クレーム電話の第一声。受け止める声で対応を崩さない話し方

クレーム電話の第一声で焦る、声が軽くなる、言い訳に聞こえる人へ。受け止め、確認、次の対応の声を整えます。

奥津ユキ

クレーム電話の第一声は、話術より先に、受話器を取った直後の数秒で印象が決まります。焦って早口になる、お詫びだけが軽く聞こえる、確認の語尾が消える。この崩れには共通の仕組みがあります。電話が鳴っていない今のうちに、スマホ一つで確かめておきましょう。

電話が鳴っていない今、第一声を二回だけ録音してみてください

スマホのボイスメモを起動し、実際の対応で使う次の一文を録音します。

「ご不便をおかけして申し訳ございません。状況を確認いたしますので、まず発生した日時を伺ってもよろしいでしょうか。」

一回目は、着信に出たつもりで思い立ったまま読みます。二回目は、読む直前に口を閉じて短く息を吐き出してから、同じ一文を読みます。再生して比べると、怒っている相手がいない静かな場所でも、一回目は出だしが硬く、語尾が先細りしているはずです。息が止まったまま話し始めると第一声が崩れるという仕組みは、緊張の有無に関係なく体に備わっています。実際のクレーム電話では、その崩れが相手の勢いで増幅されるだけです。

聞き比べる場所は三つに絞ります。「ご不便をおかけして」の最初の音が消えていないか。状況を確認いたしますので、の手前にわずかな間があるか。伺ってもよろしいでしょうか、の語尾まで息が残っているか。第一声の印象は、ほぼこの三箇所で決まります。

再生した自分の声がいつもより高く頼りなく聞こえても、気にしなくて大丈夫です。自分の耳には骨を伝った低めの響きが混ざって届いており、電話の相手が聞いているのは録音の側の声です。つまり録音は、相手が受け取っている第一声をそのまま確かめられる道具だということです。

相手は謝罪の言葉数ではなく、入り・間・語尾を聞いています

受話器を取った直後の一言で、この人は話を聞いてくれそうだと相手が感じるか、また流されそうだと身構えるかが分かれます。分かれ目は声の良し悪しではありません。お詫びの入りを受け取れたか。要件へ進む前に半拍の余白があったか。確認のお願いが最後まで届いたか。同じ文言でも、この三点で受け取られ方は変わります。

出だしが小さいと、相手は入口から聞き返すことになり、いら立ちの種が一つ増えます。重要語を急いで通過すると、こちらが何を確認したいのかが相手に残りません。語尾が抜ければ、内容が正しくても対応の締めだけが弱々しく響きます。電話は表情で補えないぶん、この三箇所がそのまま評価になります。

逆に言えば、この三箇所さえ届いていれば、声が多少震えていても対応は崩れません。相手が求めているのは完璧な声ではなく、自分の訴えが受け止められたという手応えだからです。震えを消すことに力を使うより、届く場所に言葉を置くことを優先してください。

申し訳なさそうな声色を作るほど、第一声は硬くなります

この場面でやりがちなのが、申し訳なさそうな声色をこしらえることです。恐縮する気持ち自体は自然ですが、声色だけを強めると喉に力が入り、話し出しはかえって硬くなります。深刻に見せようとすると最初の音だけが強張り、へりくだろうとすると語尾が引っ込みます。どちらも第一声が崩れる方向です。

電話対応はワントーン高い明るい声が正解だと言われることもありますが、クレームの第一声で無理に作った明るさは、相手の神経を逆なでして火に油を注ぐことすらあります。誠意はトーンの演出ではなく、等身大の声を最後まで届けることから伝わります。触る場所は声色ではなく、入り・間・語尾の三箇所だけで足ります。

また、マニュアルの読み上げに聞こえたくなくて、第一声の言い回しを毎回変える人もいますが、第一声に限っては同じ文で構いません。文が決まっているからこそ、その場では息と間と語尾に意識を回せます。言葉を探しながら話すと呼吸が止まり、崩れる場所が一つ増えるだけです。

第一声を整える手順は、息、言葉の頭、重要語の前、語尾です

一つ目は息です。着信音で身構えて大きく吸い込むのではなく、受話器を取る動きに合わせて短く吐きます。吸って固まる形より、吐く流れに声を乗せる形の方が、喉に力が入りにくくなります。声が細いと感じる日は、息の量ではなくスピードを少し上げてください。大きな声を出そうと意識すると喉で押したがなり声になりますが、吐く息を速くすると、声量は無理なく後からついてきます。

二つ目は言葉の頭です。お詫びの出だしを強く打ち出す必要はなく、相手がちょうど聞き取り始められる高さに静かに置きます。

三つ目は重要語の前です。状況の確認へ切り替わる手前で半拍だけ待ちます。黙り込むのではなく、相手がお詫びを受け止めるための一拍です。怒っている相手を前に間を取るのは怖いものですが、間のないお詫びは焦りとして届きます。

四つ目は語尾です。確認のお願いを最後の一音まで届けます。強く言い切るのではなく、息を残して置き切るだけで十分です。

受話器を握る体が固まると、息から細くなります

第一声が崩れる時は、喉より先に体が固まっています。受話器を握る側の肩が上がる。みぞおちに力が入る。息が胸の上だけで浅くなる。こわばるほど息は細くなり、細い息を喉で補おうとするので、話している途中で苦しくなったり語尾が落ちたりします。

足の裏を床に置き、受話器を持つ側の肩を一度下げてから名乗るだけでも、声の通り道は変わります。もう一つ、受話器側の顎が下にパカパカ動いていると声はこもります。顎を軽く固定し、口を横に「い」の形に開けたまま話すと、電話口での声の輪郭がはっきりします。

通話しながらメモを取ろうと頭が下がるのも、見落としやすい崩れ方です。うつむくと首の前側が詰まり、声がこもって語尾が落ちます。メモは要点だけにとどめ、書き取ることより語尾を届けることを優先してください。

保留明けと折り返しにも、第一声はもう一度やってきます

クレーム対応では、最初の名乗りだけが第一声ではありません。確認のために保留にして戻る瞬間、調べてから折り返す電話がつながった瞬間。相手にとっては、そのたびに新しい第一声が始まっています。

保留中に資料を探して焦ると、戻った直後の一言は着信時より崩れやすくなります。保留を解除する指の動きより先に、息を短く吐いておいてください。折り返しの電話なら、呼び出し音が鳴っている間に最初の一文を口の形だけでなぞっておけます。対応の途中に何度も現れる第一声に、同じ三箇所の確認がそのまま使えます。

電話業務に入る前の準備は、一文と三点だけにします

対応前に長く発声練習をすると、喉が疲れて肝心の本番に響きます。業務前の準備は短くて構いません。息をいったん吐き切り、肩が上がらない範囲で短く吸い、第一声の一文を声に出さず口の形だけでなぞります。仕上げに小さな音量で一度だけ声にして、最初の音が入っているか、重要語の前で急いでいないか、語尾が消えていないかを確かめます。

確認項目をこれ以上増やす必要はありません。見る場所が決まっていれば、着信の合間の短い確認でも第一声に反映されます。この準備が一番効くのは、朝一番の一件目です。まだその日の声を出していない時間帯の受電は、誰でも最初の音が出にくいからです。

対応の途中で崩れたら、次の一文で一箇所だけ戻します

第一声がうまく入っても、対応が続くうちに崩れることはあります。そこで全部を立て直そうとせず、戻す場所を一つに決めます。入りが小さくなったら、次の一文の頭だけを置き直す。重要語を流したら、次の大事な言葉の手前で間を取り直す。語尾が消えたら、次の文の最後だけ息を残す。

一度崩れたから対応全体が失敗、と考える必要はありません。声は一文ごとに戻せます。戻す場所をあらかじめ決めてある人は、電話の途中で崩れても立て直せます。

特にクレーム対応は、相手の話を長く聞いた後に、こちらが話す順番が回ってきます。聞いている間に呼吸は浅くなっていることが多いので、相槌の合間に息をそっと吐いておくと、順番が来た時の一文の入りが変わります。

次の着信は、いま録った一文から変わります

最後にもう一度だけ録音します。

「ご不便をおかけして申し訳ございません。状況を確認いたしますので、まず発生した日時を伺ってもよろしいでしょうか。」

最初の録音と聞き比べて、三箇所のうちどれか一つでも変わっていれば、それがそのまま次の着信で使える形です。

クレーム電話の第一声に必要なのは、立派な声でも巧みな話術でもなく、相手が受け取れる形で一文を置くことです。電話は毎回相手が変わりますが、第一声の形は変わりません。同じ一文を同じ手順で置けるようになれば、どれほど強い口調の相手にも、まず受け止める声から入れます。直す場所が録音で見えていれば、第一声は着信のたびに磨いていけます。

よくある質問

Q. クレーム電話の第一声で声が弱く聞こえる原因は何ですか
焦って早口になる、申し訳ございませんだけが軽くなる、確認の語尾が消えるなどで、息・喉・体・語尾・間のどこかが崩れていることが多いです。
Q. 声量を上げれば解決しますか
声量だけでは安定しません。最初の音、重要語の前の間、語尾まで息を残すことを先に整えます。
Q. 本番前に何を練習すればいいですか
本番で使う一文を録音し、入り、間、語尾の三点だけを確認してください。
無料動画講座

声が変わると、人生が変わる。

通る声、落ち着いた声、人を惹きつける声は、生まれつきだけで決まるものではありません。第一声・息・喉・体の使い方を整えることで、人前で話すたびに「この人は違う」と伝わる声はつくれます。無料動画講座では、声量に頼らず、印象・説得力・存在感が変わる声の整え方をお送りします。

登録後、無料動画講座をメールでお送りします。配信停止はいつでも可能です。

奥津ユキ
書いた人
奥津ユキ

ボイストレーナー。Snow Man、NiziUなど多くの楽曲を手がける作曲家・前迫潤哉氏が主宰するLEVETCH VOCAL SCHOOLにて、ボーカル指導の代表を務める。 何千レッスンもの現場で、歌手・社会人・表現者の声と向き合ってきました。

詳しいプロフィール →
関連記事