電話で名前が聞き取れない人へ。名乗りが流れない声の出し方

電話で自分の名前を聞き返される、会社名が流れる人へ。名乗りの第一声、間、語尾を整えます。

奥津ユキ

電話で名乗る場面で声が崩れる時は、言葉の内容より先に、声の入り、間、語尾で印象が決まります。会社名を急ぐ、名前の語尾が消える、要件へ早く入りすぎるという状態があると、同じ言葉でも弱く、急いで、または軽く聞こえます。

電話で名乗る場面では、最初の一文で聞かれ方が変わります

電話に出るたびに名前を聞き返されると、次に電話が鳴った時も身構えるようになってしまいます。

名乗りの声は、声質だけで評価されるわけではありません。相手が最初の挨拶を受け取れるか。会社名の前に少し余白があるか。名前の語尾まで届いているか。この三つで、同じ名乗りでも聞き取られ方は変わります。

たとえば、次の一文です。

「お電話ありがとうございます。株式会社〇〇の田中でございます。」

お電話ありがとうございますの入りが小さいと、聞き手は話の入口を取りこぼします。株式会社〇〇の田中でございますを急ぐと、いちばん残したい意味が流れます。田中でございますの語尾が消えると、社名までは正しく届いても、いちばん大事な名前だけが宙に浮いた印象になります。

奥津ユキ
奥津ユキのミニコメント

名乗りの通りやすさは、持って生まれた声の質だけで決まるわけではありません。電話に出た直後の息の動かし方、社名前の一拍、名前の語尾の残し方。この積み重ねで、同じ名前でも聞き取られやすさは変わります。

元気よく一気に名乗ると、声はさらに不安定になります

この場面でやりがちな直し方は、元気よく一気に名乗ることです。はきはき見せたい気持ちはよく分かりますが、勢いだけで押し切ろうとすると、喉に力がこもり、最初の一音が硬くなってしまいます。

声を大きくする、低くする、はきはき明るくする。そのどれも、場面によっては必要です。ただ、土台になる息が止まり、名前の語尾が消えている状態では、声色だけ変えても名前は聞き取ってもらえません。

先に見るべきなのは、電話に出た直後に息が動いているかです。名乗る直前に息が止まると、最初の音を喉で押しやすくなります。短く吐く息が前に流れていると、名乗りの立ち上がりは変わります。

名前がこもって届かない時は、鼻筋のあたりを通り道にします

名前の部分だけがモゴモゴと沈んで聞こえるのは、舌の根元が下がって気道をふさいでいるからだと思われがちですが、実際はそこに力を入れて気道を広げようとする必要はありません。むしろ根元は脱力させたままのほうが、こもりはやわらぎます。私が名乗りの練習でよく試してもらうのは、田中でございますの「た」に入る直前、口角をほんの少しだけ持ち上げておくことです。鼻の奥に届くよう意識しなくても、口角が上がっているだけで声が自然と鼻筋のほうへ抜け、名前の輪郭がはっきりします。

電話で名乗る場面を直す順番は、息、言葉の頭、重要語、語尾です

一つ目は、息です。名乗る直前に大きく吸い込むのではなく、短く吐いてから言葉に入ります。吸って身構えるより、吐く流れに声を乗せる方が、喉で押しにくくなります。

二つ目は、言葉の頭です。「お電話ありがとうございます」の最初の音は、強く叩くのではなく、相手が自然に聞き始められる位置にそっと置く感覚で出します。

三つ目は、重要語です。「株式会社〇〇の田中でございます」に入る前に、ほんのわずかに間を作ります。長い沈黙にする必要はなく、相手が社名を受け取るための一拍で十分です。

四つ目は、語尾です。「田中でございます」を最後まで届けます。語尾を強く押す必要はありません。最後の一音まで息を残すだけです。

電話で名乗る一文を録音する時は、上手いかどうかではなく三点だけ聞きます

長々とした文章の練習は不要です。電話で実際に名乗る一文だけを、まず録音してみます。

「お電話ありがとうございます。株式会社〇〇の田中でございます。」

録音後は、声の好き嫌いをいったん脇に置いてください。確認するのは、次の三箇所だけです。

確認する場所聞くポイント
お電話ありがとうございます最初の音が小さく消えていないか
株式会社〇〇の田中でございます重要語の前で急いでいないか
田中でございます語尾まで息が残っているか

一回目は普段の名乗り方でそのまま読み、二回目は名乗る前に短く息を吐いてから読み、三回目は名前の語尾を残す意識で読みます。

録音で自分の名乗りに違和感があっても、声そのものを嫌わないでください。録音は、自分の声を責めるためではなく、名前が埋もれる場所を見つけるために使います。

電話で名乗る場面で声を整える時に、先に捨てる考え方

会社名を急ぐ、名前の語尾が消える、要件へ早く入りすぎるという状態が続くと、もっとはきはき話そう、もっと立派な声を出そうと力が入りやすくなります。けれど、電話で求められているのは、立派な声ではなく、相手が聞き取りやすい声です。

名乗りを立派に聞かせようとすると、喉に力が入ります。元気よく見せようとすると、最初の音だけが硬くなります。丁寧にしようとすると、名前の語尾が引っ込みます。どれも悪い意識ではありませんが、名乗りの使い方としては崩れやすい方向です。

まず捨てたいのは、声色を一気に変えようとすることです。変えるのは、入り、間、語尾です。お電話ありがとうございますの入りを置く。株式会社〇〇の田中でございますの前で待つ。田中でございますの語尾を残す。この三つに絞ると、練習は現実的になります。

名前まではっきり聞こえる人は、息を余らせています

電話で名乗った時にはっきり聞こえる人は、必ずしも声量が大きいわけではありません。名前の語尾まで息が残っています。反対に、名前が聞き取られにくい人は、社名の数語で息を使いすぎていることがあります。

息を大きく吸い込んでも、それだけで足りるわけではありません。むしろ吸いすぎると体が固まり、喉で押しやすくなります。短く吐いてから名乗る、社名と名前をひとまとまりで区切る、語尾のために息を少し残す。この方が電話では安定します。

電話で名乗る場面は、相手を待たせたくない気持ちから焦りが出やすいです。焦ると最初の音を急ぎ、社名を詰め込み、名前の語尾を切り捨ててしまいます。だからこそ必要なのは、速く名乗る練習ではなく、一つずつ置く練習です。

名乗りが崩れた時の戻し方

電話で名乗りが崩れた時、もう一度最初からやり直す必要はありません。戻す場所を一つだけ決めます。

入りが小さかったなら、次の電話の言葉の頭を置きます。社名を流したなら、次にかかってきた電話で名前の前で少し待ちます。語尾が消えたなら、次の一本だけ最後に息を残します。

一度聞き返されたから全部だめ、とは考えないでください。名乗りは一回ごとに戻せます。戻す場所を持っている人は、聞き返されても次の電話で立て直せます。

電話に出る前は、三文だけで準備します

電話に出る前に長々と練習すると、逆に喉が疲れてしまいます。短い三文だけで、入り、間、語尾を確認しておけば十分です。

  • 「お電話ありがとうございます」
  • 「株式会社〇〇の田中でございます」
  • 「田中でございます」

それぞれを大きく読む必要はありません。最初の音が入るか。社名の前で急がないか。名前の語尾が消えないか。見る場所を決めて読めば、電話の前の短い練習でも名乗りに反映されます。

仕上げは、名前の語尾だけをもう一度聞きます

最後に確認するのは、名乗り全体の上手さではありません。名前の語尾が相手に届いているかです。語尾が消えると、社名まではよくても最後に聞き返されやすくなります。

録音を聞く時は、名前の一言だけを切り出して聞いてください。息が残っているか。喉で押していないか。言い捨てていないか。この三つを見れば、次の電話で直す場所がはっきりします。

声量を足すより、名前の最後まで息を届けること。それだけで、同じ名乗りでも相手の受け取り方は変わります。

電話で名乗る時の失敗パターン別に、直す場所を決めます

電話で名乗って声が崩れる原因は、一つに絞れないことがほとんどです。だからこそ、自分がどの失敗パターンに近いかを先に決めて、直す場所を絞り込みます。

第一声が弱く入ってしまう人は、「お電話ありがとうございます」の一言だけを繰り返し練習します。名乗り全体を通しで練習しようとすると、意識がまた分散します。最初の一音さえ相手にきちんと届けば、聞き手はその後の話に自然とついてきます。

社名のところで急いでしまう人は、「株式会社〇〇の田中でございます」の直前だけを練習対象にします。間を置くのが不安なら、一拍でなく半拍で十分です。肝心なのは、社名を急いで口から逃がさないことです。

名前の最後が弱くなる人は、「田中でございます」だけを繰り返します。語尾を強く張る必要はありません。最後の音に息が残っているかだけを確認すれば、言い切りすぎず弱すぎず、ちょうどよく名乗りを終えられます。

名乗る本番では、声を作るより順番を守ります

電話に出るたびに良く聞こえる声を作ろうとすると、声色から作りたくなります。ただ、声色を作るほど、体は固まりやすくなります。守るべきなのは、声色ではなく順番です。

短く吐く。言葉の頭を置く。社名の前で待つ。名前の語尾を残す。この順番だけを守ります。

この順番が崩れると、名乗りはすぐに聞き取りにくくなります。吐く前に話すと喉で押します。言葉の頭が曖昧だと最初から聞き返されます。社名を急ぐと会社名が流れます。名前の語尾が消えると、結局もう一度聞かれます。

反対に言えば、この順番さえ押さえておけば、声質を大きく変える必要はどこにもありません。目指すのは別人の声になることではなく、電話越しでもきちんと届く順番で名乗れるようになることです。

練習を終えたら、直った箇所を一つだけ書き留めます

自分の録音を聞き返すと、どうしても直っていない箇所ばかりが目につきます。とはいえ、気になった点を一度に全部直そうとすると、次に電話に出た時にどこから整えればいいか分からなくなります。だからこそ、練習を終えたら良くなった箇所を一つだけ選んで残します。

今日は入りが少し入った。今日は社名の前で少し待てた。今日は名前の語尾が消えなかった。その一つで十分です。

名乗りの練習は、完璧な録音を作るためではありません。次に電話に出た時、戻れる場所を作るためです。戻れる場所が一つあるだけで、名乗りは崩れっぱなしになりません。

まとめ

電話で名乗る場面の声は、根性や話術だけで整えるものではありません。お電話ありがとうございますの入り、株式会社〇〇の田中でございますの前の間、田中でございますの語尾を整えるだけでも、聞かれ方は変わります。

まずは電話で使う名乗りの一文だけを録音して、息、喉、体、語尾、間のどこで崩れているかを見てください。直す場所が見えれば、名乗りの声も練習で変えられます。

よくある質問

Q. 電話で名乗る場面で声が弱く聞こえる原因は何ですか
会社名を急ぐ、名前の語尾が消える、要件へ早く入りすぎるなどで、息・喉・体・語尾・間のどこかが崩れていることが多いです。
Q. 声量を上げれば解決しますか
声量だけでは安定しません。最初の音、重要語の前の間、語尾まで息を残すことを先に整えます。
Q. 本番前に何を練習すればいいですか
本番で使う一文を録音し、入り、間、語尾の三点だけを確認してください。
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奥津ユキ
書いた人
奥津ユキ

ボイストレーナー。Snow Man、NiziUなど多くの楽曲を手がける作曲家・前迫潤哉氏が主宰するLEVETCH VOCAL SCHOOLにて、ボーカル指導の代表を務める。 何千レッスンもの現場で、歌手・社会人・表現者の声と向き合ってきました。

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