通に出ていた声が、午後の会議を何本かこなすころには沈んで聞こえる。そう感じたことがある人は、原因を体力や気合いのせいにしがちです。ですが座ったまま長時間話す仕事に特有の姿勢の崩れが、声の沈みに直結していることがよくあります。ここでは、立ち上がって伸びをする間もなくデスクに向かい続ける人に向けて、椅子に座ったままできる直し方を見ていきます。
午前は出ていた声が、座り続けると沈んでいく理由
デスクワークで声が沈んでいく人の多くは、朝と夕方で発声のやり方自体を変えているわけではありません。変わっているのは、座り姿勢が続くことで抜けていく体の圧です。
座って何時間もモニターに向かっていると、背中と腰の筋肉が疲れてきて、無意識に骨盤が後ろに倒れていきます。骨盤が倒れると上半身がその上に乗っかるようにたわみ、お腹の中にかけていた圧が抜けます。この圧は、いわゆる腹式呼吸のようにお腹を膨らませたりへこませたりする動きのことではなく、吸うときも吐くときも保ち続ける張りのことです。立って話すときは重力の影響で自然に保ちやすいのですが、座って背もたれに体重を預けていると、意識しない限りこの張りは真っ先に抜けていきます。
午後の会議で声が沈むのは、気力が切れたからではなく、座り姿勢の中でこの圧が静かに抜けていったからだと考えると、直す場所がはっきりします。
「電話は立って話すべき」と言われても、座ったまま直して大丈夫です
電話対応の声を良くしたいとき、周りから「立って話すと声が変わるよ」と勧められた経験がある人もいると思います。実際、姿勢が変わって圧のかけ方が変わることはありますが、立つこと自体に特別な効果があるわけではありません。私は、電話は座ったままでもまったく問題ないと考えています。
大事なのは、立つか座るかではなく、腹圧が抜けていないかどうかです。周囲の目が気になって席を立てない、混み合ったオフィスで電話のたびに立ち上がるのは現実的でないという人は、無理に立つ必要はありません。座ったまま骨盤を立て直し、腹圧をかけ直すだけで、電話の第一声は十分に変わります。
モニターを覗き込む姿勢が、第一声を喉で作らせます
デスクワークで声が沈む人に共通して見られるのが、画面を覗き込むように顎が前に出る姿勢です。顎が前に出ると首の後ろが詰まり、声の出口である喉の上のあたりが狭くなります。
ここで多くの人が「喉を開けば楽になるはずだ」と考え、喉ぼとけを下に下げようとします。ですが、これは逆効果になりやすい直し方です。喉を開けるというのは、喉ぼとけを下げることではなく、口の奥の上側、軟口蓋と呼ばれる部分を持ち上げることを指します。上を持ち上げる意識に変えるだけで、顎が前に出た姿勢のままでも声の通り道は広がりやすくなります。
モニターの高さを目の高さに近づける、体をわずかに画面から離す。この二つだけでも、第一声を喉で押して作る癖はかなり軽くなります。
椅子の背もたれに寄りかかったまま話すと、腹圧が抜けます
長時間のデスクワークで疲れてくると、背もたれに体重を預けて話すようになります。姿勢としては楽に見えますが、背もたれに寄りかかった状態はお腹の中の圧を保ちにくい形です。声が小さくなったと指摘される人の中には、性格や自信のなさが原因だと思い込んでいる人もいますが、根っこにあるのは筋肉と息の使い方であることがほとんどです。座り方を変えるだけで、印象は変わっていきます。
背もたれから背中を少し離し、坐骨を椅子の座面にまっすぐ下ろす。この状態を作ってから話し始めると、声の出だしにかかる力の入れ先が、喉からお腹へ移っていきます。
Zoom会議が続く午後、座ったまま30秒で立て直します
オンライン会議が続けて入っている日は、休憩を挟めないまま声を使い続けることになります。長時間話して枯れる人のほとんどは、疲れているのではなく喉を締めすぎています。会議の合間、席を立たずにできる立て直し方があります。
まず、椅子に座ったまま横隔膜のあたりを前にそっとつまむような感覚を持ちます。吸うときも吐くときもこの感覚を保つと、長く話し続けても喉に負担が集まりにくくなります。あわせて、口角を少し上げるだけで、声は自然に鼻の方へ乗りやすくなります。マイクを通した声がこもって聞こえる時は、意図してハミングのように鼻にかけようとするより、口角を上げることのほうが自然に変わります。
「お疲れさまです。それでは始めさせていただきます」
この一文を、会議に入る直前に一度だけ声に出してみてください。横隔膜のあたりをつまむ感覚を保ったまま、口角を上げた状態で言えるかを確認するだけで、その日の会議での声の入りが変わります。
在宅と職場のデスクでは、声の沈み方が少し違います
在宅で一人分のデスクを使っている人と、周りに人がいるオフィスのデスクで話す人とでは、声が沈む理由が微妙に違います。
在宅では、誰にも聞かれていない安心感からか、口をあまり動かさずに話す癖がつきやすくなります。声量自体は出ているのに、こもって聞こえるという相談はここに原因があることが多いです。ヘッドセットを長時間つけたまま話す人は、マイクが口元に近いぶん、口を大きく動かさなくても声を拾ってもらえるため、この癖がさらに強まります。
一方、周りに人がいるオフィスのデスクでは、声を抑えようとする意識が働き、語尾が小さくなりやすくなります。抑えているのは音量だけのつもりでも、実際には息の流れそのものを絞ってしまい、言葉の最後が消えていく人が多いです。
どちらの環境で座って話すことが多いかによって、直す優先順位は変わります。在宅なら口の動きと口角、オフィスなら語尾に残す息の量を優先して見てください。
電話対応とタイピングの合間に出す第一声が沈む理由
キーボードを打っている最中に電話が鳴ると、多くの人は姿勢を直さないまま反射的に受話器を取ります。前かがみのまま、画面に向いた顔の向きのままで発する第一声は、たいてい息が止まった状態から始まっています。
「お待たせいたしました。ただいまおつなぎします」
この一文を、画面を見たままの姿勢で言う場合と、受話器を取る前に一度顔を正面へ戻してから言う場合とで録音して聞き比べてみてください。多くの場合、顔を正面へ戻すだけで「お」の出だしが軽くなり、「おつなぎします」の語尾まで息が残りやすくなります。姿勢を大きく変える必要はなく、顔の向きを一瞬戻すという小さな動作だけで十分です。
座ったままできる整え方は、顎と腹圧の二点だけ見ます
デスクワークの合間にできる練習は、複雑なメニューでなくて構いません。座ったまま、手のひらで顎の下を軽く押さえ、顎が前に出ないようにした状態で短く声を出します。喉の締まりだけがふっと抜ける感覚をつかめたら、次に骨盤を立て直し、腹圧をかけたまま同じ音を出してみます。
この二つを毎回同じ順番で試すと、デスクでの姿勢が崩れてきたときに、どこから直せばよいかが自分で分かるようになります。長い時間をかける必要はなく、会議の合間や電話の前に数秒あれば足ります。
| 場面 | 見る場所 | 整え方 |
|---|---|---|
| 電話が鳴った直後 | 顔の向き・顎の位置 | 一度正面へ戻してから受話器を取る |
| 会議に入る直前 | 横隔膜のあたり・口角 | つまむ感覚を保ち、口角を軽く上げる |
| 長時間座った後 | 骨盤・背もたれとの距離 | 背もたれから少し離れ、坐骨を座面に下ろす |
この表の三つは、どれも席を立たずにできる範囲です。すべてを一度にやろうとせず、今日はどれか一つだけ試すという決め方でも十分に変化はつかめます。
録音チェックで見るのは、姿勢ではなく声の変化です
自分の姿勢は鏡や画面越しに見えても、声の変化は目では分かりません。「お疲れさまです。それでは始めさせていただきます」と「お待たせいたしました。ただいまおつなぎします」の二つを、姿勢を直す前と後でそれぞれ録音してみてください。
聞く場所は三つに絞ります。出だしの音が喉で押されていないか。文の途中で息が止まっていないか。語尾まで音が残っているか。この三点のどれか一つでも変化していれば、座ったままの直し方は効いています。強い違和感や痛みが続く場合は、姿勢の練習だけで無理に押し切らず、専門家に相談する判断も持っておいてください。
まとめ
デスクワークで声が沈むのは、気力や体力だけの問題ではありません。座り姿勢が続くことで腹圧が抜け、モニターを覗き込む顎の角度で喉の通り道が狭くなり、背もたれへの寄りかかりで声の出だしが喉に頼りやすくなる。この三つが重なって起きています。
席を立つ必要はありません。骨盤を立て直す、顎の下を軽く押さえて締まりを抜く、横隔膜のあたりをつまむ感覚を保つ。この座ったままの三点を、電話や会議の前に数秒だけ整えるところから始めてみてください。
よくある質問
- Q. 電話対応の声をよくするには、席を立って話した方がいいですか
- 立たなくても問題ありません。座ったままでも、腹圧と顎の角度を整えれば声の印象は変わります。周りの目が気になって席を立てない人ほど、座ったままの直し方を知っておくと楽になります。
- Q. 座って何時間も話すと声が沈むのは、体力の問題ですか
- 体力だけの問題ではありません。座り姿勢が長く続くと腹圧が抜けやすくなり、喉に頼った声になっていきます。定期的に腹圧を意識し直すだけで、沈み方はゆるやかになります。
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ボイストレーナー。Snow Man、NiziUなど多くの楽曲を手がける作曲家・前迫潤哉氏が主宰するLEVETCH VOCAL SCHOOLにて、ボーカル指導の代表を務める。 何千レッスンもの現場で、歌手・社会人・表現者の声と向き合ってきました。
詳しいプロフィール →声が小さい・通らない人へ。大きい声を出さずに改善する方法
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