パ行がはっきり出ない人へ。唇の音を仕事の声で使えるようにする練習

パ行が息っぽく抜けて聞こえる人へ。唇を大きく動かす練習ではなく、唇を閉じて圧をため、離す感覚を仕事の声で使う練習を紹介します。

奥津ユキ

「パンフレットを」の"ぱ"が息だけに聞こえる、資料を渡す場面で聞き返される。パ行は口の動きより先に、唇の閉じ方が関わる音です。大きく動かすほど、かえって抜けやすくなります。アナウンサーと普段の話し方の差は、生まれ持った声質ではなく、密度・声色・そして滑舌のどこを整えているかの違いだと私は考えていますが、パ行はその中でも特に、知っているかどうかだけで変わる部分です。

最初に、「ぱ」を五回だけ聞き比べます

スマホを構え、「ぱ、ぱ、ぱ、ぱ、ぱ」と普通の速さで五回言って録音してください。再生するとき見る場所は一つです。一音ごとの前に一瞬の静かな間があるか、それとも音がだらっとつながって聞こえるか。間がないまま流れているなら、唇が閉じきる前に声が漏れ出ている状態です。速く言うほどこの間が消えていく人が多いので、普段話す速さでの一回だけを基準にしてください。

パ行は、唇を閉じて圧をため、声を伴わずに離す音です

ハ行は喉の奥でわずかに息を絞るだけで、唇は閉じません。バ行は唇を閉じる点はパ行と同じですが、閉じると同時に声帯を震わせます。パ行は唇を完全に閉じ、閉じた唇の内側に息の圧を一瞬ためてから、声を伴わせずに離す音です。この「ためる」時間がないまま口だけ動かすと、パ行は輪郭を失い、息の抜けたハ行に近い音になってしまいます。多くの音は舌の動きで輪郭が決まりますが、パ行は数少ない、唇そのものが主役になる音です。舌をどれだけ速く動かしても、唇の閉じが甘ければパ行の芯は出ません。逆に言えば、舌の器用さを鍛え直す必要はなく、唇の一動作だけを見直せば足ります。息を強く吐こうとするほど声量で押し切ろうとする人がいますが、パ行に関しては息の量よりも、閉じている一瞬の長さの方が聞こえ方を左右します。

唇を大きく動かす練習では、パ行ははっきりしません

はっきり発音するには唇を大きく動かすべきだとよく言われますが、私が見ている限り、逆に唇はそんなに動かさない方がパ行はくっきり出ることが多いです。大きく開けようと意識するほど、開く動作に気を取られ、肝心の「閉じきる」動作がおろそかになります。見るべきは動きの大きさではなく、離す直前に唇がどれだけ隙間なく閉じているかだけです。口を縦にも横にも大きく動かす必要はなく、唇を閉じる小さな一動作の方が、パ行にはずっと影響します。大げさに動かして疲れるより、閉じの精度だけを上げる方が、長く話しても崩れにくくなります。マスクやアクリル板越しでこもって感じる場面でも同じで、声量を足すより、いつも通りの大きさのまま閉じだけを一段深くする方が、パ行の輪郭は先に戻ります。口を大きく動かす練習を続けて疲れたのに変化が感じられなかった人ほど、動かす場所そのものを間違えていた可能性があります。

受付でパンフレットを渡す場面ほど、圧が抜けます

窓口や受付でパンフレットや資料を手渡ししながら説明する場面では、両手がふさがっていたり、資料をめくる動作に気を取られたりすると、唇を閉じる動きが浅くなります。聞き返される人の多くは、まず口がしっかり閉じているか、それとも半開きのまま話しているかで印象が決まります。声のトーンを整える前に、この一点を見てください。資料を差し出す瞬間、口も一緒に半開きのまま動いてしまう人は珍しくありません。資料を覗き込むように前かがみになると、顎がわずかに上がり、口元がゆるく開いたままになりやすいことも重なります。顔ごと下げず、資料を体の正面より少し高めに持って目線だけで追うと、口元の緊張が抜けにくくなり、手が資料でふさがっているときの閉じも戻しやすくなります。立ったまま何人にも同じ案内を繰り返す仕事ほど、資料を持ち替える動作と話し出しのタイミングが重なりやすく、そこでパ行から先に抜けていきます。持ち替えの動作を一拍だけ先に終わらせてから声を出す、という順番を覚えておくだけでも変わってきます。

「本日のパンフレットと、プランごとの料金表を」で、閉じの深さを確かめます

次の一文を録音してください。「本日のパンフレットと、プランごとの料金表をご用意しております。」一回目はいつも通りに読みます。二回目は、パ行が来るたびに、その直前でほんの一瞬だけ唇を閉じきってから声を出すつもりで読みます。二回を聞き比べると、「パンフレット」と「プラン」の出だしがどれだけ変わるかが分かります。声を張る必要はなく、閉じる時間を一瞬だけ足すだけです。この一文で変化を感じられたら、次は資料を実際に手に持ったまま同じ一文を読んでみてください。手がふさがった状態でも同じ閉じが保てるかを確認します。

「パンフレット」のように言葉の最初にあるパ行は、話し始める瞬間と唇を閉じる動作が重なるため、話し出しで気を抜くとそのまま息だけが漏れてしまいます。一方「料金プラン」のように言葉の途中にあるパ行は、直前の母音からどれだけ素早く唇を閉じ直せるかが鍵になります。語頭は話し出す前の一瞬の閉じ、語中は閉じ直す速さ。同じパ行でも、崩れる理由が違います。先ほどの一文を、「本日の」で一度区切り、「パンフレットと」から新しく話し出すつもりで読むと、語頭のパ行がどれだけ変わるかを別に確かめられます。

炭酸のキャップを開ける感覚に近いものです

パ行の感覚をつかみにくい人には、炭酸飲料のキャップを開ける瞬間を思い浮かべてもらっています。ふたを閉じている間に中の圧が静かにたまり、開けた瞬間に「プシュッ」と音が抜けます。唇で圧を作らないまま開けても、あの弾ける音にはなりません。パ行も同じで、閉じている時間があって初めて、離した瞬間の輪郭がはっきりします。声を張るより先に、この「ためてから離す」順番を体に思い出させてください。慌てて話すときほど、閉じる前にキャップを開けてしまうようなもので、圧のたまらないパ行になります。焦って早く言おうとするほどキャップを閉め切る前に開けてしまうので、急ぐ場面ほど、この一瞬をあえて意識してほしいところです。

声に出す前に、唇だけを一度動かしておきます

案内を始める直前、声は出さずに口の形だけで「パンフレット」をなぞってみてください。唇が閉じきる位置と、離す瞬間の感覚を、声に頼らずに一度確かめておく手順です。喉や声量を整えるウォームアップはよく知られていますが、パ行に関しては、唇という一箇所だけを先に慣らしておく方が効果を感じやすくなります。案内の相手を待っている数秒、あるいは受付に立つ直前の数秒があれば十分で、特別な場所も道具も要りません。声に出さない分、周りに気づかれずにできるのも、この手順の使いやすいところです。

早口で読むと、閉じる前に声が先に出てしまいます

早口で話す場面では、パ行の直前で唇が閉じきる前に、次の言葉を急いで出そうとする力が先に働きます。結果として、閉じが浅いまま声だけが先行し、パ行がハ行寄りの弱い音になります。急いでいると感じたら、パ行の言葉の手前だけ、ほんのわずかに速度を落としてみてください。文全体を遅くする必要はなく、唇が閉じる一瞬分だけ間を作れば十分です。何人もの来場者に同じ説明を繰り返す場面ほど、この一瞬が後半になるにつれ削れていきやすくなります。朝の説明ではっきり聞こえていたパ行が、対応件数を重ねるうちに弱くなっていくのは、声が疲れたからというより、閉じきる一瞬が慣れとともに省略されていくためです。一日の終わりにもう一度同じ一文を録音し、朝の録音と聞き比べてみてください。声の張りではなく、パ行の前の間が残っているかどうかだけを聞きます。ここが崩れていなければ、声そのものは十分に持っています。

パ行が整うと、資料を渡す第一声から変わります

パ行が弱いのは、口の力の弱さでも生まれつきの発音の問題でもありません。唇を閉じてから離すまでの、ほんの一瞬の順番の話です。次に資料やパンフレットを差し出すとき、唇を大きく動かそうとする前に、渡す直前の一瞬だけ唇を閉じきってみてください。息だけだったパ行に、輪郭が戻ってきます。長く同じ案内を繰り返す仕事ほど、この一瞬は削れやすいものですが、削れやすいと知っているだけで、思い出す回数は増やせます。声を張る前に、閉じる。それだけで、資料を受け取る相手の耳に届く最初の一音が変わります。

よくある質問

Q. パ行が弱く、息だけが抜けたように聞こえるのはなぜですか
唇を完全に閉じきる前に声を出し始めてしまっているためです。パ行は閉じている間の一瞬が音の芯を作るので、閉じが浅いと息だけが抜けたように聞こえます。
Q. 唇を大きく動かして発音すればパ行ははっきりしますか
動きの大きさはあまり関係ありません。むしろ大きく開けようとする動作に気を取られ、閉じきる方がおろそかになることがあります。見るべきは動きの大きさより閉じの深さです。
Q. 資料を手渡ししながら話すとパ行が抜けやすいのはなぜですか
両手がふさがったり、渡す動作に気を取られたりすると、唇を閉じる動きが浅くなるためです。渡す直前に一度だけ唇を閉じきる意識を持つと戻りやすくなります。
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奥津ユキ
書いた人
奥津ユキ

ボイストレーナー。Snow Man、NiziUなど多くの楽曲を手がける作曲家・前迫潤哉氏が主宰するLEVETCH VOCAL SCHOOLにて、ボーカル指導の代表を務める。 何千レッスンもの現場で、歌手・社会人・表現者の声と向き合ってきました。

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