近くの人に聞いてもらうか、いなければ壁に向かって、普段の電話の名乗りを二通りで言ってみてください。一度目は自分の名字を会社名や部署名の中に入れ、二度目は名字だけを名乗りの最後に置きます。たとえば「青葉商事、営業部の田中です」と「青葉商事、営業部です。田中です」です。声量、速さ、声の高さ、表情は変えず、動かすのは名字の位置だけです。
二度目に「田中」が独立した情報として残ったか、最初の「た」が前の音に埋もれなかったかを比べてください。差が出なければ同じ比較を繰り返さず、名字の最初の音そのものが欠けていないかという別の原因へ進んでください。
電話で名前が聞き取れないと言われると、名字を大きく発音したくなります。けれど私がこの場面でまず確認したいのは音量より、名字が相手の耳に入るための入口を持っているかです。名乗りの最後に単独で置くと、その入口を自分でも聞き分けやすくなります。
電話で名前が聞き取れないとき、名字の音量だけを責めない
対面なら、聞き手は口元や表情を見ながら名前を受け取れます。電話にはその手がかりがありません。さらに、相手は受話器を取った直後に会社名、部署名、担当者名を続けて聞くことになります。どの音が名字の始まりなのか分からないまま、情報だけが通過することがあります。
このとき「もっと大きな声で名乗ろう」とすると、会社名から名字まで全部が強くなります。情報の境界は変わらないため、名字だけが目立つとは限りません。喉で押した声になれば、最初は強くても、名乗りの後半で音が潰れることもあります。
電話で名前を聞き取れない原因は、珍しい名字や回線の状態だけではありません。名字が会社名の末尾に接着している、名字の最初の一音が出る前に息が止まる、名乗り全体を一息で急いでいる、といった声の使い方でも起こります。
私が先に分けたいのは、「名字の場所を変えると届くのか」と「場所を変えても名字の音が崩れるのか」です。前者なら名乗りの組み立て、後者なら第一声の作り方を直します。この二つを混ぜなければ、練習する場所を狭くできます。
名乗りの途中では名字の境界が消えやすい
会社名や部署名は、毎日何度も口にしている定型句です。慣れているほど一つの長い音の塊になり、その勢いのまま名字へ入ります。話している本人には言葉の区切りが分かっていますが、初めて電話する相手は、その社名も部署名も予測できない状態で聞いています。
たとえば社名の最後が母音で終わり、名字も同じ母音から始まると、二つの言葉がつながって聞こえることがあります。部署名の「部」から名字へ急いだときも、名字の頭が前の音に吸収されやすくなります。滑舌の良し悪しというより、相手が情報を仕分ける時間を持てていない状態です。
名乗りの最後に名字を独立させると、直前まで続いていた会社情報がいったん完了します。相手は「次に人の名前が来た」と判断しやすくなり、名字の一音目を待てます。荷物に宛名を付けるように、名字が何の情報なのかを先に示せるわけです。
ただし、名字の前に長い沈黙を作る必要はありません。大げさに区切ると、名乗りが途切れたり、名字を忘れたように聞こえたりします。会社情報を言い終えたあと、名字の最初の音を新しい入口として短く置けば十分です。
名字を「二つ目の第一声」として短く置く
第一声は、会話の場を取る入口です。電話では「お電話ありがとうございます」だけが第一声だと思われがちですが、相手が聞き取る単位ごとに小さな入口があります。会社名から名字へ移る瞬間も、その一つです。
私が考える第一声は、大きく張り上げる音ではありません。息が流れているところへ、短く輪郭を置く音です。名字の直前で息を止め、勢いをつけて出そうとすると、最初の子音だけが硬くなったり、その後の母音が小さくなったりします。名字全体を強くするより、頭の一音が遅れずに出る方が名前は残ります。
「田中」なら「た」、「森」なら「も」、「佐藤」なら「さ」が入口です。その一音を長く伸ばすのではなく、前の言葉から切り離して聞こえる長さで置きます。直後の音を急がず、名字の最後まで同じ息で運びます。
第一声を整えるとき、低い声や明るい声を作る必要もありません。高さまで変えると、自分に合う名乗りから離れて再現しにくくなります。普段の高さのまま、名字の先頭が聞こえたかだけを見ます。声の印象ではなく、相手が書き取れる輪郭を基準にしてください。
喉の痛みや声枯れが続くなら、名乗りを強くする練習は止め、耳鼻咽喉科に相談してください。電話で押し出す癖だけが原因とは限らないため、負担を増やして確かめるものではありません。
自分の名字に合う入口を一音ずつ確かめる
名字の練習は、名乗り全文を何度も読むところから始めません。自分の名字の最初の音と、残りの音を分けて見ます。名字が「小林」なら、最初の「こ」が出た瞬間に「ばやし」まで急いでいないかを確かめます。
名字だけを一度だけ声に出し、先頭の一音が残っているか、途中から突然名前が始まったように聞こえないか、最後まで同じ名字としてまとまっているかを見ます。上手な声かどうかは採点しません。
最初の音が欠ける場合は、名字を強く言うのではなく、声を出す直前に口がその音の形になっているかを確認します。「ま」で始まるなら唇が閉じているか、「さ」で始まるなら舌と息が間に合っているか、という具合です。口を大きく動かすことが目的ではなく、最初の音を作る準備が遅れていないかを見ます。
先頭は聞こえるのに名字の後半が崩れるなら、原因は第一声ではなく、名字を短く処理しようとする速さにあります。その場合は先頭をさらに強くせず、名字の各音を同じ間隔で並べます。原因が違えば、直す場所も変わります。
名字だけで輪郭が出たら、会社情報の後ろに戻します。そのときも確認するのは一つです。会社名を言い終えた勢いが名字の入口を追い越していないか。名乗り全体の完成度より、この境目が保てていることを優先します。
会社名・部署名・名字を同じ速さで運ばない
電話の名乗りでは、すべてを同じ速さで読めば整って聞こえるとは限りません。会社名を知っている相手、部署を確認したい相手、担当者名を書き留めたい相手では、必要な情報が違います。とくに初めて電話する相手は、最後に来る名字を聞くころまで社名の処理を続けています。
名乗りを一つの長文として覚えると、途中で止まれなくなります。そこで「挨拶」「所属」「名字」の三つの役割に分けます。速さを演技で変えるのではなく、所属を言い終えてから名字を始めます。この境目があれば、名字だけを不自然に強調せずに済みます。
代表電話なら、社名を聞き取ってもらうことが先に必要です。部署直通なら、相手は担当者名を待っている可能性があります。取次ぎを受けた直後なら、長い挨拶をもう一度重ねるより、名字を新しい第一声として置く方が分かりやすくなります。同じ名乗りをどの電話にも当てはめず、相手が今どの情報を待っているかで入口を決めます。
周囲が騒がしいときも、全部を大声にする必要はありません。口元と受話器の位置を安定させ、名字の頭を急がず、最後まで音を残します。音量を上げても聞き返される場合は、声の強さではなく、情報の境界が消えていないかへ戻ってください。
聞き返された瞬間は、名字だけを新しく出す
「お名前をもう一度お願いします」と言われると、失敗を取り返そうとして名乗り全文をさらに大きく言い直しがちです。しかし相手が必要としているのが名字なら、会社名から再開すると、その名字は再び長い情報の後ろへ入ります。
聞き返されたときは、「田中です」のように名字だけを新しい第一声として出します。先ほどより低くしたり、一音ずつ過剰に区切ったりせず、最初の音から最後まで一つの名前として渡します。必要なら、そのあとに漢字を補足します。声による再提示と表記の説明を同時に行わない方が、相手は処理しやすくなります。
一度目に名字の先頭が欠けていたなら、二度目はそこだけを直します。一度目が速すぎたなら、名字全体の間隔をそろえます。回線や周囲の音が原因と考えられるなら、漢字や共通の言葉を使って補います。聞き返しのたびに声量を上げるのではなく、原因に合わせて手段を選びます。
聞き返しを責められたように受け取ると、呼吸が止まり、二度目の名字ほど硬くなることがあります。ここで必要なのは謝罪を重ねることではありません。相手が取り損ねた情報だけを、短い入口から渡し直すことです。
受話器の向こうに残すのは名字の輪郭です
電話で名前が聞き取れない問題は、声が小さいか大きいかだけでは整理できません。名字がどこから始まったか分からない状態と、名字そのものの音が崩れている状態を分けると、直す場所が見えてきます。
名乗りの最後に名字を単独で置いて差が出たなら、その名字には新しい入口が必要だったということです。普段の名乗りでも、所属の勢いから名字を切り離し、頭の一音を短く置きます。差がなければ、位置の工夫に固執せず、名字の先頭、口の準備、後半の速さを確認します。
相手に覚えてもらうための派手な声は必要ありません。受話器を置いたあと、相手のメモに正しい名字が残ること。そのための小さな第一声が、電話の名乗りを支えます。
よくある質問
- Q. 電話で名乗ると名字の最初の音が聞き取られないのはなぜですか?
- 受話器越しでは冒頭の子音が流れやすく、急いで名乗ると名字の輪郭が消えます。私は、最初の一音の前に息を整え、子音から母音へ移る時間を少し確保することを勧めます。
- Q. 電話で名字に濁点があると聞き間違えられやすい場合、どう名乗りますか?
- 濁点を力で強調すると、かえって音がつぶれることがあります。名字を二つのまとまりに分け、濁る音の後の母音まで伸ばしすぎずに明確に届ける意識が有効です。
- Q. 会社名と自分の名前を続けて言うと流れるときの区切り方は?
- 会社名の直後に無音を作りすぎるより、短く息を継いでから名字を置きます。私は、両方を同じ勢いで連結せず、名前の頭だけ少し前へ出すと聞き分けやすいと考えます。
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