クレーム対応の電話や対面で声が上ずる、あるいは震える人は、相手の言葉が強くなった直後の一呼吸を見てください。性格が弱いからではなく、その一呼吸の間に息・喉・体・語尾のどこかが崩れていることがほとんどです。電話でもレジ前でも、崩れる仕組みは同じです。相手が見えていても見えていなくても、最初に崩れるのは決まって同じ箇所です。
この一文を今、一度だけ録音してください
コールセンターで一日に何十件と対応していると、謝罪の一言はだんだん投げやりに響きやすくなります。まず、次の一文を一度だけ録ってみてください。
「ご不快な思いをさせてしまい、申し訳ございません」
聞き返す基準は三つです。最初の音が小さく消えていないか。「ご不快な」の手前にわずかでも間があるか。「申し訳ございません」の語尾まで息が残っているか。
録れたら、話し出す前に一度だけ短く息を吐いてから同じ一文をもう一度言ってみます。息を速く吐き切ってから声を出すと、喉で押さなくても声量は自然に上がります。声量そのものを張ろうとするより、この方がずっと安定します。二回を聞き比べると、言葉はまったく同じなのに、届き方が変わっていることに気づくはずです。直す場所は、もうこの時点で見えています。
謝罪が軽く聞こえるのは、受け止める声と対応を進める声が同じだから
丁寧な言葉を選んでいるのに軽く聞こえる時は、相手を受け止める場面、状況を確認する場面、対応を進める場面のすべてを同じ声色で処理してしまっていることがあります。とくにクレーム対応では、この使い分けができないと、内容が正しくても弱く伝わります。電話越しでは表情が見えない分、声の切り替えだけが相手にとっての唯一の手がかりになります。
私がまず見るのは、受け止める声と対応を進める声が分かれているかどうかです。声を出す前に息が止まっていないか。最初の一音を喉で押していないか。重要な言葉の手前で息を吸い直していないか。語尾の手前で息が先に切れていないか。
このどれかが崩れると、声は弱く響きます。性格の問題にする前に、体で起きていることを分けて確認してください。声の震えも同じで、気持ちの弱さのせいだと自分を責める人が多いのですが、震えには息の出し方や声帯まわりの筋肉の使い方も関わっていて、気持ちだけの問題にしてしまうのは私の実感とは違います。
別人を演じる直し方は、対応が長引くほど剥がれます
よくやってしまう失敗は、いつもと別人のような声を作りにいくことです。声を思い切り沈めてみたり、逆に張り上げてみたり、ことさらゆっくり話してみたり。その場では変わった手応えを感じますが、体側の準備が伴っていないので、電話や対面が長引くと元の声に戻ってしまいます。とりわけ沈めた声や押し出した声は、語尾から先に崩れていきます。
声帯は締めるほど強く出るわけではありません。締めすぎても、逆に緩みすぎて息が漏れていても、声は同じように弱くなります。とっさに出した謝罪の声が上ずるのも震えるのも、その日どちらに寄っているかが人によって違うだけで、根性の問題ではありません。
クレーム対応で求められているのは、演じた声ではなく、相手が受け取るべき内容を必要な順序で並べていく声です。一文を短く区切ること。重要な言葉の直前でひと呼吸挟むこと。最後の音まで息を切らさないこと。この三点だけで、受け取られ方は大きく変わります。
対応中の姿勢は、喉だけ見ても分かりません
声に力がないと感じると、多くの人はまず喉をどうにかしようとします。しかし喉に力を込めるほど、声はむしろ不安定になっていきます。
最初に確かめるのは足元です。足裏がしっかり床に接しているか。体が浮いた状態になっていると、息の流れまで浮いてしまいます。次に確かめるのは胸の向きです。相手の表情や反応ばかりを気にすると胸がすぼまり、声が前に抜けにくくなります。そのあとで、あごと首まわりを確かめます。あごが前方に出ていたり、首の前側が張っていたりすると、話し出しの一音を喉で押し込みやすくなります。
受け止める場面の声と、対応を進める場面の声を切り替えるには、喉だけを見るのではなく、体の向きと息の入り口をまとめて整え直す必要があります。
電話が鳴る直前、対面の一歩手前でやる30秒
受話器を取る直前や、お客様の前に立つ一歩手前で長々と発声練習をすると、かえって緊張が強まります。準備はごく短くて構いません。
口を閉じたまま一度、息をすべて吐き切ります。これだけで、それまで浅くなっていた呼吸がいったんリセットされます。肩を持ち上げずに、短く息を吸い込みます。肩から吸うと呼吸が浅いまま固定されるので、あくまで下腹のあたりで吸う感覚です。声には出さず、先ほどの一文を口の形だけ作ります。そのあとで、普段よりずっと控えめな音量で、実際に一度だけ声にします。
確認したいのは声量の大小ではありません。話し出しの音が抜け落ちていないか、喉元で押し込んでいないか、文末まで息が続いているか。この三つに絞って聞いてください。
対応中に声が崩れたら、区切る・届かせる・間を作るの三手だけ
対応している最中に声が崩れ始めたら、その場で全部を修復しようとしないでください。話している一文を短めに切り上げます。その文だけは語尾まで届かせます。それでもまだ乱れているなら、次の一文に移る前にわずかに間を作ります。
この間は気まずい沈黙ではなく、相手に言葉を届けるための小さな余白です。焦って言葉をたたみかけるほど、声は一段と浅くなっていきます。
対応が長引きそうな時は、横隔膜のあたりを前にそっとつまみ出すような感覚を保ち続けると、喉だけで支えようとする力みが抜けます。話している時も、相手の話を聞いている時も、このつまんだ感覚を途中で手放さないことが、声を最後まで保つ支えになります。長時間の対応で声が枯れやすい人は、たいてい喉を締めすぎています。この感覚を保てるかどうかで、対応が続いた後の声の残り方がまったく変わります。
対応の場で使う三つの言い回しを、あらかじめ決めておきます
本番で言葉に詰まる人ほど、話しながら次の言葉を探しています。探しながら話すと呼吸が止まり、声は喉のあたりに滞留してしまいます。
だからこそ、対応の場で使う言い回しを三つ、あらかじめ決めておきます。受け止める場面での最初の一言。状況の整理に入るための「差し支えなければ、経緯を伺ってもよろしいでしょうか」。対応の着地点を示す「こちらで確認の上、あらためてご連絡いたします」。三つを順に思い浮かべるだけで、次に何を言うか探す時間がなくなり、声を出す前に呼吸を整える余裕が生まれます。
この三つを順番に持っておくと、声を出す前に話の流れそのものが決まり、呼吸も自然に整いやすくなります。凝った言い回しを増やすことより、短く、口にしやすく、最後まで言い切れる一文を選ぶことが大事です。
最後にもう一度、同じ一文を録って聞き比べます
「ご不快な思いをさせてしまい、申し訳ございません」を、もう一度だけ録音してください。冒頭で聞いた最初の音・重要な言葉の手前の間・語尾の三か所が、練習前と比べてどう変わったかを聞き比べます。
本番でも、練習通りすべてができている必要はありません。話し出しの音が入っているだけでも、重要な言葉の手前で間が取れているだけでも、あるいは文末が消えていないだけでも、声の印象は十分に変わります。
クレーム対応の声を整えるというのは、性格を作り直すことではなく、仕事で向き合う相手に、自分の言葉をそのまま届けられるようにする。それだけのことです。
対応が終わるたびに落ち込む人ほど、自分の性格や気の弱さを責めがちです。けれど直す対象は、いつも息・喉・体・語尾のどこかに絞れます。まとめて完璧を目指すより、次の一件で使う一言だけを、今日ここから試してみてください。積み重ねた分だけ、次の謝罪は落ち着いて届くようになります。
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よくある質問
- Q. クレーム対応で声が震える原因は何ですか
- 相手の勢いを受けて呼吸が浅くなり、喉で声を支えようとするためです。反論より先に息を戻す必要があります。
- Q. 謝罪は低い声で言った方がいいですか
- 低く作る必要はありません。大切なのは語尾を逃がさず、短い文で最後まで言い切ることです。
- Q. 怒っている相手に間を取ると失礼ですか
- 長い沈黙は避けますが、一拍の間は必要です。間がない謝罪は焦りに聞こえ、受け止めている印象が弱くなります。
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詳しいプロフィール →商談で反論されると声が弱くなる人へ。切り返しで信頼を落とさない声
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