ハ行がはっきりしない人の滑舌トレーニング。息を味方にする練習
ハ行が弱く消える、電話やマイク越しに聞き取りにくいと言われる人へ。口の動きより先に、息のスピードを整える練習を紹介します。
奥津ユキ
電話口で「本日は」がうまく通らない、聞き返される。マイク越しに息の音だけが抜けて言葉が届かない。ハ行は、声を大きくしても解決しないことがよくあります。声ではなく息の使い方を見直すところから始めます。声を張るほどハ行が弱くなるという逆の結果に、心当たりがある人も多いはずです。
最初に、「ほ」だけを10回言ってみます
スマホを口から少し離して構え、「ほ」とだけ10回、テンポよく言って録音します。再生して、後半にいくほど息の音が弱くなっていないか、音そのものが消えかけていないかを聞きます。前半と後半で聞こえ方が変わっているなら、それは声ではなく息が続いていない証拠です。
10回言い切った直後にもう一度呼吸を整えて、今度は3回だけ同じ「ほ」を言ってみてください。回数を減らしただけで音がはっきり戻るなら、原因は発音の仕方そのものではなく、息切れの積み重ねにあります。
この実験は「ほ」以外の音でも試せます。「は」「ひ」「ふ」「へ」でも同じように10回繰り返すと、どの音が一番早く弱くなるかが分かります。自分のハ行の中でも崩れやすい音を先に知っておくと、練習の的が絞りやすくなります。
「ふ」だけは唇をすぼめて息を出す形になるため、他のハ行より息の抵抗が強く、逆に息の勢いが弱いことに自分で気づきやすい音です。まず「ふ」で息の弱さに気づいてから、他のハ行に意識を広げていくのも一つの順番です。順番を決めておくと、練習のたびに何から確認すればいいか迷わずに済みます。
ハ行は、声帯を震わせずに息だけで作る音です
カ行やタ行は舌や喉で息をせき止めて作りますが、ハ行は喉の奥でわずかに息を絞るだけで、声帯そのものはほとんど震えません。つまりハ行は、息のスピードがそのまま音の輪郭になります。息の勢いが弱いと、ハ行は他の音より先に埋もれて消えてしまいます。
同じ一文の中でも、カ行やタ行はある程度力任せに出せてしまう一方、ハ行だけは息のスピードがないとどうやっても前に出てきません。ハ行が弱いと指摘される人の多くは、発音そのものが下手なのではなく、単純に息の勢いがその一音まで届いていないだけです。
似た口の形で声帯を震わせるとバ行になります。ハ行とバ行は口の動きがほぼ同じで、違うのは声帯を使うかどうかだけです。ハ行が弱い人ほど、無意識に喉の力でバ行寄りの音に近づけて誤魔化していることがあり、それが余計に喉を疲れさせる原因にもなります。声を足して補おうとする発想自体は自然ですが、ハ行に関しては、声を足すより先に息のスピードを見直す方が効果が出やすい音だと考えてください。
お腹に力を入れるだけでは、ハ行は強くなりません
声が弱いのは腹式呼吸ができていないからだとよく言われますが、私が見ている限り、原因はお腹の膨らませ方ではなく、息そのもののスピードと呼吸筋の使い方です。お腹をただ固めるだけでは息は速くならず、ハ行はかすれたままになります。
自転車のペダルと同じで、ゆっくり漕ぐと倒れ、速く漕ぐと進みます。息もスピードを上げて初めて、音として立ち上がります。腹式呼吸の教科書通りにお腹を膨らませても、吐き出す息そのものが遅いままでは、ハ行の輪郭は戻ってきません。まず確かめたいのは、吸う量ではなく吐く速さです。
息を吸う練習ばかりを重ねてきた人ほど、吐く動作への意識が手薄になりがちです。大きく吸ってから話し始めるのではなく、一度短く吐いてから話し始める。この順番を変えるだけでも、ハ行に乗る息の勢いは変わってきます。
たくさん息を吸えばそれだけ長く話せると考えがちですが、吸いすぎるとかえって体がこわばり、吐くスピードは上がりにくくなります。必要なのは量よりも、短く鋭く吐く感覚です。
電話対応が続くほど、ハ行から先に消えていきます
一日に何十件も同じ言い回しを繰り返す電話対応では、「本日は」「弊社の」といったハ行から始まる決まり文句が何度も出てきます。繰り返すうちに息を吐き切らないまま次の言葉に入る癖がつき、息の勢いが弱いハ行から先に聞き取りにくくなります。
声を張って補おうとすると、今度は喉に力が入り、長時間で枯れる原因にもなります。件数をこなすほど早口になり、文と文の間で息を整える間もなくなっていくため、午前の一件目と午後の五十件目とでは、同じ言葉でもハ行の聞こえ方がまったく違ってくることがあります。
厄介なのは、本人にはっきりした自覚がないまま進むことです。録音を聞き返すと、午後の「本日は」は頭の「ほ」が欠けて「おんじつは」に近い音になっていたり、「弊社」の「へ」が息の音だけになっていたりします。「一番」「担当」といったカ行やタ行の言葉は最後まで残るのに、ハ行の言葉だけが先に痩せていくのも同じ理由です。相手から「はい?」と聞き返される回数が午後に増えるのは、こうした頭の欠けが積み重なった結果で、敬語や言い回しの問題ではないのです。
「本日は弊社に」で、吐く速さだけを試します
「本日は弊社にお電話いただき、ありがとうございます。」を録音してください。一回目はいつも通り。二回目は、文に入る前に息を短く強めに吐いてから始めます。三回目は、文中の「弊社に」の手前でもう一度短く吐いてから続けます。
息を吐く回数を増やすほど、ハ行の輪郭がはっきりしてくるのが分かります。声量を上げたわけでも、口の形を作り直したわけでもなく、息を吐くタイミングを増やしただけで変わるという点を、録音で確かめてみてください。
三回とも同じ声量、同じ速さで読むようにしてください。声を大きくして聞こえやすくするのではなく、息を吐く回数だけを変数にすることで、何が効いているのかが録音の比較で分かりやすくなります。変えるものを一つに絞ることが、録音で違いを聞き分けるコツです。
顎を止めると、電話口のこもりも減ります
ヘッドセットやマイクの前で声がこもる人は、顎を下に大きく動かしながら話していることが多いです。顎を固定し、横に「い」の形を保ったまま「本日は弊社にお電話いただき、ありがとうございます」と言ってみてください。口の動きを小さくするほど、息の通り道がまっすぐになり、ハ行が拾われやすくなります。
顎を大きく動かして話す方がはっきり聞こえると思われがちですが、動きが大きいほど息の向きも揺れやすくなります。顎を止めた状態のまま話す練習は、最初は声がこもって聞こえても、続けるうちに息の通り道が安定してきます。
ヘッドセットのマイクは口元に近いため、息の向きのわずかなブレでも拾われ方が変わります。顎を固定して話す形に慣れておくと、マイクとの距離が多少変わっても、聞こえ方が安定しやすくなります。対面の窓口対応でも同じ形が使えるので、電話に限らず試してみてください。
一日の後半でも、最初の一件と同じ速さを保ちます
崩れを一日の後半まで持ち越さないために、一件ごとの区切りに短い呼吸を一つ挟んでください。受話器を置いてから次のコールに出るまでの間に、一度だけ短く強く息を吐く。声を張り直すのではなく、息の速さだけを戻す意識で十分です。
自分がどのあたりで崩れ始めるかを知っておくと、この一呼吸を挟むタイミングも決めやすくなります。午前と午後に一度ずつ、同じ一言をスマホで録音して聞き比べてみてください。崩れ始める時間帯が分かれば、その少し手前の休憩で息の速さを戻す、という先回りができます。休憩のたびに毎回でなくても、昼の一回だけでも違いは出ます。
声が枯れ始めてから休むよりも、枯れる前に息の速さを整え直す方が、一日の後半まで同じ聞こえ方を保ちやすくなります。長時間しゃべり続けて枯れる人の多くは、実際には喉を締めすぎていることが原因で、声量そのものが足りないわけではありません。
息のスピードを思い出せば、電話口の第一声は変わります
ハ行が弱いのは、話し方の才能でも喉の強さでもありません。息がどれだけの速さで流れているか、それだけの違いです。次に電話を取るとき、声を張る前に、短く速く息を吐いてから「本日は」と言ってみてください。件数をこなす一日の中でも、この一呼吸だけは毎回思い出せる形にしておいてください。
声を作り込む練習より先に、この一呼吸を習慣にしてしまう方が、長い目で見ると負担が少なく続けられます。特別な発声練習を積み重ねなくても、息の速さという一点だけで、ハ行の聞こえ方は日々変えていけます。
よくある質問
- Q. ハ行が弱く消えるのはなぜですか
- ハ行は声帯を震わせず息だけで作る音のため、息のスピードが落ちると真っ先に聞こえなくなります。喉や口の形より先に、息の量とスピードを見てください。
- Q. 電話対応が続くとハ行から聞き取りにくくなるのはなぜですか
- 同じ言い回しを繰り返すうちに息を吐き切らないまま話し始める癖がつき、息の勢いが弱いハ行から先に埋もれていくためです。文の前に短く吐く動作を挟むと戻りやすくなります。
- Q. 声量を上げればハ行ははっきりしますか
- 声量だけでは変わりません。ハ行は声の大きさでなく息のスピードで作られる音なので、大きな声を出そうとするほど喉に力が入り、逆にかすれることがあります。
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ボイストレーナー。Snow Man、NiziUなど多くの楽曲を手がける作曲家・前迫潤哉氏が主宰するLEVETCH VOCAL SCHOOLにて、ボーカル指導の代表を務める。 何千レッスンもの現場で、歌手・社会人・表現者の声と向き合ってきました。
詳しいプロフィール →滑舌が悪い・早口になる人へ。舌より先に整えるべき声の出し方
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